人材育成計画とは、将来的に活躍してくれる優秀人材を育成するための計画です。育成方針や求める人材像などをプランニングし、中長期的に取り組む人材育成の指針として活用されます。
今回は人材育成計画について、必要な理由や要素、計画の立て方や具体例などを詳しくご紹介します。
目次
1.人材育成計画とは?
人材育成計画とは、優秀な人材を育成するための計画のこと。具体的には、育成方針や目的、スケジュールなどを中長期的にプランニングしたものです。人材を効率的かつ効果的に育成するための手順書ともいえます。
人材育成計画があると、自社に必要な人材像やスキルが明確化されたうえで、どのように育成していけばよいかがわかりやすくなります。
人材は企業に欠かせない経営資源。必要な人材が定義できたうえで戦略的に育成できる状態が望ましいです。成長スピードや必要な人材像は企業によってさまざまなため、自社ならではの人材育成計画を立てることが大切といえます。
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2.人材育成計画を立てる理由
人材育成計画を立てる理由は、効率的に人材育成を行うためです。キャリアによって必要な能力や知識、求められる人物像は異なり、人材育成計画がない状態では、育成する側・される側がゴールをイメージできません。
また、人材育成は通常業務と並行するため、いかに効率的に取り組めるかが重要です。人材育成計画がしっかりしていることで、明確なゴールのもと必要な育成ができ、どのように指導すれば良いかという課題が解消されます。
現代は少子高齢化による労働人口の減少や価値観の多様化などにより、企業はさまざまな変化に対応しなければなりません。そうした変化に対応するためにも、人材育成計画によって教育システムを確立する重要性が高まっています。
3.人材育成計画に必要な要素
人材育成計画に必要な要素は、主に以下4つです。
- 経営理念・ビジョン
- 明確化された理想の人物像
- 現在の人材レベルへのマッチ度
- 段階ごとに設定された目標
これらを押さえないと、人材育成計画が本来の効力を発揮しないといっても過言ではありません。効果的な人材育成計画を作るためにも、必要な要素をしっかりと押さえましょう。
①経営理念・ビジョン
経営理念やビジョンによって、求められる人材は異なります。というのも、理念やビジョンはどういった人材が必要かという企業からのメッセージでもあるからです。
企業の理念やビジョンは、個人の目標達成により徐々に実現に近づいていく状態が理想です。人材育成計画と絡めてこそ、個人の目標や目指すべきゴールの方向性も明確になります。そのため人材育成計画の作成にあたって、理念やビジョンの再確認が欠かせません。
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②明確化された理想の人物像
人材育成計画は、企業が求める人材を効率的かつ効果的に育成するための指針です。そのため、育成したい理想の人物像が明確になっていないと計画倒れになるリスクが高まります。
理想の人物像は、具体的であればあるほどよいもの。具体化が難しい場合は、5年後どのような企業にしたいか、そのためにはどういった人材が必要かといった観点からイメージしてみましょう。
また、計画も具体的であるほど実現可能性が高まります。具体的な人物像を設定する手法として、実際に働いている優秀な従業員をロールモデルとして、理想像を見出すのをオススメします。優秀人材のスキルをリストアップし、成長や成果に直結するスキルを洗い出してみましょう。
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③現在の人材レベルへのマッチ度
人材育成計画が現在の人材レベルにマッチしていることは、従業員のモチベーションアップややりがいアップにつながります。高い目標を掲げるのが必要な場面もあるもののが、実現不可能な目標や計画は、かえってモチベーションを下げてしまうでしょう。
人材育成計画を作成するにあたって、まず現在の人材レベルを確認します。現在の企業、従業員の強み・弱みを具体的に洗い出し、この内容をふまえて理想の人物像と照らし合わせて育成計画を作成すると、現在の人材レベルにマッチした人材育成計画を作れます。
ただし、人材育成計画が目指すのは将来的に活躍できる人材の育成です。現状だけにとらえわれず、広い視野を持って従業員のレベル感の把握や計画の作成に取り組むことがポイントです。
④段階ごとに設定された目標
段階ごとに目標を設定することで、その時のレベルにあった目標を順調に達成できるようになります。なぜなら、段階ごとに設定された目標は達成可能性を感じやすく、意欲的に取り組めるようになるからです。
一つずつ着実に達成できることで理想の人物像に近づいている実感が得やすく、自信にもつながります。
最終目標が高いことは問題ないため、そこに到達するまでの目標はスモールステップでの達成を意識しましょう。
人材育成は中長期的に取り組んでいくため、従業員のモチベーション維持が欠かせません。段階ごとに設定された目標は、モチベーションを維持してもらうために欠かせない要素です。
4.人材育成計画の立て方|人材育成計画書の作り方
人材育成計画書とは、現場で育成を行う際の指針のこと。人材育成計画の内容を効率的かつ効果的に進めていくためには、人材育成計画書が必要です。
人材育成は通常業務と並行して行うため、その中で効率的に目標に到達するには計画が重要です。人材育成計画・計画書は、以下ステップに従って作成しましょう。
①理想と現状のギャップの把握
人材育成計画は経営戦略と連動させてこそ、企業の成長や発展につながります。そのためにも、まずは理想と現状を把握し、ギャップを分析することが必要です。理想に近づくために足りない要素を洗い出すことで、育成すべき人材像が見えてきます。
人材育成計画は中長期的に実施していくため、3年後、5年後、10年後にどうありたいかまで考えることがポイントです。企業の成長フェーズに合わせた理想を検討できることで、次のステップで育成したい人材像も明確化しやすくなります。
②育成したい人材像の明確化
次に、理想と現状のギャップから、育成すべき人物像を具体的に明確化します。この時、企業理念やビジョン、経営戦略も連動させることがポイント。企業理念やビジョンを体現するため、経営戦略を達成するためにはどういった人材が必要かを定義しましょう。
また、現在成果を出している優秀な人材から考えるのも1つの方法です。優秀人材は企業が理想とする人材像に近いことから、優秀と認識されるもの。実在する従業員がモデルであれば、育成計画もより具体的に策定できます。
③目標の設定
育成すべき人材像が明確になれば、次は目標設定です。目標には、具体的な目安となるスキルや経験レベルなどを入れ込みましょう。従業員のモチベーションを高め、達成により目標に近づいている実感を得るためにも、目標は段階ごとに設定することがポイントです。
まずは最終的なゴールを決め、そこに到達するための小目標・中目標を設定します。最終ゴールから逆算し、従業員のレベルに合わせた段階的な目標を検討することがポイントです。
目標設定とは?【設定のコツを一覧で】重要な理由、具体例
目標設定は、経営目標達成や個人のレベルアップのために重要なもの。適切な目標設定ができないと、最終的なゴールが達成されないだけでなく、達成のためにやるべきことも洗い出せなくなってしまうでしょう。
今回は...
④必要なスキルの洗い出し
目標を達成するために、従業員に身につけてほしいスキルを洗い出します。育成すべき人物像にどんなスキルや経験が必要かを軸に検討しましょう。同時に、従業員がすでに持っているスキルや知識、経験も洗い出すことで、一人ひとりに合った育成計画が立てられます。
従業員ごとに持っているスキルや経験、知識は異なるため、画一的な育成は不可能です。一人ひとりの特性を把握していることで、その人に合った育成計画が立てられ、効率的かつ効果的な人材育成が達成できます。
必要なスキルが洗い出せたら、いつまでに身につけるか、どのスキルを優先的に身につけてほしいかまで検討しましょう。
⑤育成手段・施策の策定
育成すべき人物像、最終ゴールを達成するための手段や施策を検討します。育成手段・施策は、下記のようにさまざまです。
- 集合研修
- 外部研修
- 体験型研修
- 社内研修
- eラーニング
- OJT
- 通信教育
習得すべきスキルによって、相性のよい手段は異なります。たとえば、マネジメントはeラーニングで体系的に学ぶだけでなく、体験型研修によって実際に学ぶことも必要です。
育成対象の従業員が参加しやすいよう、オンラインとオフラインの研修を使いわけてみましょう。
⑥育成の実施と評価
手段・施策まで決定したら、人材育成計画書にもとづいて育成を実行します。実際に育成していくなかで「この方法がいいかも」「目標を変えた方がよいかも」と気づきや課題が出てくるでしょう。
必ずしも人材育成計画書に従う必要はなく、そうした気づきや課題をふまえて柔軟に計画書をブラッシュアップしながら、最適な育成を実施していくことが重要です。
実施しながら評価し、ブラッシュアップしてまた実行していくといったPDCAを回して人材育成を進めていくことがポイントです。
5.人材育成計画書のテンプレート|サンプル
人材育成計画書があると育成する側・される側が育成内容を共有でき、共通認識のもと育成に取り組めるようになります。
人材育成計画書は、下記で紹介するテンプレートを活用して作成することがおすすめ。ここでは、おすすめのテンプレートを2つご紹介します。
テンプレート①日本の人事部 育成計画書
育成内容を具体化し、スケジューリングできる表形式のテンプレートです。「育成項目」「必要スキル」「現状評価」「成果の測定方法」「達成度」の5つの項目から1つの育成項目を管理します。シンプルで分かりやすいテンプレートであるため、育成する側・される側の双方が理解しやすい点が特徴。新人育成や研修計画、OJTなどへの活用におすすめです。
参考 育成計画書日本の人事部テンプレート②厚生労働省 職業能力評価基準
職業能力評価基準とは、仕事をこなすために必要な知識、技術・技能にくわえ、成果につながる職務行動例(職務遂行能力)を業種別、職種・職務別に整理したもの。
業界内の標準的な基準から、育成計画が立てやすくなります。人材レベル別に評価シートが用意されており、人材育成計画書の策定にも活用できます。
参考 職業能力評価基準厚生労働省6.人材育成計画の具体例
人材育成は、新人・若手に対してのみ行うものではありません。階層に合わせて求められる人材像やスキルは異なるため、継続的な育成が必要です。階層別に人材育成計画の具体例をご紹介します。
具体例①新人・若手社員
新入社員は、社会人の基礎力を身につけることが目標です。社会人研修やマナー研修によって、ビジネスパーソンとして表に出られるスキルの習得を目指しましょう。
そして社会人の基礎力が身につき実務にも着手し始める若手は、OJTやOff-JTで基礎力の定着を図りつつ、職種ごとに必要なスキルも身につけていきます。
また、1on1ミーティングのような定期的な面談により、上司との信頼関係を築くことも大切です。新人や若手は実務経験や知識が浅いため、わかりやすい育成が求められます。
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具体例②中堅社員
中堅社員の育成は、より高度かつ専門的なスキルの取得を目指します。なかには、将来的にリーダーや管理職のキャリアを目指し、マネジメントにかかわりたいと考えている人もいるでしょう。
キャリアについて考え始める段階でもあるため、キャリア研修やスキルアップ研修、メンター研修が有効です。
また、プロジェクト責任者やリーダー職など、実際にポジションを任せて実践的に育成するのも一つの方法。従業員が望むキャリアも把握したうえで、一人ひとりに最適な人材育成計画を立てることが求められます。
具体例③管理職
組織を引っ張っていくポジションとなる管理職は、中堅社員よりも高いマネジメントスキルやリーダーシップ、リスク管理スキルや経営層に近い視点を持った運営スキルが求められます。そのため、育成もマネジメントスキルの取得がメインです。
管理職に対する育成は難易度も高くなるため、社外で専門的な研修を受けることをオススメします。
主な研修内容は、リーダーシップ研修や管理職研修、経営戦略研修、マネジメント研修など。また、社内で経営陣が直接研修を開催する方法では視座が高められ、モチベーション向上の効果も期待できます。