【連載:人事評価はもういらない 第3回】
MBOはもう古い!? OKR的発想が大きなイノベーションをもたらす

はじめに

前回のインタビューでは、ビジネスの変化や労働人口の減少で日本においても「新たなパフォーマンスマネジメント」が有効であることがわかりました。今回は「新たなパフォーマンスマネジメント」の一つ、最近注目をされている「OKR」について伺いました。

エム・アイ・アソシエイツ株式会社 松丘啓司
1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社。2005年 エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任。以後、パフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョン、営業意思決定といった領域で、企業向けの人材開発・組織変革プログラムの開発と提供を続けている。
著書に『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』(共にファーストプレス)などがある。

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かつてない成果を生み出す「OKR」

いま日本では成果主義的なMBO(目標管理)に変わり、OKR(Objectives and Key Results[目標と主要な結果]が注目されていますね。

松丘:そもそもOKRというのは、目標設定のフレームワークを意味しています。これは、かつてない成果を生み出すことを促す目標設定のやり方です。

OKRでは個人の目標を会社の目標に結びつけ、会社全体で共通のゴールに向かうことができます。
達成がかなり困難であるが「実現したい!」と感じられる野心的目標を設定し、短いタームで進捗状況を確認しながら、遅れや外的要因による変更があれば目標を調整してく。刻一刻と変わるビジネスに対応し、時流に合っているといえます。

現在の日本のMBO的環境にOKR的発想がもたらす効果とは?

松丘:日本の経営者の多くは、未だに短期業績志向が強いと思います。売り上げや利益を「自分の在任期間中に伸ばす」ことこそが評価につながるからです。そこで着実に売り上げや利益を伸ばせれば、「いい経営者だった」と周囲にも認められる。ですが、日本のマーケットを振り返ると、人口は減少しているし、既存のビジネスにも伸び代がない。

そういった中で短期業績を伸ばすために、多くの会社が「前年度比3%増」といったようなMBO的な現実的な目標を掲げているわけです。確かに昨今の日本の状況を鑑みると「3%増」を目指すだけでも大変ではあるのですが、一旦こういった目標を設定してしまうと、人は誰しも目新しいことはやらずに、確実に数字がつくれる行動をとる。つまりチャレンジをしないのです。

OKRはチャレンジする環境を与え、このことがMBOよりも大きな利益をもたらす可能性を生み出します。

実現するためには、根本的な発想から変える必要がありますね。

松丘:まずは「厳しく目標管理しないと成果は上がらない」という固定観念を取り払うことが大切です。日本の企業には「会社なんだから、とにかく売り上げや利益を上げなければいけない」「数字をつくるために厳しく管理することこそ、正しいマネジメントだ」という固定観念があるのです。

しかし、日本の経営者の中にも、自分自身が「OKR的な発想」を行うことで、成功体験を積んでいる人もいます。たとえば「200%増」といった目標を立てたとする。その結果、「2倍にはならなかったけれど、1.5倍にはなった」といった成功体験を持っている人なら、「OKR的な発想」の必要性が理解できるはずなのです。

そもそも「どれだけ大きなイノベーションが起こせたか」によって評価が行われる部門であれば、「何%増」といったことは問われない。そういった部門においては、「OKR的な発想」がますます必要になってくるでしょう。

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売り上げが数%上がったからといって株価はどれだけ上がるのか?

「OKR的な発想」は、株主にはなかなか受け入れ難い発想であるような気がします。

松丘:いや、そんなことはないはずですよ。もはや「イノベーションを起こせる」という成長期待があったほうが、株式市場で評価される時代に変化してきていますから。GAFAの方が、短期利益をたくさん出している伝統的な会社よりも評価されるようになってきた、というのが大きな要因の一つです。人事の方々によく問うのですが、国内市場を対象にしたレガシーのビジネスで、売り上げが数%増えただけで、株価がどれだけ上がりますか?と。ほとんど上がらないですよね。つまり、それも一つの固定観念なのです。

「新たなパフォーマンスマネジメントの思想は、実は日本の年功序列の制度の中にも息づいていた(そしてグローバル化の必然性の中で失われていった)」という指摘を、松丘さんは著書の中で指摘しています。歴史を振り返って具体的な事例があればお聞かせください。

松丘:かつての日本の年功序列の制度にも、現代に生かせる要素はあると思います。もちろん「昔に戻ればすべてうまくいく」というほど簡単なものではありませんが。

まず一つは、「家族主義的な付き合い」の復活です。かつて日本では、会社の人とも家族ぐるみで付き合うことが多く、お互いのプライベートの事情もある程度は理解した上で、マネジメントを行ってきたわけです。上司も部下もお互いのことを理解しつつ、チームで仕事をするという文化があったのですが、今はそれぞれの事情や希望まで把握していない。

「彼はエクセルが得意だ」というようなことは知っていても、「彼女はこんな価値観を持っている」とか「彼はあんな夢を持っている」といったようなことまでは、お互い分からずに仕事をしていますよね。

そういった意味では、これからのマネジメントとは、まずは「人ありき」であるといえるのです。「この人はどういう人なのだろうか」ということを理解した上で、 それを踏まえて仕事に生かしていくことが大切なのです。

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まとめ

今後日本でもアメリカ市場のように「どのくらいイノベーションを起こせるか」が企業の価値となっていくのではないでしょうか。

そうした中でOKRなどの「新たなパフォーマンスマネジメント」のさらなる浸透が予測されます。

次回の「人事評価はもういらない」では働き方新時代に最も重要とされる「1on1」について松丘氏に伺います。

渡邊玲子 文