人的資本の情報開示義務化の対象企業と項目【いつから?】

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2023年度の会計から人的資本情報の開示が義務化されました。本記事では対象企業や開示内容などについて解説します。

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1.人的資本の情報開示義務化とは?

人的資本情報開示の義務化とは、企業の人的資本に関する情報を「有価証券報告書」に記載し、ステークホルダーへの公開を義務づけること。2023年3月期決算から上場企業を対象に情報開示が義務化されました。義務化された内容には、「育児休業の取得率」「男女間の賃金差」「女性管理職の比率」などがあります。

人的資本とは?

人が持つ能力を「資本」ととらえて投資の対象とする考え方のこと。これまでの人事領域では「人的資源」という言葉が主流でした。「人を資源としてとらえ、できるだけ効率よく消費する」という考え方で、人にかかる費用を「コスト」と見なしていたのです。

一方、人的資本では、「人に投資して能力を磨き高めることが、社会や企業に利益を生む」と考えます。人にかかる費用はより大きな成果を生むための資本であり、投資すべき対象なのです。

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人が持つ能力は目には見えないものです。人的資本の開示に対応するため、また組織パフォーマンスを向上するためには、こうした人的資本情報を可視化する必要があります。

タレントマネジメントシステム「カオナビ」なら従業員一人ひとりの能力を可視化。人的資本開示に役立つほか、適材適所な人材配置や戦略的な人材育成に活かすことが可能です。人的資本情報を見える化し、活用できる環境を構築するカオナビの資料は ⇒ こちらから

2.人的資本の情報開示が義務付けられる対象企業

人的資本情報の開示は「有価証券報告書の提出義務がある企業」に義務づけられ、対象企業は4,000社にのぼります。

対象企業

金融商品取引法第24条の「有価証券を発行している企業」が対象となります。該当企業は毎年事業年度終了後3か月以内に、内閣総理大臣および取引所へ有価証券報告書を提出しなければなりません。

不提出の場合は懲役あるいは罰金(または過料)を受けてしまいます。ただし要件を満たす企業は、提出義務が免除されるのです。主な要件を3つご紹介しましょう。

  1. 上場していない
  2. 店頭登録されていない
  3. 募集や売出しに「有価証券届出書」「有価証券通知書」を提出したことがない

有価証券とは?

株式や債券、手形や小切手など、それ自体に財務的価値がある証券や証書のこと。譲渡によって財産的権利を移転できるのです。財産的権利の違いにより以下の3つの種類があります。

  1. 物財証券:商品やサービスに対する請求権
  2. 資本証券:資本提供者の権利
  3. 貨幣証券:金銭に対する請求権

有価証券報告書と人的資本の関係

有価証券報告書に記載する情報は、経営成績などの「財務情報」と、経営戦略や取り組みなどの「非財務情報」。人的資本情報は非財務情報に含まれます。なお金融庁は、有価証券報告書における人的資本の開示に関して、以下の2点を求めているのです。

  1. サステナビリティ情報の記載欄に「人材育成」および「社内環境設備方針」を記載する
  2. 「従業員の状況」に「多様性」について記載する

サステナビリティ情報や従業員の状況といった非財務情報を正確に開示するには、データベースに情報を構築し、見える化する必要があります。

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3.人的資本の情報開示で開示が義務付けられた内容

数ある人的資本の項目のなかでも、有価証券報告書への記載が義務付けられているのは次の内容です。人的資本における2項目については、指標や目標を各企業で定め、これを掲載する必要があります。

  • 人的資本
    • 人材育成方針
    • 社内環境整備方針
  • 多様性
    • 女性管理職比率
    • 男性の育児休業取得率
    • 男女間賃金格差

4.人的資本の情報開示で開示が求められる内容

2022年8月30日、内閣官房は人的資本開示のあり方をまとめた「人的資本可視化指針」を策定し、そこで「開示が望ましい19項目」を挙げました。

これらの事項は、「投資目的」と「目標や指標による可視化」という視点で整理したうえで開示することが求められているのです。この19項目を分野ごとに解説します。

人的資本開示の19項目

内閣官房が挙げた19項目は、6つに分類されます。

「育成」分野

  • リーダーシップ
  • 育成
  • スキル/経験

育成分野で開示が望ましい項目は「リーダーシップ」「育成」「スキル/経験」です。具体的には、人材育成やキャリア形成、スキルアップなどへの取り組みや、具体的な研修時間や費用、研修参加率や効果などの開示が考えられます。

なお「人材の多様性の確保を含む人材育成の方針」は開示必須項目です。サステナビリティ情報の記載欄に「戦略」や「指標及び目標」を記載しなければなりません。

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「エンゲージメント」分野

  • エンゲージメント

「従業員エンゲージメント」を指し、従業員が企業を理解し、信頼して「自発的に貢献したい」と考える度合いを開示する事項です。従業員が「どの程度のやりがいを感じながら働いているか」を示すエンゲージメントは、人的資本の活性化を測る指標となります。

具体的には、企業への理解度や共感度、自発的意欲、そのほかストレスや不満などが挙げられるでしょう。これらの情報はサーベイを活用すると、数値化できます。

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「流動性」分野

  • 採用
  • 維持
  • サクセッション

人材の流動性に関する事項として「採用」「維持」「サクセッション」の開示を検討。採用や人材の維持、後継者準備などへの取り組みの記載が想定されます。

具体的には「離職率」「離職の総数」「定着率」「新規雇用の総数や比率」「採用や離職コスト」「後継者有効率」「後継者準備率」「従業員一人当たりの質」などです。

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「ダイバーシティ」分野

  • ダイバーシティ
  • 被差別
  • 育児休暇

開示が望ましい項目に「ダイバーシティ」「非差別」「育児休暇」が挙げられており、「多様性を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針」は、必須項目として開示が求められる方針です。

なお金融庁は、2022年11月7日「企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正案の公表について」という資料にて、「女性管理職比率」「男性育児休暇取得率」「男女賃金格差」を公開している企業に、これら指標を有価証券報告書にも記載するよう要請しています。

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「健康・安全」分野

  • 精神的健康
  • 身体的健康
  • 安全

開示が望ましい項目は、「精神的健康」「身体的健康」「安全」です。従業員の健康や安全への配慮は、リスクの減少のみならず、収益にもつながる重要な経営課題といえます。

具体的には「医療、ヘルスケアサービスの利用促進や導入状況」「労働災害の種類、発生数や割合、死亡数」「健康や安全関連の研修を受けた従業員の数」などの開示が見込まれているのです。

「労働慣行およびコンプライアンス/倫理」分野

  • 労働慣行
  • 児童労働/強制労働
  • 賃金の公正性
  • 福利厚生
  • 組合との関係
  • コンプライアンス/倫理

開示が望ましい項目は「労働慣行」「児童労働/強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」「コンプライアンス/倫理」です。従業員に対するコンプライアンスや人権課題への取り組みは、企業の社会的信用に関わる重要な項目といえます。

具体的には「深刻な人権問題の件数」「差別事件の件数と対応措置」「苦情の件数」「団体交渉協定の対象となる従業員の割合」などが挙げられているのです。

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タレントマネジメントシステム「カオナビ」は人的資本開示で開示すべき情報を一元管理&見える化するだけでなく、各開示項目における人事施策の実行をサポートします。

たとえば、一元管理された人材情報を活用すれば、従業員一人ひとりのスキルや経験を把握した上で戦略的な人材育成が行えるほか、自社の経営目標と連携して将来必要となるリーダー育成にも取り組めます。また、サーベイ機能を活用すれば従業員エンゲージメント向上のための施策も実行可能です。

ステークホルダーにとってプラスとなる情報を開示するためにも、人材情報を活用して効果的な人事施策を実行することが重要です。人的資本経営に役立つカオナビの資料ダウンロードは ⇒ こちらから

5.人的資本開示義務化への動き

上述したように、2023年度から約4,000社の企業が人的情報開示を義務づけられています。ここでは人的資本の情報開示に関する日本国内の動向について、説明しましょう。

ISO30414の策定

2018年、ISO(国際標準化機構)が人的資本情報開示に関するガイドライン「ISO30414」を策定。ISO30414をベースに欧米諸国が人的資本情報開示の義務化に取り組み始め、日本も2023年3月期からの義務化に向かって動き出しました。

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項目

ISO30414では人的資本情報開示の対象となる11の領域の指標を定義しています。

  1. コンプライアンスと倫理(ビジネス規範に対するコンプライアンスの測定指標)
  2. コスト(労働力のコストに関する測定指標)
  3. 多様性(労働力とリーダーシップチームの特徴を示す指標)
  4. リーダーシップ(管理職への信頼などの指標)
  5. 組織文化(従業員の意識と定着率の測定指標)
  6. 健康、安全(労災などに関する指標)
  7. 生産性(人的資本の生産性と組織への貢献の指標)
  8. 採用、移動、離職(人事に関する企業の能力を示す指標)
  9. スキルと能力(個人の人的資本の質に関する指標)
  10. 後継者計画(後継候補者の育成に関する指標)
  11. 「労働力」従業員数などの指標

人材版伊藤レポート2.0の発表

2020年、人材戦略に求められる「3つの視点」と「5つの共通要素」をまとめた「人材版伊藤レポート」を経済産業省が公表。2022年には、「人的資本経営の実現に向けた検討会」の内容をまとめた「人材版伊藤レポート2.0」が公開されました。

人材版伊藤レポート2.0は、人材版伊藤レポートを深堀した内容で、具体的には「人的資本の重要性」や「人的資本経営への変革を実践するためのアイデア」「実践事例集」などを提示。これらは人的資本経営を進めるうえでの重要な指針でもあります。

参考 人材版伊藤レポート2.0経済産業省

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コーポレートガバナンス・コードの改訂

2015年、金融庁と東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を策定。企業における「ガバナンス」とは「健全な経営を目指して企業自身が行う管理体制」でありコーポレートガバナンス・コードは「ガバナンスを構築する際に守るべき原則」です。

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さらに2021年6月、東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードを改訂し、以下の2点を求めました。

  1. 「管理職における多様性の確保」に対する考え方と自主目標の設定
  2. 「多様性確保への人材育成や環境整備の方針」と「実施状況」の開示

補充原則の追加

改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、人的資本に関する補充原則が追加されました。内容を要約してご紹介します。

  • 第3章 原則3-1③:人的資本や知的財産への投資などについて、自社の経営戦略や経営課題との整合性をふまえたうえで、情報を分かりやすく具体的に開示すべきである
  • 第4章 原則4-2②:取締役会などは、企業の持続的な成長を実現する取り組みの方針を定め、人的資本と知的財産への投資に対する監督を行うべきである

非財務情報の開示に向けた政府研究会の発足

2021年以降、人的資本情報の開示に向けて政府内に2つの研究会が発足し、議論が進められています。

  • 非財務情報の開示指針研究会(経済産業省):2021年9月に発足し「気候変動」と「人的資本」に関する非財務情報開示への具体的な方針や指標を議論されている
  • 非財務情報可視化研究会(内閣官房)」2021年12月に岸田総理が所信表明演説で人的資本の可視化に触れたことをきっかけに、2022年2月から「非財務情報可視化研究会」を定期的に開催。「非財務情報の開示」の指針やルール策定に向けた議論を行い、2022年8月30日には「人的資本可視化指針」が公開された

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6.人的資本の情報開示義務化に対する企業の取り組み

人的資本開示の義務化に対して、企業はどうすればよいのでしょうか。ここでは企業が実施すべき取り組みを説明します。

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自社の現状把握

人的資本に関する情報をまとめます。「サーベイ(物事の実態や全体像を把握するために行う調査)」を利用して自社の人的資本を数値化する方法がオススメです。たとえば以下のようなサーベイが人的資本の把握に役立ちます。

  • 従業員サーベイ(職場環境や人間関係を把握する)
  • エンゲージメントサーベイ(自社や商品への愛着を測る)
  • パルスサーベイ(簡単な設問の調査を高頻度で行うことで現状を知る)

調査を行ったら分析し、自社の現状を把握します。

開示する情報と目標の設定

自社の現状を把握するために集めたデータを標準値と比較し、自社の課題を抽出して改善策を検討。このとき「改善によって自社はどのような成長が見込めるのか」という点を明確にすると、目標を設定しやすくなります。

たとえば開示項目に「男性の育児休暇取得率」と定めた場合、「目標を30%に設定したら自社にどのような成長が見込めるのか」「それは実現可能な数値なのか?」などを検討するのです。

また目標を定める場合も、従業員が満足し共感する目標にします。


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