インクルージョンという言葉は近年のビジネスシーンでよく聞かれます。インクルージョンはダイバーシティに代わる言葉として、また、インクルージョン&ダイバーシティとしてセットで語られる場合もあるのです。人事部門の視点でそれらについて考えてみましょう。
目次
1.インクルージョン(inclusion)とは?
インクルージョン(inclusion)とは、直訳すると「包括」「包含」などを意味する言葉です。包括は全体をまとめること、包含は中に含めることを指します。ビジネスでは、企業内の従業員がそれぞれの個性や能力、考え方を認め合いながら活躍できている状態を意味します。
これに対して、インクルージョンとよく使われる言葉、ダイバーシティ(diversity)は直訳すると多様性を意味し、ビジネスに当てはめると多様な人材を活かすことを指します。
多様な人材については人種や国籍、性別、性格、学歴など、幅広い捉え方がされています。それらにとらわれず就業機会を広げる、という意図で使われる言葉です。
2.インクルージョンの語源と意味〜障害と教育〜
インクルージョンの語源は、フランスのなかで社会的経済的格差を「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」と呼んでいたところにあります。社会的排除とは、社会から排除されたニートや若年層の失業者、障害者など幅広い対象者を含んだ格差社会の抱える問題を表した言葉です。
1980年代に入ると、アメリカでの障害児教育の分野でこの概念が注目されました。日本ではインクルージョンという言葉を、障害児が通常学級で学ぶインクルーシブ教育として用いています。
統合教育を超える考え方として普及
インクルージョンは、統合教育を超える考え方として普及しました。統合教育とインクルージョンは類似しているように思えますが、その教育概念には違いがあります。
- 統合教育:健常児と障害児を識別した上で、同じ教室で教育を行う
- インクルージョン:健常児と障害児、つまり障害の有無といった視点ではなく、生徒一人ひとりに合った教育を行う
1980年代にインクルージョンは、統合教育という概念が主流だったアメリカにおいて一気に広まりました。
英語圏での意味
インクルージョンは英語圏においてどのような意味で使われているのでしょう。
インクルージョンの動詞は、「インクルード/include」でインクルードには「含む、包括する」といった意味があります。インクルージョンの反対に位置する言葉は、「エクスクルージョン/exclusion」で「排除、隔離」といった意味があります。
教育学上の概念がビジネスへ
教育学上で用いられていたインクルージョンという概念は、もともとは社会構造を説明する言葉でしたが、近年ではビジネスの世界へと解釈を広げています。
ビジネスの分野においてインクルージョンという言葉は、
- 企業にいるすべての従業員が持っている能力や経験が認められて仕事に参画できる
- 国籍、性別、学歴などにとらわれず、多様な人材を活かした就業機会が与えられている
という意味で用いられています。
日本では「インクルーシブ教育」
インクルージョンは、日本において「インクルーシブ教育」という名で広く知られています。インクルーシブ教育とは、人間の多様性を尊重し、障害のある子どもたちが通常学級で健常児と共に机を並べて学ぶ教育のことです。
障害児が一般社会から排除されずに個人の状態に合った合理的配慮の提供を受けられるといった仕組みの整備が求められています。訳語がわかりにくいという意見もあるようですが、一般的にインクルージョンは日本語訳で包括・包含・包摂とされているのです。
日本の統合保育とインクルージョン(保育園のケース)
1981年の国際障害者年を境に「統合教育」と呼ばれる「保育・療育(障害)」「保育・教育(健常)」間で少しずつお互いを受け入れる体制が整いました。
そして、さらに子どもの存在を包括的に考え障害の有無でなく子どもの個性やニーズに合った教育システムとして生まれたのが、昨今の潮流であるインクルージョンなのです。
障害者など社会的弱者を排除しない「ソーシャル・インクルージョン」
前述したように、インクルージョンの語源はフランスにありインクルージョンという言葉は、フランス・EU諸国での社会的経済格差の問題から生まれました。
1970年代フランスは、戦後復興と福祉国家の諸制度を整えましたが、そのなかでさえも排除されている階層の人々がおり、その状態を「社会的排除:ソーシャル・エクスクルージョン」と呼んだのです。
それは欧州の失業問題がクローズアップされた際、「社会的包摂:ソーシャル・インクルージョン」を対義語として広まります。現在インクルージョンとソーシャル・インクルージョンは、ほぼ同義語として解釈・使用されているのです。
3.ダイバーシティ&インクルージョン
インクルージョンの言葉の意味や歴史的背景、さまざまな使われ方についてご理解いただけたでしょうか。インクルージョンに類似した概念を持つ言葉にダイバーシティがあります。
ダイバーシティとは何か、ダイバーシティとインクルージョンの関係性にはどのようなものがあるのかについて説明しきましょう。
ダイバーシティとは?
ダイバーシティとは、直訳すると「多様性」。
- 異なる性質のものが共存する
- 相違を認めた上で人材を活かす
といった場面で用いられます。国籍や性別、年齢などに関係なく多様な人材が活躍できる組織、企業、社会を目指す際に多く使われる言葉として、馴染みがある方もいるのでは?
少子高齢化による労働人口不足や外国人労働者の就労・就業など、社会で取り組むべき課題を抱える日本でも、注目されている概念です。
ダイバーシティとは?【意味を簡単に】&インクルージョン
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最近、さまざまな分野で「多様性」を意味する「ダイバーシティ」という言葉をよく耳にするよ...
インクルージョンとダイバーシティの違い、関係性について
人事の現場や人事関連の話題では、インクルージョンとダイバーシティのセットでその必要性を語ることがあります。
- インクルージョン:個々の従業員を活かす考え方
- ダイバーシティ:人材の多様性を認める考え方
2つが別の意味でありながらも両立することでそれぞれを効果的にし、より人事の課題解決や強化につながると考えられているからです。
ダイバーシティの考え方にインクルージョンの考え方を合わせる
現在の日本は少子高齢化が進み、労働人口の減少、企業の人材不足などが深刻化しています。
そのなかで多様な人材に対して就業機会を広げるダイバーシティの考え方として、
- 女性の活用
- 定年の延長
- 外国人の採用
- 主婦業や介護と両立できる短時間勤務やダブルワーク
など、労働力の多様化が進んでいるのです。これらの多様な人材を定着させて能力を最大限発揮するには、それぞれの経験や能力、考え方を認め、活用していくインクルージョンの考え方が必要となります。
インクルージョンの推進により、個人を尊重し、意見や提案を聞き入れる制度や社風が実現すれば、仕事のモチベーションアップや定着率の向上につながるでしょう。
このことは人事目線で捉えたインクルージョンとダイバーシティの違いと、両立することでの効果の一例といえます。
それぞれのメリット・デメリット
ダイバーシティ | インクルージョン | |
メリット |
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デメリット |
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4.インクルージョンに対する人事部門の留意点
人事の戦略としてインクルージョンの推進を図る企業も増えています。
- 経験や能力をより重視した評価制度や給料体系
- 社内の提案制度
- 各種プロジェクトへの参画
- 組織がより一体化するような組織編成やチームでの業務
など、さまざまな施策が考えられます。
インクルージョン導入の施策と注意点
たとえばダイバーシティの場合、
- 高齢者や女性などの人材別で採用比率や管理職の比率を出す
- 採用数、離職数などの指標を設ける
といったことで推進度合いが測れます。しかしインクルージョンは、従業員の満足度や意欲などの推進度合いは数値で表し難いのです。
人事部門としては、
- 従業員満足度の調査
- 個別面談やアンケート
などインクルージョンの推進度合いを把握する工夫が必要でしょう。また、その結果に基づいて各施策の軌道修正を行うことも推進において重要です。
これらがインクルージョンに対する人事部門の留意点といえます。
どんな研修がある?
ダイバーシティとインクルージョンを組織マネジメントに活かす一般的な研修内容があります。
まず、ダイバーシティやインクルージョンの必要性への理解を促し、多様性を阻む無意識の偏見に気付いてもらうのです。問題解決へのロールプレイングを交えて、インクルージョンを自然に生み出す風土づくりを体感してもらうプログラムも有効でしょう。
これらの研修では、ダイバーシティ経営の意味を理解するだけでなく、無意識に持っていた偏見への気付きを理解しながら対策を考えることが可能です。
多様性を組織力・企業力にどう変えるかといったポイントを論理的・実践的に学ぶことで、ダイバーシティやインクルージョンにおける経営効果アップにもつなげられるでしょう。