ビジネスにおいて顧客に販売される「モノ」には、一定以上の品質が保証されていなければなりません。この品質を客観的な立場から保証するうえで重要な役割を担っているのが「ISO9001」です。ここではこのISO9001について解説します。
目次
1.ISO9001とは?
ISO9001とは、品質マネジメントシステム(Quality Management System)に関する国際規格です。ISO9001には「よい製品を作る」だけでなく、「よい製品を作るシステムの管理する」も含まれます。「よい製品」とは「顧客のニーズに合った製品(サービス)」を意味し、ISO9001の最終的な目的は「顧客満足」となります。
そもそもISOとは何か?
ISOとは、スイスのジュネーブに本部を置く国際標準化機構(International Organization for Standardization)という非営利法人です。この法人では、国際的な取引をスムーズに行うための製品やサービスの規格を定めています。
たとえば形状や寸法、材質や品質、性能や機能、安全性などに関する規格があるのです。そしてこれらは、世界中のモノづくりの現場において順守されています。
品質マネジメントシステム(Quality Management System)とは?
提供する製品やサービスの品質を継続的に改善する仕組みのこと。「ISO9001のクリアが品質マネジメントシステム」と解釈している人もいるかもしれません。しかし実際、ISO9001はQMSの基礎の一部なのです。

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2.ISO9001を取得する意味
ISO9001を取得すれば、ISO9001の品質マネジメントシステム規格の要求事項を満たしていると証明できます。つまり製品やサービスが顧客と規制上の要件を満たし、なおかつその品質を継続して維持できていると証明できるのです。
また取得には、品質管理システムの文書化や第三者による監査などの厳格なプロセスを通過しなければなりません。くわえて取得後は、品質維持の取り組みが行われていると確認するための定期監査に通過する必要もあります。
ISO9001を取得すると、これらの厳しいプロセスを通過した高品質な製品やサービスを提供している証明にもなるのです。
3.ISO9001を構成する事項
ISO9001はさまざまな事項から構成されています。それぞれについて解説しましょう。
- 適用範囲
- 引用規格
- 用語および定義
- 組織の状況
- リーダーシップ
- 計画
- 支援
- 運用
- パフォーマンス評価
- 改善
①適用範囲
構築した品質マネジメントシステムを自社の業務内においてどこまで適用するのかを決定すること。適用範囲を明確にしておくと、どの部署のどの作業を改善しなければならないのかがわかりやすくなります。
適用範囲を決める際は、「業務に合った適切な適用範囲である点」を重視しつつ、「適用範囲の根拠を明確にし、把握する」ことが大切です。また決定した適用は文書化し、共有できる状態にしておかなければなりません。
②引用規格
引用規格ではISO9001の一部として利用または引用する規格を記載する必要があります。書式は規定されていないため、わかりやすいまとめ方をすることが大切です。ただしISO9001については、今後改訂される可能性もあります。
たとえば2008年、引用規格に関する内容が変更されました。一度引用規格を記載して終わりとせず、つねにISOのWebサイトで規格変更に関する動向をチェックし、必要があれば変更しなくてはなりません。
③用語および定義
用語と定義に関しても、引用規格と同様にどのISO9001版のものを使用するのか、指定する必要があります。社内用語を使用する場合、その定義についても明確にしておくと、誤解や誤認を防げるからです。
とりわけ特殊な用語を使用する場合の多い業界や企業では、社内用語の定義を詳細に記載することが非常に重要となります。
④組織の状況
ISO9001の要求事項では、組織の状況についても詳しく記載する必要があります。ここでいう組織の状況には、内部だけでなく外部についても含まれるのです。よって利害関係にある組織も該当するため、記載が必要になります。
内外におけるそれぞれの課題や利害関係者のニーズを明確にしたうえで、自社事業におけるISOマネジメントシステムの適用範囲や実施体制などを決めていくのです。
⑤リーダーシップ
リーダーシップに関してはコミットメントや方針のほか、目標や役割、責任などの明確化も求められています。リーダーがISOマネジメントシステムに向けてどのような働きかけを行うのか、明確にしましょう。
ISO9001にリーダーに求められる役割や管理方法を記載し、さらにリーダー自身がそれらの方針や目標について説明できる状態が求められます。
かつてのISO9001では、この項目についてリーダーが管理責任者と一体となって管理を行うと記載されていました。しかし2015年版では管理責任者に関する内容が削除されたのです。このことから、リーダーが担う管理面での責任はより重くなったといえます。

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⑥計画
ISO9001ではリスクと目標、および変更に関する計画の策定を要求しています。リスクが発生した場合の対応や目標を達成するための取り組みのほか、これらにおいて変更が生じた場合の対応についても、明文化しなければなりません。
またこれら各々の対応や取り組みに関しては具体的な活動計画を策定する必要もあります。ISOマネジメントシステムによる効果を継続させるうえでも、目標達成やリスク回避に対する計画が不可欠だからです。
⑦支援
ISO9001が要求する「支援」とは、ISOマネジメントシステムを対象とする取り組みのこと。取り組みにおいては、相応のノウハウを有した人材や環境、技術などが挙げられ、これらを文書化することも必須とされています。
また支援を行ううえで必要なノウハウは、組織内で共有されていなければなりません。そのためのコミュニケーションや教育、情報の文書化なども支援に欠かせない取り組みとして挙げられます。
⑧運用
ISO9001の要求事項では、策定した計画の「運用」についても詳細な規定がされています。ここでは製品の製造やサービスの提供において必要な作業を記載した基準や記録が求められており、これらは上述した計画の内容に即したものでなければなりません。
またここで記載した基準や記録は実際の現場で適用されるルールの基礎となります。ISO9001の要求事項だけでなく、事業や業務そのものの内容も反映した内容を記載しましょう。
⑨パフォーマンス評価
各プロセスを経て作成された品質マネジメントシステムが、正常に機能し、成果を生んでいるかを評価する必要もあります。
具体的にはプロセスや顧客満足度などの測定と分析、評価について方法や指標の記載が求められているのです。パフォーマンス評価の内容は後述する「改善」の基準にもなるため、現状に対する正当性も求められます。
この評価は、「経営者レベル」「管理者レベル」「現場レベル」のそれぞれに対応させておきましょう。
⑩改善
「改善」では品質管理システムの継続と改良が主な目的です。もし大きな課題がなかったとしても、良好な状態を維持しなくてはなりません。評価の結果をもとに、製品やサービス、管理体制や生産体制などを改善するPDCAサイクルを設定しましょう。
また改善の機会についても明記が求められています。社内の監査やマネジメントレビューなどだけでなく、社外からの意見も改善の機会です。たとえば製品やサービスに対するクレームやニーズなども該当します。
4.ISO9001の取得方法
ISO認証機関による審査を通過するとISO9001を取得できます。そのためには上述した要求事項を満たした品質マネジメントシステムを構築し、運用しなければなりません。続いてはこの取得方法の詳細な手順を説明します。
取得の手順
ISO9001の基本的な取得手順は、以下のとおりです。各々のプロセスでは目的に応じた取り組みが不可欠となり、並行して申請書類も作成しなければなりません。
- キックオフ
- 現状分析と対応策の決定
- マネジメントシステムの構築
- マネジメントシステムの運用と改善
- 審査
①キックオフ
キックオフでは目的に応じた人選を行い、プロジェクトチームを結成し、同時に取得するISO9001の適用範囲を決定します。さらにマネジメントシステムの構築期間や費用などについても検討しなければなりません。
またこの段階で「ISO9001の取得」を社内全体へアナウンスします。取り組みや情報を共有し、全社員へ意識づけるためです。
②現状分析と対応策の決定
プロジェクトをスタートさせたら、まずは現状の分析と対応策の決定を行います。具体的には業務内容と手順の洗い出しや、それらとISO9001の要求事項との比較などです。とくに必須とされる内容を見落とさないよう注意しましょう。
要求事項を満たしていない部分があれば要改善点として認識し、そのための具体的な対応策を検討していく必要もあります。
③マネジメントシステムの構築
ISO9001が要求する品質を実現するためのマネジメントシステムを構築します。具体的には目標と施策の決定、手順や対応などのマニュアル化、内部監査の設置、社員への訓練など。
また構築したマネジメントシステムは文書化しなければなりません。言語化が可能なレベルの具体性をともなったものである点も、重要となるのです。
④マネジメントシステムの運用と改善
マネジメントシステムを構築したら、試験運用を開始します。運用直後は問題点が生じやすいため、それらを改善していくのもこのプロセスとなります。また一度改善した状態を維持できるルールや手順、体制などへ整える必要もあるのです。
さらに計画にもとづいた運用を実施したと証明するべく、実施した管理や改善などについて文書化しなければなりません。
⑤審査
目標とする精度を備えたマネジメントシステムが完成したら、ISO9001を取得するための審査を受けます。審査は文書審査を主とする第一段階審査と現地審査を主とする第二段階審査にわけて実施され、通過すれば認証を取得できるのです。
もし通過できなくても是正処置にしたがって改善すれば、同様に認証を取得できます。
申請書類
ISO9001を取得するためには、以下の申請書類の提出が必要です。
- 文書類:申請時には構築されたマネジメントシステムを文書化したものの提出が必要。具体的にはマニュアルや業務手順、品質方針などを記載した書類
- 記録類:運用が計画どおり行われていると証明する文書のこと。審査時に記載内容が確認される
- 帳票類:マネジメントマニュアルの内容に即したものでなければなりません。こちらも審査時に内容が確認される
5.ISO9001のメリット
ISO9001を取得すると、製品やサービスの質が向上するほか、さまざまなメリットを得られます。続いてはISO9001を取得するメリットについて説明しましょう。
- 製品やサービスへの満足度向上
- 企業のイメージアップ
- 競合他社との差別化
- 業務の効率化
- 高品質の維持
- 社員のモチベーションアップ
①製品やサービスへの満足度向上
顧客の要求する製品やサービスを提供できるようになり、顧客満足度の向上が期待できます。ISO全般では「品質の保証(QA)」「リスクへの対応(RM)」「顧客満足(CS)」を顧客重視のポイントとしているためです。
ISO9001を取得すれば、これら3つのポイントにて一定の基準を満たしていると、顧客へ証明できます。
②企業のイメージアップ
製品やサービスそのもののイメージはもちろん、企業そのもののイメージアップにもつながります。その企業に一定水準以上のレベルの製品やサービスを提供し続けられるノウハウが備わっていると、第三者機関が証明するからです。
ISO9001を取得した企業は、「第三者が認めた高品質の製品やサービスを提供する優良な企業」という印象を持ってもらえます。
③競合他社との差別化
ISO9001には競合他社との差別化を図れる点でも、メリットがあります。ISO9001を取得すると、継続的に高品質な製品やサービスを提供できるようになるためです。
この点は市場において、ISO9001取得にいたっていない企業に対する優位性をもたらします。
④業務の効率化
ISO9001を取得すると、日々行われている業務の効率を向上できるというメリットも得られます。ISO9001を取得するうえで生産環境や工程の整備が必要となるため業務が標準化されて作業効率が向上するのです。
この点でISO9001の取得は、取得に至るまでの過程においても大きなメリットがあるといえます。
⑤高品質を維持
ISO9001の要求事項には「改善」が含まれているため、取得後も製品やサービスに関して高品質を維持できます。取得後も改善サイクルを回し続ければ、顧客満足度や競合優位性なども相乗的に向上していくでしょう。
また品質を改善すると、社員の意識や業務も改善されます。このように継続して品質目標を達成し続けて高品質な製品やサービスを提供し続ければ、さらなるメリットを生むのです。
⑥社員のモチベーションアップ
ISO9001の運用によって、社員自身がやることと手順が明確になるため、モチベーションが高まりやすくなります。
なぜならISO9001は取得後にも継続した取り組みが必要になるためISO9001に沿ったチームや個人の目標が設定され、社員一人ひとりの役割も明確になるからです。業務に関する不安も減り、社員のモチベーションアップにつながるでしょう。

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6.ISO9001のデメリット
ISO9001にはデメリットもないわけではありません。取得に際して想定されるデメリットについても把握しておく必要があります。
- 管理者や担当者への負担増
- 増加する業務
- 取得と維持のコストが高額
①管理者や担当者への負担増
ISO9001の取得には、事前準備や人材の確保などに膨大な時間と労力が必要です。よって管理者や担当者への負担が増大してしまうでしょう。一部の社員にだけ重い負担がかからないよう、負担を分散する取り組みや業務量の調整なども行わなければなりません。
またこれら負担は一度ISO9001を取得したら解消されるわけではなく、取得後も継続すると覚えておきましょう。
②増加する業務
ISO9001を取得する際マニュアルや記録、計画書や申請書など多数の書類作成が必要です。取得後は作成した書類の保管にかかる手間も発生するため、取得前から運用後の業務量まで計算し、対策を考えておきましょう。
③取得と維持のコストが高額
ISO9001の取得には多額のコストが生じます。まず社内のマネジメントシステムの構築や運用に必要な機材や人件費は必須です。またコンサルティングを依頼すればその分の費用も発生します。
申請段階では、審査料とISO登録料、審査員が自社を訪れるための交通費がかかるのです。そして取得後に更新する際は、再度審査に関する費用がかかります。
7.ISO9001の内部監査とは?
企業にて所定のマニュアルや基準どおりに業務が行われているかどうか、確認すること。監査は、品質マネジメントシステムにおいて改善部分を確認する役割もあり、ISO9001で定められた品質基準を維持するうえでも欠かせません。
ISO9001で内部監査をする目的
ISO9001で内部監査をする目的は、以下の4点です。
- マニュアルやルールに則った業務が行われているかどうか、の確認
- 品質維持のための取り組みが期待される効果を発揮しているかどうか、の確認
- 実際に行われている業務における問題点の抽出
- 品質を維持するうえで改善すべき点の抽出
内部監査の目的は、取り組みを通じて、企業の在り方や業務そのものの軌道修正を図ることです。
ISO9001内部監査の進行方法
SO9001の内部監査ではルールやマニュアルが守られているか、なおかつ業務において効果を発揮しているのかを確認します。そのうえで見つかった問題点や改善点をリストアップし、必要な改善を企業に対して促すのです。
8.ISO9001とISO14001の違い
ISO14001とは、環境マネジメントシステムに関する国際規格のこと。環境に対してよい取り組みを促し、逆に悪い取り組みは改善していくことがこの規格の基本的な考え方です。この規格を取得すると、環境に配慮できる企業として認められます。
両者の違いを見ていきましょう。
目的
- ISO14001:サスティナビリティ(持続可能性)の考えにもとづき、環境リスクの低減と環境そのものへの貢献を目的とする
- ISO9001:製品やサービスの品質を継続的に向上させることが目的
視点
- ISO9001の視点:品質面に関するもの
- ISO14001の視点:環境面に関するもの
とはいえISO9001の視点で取り組んだ「効率化」施策が、ISO14001の視点で「省エネ」につながるケースもあります。逆にISO14001の視点から環境に配慮した原料に切り替えたら品質が上がった、というケースもありえるでしょう。
アプローチ
ISO9001とISO14001は、目標に対するアプローチが変わってきます。たとえば「廃棄物を減らす」という目的を挙げてみましょう。
ISO9001では「無駄を省いて効率化を高め、品質を高める」となり、工程やマニュアルを見直します。一方、ISO14001では「無駄を生まない」となり、生産プロセスや設備自体が見直されるでしょう。
9.ISO9001をやめる企業の理由
業務内容の変化や規格そのものの変化を理由に、ISO9001をやめてしまう企業も少なくありません。取得を検討する際は、このような変化に対応できるかも考えておきましょう。
- システムの安定化
- 改正による審査対応
①システムの安定化
ISO9001の取得でマネジメントシステムが安定化すると、ISO9001をやめてしまう場合があります。企業全体のシステムの構築と運用、それにともなう膨大な書類の作成といった手間と費用が発生するからです。
システムが安定したあと、手間と費用をかけてまでISO9001を維持する必要がないと考え、ISO9001そのものを辞めてしまう企業も少なくありません。
②改正による審査対応
ISO9001規格自体の改正にともなって審査対応が変化した際、ISO9001をやめてしまう企業も見られます。ISO9001は定期的に改正され、そのたびに審査対応も変わるからです。
マネジメントシステムを対応させ続けていくにはそれだけの人手と時間が必要となるため、対応が難しい企業は更新をやめてしまいます。
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