人事評価制度は、正しく運用することでさまざまな組織課題の改善に役立つ制度です。一方で不適切な運用は、組織運営や業績に悪影響をもたらします。
本記事では、組織運営に欠かせない人事評価制度がもたらす7つのメリットと4つのデメリットについてわかりやすく解説します。
デメリットについては、対策と一緒にご紹介します。人事評価制度の導入や改善の検討にお役立てください。
1.人事評価制度とは?
人事評価制度とは、社員のパフォーマンスや働きぶりを査定し、報酬制度や等級制度に反映させる人事制度の一つです。
処遇の根拠づけや、人材マネジメント、人材育成や抜擢人事などを目的に導入されます。
社員の成果を評価する「業績評価」、保有するスキルを評価する「能力評価」、職務態度などの「情意評価」を主軸として設計され、目標管理制度(MBO)、コンピテンシー評価、360度評価、OKRなどさまざまな評価手法があります。
人事評価制度とは? 必要な理由、種類と仕組み、作り方を解説
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2.人事評価制度7つのメリット
納得性が高く信頼できる人事評価制度は、さまざまな組織課題に効果があります。
人事評価制度のメリットを7つご紹介します。
- 生産性の向上
- 企業理念・ビジョンの浸透
- 客観的に給与や等級を決める基準になる
- 人材育成
- 人材のスキル管理
- モチベーションの向上
- コミュニケーションの促進
①生産性の向上
評価項目や指標を具体的に社員に示すことで、目指すべき社員像や習得すべきスキルが明確になり、業績アップやスキル向上への意識を促せます。
一人ひとりの生産性が高まり、ひいては会社全体の生産性向上も期待できます。
②企業理念・ビジョンの浸透
会社のミッション・ビジョン・バリューや求める人物像をもとに評価指標を示すことで、企業理念の理解にもつながります。
理念に即した行動指針を評価項目の中に入れることで、どのような人材が評価され、どのような組織やチームであるべきかを伝えられ、企業理念を社員の行動に落とし込めるようになります。
③客観的に給与や等級を決める基準になる
社員の貢献度や能力、態度について、客観的に良し悪しを判断できる人事評価は、社員の処遇を決める明確な根拠となります。
基準を得ることで格差をつけやすくなり、評価者にとっても結果をフィードバックしやすくなるというメリットがあります。
④人材育成
人事評価では会社が求める人物像に対して、できている点と課題点を客観的に明らかにできます。明確な評価項目と基準があることでマネジメントが行いやすくなり、人材育成の効果が期待できます。
課題に対しては上司が適切なサポートを行ったり、研修や本などの学習を促すことで社員のスキルアップにもつながるでしょう。
⑤人材のスキル管理
定期的な人事評価は、社員のスキルや特性を把握する機会となり、人材の把握やスキル管理ができます。
評価データを蓄積すれば、評判の社員だけではなく成果を出している優秀な人材を発掘したり、適切な配置や採用にも活用できます。
多様な人材を活かすために、マネジメント人材・スペシャリスト人材など、特性に合わせた等級制度を紐づけると効果的です。
⑥モチベーションの向上
評価基準が明確で透明性が高い評価制度があると、社員の納得感が増します。その上で、頑張りや成果が評価という形で周囲からの承認を得られるとモチベーションの向上につながります。
昇給やインセンティブなど、評価が報酬に反映される仕組みがあるとモチベーションを刺激するのに効果的です。
⑦コミュニケーションの促進
人事評価制度では評価面談や1on1など、上司と部下がコミュニケーションを取る機会が増えます。
上司から適切なフィードバックをもらうことで「きちんと成果が認められた」という信頼と安心を得られ、信頼関係の構築やエンゲージメントの向上につながります。
中間管理職のコミュニケーション能力アップも期待できるでしょう。
3.人事評価制度4つのデメリット(問題点)と対策
人事評価制度を適切に運用するには、乗り越えなければならない課題もあります。デメリットとして次の4つをご紹介します。
- 手間がかかる
- 評価者にスキルが必要となる
- モチベーションの低下や不満を引き起こす可能性がある
- 人材開発の視野が狭まる
対策と合わせて紹介していますので、気になる点はぜひチェックして参考にしてください。
①手間がかかる
人事評価制度は、制度設計から導入、運用に至るまでにかなりの労力がかかります。たとえば、運用に至るまでに経営者や人事には次のような業務があります。
- 制度設計…目的、手法、項目、基準、反映方法などの決定
- 導入…社員への説明会、評価者研修
- 運用…評価シートの作成、配布、回収、進捗確認、データ管理、甘辛調整
このほか、社員には毎期の目標設定、評価、面談などの業務が発生し、社全体に大きな負担がかかります。
見落としやすいのが運用の人的コストです。制度設計や導入時に必要な業務は数年に一度しか発生しませんが、運用は毎期発生する定期的な業務です。社員の人数が多ければ多いほど、記録や履歴の管理が煩雑になり思わぬ負担となります。
対策:システムを導入し運用コストを下げる
人事担当者には定期的に、評価シート配布、回収、進捗確認、データ管理などの人的負担がかかることになります。会社の規模が大きくなればなるほど、運用コストは上がります。
人事評価システムを導入すれば、運用コストの軽減が可能です。人事評価制度を成功させるためには、効率化できる業務に時間をかけず、長期的な継続を前提とした体制構築が必要不可欠です。
②評価者にスキルが必要となる
評価者のスキルがないと納得度の低い評価をしてしまうことがあります。評価の納得性が低いと社員の不満や退職の原因にもなるため、重要な課題の一つです。
評価者には、次のようなスキルが必須となります。
- 適切な目標設定
- 目標達成に導くマネジメント能力
- 公平な評価スキル
- 評価面談のスキル
- 評価エラーへの理解
対策:研修などの評価者教育を行う
評価者研修とは、評価者が人事評価制度を理解し、公平で正しい評価を身に付けるための研修です。
企業が開催する研修に参加したり、講師を招いて自社で研修を行う方法があります。公務員や病院、保育所などは行政が主催する研修に参加することもできます。
経営層、管理職、人事担当者は受けておいたほうがよいでしょう。
人事評価制度研修はなぜ必要なのか?|目的、対象者、テーマ
人事評価制度研修は、部下を評価する上司や管理者にとって欠かせない研修です。人事評価制度研修の方法や効果などについて、説明します。
1.人事評価制度研修とは?
人事評価制度研修とは、評価者が「人事評価...
③モチベーションの低下や不満を引き起こす可能性がある
評価制度が不適切だと感じたり評価結果に納得感がないと、モチベーション低下の原因となってしまいます。
不満を抱きやすいのは、自己評価よりも会社からの評価が低かった場合です。とくに相対評価の場合、高評価を得られる人材は限られます。目標を達成していても評価されないという現象が起きやすいため、対策が必要です。
対策:的確なフィードバックとフォローアップを行う
社員のモチベーション低下や不満を防ぐには、フィードバック面談を拡充し納得度を向上させることが大切です。
次のポイントをおさえてフィードバック面談を実施しましょう。
- 部下の自己評価を聞き、評価の客観的な根拠を説明する
- 来期に向けて部下が取り組むべき課題を明確にする
- 部下の人材価値が向上し、高評価を得られるようになるためにはどうしたらよいのか、具体的なアドバイスをする
また、フィードバックを行った上で、必要であれば次のようなフォローアップを検討しましょう。
- スキルアップ研修やセミナーの参加を促す
- 適性を見極め異動の検討をする
このようなフォローアップを実施することで、さらにモチベーション低下や不満の防止効果が高まります。
④人材開発の視野が狭まる
処遇のために厳格な評価制度にしてしまうと、自社でしか活躍のできない型にはまった人材を生み出す原因になります。
能力が画一化され、得意なスタイルができずに萎縮してしまうこともあり、組織が活性化しません。
外部環境の変化が激しい昨今、新たな事業や方向転換が必要になる場合があります。そういった際に、適した人材を内部で確保できない可能性が出てきます。
対策:得意を生かす「タレントマネジメント」を取り入れる
タレントマネジメントとは、社員一人ひとりがもつタレント(能力・資質・才能)やスキル、経験値などの情報を一元管理し、戦略的な人材開発を行うことです。
相対評価で行われる通常の人事評価は、社員間で比較可能な共通の項目や基準で設定されます。一方タレントマネジメントにおける評価では、個人のスキル向上のために最適な内容を設定するため、社員共通である必要はなく絶対評価が可能です。
タレントマネジメントは、社員一人ひとりの得意を伸ばす多様な人材開発につながります。
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4.評価手法ごとのメリットとデメリット
評価にはさまざまな手法があります。代表的な4つの評価制度について、メリットとデメリットを紹介します。
- 目標管理制度(MBO)
- コンピテンシー評価
- 360度評価
- OKR
目標管理制度(MBO)のメリットとデメリット
目標管理制度(MBO)とは、グループまたは個人で目標を設定し、その達成度によって評価を定める評価手法です。
社員一人ひとりの目標を経営目標や部門目標と連動させることによって、業績アップを目指します。期間終了後に行う自己評価と上長評価によって次期への課題を明確にして、目標を実現していきます。
目標管理制度とは? 意味や目的、メリット・デメリットを簡単に
マネジメントで有名な経営思想家ピーター・ドラッカーが提唱した、組織における目標管理制度(MBO)。この目標管理制度は、組織貢献と自己成長の両方が達成できる個人目標を設定させ、その達成度で評価を行う人事...
メリット
- マネジメントが行いやすくなる
- 目標とその結果が明確なので、評価が容易にできる
- 自己統制しながら目標に向けて創意工夫をするため、能力開発につながる
- 目標を達成することでモチベーション向上につながる
デメリット
- 目標設定にスキルが必要となる
- 形骸化するとノルマ管理になってしまう
- 目標から外れる業務はやらなくなる
コンピテンシー評価のメリットとデメリット
コンピテンシー評価とは、社内で高い業績を上げる人材の行動特性(コンピテンシーモデル)をもとに行う人事評価のことです。
コンピテンシー評価は具体的な行動傾向を重視する評価方法です。知識や技術そのものよりも、スキルを使ってどのように成果を生み出しているか、という行動を評価基準とします。
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コンピテンシー評価には、ハイパフォーマーの共通点の見える化が必須。
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メリット
- 現場に即した具体的で実践的な評価基準をもとに評価ができる
- どんな能力が不足しているか把握しやすい
- 評価者によるブレが少なくなる
- 行動事実をもとに評価されるため、被評価者の納得度が高まる
- 戦略的な人材マネジメントが行いやすい
デメリット
- コンピテンシーの分析、モデル開発、導入に手間と時間がかかる
- 特定したコンピテンシーが「正しい」とは限らない
- コンピテンシーの改定やメンテナンスに負担がかかり、環境変化に弱い
360度評価のメリットとデメリット
360度評価とは、評価対象者の上司や同僚、部下などさまざまな立場の人物が、評価対象者を多角的に評価する制度のことです。
立場の違った複数の視点から、評価対象者が現場で発揮している能力などの人事評価材料をより多く集められます。
360度評価とは? 目的やメリット・デメリットをわかりやすく
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メリット
- 上司からのみの一方的な評価を避けられる
- 社員が評価に納得しやすくなる
- 社員自らが改善点に気付くようになる
- 社員が自身の特性を客観的に把握できる
- 規範意識を持って行動するようになる
デメリット
- 主観が評価に影響する可能性が高い
- 上司が部下からの高評価を求め、厳しく教育しなくなる可能性がある
- 社員同士で互いに評価を良くし合う可能性がある
OKRのメリットとデメリット
OKR(Objectives and Key Results)とは、定性的な目標(O)に対して定量的な指標(KR)を複数設定し、目標と結果を高い頻度で設定、追跡、再評価する目標管理の手法です。
OKRの特徴の一つは、「むずかしいが不可能ではない」というストレッチ目標を立てる点です。目標の達成度と人事評価を紐付けることが難しく、人事評価制度には適していません。
米・インテル社で誕生し、GoogleやFacebookなど、シリコンバレーの有名企業が取り入れていることで、近年注目を集めています。
OKRとは? 【Googleが使う目標管理ツール】KPI・MBOとの違い
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メリット
- 迅速な展開ができ、フレキシブルな調整・変更ができる
- 全社的な相互連携でコミュニケーションを改善できる
- 目標設定の時間を節約できる
- 目標を絞り、限られた目標に集中できる
- 大胆な目標に挑戦できる
デメリット
- 人事評価制度には適していない
- 従来型の目標管理手法に比べ事例が少なく、ノウハウが少ない
- 短期間で目標設定と振り返りができるマネジメント体制が整っていないと難しい