人事評価を「おかしい」と従業員が感じるポイントとは?

多くの組織では人事評価を取り入れています。しかし人事評価が正しく機能していない場合、マイナスの影響をおよぼしかねません。ここでは人事評価をおかしいと感じた例や対策について解説します。

1.多くの人が人事評価をおかしいと感じている

人事評価制度はバブル崩壊後の日本で、能力主義や成果主義などの考え方が重要視されたことを機に導入され始めました。

厚生労働省が公表した「平成14年雇用管理調査結果の概要」によると、2002年で人事考課制度を導入している企業は51%。5,000人以上の規模に限ると98.3%です。

しかし制度を導入したからといって、必ずしも正しく機能しているとは限りません。これは2018年にアデコが行った「『人事評価制度』に関する意識調査」にて、「人事評価がおかしい」と不満を感じている人の割合が全体の62.3%にのぼっている点からもわかります。

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2.おかしいと感じる人事評価の例

人事評価がおかしいと感じている人は、どのような点に違和感を持っているのでしょう。人事評価で不満が生じやすい5つのポイントについて解説します。

  1. 評価基準が不明瞭
  2. フィードバックが不十分
  3. プロセスへの評価がない
  4. 年功序列での評価
  5. 主観による評価

①評価基準が不明瞭

2018年にアデコが行った「『人事評価制度』に関する意識調査」では、人事評価に不満を感じている人の62.8%が「評価基準が不明瞭」である点を原因にあげていました。

まずは「基準が定まっていない」というケースです。このような場合、評価者の経験や直感などで評価を決めている恐れもあります。

また客観的な基準があっても公表していないケースもあるでしょう。この場合も、「公正に評価する基準自体がないのではないか」と疑われてしまうようです。

②フィードバックが不十分

フィードバックがあれば、従業員は「どういった点を改善すれば評価が上がるのか」わかります。しかしフィードバックがなければ改善のしようがありません。

人事評価が昇給や昇格などにつながる場合、「何が悪かったのかわからない」状態のままにすると、人事評価だけでなく組織に対する不信感まで高まってしまいます。

フィードバックが不十分な人事評価は、「評価」そのものが目的となってしまっている恐れがあるでしょう。

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③プロセスへの評価がない

「大変でも成果が目立たない仕事では評価が低くなる」という傾向が見られると、従業員の不満につながってしまうのです。たとえば成果主義を導入すると、従業員の能力やスキルを評価するようになります。

しかし仕事のプロセスや難易度などと人事評価が連動しない場合、「大変な仕事をやり切ったのに評価してもらえないのなら、今後はもうやりたくない」と従業員のモチベーションを低下させてしまうでしょう。

④年功序列での評価

人事評価制度を取り入れていても、昔からの「日本型雇用」を基準に運用していては、不満が生じやすくなります。たとえば昇進や昇給の基準が、仕事への評価ではなく年功序列などで決まるケースです。

従業員はもちろん、評価者も「なんのために人事評価をやっているのかわからない」と感じます。その結果組織全体のモチベーションが下がってしまい、業績の低下にもつながりかねません。

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⑤主観による評価

評価者の主観が入った人事評価は、評価にばらつきが生じます。それにより従業員は「昨年と同じことをしているのに評価者が変わっただけで低評価になった。評価されなくなった」などと不満に思うでしょう。

人事評価自体の信ぴょう性を疑われ、「適正な評価がされていない」という制度自体への不満にもつながります。

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3.人事評価がおかしいことによる影響

納得感の低い人事評価が続くと、さまざまなリスクが懸念されます。なかでも重大なリスクは、従業員のモチベーション低下と退職率の増加、および訴訟です。

  1. モチベーションの低下
  2. 退職率の増加
  3. 訴訟のリスク

①モチベーションの低下

「人事評価がおかしい」と感じている従業員は組織に対する不満がふくらむため、仕事に対するモチベーションも徐々に低下していきます。モチベーションの低さはほかの従業員にも伝染しやすいので組織全体としての生産性にも影響する恐れもあるのです。

この状態が続けば仕事のクオリティ水準を保てなくなり最悪、業績も悪化しかねません。

②退職率の増加

人事評価で「適切に評価されていない」と感じる状態が続くと、離職増加の可能性も高まります。なぜなら正当な評価が得られる企業へ転職したいと考えるからです。

退職者が増えると、退職した従業員のスキルや経験が失われます。また新たに採用や新人教育などを行わなければならず余計な費用と時間を要するでしょう。

さらに「適切に評価をしてくれない企業」というイメージがついてしまい、求職者から敬遠されてしまうのも懸念されます。退職した従業員がハローワークで話したり、転職口コミサイトなどへ書き込んだりする可能性もあるからです。

③訴訟のリスク

人事評価がおかしい状況を放置すると損害賠償を争う裁判へと発展してしまう可能性もあります。

実際、私情をはさんだ不適切な人事評価が「上司という立場を利用したパワハラ」として扱われ、裁判で損害賠償を求められたケースもありました。また既婚女性と未婚女性の間に賃金の格差があり、従業員の評価が不当だとみなされたケースもあるのです。

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4.人事評価に不満を抱えている従業員への対応策

人事評価に疑問や反感をもっている従業員が見受けられたら、リスクを抑えるためにも対策を講じましょう。ここでは3つの対応を解説します。

  1. フィードバックの充実
  2. 人事評価の理解度の向上
  3. 積極的なコミュニケーション

①フィードバックの充実

従業員がフィードバック不足に不満を感じている場合、人事評価のフィードバックを充実させる必要があります。従業員それぞれに個別の時間をとって、次のような点をフィードバックで伝えましょう。

  • 人事評価の評価基準の説明
  • 改善できる点や次の目標
  • 具体的なアドバイス
  • 期待していること

人事評価の目的は、評価によって仕事のやり方を見直し、従業員が成長するきっかけを作ること。そのためには適切なフィードバックが不可欠なのです。

②人事評価の理解度の向上

人事評価をする前に、「なぜ人事評価を行うのか」を従業員に理解してもらいましょう。最終目標は、人事評価をとおして優秀な人材を育成し、企業の理念や経営目標、事業戦略などを達成すること。

そのうえで評価基準の意味や目的などを説明すれば、従業員は人事評価の本質を理解できるでしょう。

③積極的なコミュニケーション

人事評価をする際、従業員と積極的にコミュニケーションをとりましょう。

評価項目に含まれる従業員の目標や価値観、仕事のプロセスなどは、従業員から聞き出さないと十分に把握できません。従業員が評価に納得しないときも、コミュニケーションをとおして評価理由や双方の考えを明確にする必要があります。

また日常的にコミュニケーションをとれていれば、より適切なフィードバックにつながるのです。

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5.おかしな人事評価を改善する方法

評価制度がおかしいと感じたら、現行の評価制度を見直す必要があります。たとえば評価制度を刷新してしまうのもひとつの方法です。ここでは評価制度の改善方法を解説します。

  1. 360度評価の導入
  2. コンピテンシー評価の導入
  3. 目標管理制度(MBO)の導入
  4. 評価者研修の実施

①360度評価の導入

関係する複数の従業員が評価者となり、評価対象者を多面的に評価する制度のこと。上司や人事担当者など上の立場の人からだけでなく、同僚や後輩なども評価者に含まれます。

多くの人がかかわるため、客観性が担保されて公正な評価になりやすいのです。評価対象者にとっても納得しやすい評価となるのでモチベーションの維持向上にもつながるでしょう。

ただし「従業員数が少ないと誰が評価者かわかってしまう」「全評価者の情報を集約しなければならない」「評価者間で馴れ合いが生じる場合もある」などに注意が必要です。

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アイリスオーヤマでは、人材育成を目的として360度評価を2003年に導入しました。「納得できる評価」と「フィードバックを自己成長につなげること 」を重視しています。

施策では、ひとりの従業員に対して15人ほどの評価者を設定し、評価の客観性と公平性を向上。また360度評価の結果は、本人へのフォローやアドバイスに活用されています。

②コンピテンシー評価の導入

優秀な人材の行動や思考(コンピテンシー)をもとに、評価項目や評価基準を設定する評価制度のこと。「何をすれば評価が高まるか」がイメージしやすいため、従業員が改善行動を起こしやすくなったり、曖昧な評価や成果に偏った評価システムの改善にもつながったりします。

評価基準のモデルは、以下3つです。

  • 理想型モデル:企業にとって理想的な人物像
  • 実在型モデル:社内に実在する人物像
  • ハイブリッド型モデル:実在する人物像と理想的な人物像を合わせたもの

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導入事例

国家公務員共済組合連合会の総合病院である虎の門病院では、看護師長や看護部長といった管理者の質向上を目的としてコンピテンシー評価を導入しました。

選定した管理者からコンピテンシーモデルを策定し、6カテゴリー16項目の評価基準を決めて6段階で評価したのです。

職員は自分が求められているレベルを把握しやすくなり、次のアクションを取りやすくなりました。また導入前に説明会を開催し、職員への理解と定着を高めた点もポイントです。

③目標管理制度(MBO)の導入

従業員自身が組織目標とリンクした個人目標を決め、その進捗状況や達成状況に応じて評価する制度のこと。「Management(管理)by Objectives(目的)」の頭文字をとったものです。

自分で決めた目標を達成するために、従業員は実現に向かって自主的かつ自律的に行動していきます。

また評価に対する納得度が高いという点もMBOのメリットです。従業員の目標達成は、また同時に企業側の目標達成にもつながるため、両者がともに成長していける評価制度なのです。

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導入事例

SNSサービスを提供するグリーでは、2007年に目標管理制度(MBO)をアレンジした評価制度を導入しました。達成度を明確化するため、5段階の目標達成基準を策定しています。

2015年からは全従業員との1on1面談を定期的に実施。評価者と従業員の間で生じる認識のズレを防ぎ、次のアクションもフォローしています。

④評価者研修の実施

社内での評価基準を一定にするためにも、評価に関する知識を学んで理解を深め、評価スキルを向上させましょう。習得するには、以下のような評価者研修の実施がおすすめです。

  • 評価者の役割や心構え
  • 目標設定
  • 中間面談やサポート
  • 評価のポイント
  • 評価エラーと対策

ケーススタディやロールプレイを盛り込むと、より理解を深められます。

評価者研修を提供する会社

評価者研修を組織内で実施するのが難しい場合も少なくありません。そのような場合、外部の研修サービスを利用する方法もあります。人事評価制度の評価者研修を提供している企業例は、以下のとおりです。

  • インソース:人材育成に重点を置いた研修
  • 日本能率協会マネジメントセンター:動画やロールプレイを使った実践重視の研修

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6.人事評価がおかしいと感じたら

「人事評価がおかしい」と感じたら、従業員のやる気がそがれないうちに、なるべく早く対策を講じましょう。

かしな人事評価を見直す際はまず、現在の人事評価を「成績評価」「能力評価」「情意評価」の3つから分析します。これらの観点では以下の問題が生じやすいためです。

  1. 成績評価:達成までのプロセスが評価しにくい
  2. 能力評価:適切な職能要件が設定されていないと正しい評価ができない
  3. 情意評価:評価者の主観がまざりやすい

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