イシューとは、根本的な問題や課題などを意味する言葉。ここではイシューを仕事に生かすメリットや特定する方法、良いイシューの条件などを解説します。
目次
1.イシューとは?
イシュー(issue)とは、「課題」「問題」「論点」などを意味する言葉です。ネガティブなニュアンスは含まれず、解決すると改善や成長が見込まれる根本的な問題を指します。また英語のissueには、「流出」「外に出る」などの意味もあるため、ビジネスシーンでは「顕在化した問題」「議論して検討するべき課題」などの意味でも使われます。
ほかにもissueは「出版する」「発行する」「発布する」などの意味を持つため、マスコミ業界では「出版物」「発行部数」などを示すのです。
2.イシューを特定するメリット
議論して検討すると、改善や成長の見込まれる課題がイシュー。つまり自社のイシューを明確にすると、経営や事業を成功に導きやすくなるのです。ここではビジネスにてイシューを特定する4つのメリットを説明します。
- 適切な課題を特定
- 効率的な議論の遂行
- 業務の効率化
- 新しいアイディアの発見
①適切な課題を特定
経営や事業の運営ではさまざまな課題が生じ、それらを解決していかなければ最終目的を達成できません。取り組むべき課題の設定が適切でなければ、目標を果たせないうえ、その課題をクリアするために費やした時間や労力、コストも無駄になってしまうでしょう。
イシューを明確にすると、目標達成の妨げになる本質的な問題や課題が明らかになり、適切な事業計画を立てられます。
②効率的な議論の遂行
議題がはっきりしていない会議は、話の脱線や論点のずれが生じやすいもの。よい意見が出ず結論にたどり着けないようでは、会議に費やした時間が無駄になってしまいます。
会議前のイシュー、つまり議題や論争点などを明確にしておけば、このような話の脱線や論点のズレを防げるのです。たとえ脱線しても、参加者の間でイシューの特定と共有がなされていれば、速やかに修正できます。
③業務の効率化
イシューが掲げられていない状態では、「なぜこの仕事をしているのか」「この仕事が何につながるのか」がはっきりしません。このような状況下では従業員のモチベーションが低下しやすく、作業効率の停滞を招いてしまうでしょう。
イシューを特定すれば、個人はもとより職場全体の目的意識の向上を促せます。各従業員が目標達成に向けて工夫や改善を重ねるようになり、業務効率化が実現しやすくなるのです。
④新しいアイディアの発見
イシューを特定すると職場の目的意識が高まり、課題解決に向けた議論も活性化するでしょう。たとえば会議でひとつのイシューを議題にして何度も議論すると、その奥に根づく問題を見つけられるかもしれません。
また個人の思考も深まり、斬新なアイディアが生まれる可能性も高まります。思いもよらない従業員から、誰も今まで気づかなかった新しい解決策が発見される可能性もあるのです。
3.イシューとプロブレムの違い
問題や課題を意味する言葉に、「プロブレム(problem)」があります。
イシューとプロブレムは同じようなシーンで使えるように見えるでしょう。しかし両者には明確な相違点があるのです。それぞれの違いを、問題の「性質」と「緊急度」の観点から説明しましょう。
問題の性質
イシューとプロブレムはどちらも問題といった意味を持ちます。しかしイシューは解決すればプラスに転じる問題、プロブレムはトラブルに近いマイナスな問題を指す点が異なるのです。
イシューにはネガティブな要素がなく、解決すると改善や成長が見込まれる問題に対して使います。一方プロブレムは、「直接的に害のある問題」に対して使う語なのです。
問題の緊急度
イシューとプロブレムには、問題の緊急度にも違いがあります。イシューは長期的な視点で解決する問題、プロブレムは緊急性が高い問題を表す語だからです。
たとえば「納品が間に合わない」という問題は緊急性が高いのでプロブレムです。一方「納期に遅れないようなシステムを構築する」は、長期的に解決するべき問題点なのでイシューを使います。
4.良いイシューとは?
「良いイシュー」を特定すると、全社的に取り組むべき根本的な課題を明確化でき、それらの課題に対する解決策の考案や実行に移せます。課題に取り組む過程で業務効率や生産性が向上し、課題が解決できればビジネスの成功も達成できるでしょう。
一方で不適切なイシューを掲げてしまうと、どれほど質の高い組織が解決に取り組んでも、期待する効果を得られません。ここでは良いイシューを見極めるための条件を説明します。
- 本質的な課題
- 大きなインパクト
- 問題解決が可能
①本質的な課題
良いイシューとは、それを解決すると事態が進展する本質的な問題や課題のこと。よって、すぐに答えを出す必要がないイシューは、良いイシューといえないのです。
たとえば顧客満足度の改善を目的とする場合、「顧客満足度を上げる施策は何がよいか」といったイシューは最適ではありません。「顧客満足度が上がらない理由はそもそも何か」というイシューのほうが、課題の本質を突いた良いイシューだからです。
②大きなインパクト
解決すると世間やステークホルダーへ大きなインパクトを与えるイシューは、良いイシューといえます。
ビジネスではつねに多くの問題と向き合っており、解決にかけられる時間や労力、コストは限られています。影響が小さな問題に取り組むよりも、大きな課題を解決するほうが、効率よく成果を上げられるでしょう。
そこで「解決すれば今までの常識を覆えせる」ようなイシューへ優先的に取り組むのです。達成すれば競争優位性や企業価値、従業員のモチベーションやエンゲージメントなどの向上も期待できます。
③問題解決が可能
良いイシューを設定するうえで重要なのは、解決が可能な問題かどうか。どれほどインパクトがあり、本質的な課題だと思われるイシューでも、実際に解決できなければ意味がありません。
またビジネスで直面する無数の問題には、時間や労力、コストや技術などが足りず、解決が不可能なものも多数あります。イシューを選択する際、現在のリソース範囲内で解決できる課題かどうかの見極めも必要です。
現状のリソースでは解決方法が見つからないと判断したら、それ以上は掘り下げず別に良いイシューを探しましょう。
5.良いイシューを特定する方法
良いイシューを特定するにはコツがあります。その方法を3つ解説しましょう。
- 具体的な仮説の立案
- イシューを書き出す・隠れた前提を探す
- イシューツリーの活用
①具体的な仮説の立案
良いイシューの特定には、課題をさまざまな視点で分析し、具体的な仮説を複数立案する必要があります。
たとえば顧客満足度の向上を目標とするならば、顧客満足度の低下につながる要因を洗い出してそれぞれの仮説を立て、そのなかから自社にとってもっとも影響が大きい要因に取り組むべきです。
仮説を立てる際にはひとつの考えに固執せず、客観的かつ個人的な思い込みの排除を意識しましょう。
②イシューを書き出す・隠れた前提を探す
仮説を立案したらイシューを書き出し、隠れた前提がないか、確認します。隠れた前提とは、業界や社内における常識や慣習などから生じる「今までこうだったから」「慣例があるから」などの予断や先入観です。
このような隠れた前提を排除したうえで、客観的なデータを集めて顕在化していない情報や背景を見極めましょう。
③イシューツリーの活用
イシューツリーとは、上から下または左から右へ論点を分岐していくフレームワークのこと。
ひとつの仮説からスタートし、まず大きな論点を下層へ書き足します。直下の論点からさらに論点が発生すればさらに下層へ分岐。このように論点を細分化していき、最終論点にたどり着いたら具体的な対策を書き込みます。
イシューツリーを活用すれば、複数の論点と優先順位を整理でき、よいイシューを特定しやすくなるでしょう。また同時にイシューの対策も決まるため、アクションへ移しやすいのです。
6.イシューの使い方
英語のissueには「出版する」「公表する」などのように動詞の意味もあります。ただしビジネスシーンでは必ず名詞として使い、「イシューする」のように動詞的な使い方はしません。ここではイシューを用いた例文や言葉を解説します。
イシューを使った例文
ビジネスシーンで見られるイシューを使った例文を紹介します。シーンによってイシューの意味が異なる点に注意が必要です。
- イシュー(問題点)の特定を誤れば、この部門の業績は低迷したままです。
- あらかじめイシュー(議題)を掲げて、会議の参加者全員が共有すれば、議論を深められるはずです。
- 新商品の売り上げを向上させるためのイシュー(論点)を洗い出してみましょう。
- 我が社のイシュー(問題点)は顧客満足度の低さにあります。
- イシュー(課題)を明確にすればこのプロジェクトはきっと成功します。
- 新サービスが低迷しているのはイシュー(根本的な問題)の見極めが甘かったからです。
イシューを使った言葉
イシューを含むビジネス用語も多数存在しています。
- クリティカルイシュー:とくに優先順位が高い課題。重要案件や重大な問題
- ビッグイシュー(The Big Issue):1991年に設立された、ホームレスの社会復帰を助けるための雑誌
- ソーシャルイシュー:環境問題や教育問題のように関心を集める社会的な課題
- ワンイシュー:課題や論点がひとつであること
- イシューマネジメント:課題や問題点を明確にして危機管理に活用すること
- イシュードリブン思考:顕在化している課題や問題を解決していくための思考法
7.イシューを深く理解するための書籍『イシューからはじめよ』
イシューを扱った書籍は数多くありますが、とくに名著といわれるのが、2010年に発行された『イシューからはじめよ』です。
著者は、マッキンゼー・アンド・カンパニーでマーケティングの研究に従事し、ヤフー社執行役員も経験した安宅和人氏。安宅氏は本書で、生産性の高い人とそうでない人の違いは、問題を解く前にイシューを見極められるかどうかだと語っています。
また仮説の立て方やアウトプット、共有など具体的な問題解決の流れもわかりやすく解説。実際にイシューを特定する際にも役立つ本です。