産業医とは、社員の健康管理を行う医師のこと。今回は産業医の職務内容、導入するメリットやデメリットについて説明します。
目次
1.産業医とは?
産業医とは、社員の健康状態を良い状態に管理するため、専門的な立場から指導や助言を行う医師のこと。社員が安心して仕事に取り掛かれるよう、健康診断や面接指導などにて心と体の健康を管理します。
社員が50人以上いる事業場の場合、産業医の導入が「労働安全衛生法」で定められているのです。50人以下の事業場に設置義務はありません。しかし産業医の導入が望ましいとはされています。
産業医と産業カウンセラーの違い
産業医と産業カウンセラーの大きな違いは、国家資格の有無。産業医は国家資格が必要なのに対し、産業カウンセラーに必須資格はありません。
仕事内容でも、産業カウンセラーはいわゆるメンタルヘルスの向上や維持に向けたサポートを行います。それに対し、産業医は心身の両面に対してサポートを行うのです。また職場環境の巡回を実施し、衛生管理チェックするのも産業医の仕事となります。
2.産業医の種類
産業医には下記の2種類があります。それぞれの違いについて説明しましょう。
- 専属産業医
- 嘱託産業医
①専属産業医
大規模な事業場に常勤する産業医のこと。事業場の社員が1,000人以上の場合、専属産業医を選任しなければいけません。社員が3,000人を超える場合、2名の専属産業医が必要です。
また健康状態に悪影響をおよぼす業務に携わる社員が常時500人を超える事業場でも、専属産業医の選定が必要となります。
②嘱託産業医
事業場の社員数が50人以上999人以下の場合に選任する産業医のこと。専属産業医とは勤務形態が異なり、常勤ではありません。月に1回から数回のペースで企業に訪問し、社員の健康管理やストレスチェックなどを行います。
大企業は専属産業医を設置し、中小企業は嘱託産業医を設置する傾向にあるようです。
3.産業医の職務内容
産業医の職務は通常の医師の職務と異なり、投薬や点滴といった治療は行えません。ここでは主な職務内容を説明します。
- 健康診断
- 面接指導
- ストレスチェック
- 作業環境の維持管理
- 作業管理
- 健康教育
- 衛生教育
- 健康障害防止の措置
①健康診断
労働安全衛生法にもとづいて、企業には健康診断の実施が義務化されているのです。産業医は、健康診断の計画や実施にあたっての注意点などを企業と話し合って実施します。
健康診断の結果に異常があった社員には、保健指導を行います。そのときに就業制限や休業するべきといった指示を出すのも産業医の役目です。
②面接指導
長時間労働で疲労が蓄積し、精神状態が悪化している社員に対して面接指導を行います。まず産業医が問診で健康状態をチェックし、社員との面接の場を設けて、指導や助言を行うのです。
面接指導を行ったあとは記録を残し、事業者に結果を報告します。なお面接指導記録は5年間保存しなければなりません。
③ストレスチェック
社員が50人以上の事業場は、年に1度社員全員のストレスチェックを行わなくてはなりません。これは労働安全衛生法によって義務付けられています。
ストレスチェックでは、まず社員がストレスに関する質問票に回答します。それを産業医が集計してストレス度を分析し、本人に結果を伝えるのです。このときの結果次第で産業医は面接指導するべき社員を決めます。
④作業環境の維持管理
作業環境の安全衛生管理にも携わります。作業環境が悪いと社員の体調不良やケガにつながりかねません。産業医は定期的に職場巡視をして、有害物質に関する設備の管理や労働環境を確認し、改善すべき場所を企業に伝えるのです。
また社員がケガをした際にも、迅速かつ丁寧に対応します。作業環境を良好な状態に維持し、社員の健康を守る必要があるのです。
⑤作業管理
作業危険度をチェックします。汚染や中毒、多大な作業負荷が生じるような危険度の高い作業方法を用いている場合、企業に指導を行うのです。
有害物質を使用する作業で、健康に影響が出にくい方法を指導するのも産業医の仕事となります。また社員が体調不良を訴えた場合、迅速に対応します。
⑥健康教育
社員が自分で健康状態を管理し、向上できるよう健康教育を行います。内容は生活習慣から、有害物質や健康に影響をおよぼす悪癖、ストレスや生活習慣の改善についての知識まで幅広いです。
とくに昨今、「精神的に不安定になる」「うつ病になる」社員も多いため、メンタルヘルス教育の実施が増えています。
⑦衛生教育
労働災害を防止するため社員へ安全衛生の知識を教育します。
機械を使った作業や危険な場所での作業はどうしても、事故が起こりやすいため社員に、職場の一般的な安全衛生知識やルール、法令や規制などを座学や訓練を通して教育するのです。衛生教育の内容は、企業と産業医の双方が考えます。
⑧健康障がい防止の措置
社員に健康障がいが発生した場合、産業医は原因を調査し、改善点を指導して再発防止に努めます。たとえば原因が職場環境にある場合、職場環境を改善しない限り、同様の健康被害が発生するでしょう。
精神的な健康障がいが発生した場合、人間関係が原因になっているかもしれません。その際産業医は社員としっかり話し合って、原因をはっきりさせていきます。
4.産業医を導入するメリット
産業医を導入すると社員の健康を守れるほか、さらに良い効果が期待できます。ここでは産業医導入のメリットを説明します。
- 社員の健康を守れる
- 休業者・離職者を減らせる
- 組織の体制強化につながる
- 企業のイメージアップにつながる
①社員の健康を守れる
産業医を導入すると、企業にとって大切な財産である社員の健康を守れます。職場巡視やストレスチェックによる社員の健康管理を日常的に行えば、メンタルヘルス対策の質が高まるでしょう。
産業医が適切に指導を行うと社員が安心して業務に打ち込めます。その結果、業務効率化や生産性向上につながるのです。
②休業者・離職者を減らせる
昨今、メンタルの不調によって休職や退職する社員が増加。産業医を導入すれば、異常にいち早く気づきメンタルケアを行えるでしょう。また社員が休職しても、面接指導を行い復職の手助けを行えます。
ストレスやメンタル不調の傾向が高まる現代の日本にて、産業医の導入は休業や離職の防止に大きな効果が期待できるでしょう。
③組織の体制強化につながる
社員員の健康状態が悪化すると、業務効率も下がります。とくにメンタルヘルスの悪化は、解決までに長時間を要するのも珍しくありません。そのまま放置すると、生産性の低下を招いてしまうでしょう。
産業医がいると社員の健康状態を良好な状態に維持できるため、社員も安心して仕事を進められます。効率や生産性の向上はもちろん、組織体制の強化にもつながるでしょう。
④企業のイメージアップにつながる
産業医を導入していれば、社員の健康管理にしっかり向き合っている企業であると内外にアピールできます。こうしたアピールが顧客や取引先へ届けば、企業への信頼も高まるでしょう。
社員の健康状態に問題も起こりづらいので退職者や求職者も減りやすくなります。これは採用活動で、応募者へのアピールになるのです。
5.産業医を導入するデメリット
産業医のメリットは多いものの、デメリットがあるのも事実です。ここでは産業医導入のデメリットを説明します。
- コストがかかる
- 社員と相性が合わない場合も
①コストがかかる
産業医を導入すると、もちろん費用がかかります。事業場の人数によるものの、嘱託産業医では月1回の訪問で6万円から15万円程が目安です。ほかにもストレスチェックを行った社員の人数分だけ、追加費用を払わなければいけません。
専属産業医になると出勤する日数や時間によるものの、年間で900万円から1,500万ほどかかると考えておきましょう。
②社員と相性が合わない場合も
産業医と社員の相性が合わない場合もあります。これにより「面接指導がスムーズに行えない」「社員の健康状態に何か問題が起こっても素早く対処できない」といった影響が生じる可能性も高いです。
一度契約してしまった以上、別の産業医に変更するのは難しいもの。産業医を導入するときは、産業医のコミュニケーションスキルがどのくらいか、注目するとよいでしょう。
6.産業医の設置要件
事業場の社員が50人以上999人以下の場合、嘱託産業医を置かなければなりません。また社員が1,000人以上の場合と、健康状態に悪影響をおよぼす業務に関わる社員が常時500人以上の場合、専属産業医の導入が必要です。
では50人未満の事業場や、非正規雇用の場合はどうなるのでしょうか。
社員数が50人未満の企業の場合
社員が50人未満の場合、産業医を導入する義務はありません。しかし社員の時間外労働が1カ月あたり100時間を超えている社員からの申し出があった場合、面接指導の実施が義務づけられています。
面接指導を怠った結果、精神障害や自殺などが発生すると労働安全衛生法違反となります。もっとも重い罰則になると、10年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられるのです。
非正規雇用も面接指導やサポートの対象
正社員だけではなく、アルバイトや契約社員も面接指導やサポートの対象です。常時雇用に該当するのは、「期間を定められていない常用雇用者」「1年以上雇用される社員」「週の労働時間が通常の社員の3/4以上働くパートタイマー」です。
正社員の数が50人未満でも、アルバイトやパートタイマーを含めて社員の数が50人以上存在する場合、産業医の導入義務があります。
7.産業医を導入する流れ
最後に、産業医を導入する際の流れを説明します。
- 産業医を探す
- 契約
- 選任報告書を提出
- 助成金を活用する
①産業医を探す
産業医を探す方法は、「人脈で探す」「産業医の仲介サービス」などです。仲介サービスは、手数料がかかるので覚えておきましょう。また地元の医師会に相談して産業医を紹介してもらう方法もあります。
②契約
産業医が見つかったら契約に進みます。契約のパターンは、「産業医と直接契約する」と「仲介企業が間に入って間接的に契約する」の2つです。
専属産業医はほかの正社員と同じような雇用形態が多くなっています。しかし嘱託産業医と契約する際の主流は業務委託契約です。
③選任報告書を提出
産業医を選任したら、「産業医選任報告」を作成して提出しなければなりません。厚生労働省のWebサイトから選任報告書をダウンロードできますので、必要事項を記入します。
次に「選任報告書」「医師免許のコピー」「産業医だと証明できる書類」を、労働基準監督署に提出すると、産業医の導入手続きが完了するのです。
④助成金を活用する
社員が50人未満の事業場で産業医を導入し、条件を満たすと「小規模事業場産業医活動助成金」という補助金が支給されます。
ほかにもストレスチェックの実施によって支給される「ストレスチェック助成金」や、事業場の環境整備によって支給される「治療と仕事の両立支援助成金」なども利用可能です。