普遍的な人事課題がある一方、世の中の動きによって人事部門が抱える課題も変化します。人事部門の役割は、こうした課題を洗い出して解決することです。
今回は普遍的な人事課題をふまえて、昨今重要視されている人事改題とその対策、解決のポイント人事課題の見つけ方・洗い出し方について詳しく解説します。
目次
1.人事部門の仕事と課題
人事部門の仕事は、企業のミッションやビジョン、経営計画や経営目標を達成するため組織の人材を管理すること。そして人事部門の主な課題は、「採用」「配置」「育成」「評価」「離職」の5つです。ここではそれぞれについて見ていきます。
人事部門の仕事
人事部門の仕事は、企業のミッションやビジョン、経営計画や経営目標を達成するために組織の人材を管理することです。ひとくちに管理といっても、その中には下記のようにさまざまな業務が含まれます。
- 自社にマッチする人材の採用
- 人材を活用するための配置
- 経営目標を達成するために必要な人材の育成
- 社員の能力や成果の公正な評価
そのほか職場環境や人事制度の整備、勤怠や給与、保険関連を管理する労務なども人事業務に含まれます。
企業によって人事部門の仕事範囲は異なるでしょう。しかし「経営資源である人材を生かすためにさまざまな戦略を練って実行する役割を担う」のは共通しています。
人事部門の5つの課題
人事部門が抱えがちな課題は、主に下記の5つです。
- 人材採用
- 人員配置
- 人材育成
- 人事評価
- 離職防止
ラーニングエージェンシー(旧トーマツイノベーション)による「人事課題」の実態調査によると、人事部門が取り組みたい課題として約9割が「人材育成・組織開発」と回答、次いで「採用」「評価制度」の回答が多い結果となりました。
ここでは、各分野における課題の具体的な内容について解説します。
参考 今後取り組みたいテーマ「人材育成・組織開発」と回答した人事が9割超PR TIMES①人材採用
下記は、採用における課題例です。
- 新卒、中途社員を確保できない
- 自社にマッチした人材を確保できない
少子高齢化が著しい現代、そもそも労働人口が減少しており、とくに若手人材の確保が厳しい状況にあります。しかしただ人材を確保すればいいわけではなく、自社にマッチした人材を確保することが重要です。
求める人材が確保できなければ人材の補充が進まず、慢性的な人手不足の状況が続いてしまうでしょう。
また、優秀な人材はどの企業も求めているため、採用競争が年々激化。優秀な人材に数ある企業から自社を選んでもらうには、競合にはない魅力の確立や自社の魅力を理解してもらうための適切なコミュニケーションが必要です。
②人員配置
配置における課題例は、下記のとおりです。
- 社員の能力や適性を生かせていない
- 社員の能力を発掘できていない
適材適所な配置は、組織の生産性やパフォーマンス向上に必須な人事戦略です。配置のミスマッチは社員が本来のパフォーマンスを発揮できないだけでなく、公正な評価への支障やモチベーション低下を引き起こし、離職リスクを高めてしまいます。
配置に関する課題は、人材データを活用できていないことが原因のひとつ。社員の「スキルや適性を発揮できる」「やりたい仕事ができる」「理想のキャリアを築ける」環境の提供は、人事の役割であり、課題でもあります。
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③人材育成
下記は、育成における課題例です。
- 思うように人材育成が進められない
- 育成リソースの不足
- 育成する側のスキルが不足している
また、厚生労働省による「人材育成に関する課題調査」では、人材育成に関する問題点の内訳として下記のような内容が挙がっています。
- 指導する人材が不足している
- 人材育成を行う時間がない
- 人材を育成しても辞めてしまう
- 鍛えがいのある人材が集まらない
- 育成を行うための金銭的余裕がない
- 適切な教育訓練機関がない
- 人材育成の方法がわからない
人材確保が難しい状況では、確保済みの社員を育成し、その能力を最大限生かすことが求められます。一方、人材不足が相まって、育成にかけられる時間や予算が足りていない企業も多いです。
また中堅層の空洞化による育成側のリソース・スキル不足により、効果的な育成ができていないといった課題を持つ企業も多くあります。
育成に課題を抱えたままにしていると組織パフォーマンスが向上せず、企業が成長しません。さらに社員の離職リスクが高まるといった悪循環も発生します。
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④人事評価
評価に関する課題例は、下記のとおりです。
- 社員が人事評価に納得していない
- 人事評価制度が定着していない
- 人事評価制度が正しく運用されていない
正当に評価されることで会社に認められている、必要とされていると実感できるため、社員のモチベーションに大きく影響します。
社員が評価に納得していない、人事評価が不透明な状態ですと、社員のモチベーション低下や人材流出を引き起こしかねません。また、リモートワークなど新しい働き方を導入している企業では、評価基準や評価項目も見直しが必要です。
評価に関する課題を解消するためにも評価者によって評価基準にばらつきがないか、社員の能力や成果に応じて正当な評価がなされているか、人事部門が主体となってチェックしましょう。
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⑤離職防止
離職における課題例には、下記が該当します。
- 優秀な人材の流出
- 人材が定着しない
採用には多額のコストがかかっています。そのため、人材の早期流出はコストの無駄となり、優秀な人材の流出は企業にとって損失です。
一方、現代ではキャリア形成の手段として転職が当たり前となっており、優秀な人材ほど見切りをつけるのが早い傾向にあります。
離職の原因は給与や人間関係、労働環境など人によってさまざま。社員が抱える問題を人事が放置したままでは、最終的に離職につながってしまいます。そのため離職につながる課題を把握・分析し、早い段階で対処して離職を食い止めることが必要です。
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従業員の離職は企業にとって痛手であり、大きな損失です。しかし、突然の離職が発生してしまうケースも珍しくありません。従業員の離職を防ぐには、適切な方法で日々対処していくことが重要です。
今回は離職防止に...
2.【2023年】注目される人事課題
世の中の動きによって、企業が抱える人事課題も徐々に変化しています。あらかじめ注目される人事課題を把握し、自社の課題として認識する前に対応・対策しておくことが重要です。ここでは、2023年に注目される人事課題をご紹介します。
- 人的資本経営
- ジョブ型雇用
- リスキリング
- シニア人材の活用
- 育児・介護の両立支援
①人的資本経営
経済産業省によると、人的資本経営とは人材を「資本」と捉えてその価値を最大限に引き出して、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のことです。
さまざまな業務がAIなどの機械に代替されつつあるなか、競合と差別化を図るにはイノベーションを生み出すことが重要です。
イノベーションを生み出すのは人材であり、人材がイノベーションを生み出すために価値を発揮できる環境を整備する人的資本経営が求められています。
また、ESG投資が浸透するなか、社員の能力や経験といった人的資本はステークホルダーが企業の持続可能性を判断する重要な指標です。くわえて2023年度から、人的資本情報開示も義務化され、人的資本の重要性も一層高まっています。
人的資本経営とは?【具体的な取り組み方】情報開示項目
人的資本経営とは従業員を「資本」と捉えて人材投資を行い、価値の最大化を目指す経営方法です。
近年、人的資本経営が重要視されているものの、人的資本経営とは具体的に何をすべきなのか、どのように実践すればよ...
②ジョブ型雇用
ジョブ型雇用とは、職務内容を明確に定義し、ふさわしいスキルや経験をもつ人材を採用するシステムのこと。経団連の提言や終身雇用制度の崩壊、ダイバーシティ浸透による働き方の多様化やコロナ禍の影響を機に、ジョブ型雇用が注目されています。
ジョブ型雇用は専門性の高い分野における人材を確保しやすくなる一方、条件のよい競合に優秀な人材が流出しやすい、配置転換などに応じた柔軟な職務内容の変更が難しいといった新たな課題も発生します。
ジョブ型雇用に対応しつつ、あらかじめ課題に対応できる施策を検討しておくとよいでしょう。
なお、ジョブ型雇用が欧米で主流な雇用形態であるのに対し、日本の従来の雇用システムは職務内容や労働時間、勤務地を限定しない働き方を求めたメンバーシップ型雇用です。
メンバーシップ型雇用は終身雇用制度を背景にした一括採用であり、人材を育成して長期的に貢献してもらう考え方を持ちます。その背景には、戦後の経済を立て直すために多くの人材を必要とした歴史があるのです。
ジョブ型雇用とは?【メンバーシップ型との違い】メリデメ
ジョブ型雇用とは、従事する職務を限定し、成果によって報酬を決める雇用制度。
スペシャリストを確保したい企業を中心に導入が進められています。
1.ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、職務内容を明文化し...
③リスキリング
リスキリング(Re-skilling)は、スキルの再習得や新しいスキルを獲得すること。DXの浸透によりデジタル人材の必要性が高まっているなか、データ分析やセキュリティなど最新技術分野の習得も目的にリスキリングが注目されています。
また、AIに代替可能な業務が増えつつあるなか、ヒトが新たな価値を創出するためにはリスキリングが必要です。リスキリングによって必要な人材を社内で確保できるようになるだけでなく、DX化が進んで業務効率化にもつながります。
リスキリングを進めるには、自社に必要なスキルを可視化したうえで現状の社員のスキルを把握する、適切なリスキリングプログラムの策定・実行、実践といったステップが重要です。
リスキリングとは?【ポイントを簡単に】事例、DX人材育成
昨今の日本では人材不足、DX推進といった文脈からリスキリングと呼ばれる人材育成の手法が注目されています。本記事ではそんなリスキリングに関するメリットや推進のポイント、企業の導入事例などを解説します。
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④シニア人材の活用
2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業は70歳までの就業機会の確保が努力義務とされました。少子高齢化で労働力の確保が難しいなか、法改正の動きに合わせてシニア人材を活用するのも課題解決のポイントです。
シニア人材は豊富な経験と熟練されたスキルが強みといえます。自社の戦略に合わせた育成や適材適所な配置などを進めれば、パフォーマンスも期待できるでしょう。
⑤育児・介護の両立支援
2023年4月より、従業員1,000名以上の企業に対して男性育休取得率の公表が義務化されました。女性の育休取得率を公表する企業も多く、EGSの観点や競合との優位性を図るためにも育休制度の運用や取得しやすい環境の整備が求められます。
また、少子高齢化により労働者の介護問題も顕著に表れているのです。働きながら家族を介護する「ビジネスケアラー」をめぐった経済面の損失は、2030年に9兆円超に上ると経済産業省から試算が公表されました。
介護職員の不足も著しいなか、団塊世代の高齢化による介護需要も増加し、企業や社員が介護にかかわらざるを得ない状況も増えてくるでしょう。
介護問題によって人材流出や生産性の低下を引き起こさないためにも、時短勤務制度や介護休暇制度など、介護と両立して働ける環境・制度の整備が求められます。
3.人事課題を解決するポイント
人事課題を解決し、効率的かつ戦略的に人材を管理することが人事部門の役割です。ここでは、人事課題を解決するためのポイントをみていきます。
- 人事業務の効率化
- 制度の運用・改善
- 社内アンケートやパルスサーベイの実施
- タレントマネジメントシステムの導入
①人事業務の効率化
人事部門は多くの課題を抱えているだけでなく、人手不足によって課題が解決できていない場合もあります。人事業務を効率化し、人事課題の解決や人材戦略の策定・実行にかけるリソースの確保を心がけるとよいでしょう。
労務管理の自動化や採用・配置に活用できる人材データの収集・分析など、ITツールの導入が有効です。
②制度の運用・改善
さまざまな人事制度を運用するだけでなく、状況に合わせて継続的に改善していきましょう。
運用がゴールではありません。運用を通じて見えた課題や社員の声を取り入れ、細かな部分を継続的に改善します。それでこそ自社にマッチし、社員にも納得してもらえる制度が整備されるのです。
とくに、人事評価は社員のモチベーションや離職問題にも関わる重要な制度。評価方法や評価理由に納得してもらえるよう、客観性・透明性のある評価体制を構築しましょう。
③社内アンケートやパルスサーベイの実施
人事課題は人事視点でのみ把握するのではなく、社員の声を直に聞き入れることが大切です。
社内アンケートやパルスサーベイでリアルな声を取り入れ、社員がどのような点に不満を持っているかを正確に把握して、個々に適切な対策・フォローを講じます。
実施して終わりではなく、分析・施策の策定・実行・効果測定まで行ってこそ課題を解決できるのです。
パルスサーベイとは? 意味や目的、導入メリット、質問項目例
パルスサーベイとは、従業員の離職防止や満足度向上を目的に短いスパンで行う意識調査のこと。従業員の離職や満足度に課題を抱えている場合、解決の糸口としてパルスサーベイの実施を検討している企業も多いでしょう...
④タレントマネジメントシステムの導入
組織の人材データを一元管理し、分析できる環境を構築するタレントマネジメントシステムは、採用・育成・配置・評価・離職といった課題を包括的に解決する際、有効です。
たとえば採用面の課題に対しては、人材データから優秀社員や自社に不足するスキルを分析し、採用すべき人材を明確に定義するといったアプローチができます。
人材データを起点に、ひとつのシステムであらゆる人事課題の洗い出し、分析、具体的な施策の実施まで行えるのがタレントマネジメントシステムの強みです。
タレントマネジメントシステムとは? 機能や比較のコツを簡単に
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4.人事課題の見つけ方・洗い出し方
人事課題を適切に見つけ出してこそ、企業が抱える人事課題を根底から解決できます。そのためにも、人事課題の見つけ方・洗い出し方を押さえましょう。
- 目標と現状のギャップ把握
- 1on1や人事面談の実施
- ITツールの活用
①目標と現状のギャップ把握
人事は、経営目標を達成するために人材を生かす役割を持ちます。そのためにも経営目標と現状のギャップを明確にし、採用・育成・配置・評価・離職のどの点に課題があるか、明確にしましょう。
そのなかから優先して解決すべき課題を洗い出し、具体的な解決施策や体制構築、スケジュールを設定して行動に移していきます。
②1on1や人事面談の実施
上司と部下で行う1on1や人事と1対1で行う人事面談では、社員が抱える不満や不安を直に聞ける機会であり、重要度の高い課題が見つけられます。的確に課題を聞き取るためにも、課題を引き出せるように質問しながら対話を進めていくことが大切です。
また本音を引き出すためにも、上司と部下、人事と社員の信頼関係も重要になります。日頃からコミュニケーションが取れる環境を整備し、信頼関係を構築していくとよいでしょう。
なお面談をひんぱんに行いすぎても業務に支障が出てしまいます。社内アンケートやパルスサーベイと両立して人事課題を見つけ出すとよいでしょう。
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③ITツールの活用
ITツールを利用するメリットは、客観的かつ定量的なデータから人事課題が分析できること。なかでも、タレントマネジメントシステムは人材データを起点に、さまざまな人事課題が洗い出せます。
アンケートやサーベイ機能があるシステムなら、社員の声を取り入れながら個々に即したフォロー・対策を実行可能です。
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