就職前の学生を職場で受け入れるインターンシップを行う企業が増えています。インターンシップは学生だけでなく、企業にとってもメリットがある制度だと認知されてきたからです。そんなインターンシップについて、
- インターシップとは?
- 導入の目的
- 種類
- 選び方
- 導入準備
- 企業のリスク
さまざまな点から説明しましょう。
目次
1.インターンシップ(インターン)とは?
インターンシップとは、専門学校生や大学生が自分の将来の道を選択するために、追求したい専門性や将来進みたい進路などに関連した企業で実際に就業体験する制度のこと。
- 大学のキャリアセンターが主催して行政や企業、NPOなどを含めた各種団体と提携して行う
- 企業やNPOなども含めた各種団体が主催者となり、学生が個人的に応募する
などさまざまな形態があります。インターンシップを行う学生は、
- 職業への理解を深める
- 自分の将来像やキャリアプランを明確にする
- 自分の適性を知る
といった効果を得やすくなるのです。
文部科学省の定義
文部科学省の定義付けによると、インターンシップとは、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」。インターンシップという言葉は、就業体験という言い方のほか、就労体験と訳されることもあります。
どちらの解釈にせよ、社会人としての職業意識を在学中に高めることを目的とした、企業内で行われる学生を対象とした研修計画を示しています。長期の研修というよりは、夏休みなどの休暇を使って、数日から数週間の参加を求める形態が多いようです。
2.企業がインターンシップを導入する目的
企業がインターンシップ制度を導入する目的は3つ。
- 優秀な人材を発掘
- 新入社員の離職を防止
- 人材育成に活用
①優秀な人材を発掘
1つ目は、優秀な人材を発掘。インターンシップの導入によって企業は、学生が就職する前に一人ひとりの能力を試し、確認する機会を得ます。優秀な人材を見つけ出し採用する絶好のチャンスを手にできる、これは、企業にとって大きな魅力でしょう。
また近年、就職活動が前倒しされることで学生の学習機会を奪っているとの批判も多く耳にします。しかし、インターンシップは就職活動とは違うもの。
インターンシップを活用すれば、批判にさらされることなく早期に優秀な学生を囲い込めるチャンスを得られるので、企業にとっては一石二鳥と考えられるのです。
②新入社員の離職を防止
2つ目は、新入社員の離職防止です。新入社員を採用しても数カ月で退職してしまう雇用のミスマッチは、企業の規模を問わず、また職種を問わず起こりえること。ミスマッチは、採用コストの増大にもつながり、企業にとってはとても悩ましい問題です。
企業のニーズと、学生が考える企業や仕事のイメージが乖離していることによって生じる雇用のミスマッチは、いまや社会問題化しているといっても過言ではありません。
しかし、インターンシップを活用すれば、
- 仕事の内容
- 仕事の手順
- 職場の雰囲気
など、仕事や企業文化などを事前に理解できます。「こんなはずではなかった」というミスマッチの防止によって若者の離職率低下が実現、これは、インターンシップ導入によるメリットでしょう。
③人材育成に活用
3つ目は、人材育成への活用です。
インターンシップを、新入社員教育のファーストステップと考えれば、新入社員教育を効果的に行うきっかけにできます。また、社外の人材が持つ視点を生かすチャンスと考えれば、
- 職場環境を見直す機会
- 安全管理体制を見直す機会
などへの応用も可能です。
インターンシップで受け入れる学生と机を並べる社員は、
- 自分たちと立場が異なる人材の視点を生かして仕事を見直す
- 指導によってモチベーションや管理能力を向上
などを実現できます。
3.学生がインターンシップを行う目的
学生がインターンシップを行う目的を3つ、説明します。
- 内定獲得率が上がる
- 会社に関する生の情報を得る
- 業務体験を通して適性を探る
①内定獲得率が上がる
1つ目は、内定獲得率を上げること。学生が選ぶインターンシップ先の企業は、
- 自分が興味を持つ企業
- 将来の進路に関わりがあると判断した企業
などがほとんど。「学生がインターンシップ先として企業を選ぶ」、これは企業に対する「御社への入社を志望している」意思表示にもなります。
また、インターンシップに参加するだけで、
- 意欲的な姿勢
- 活躍する意思を持つ
などを強くアピールできます。学生にとってインターンシップは、単に就職活動として、
- 履歴書を送る
- OBやOG訪問をする
- 会社の資料請求をする
- 会社の説明会に参加する
などでは伝わらない早い段階での興味や意欲的に行動している自分を企業に印象付ける絶好のチャンスとなるのです。
②会社に関する生の情報を得る
2つ目の目的は、会社に関する生の情報を得ること。学生は就職先の企業を検討する際、さまざまな情報を判断材料にします。情報収集では、
- OBやOG訪問をしたときの先輩の話
- 会社説明会での企業概要説明
- 会社のホームページやSNSなどを経由した会社側からの情報
- 就職情報誌
- 友人や知人からの情報
などを活用して行うのが一般的。しかし、情報収集したにもかかわらず、入社後「こんなはずではなかった」と感じてしまうケースも多くあります。インターンシップでは、そのような理想と現実の乖離を解決できるのです。
インターンシップは、自分の目で直に職場を見るため、
- 仕事
- 職場の人間関係
- 残業の程度
- 福利厚生
- 企業の社風
に触れることができます。インターンシップはリアルタイムで企業に関する情報を得られる最高の機会なのです。
③業務体験を通して適性を探る
3つ目の目的は、業務体験を通して適性を探ること。学生はインターンシップで、さまざまな業務を経験します。
- 学生生活の範囲では想定もしなかったような業務に就く
- 自分が希望している業務以外を任される
といった場合もあり得るでしょう。そうした業務を指示をもとにこなしていくうちに、自分では気がつかなかった新たな適性を見つけることがあります。もちろん、自分の思い描いていた適性とマッチングしていれば、業務と自分の相性を再確認できるでしょう。
インターンシップによって就職前に自分がどのような業務に適性があるのかを見極められるのです。これは、学生にとっても離職率の高さに悩む企業にとってもメリットとなるでしょう。
4.インターンシップの種類
インターンシップにある3つの分類区分を説明します。
- 就業期間別・分類
- 内容別・分類
- 報酬別・分類
①就業期間別・分類
1つ目はインターンシップで学生を受け入れる期間である就業期間別の分類。期間を3つに分けて説明します。
- 1日〜短期
- 短期〜中期
- 長期
1日〜短期
1日〜短期のインターンシップに該当するのは、就職活動中の学生に向けて大手企業が開催する「1dayインターンシップ」。これは、参加形態によっていくつかに分類できます。
- エントリーシートやWebテストを通過することで参加権が取得できる「選考型」
- 申し込み順といった早い者勝ちの「先着型」
- 参加基準を設けておらず、希望者は誰でも参加できる「参加型」
本人の意欲を確認したい場合には「選考型」を、広く学生に門戸を開きたい場合には「参加型」を活用するケースが多いです。企業のキャパシティやインターンシップの内容に合わせて人数を制限する場合には「先着型」を採用して、人数設定をするケースも。
短期〜中期
短期〜中期のインターンシップでは、期間を、
- 2~5日程度
- 2週間
- 1カ月
と設定しています。1日で終わるインターンシップと違い、数日から1カ月職場に来てもらうことができるため、
- 商品開発
- 新規事業の提案
といった企業から出される課題に対して何らかの結果や結論をまとめ上げるものが多いよ
うです。また、業務に積極的に関わった発言を求めるシーンが多くなるため、ある程度意欲のある学生を集められるよう、
- ES(エントリーシート)
- Webテスト
- 面接
などで選考を行うケースも多々あります。選考の難易度は一気に高くなりますが、その分、
- 学生の意欲を知ることができる
- 意欲ある学生の柔軟な意見を聞くチャンスにつながる
など企業にとってのメリットも増えるのです。
長期
長期のインターンシップでは、期間を年単位で設定しています。
- 1~3年生の前期までの間で年単位の期間
- 就職活動後、卒業するまでの間の4年生向け
などがあり、ベンチャー企業で多く実施されます。また、1日〜短期や短期〜中期のインターンシップと異なり、給与の発生といった面で運営方法が異なります。
ベンチャー企業は、優秀な人材を即戦力として求めていることがほとんど。学生の間に実務経験を積んで、卒業後すぐ即戦力として活躍してもらえれば、それはベンチャー企業にとってこの上なく望ましいことです。
そのために、
- 給与を支給
- 長期間就労してもらう
という条件提示でインターンシップを活用しています。
②内容別・分類
2つ目は、内容によって分類できるもの。
- 「1dayインターンシップ」の形式で行われる会社説明会・セミナー型
- ディベートや面接で自己表現するプロジェクト型
- 実際に働く就業型
会社説明会・セミナー型
会社説明会・セミナー型は、就職活動中の学生向けに開催され、「1dayインターンシップ」の形式で行われます。
企業側は会社説明会とほぼ同じ内容で対応できるため負担が少なくなり、そのうえ多くの学生に自社を宣伝できるのです。学生は、1日でインターンシップを体験できるため、手軽さから応募しやすくなります。
大手企業で学生の応募総数が多く、中長期のインターンシップが事実上不可能でも、セミナー型なら実施しやすいでしょう。ただし、学生の意欲や適性などを判断する時間は不足しやすいです。
プロジェクト型
プロジェクト型は学生に、
- ディベート
- ディスカッション
- 仕事
- 面接
などを体験してもらうインターンシップの形態です。
学生は自分の持つ、
- 発言力
- 伝える力
- 聞く力
- アウトプット
- インプット
などを総動員して、企業が与える課題に取り組みながら総合的な就活力が身につけられます。課題はそれぞれの企業によってさまざまですが、
- 課題をまとめる
- 新規事業を提案する
- 問題点をあぶりだす
など課題に対する集大成を形にすることを学生に求めるケースが多いです。
就業型
就業型は、インターンシップ本来の意味に一番近い形でしょう。学生は企業に一定期間属し、実際の職場で働く体験を積みます。そして学生は働くことを学び、企業は学生を受け入れることで職場の環境改善や学生の指導による社員の成長を実現していくのです。
ただし、インターンシップの受け入れには、それなりの準備が必要。
- 学生の失敗を最小限に抑える
- 学生が安定して業務を遂行する手助けをする
双方を実施していかなければなりません。事前準備から当日のフォローまでの負担感の大きさから、会社説明会型やプロジェクト型に移行する企業もあるようです。
③報酬別・分類
3つ目はインターンシップを有給で行うか、無給で行うかといった報酬別の分類。有給、無給どちらも企業としての考えが盛り込まれています。
- 無給
- 有給
無給
無給のインターンシップは、
- 学生の教育
- 学生の研修
- 学生への企業紹介
といった意味合いが強くなっています。たとえば、就職活動中の学生向けに開催される「1dayインターンシップ」などは、会社説明会の意図が強いこともあり無給で開催されるのです。
その他無給が多いのは、
- プロジェクト型のうち、学生の教育や研修の意味合いで実施するもの
- 期間が短く設定されているもの:生の職業体験という側面が強い
など。
有給
有給のインターンシップは、
- 学生を労働力と認識してインターンシップを行う場合
- 学生の採用活動の一環として開催する場合
後者については採用選考という意味合いでなく、採用広報という意味合いでのインターンシップ、と考えましょう。この場合は、赤字を覚悟して学生に給料を支払います。たとえば、サマーインターンといった夏期限定で実施するインターンシップなど。
学生の就労が売り上げに貢献すればそれに越したことはありませんが、実際には売り上げに貢献しなくても給与を支払って、企業の宣伝活動とすることがあるようです。
5.インターンシップの選び方
インターンシップの選び方には、ポイントがあります。自社でどのようなインターンシップを選べばよいのか、参考にしてみてください。
短期インターンのメリット・デメリット
メリット
短期インターンシップのメリットは、学生の拘束時間が短く済むこと。
1日、もしくは数日などのインターンシップには、
- 時間的な融通がきくため、スケジュールを立てやすい
- 学業とインターンシップとを両立しやすい
多くの学生が参加する説明会型に参加すれば学生同士のつながりを増やすことができる
といったメリットがあります。スケジュールに組み込みやすい短期インターンシップは、学生にも好評のようです。
デメリット
短期インターンシップのデメリットは、1日や数日で企業のすべてを伝えきれないということ。
また、
- 実際の業務、日常の業務が見えづらい
- 企業文化などを深く理解する時間がない
- 学生が集中する場合倍率が高くなり参加しにくい
といったものも。短期ゆえに学生は企業への理解を深められない、そんなケースについても認識しておくべきでしょう。
長期インターンのメリット・デメリット
メリット
長期インターンシップのメリットは、インターンシップで行われた内容が、学生のスキルとして身につくこと。長期間のインターンシップでは、学生がじっくりと業務に取り掛かれるため、
- 社会人としてのビジネスマナー
- 社会人としての意識
- 業務遂行の方法
- 業務に関連したスキル
などを身につけることができます。これにより、
- 実社会に出てからも、インターンシップでの経験を活用できる
- 働きによって、インターンシップ先から内定をもらう可能性も
といったメリットを学生にもたらすのです。
デメリット
長期インターンシップのデメリットは、学生の拘束時間が長くなってしまうこと。
拘束時間が長いと、
- インターンシップ以外の予定とのスケジュール調整が難しくなる
- 学業との両立が困難になる
- 業務における責任やプレッシャーが負担になってしまう
といったデメリットを学生にもたらします。インターンシップ中といっても、学生なので本業は勉学です。単位取得に必要な出席日数が確保できないなど、学業との両立が難しくなってしまうのは避けたい状況でしょう。
6.インターンシップ導入に必要なもの
インターンシップ導入時、企業と学生の間で重要と考えられるものがあります。その重要と考えられる3つについて説明しましょう。
インターンシップ契約書
インターンシップの際、企業と学生の間でインターンシップ契約書を取り交わします。法律上、インターンシップ契約書に特別記載しなければならない事項はありません。
しかしインターンシップはまだ学生の身分である人材を就業させることになるため、リスクやトラブル回避のためにも、企業と学生の間で契約書を取り交わしておくのです。
インターンシップの施策が始まる前に、学生の就業にあたっての諸事項を書面で明示します。契約書には、
- インターンシップのプログラム内容
- 発生する可能性のある業務
- 期間や待遇ほか
などを中心として記載します。学生に対して事前に説明しておきたいことは併記してください。
インターンシップ誓約書
インターンシップ契約書は、発生する業務や待遇などを中心に記載しますが、インターンシップ誓約書は情報漏洩に範囲を狭めて作成します。
近年、社会問題となる各種情報の漏洩。それを踏まえて、インターンシップで学生を職場に受け入れる際に、
- 企業秘密
- 個人情報
などの漏洩防止を目的として、学生に誓約書を提出してもらうのです。自社社員に提出を義務付けている誓約書を見本にして、ひな形を作成するのもよいでしょう。
一度でも情報漏洩が発生してしまうと、企業生命を脅かすことにもなりかねません。誓約書は、契約の際に取り交わしておきましょう。
有償インターンシップの場合には?
有償インターンシップの場合、企業は、学生と雇用契約を締結する必要があります。
- アルバイト契約
- 業務委託契約
など、インターンシップの内容に応じて選択してください。
労災保険の判断基準は、インターンシップで実施するプログラムに「労働者性」があるかどうかです。労働者性があるかないかを見極める判断基準の具体例は、
- 賃金の支払いの有無
- 実施する研修の内容
- 実施する業務の内容
- 拘束期間
など。
- 賃金の支払いがある
- 社員と同じ程度の業務に就く
といった場合は、労働者性が認められるとして労災保険の適用者と見なされます。
7.企業側に必要なリスク管理とは?
インターンシップを導入する際、企業側に求められるリスク管理があります。インターンシップに関連するトラブルには、
- 企業側の過失などによって、学生が不利益を被る
- 学生側の過失などによって、企業が不利益を被る
が考えられます。インターンシップを企画する際には、さまざまなトラブルに関して何らかの対策を立てておかなければなりません。
①企業側の過失などによって、学生が不利益を被る
一般的なのは、企業が保険に加入してリスクに備える方法です。保険の加入によって、
- 学生
- 学校
- インターンシップの受け入れ先企業
三者の負担を軽減できます。
もし、インターンシップを学校の正課授業や課外活動、実習などで実施した場合は、学生教育研究災害傷害保険という任意加入できる保険の対象になるのです。学校が関与していない場合は、企業や個人が個別加入している一般の保険の傷害保険などで対応します。
学生が不利益を受けるような大きなトラブルを避けるには、インターンシップの方法を見直しも必要です。その場合、被害を受けにくい座学形式や講義形式にするといった方法が考えられるでしょう。
もしくはインターンシップ自体を行わないといった選択肢もあります。そのようなケースまで想定して万が一の事故に備えた対策を講じておくことは、企業のリスク管理の側面から考えても意味があることといえるでしょう。
②学生側の過失などによって、企業が不利益を被る
反対に、学生側の過失などによって企業に損害が生じるケースも考えられます。たとえば、
- 電子機器、精密機器、ソフトウエアが破損
- 企業秘密や個人情報が漏洩
など。企業秘密や個人情報の漏洩に対してインターンシップ誓約書の取り交わしが重要、という点は説明しましたが、誓約書があるからといって安心はできません。
もし学生の過失によって企業に損害が発生した場合は、学生がその損害を賠償することになります。しかし、学生一人で賠償することは困難、という状況も考えられるでしょう。
その場合でも企業が適切に損害賠償を受けられるようインターンシップ開始前に、
- 学校
- 学生
- インターンシップ受け入れ先企業
三者間で、
- 損害賠償になる事項の確認
- 損害賠償への対応や方針
- 具体的な保険の加入状況
について文書などで明文化しておきましょう。