人材流出とは、何らかの理由で自社の人材が外部に流出してしまうこと。終身雇用制度が実質崩壊し、新卒入社から定年まで働くことが一般的でなくなった現代では、人材流出が経営課題の1つとなっています。
今回は人材流出について、経営にもたらすリスクや原因、対策などを詳しくご紹介します。
1.人材流出とは?
人材流出とは、自社の人材が外部に流出してしまうこと。これまでの日本は終身雇用制度によって新卒で入社した企業で定年まで働くのが一般的であり、人材流出のリスクが低い環境でした。
しかし近年、終身雇用制度が実質崩壊し、キャリア形成の一環として、よりよい環境で働くために転職が一般的になりつつあります。
2019年には、経団連が「今後企業が終身雇用制度を維持することは難しい」と明言。これまでの雇用体系との決別が宣言され、新たな雇用・働き方への転換が求められています。
2.人材流出がもたらす経営リスク
人材流出は、さまざまな経営リスクをもたらします。
ノウハウ・顧客の流出
人材は、業務をとおしてノウハウを身につけるため、競合他社へ流出した場合はノウハウも流出するリスクがあります。独自性のあるノウハウであるほど、流出による影響は大きいでしょう。
また、離職する従業員に特定の顧客がついていた場合、同時に顧客も流出するリスクがあります。長年担当しており、堅い信頼関係がある場合には顧客がその人についていくことも珍しくありません。
さらに、競合他社へ流出してしまう場合、ノウハウ・顧客の流出は相手に戦力・利益を提供していることになってしまい、競合の成長を手助けしてしまう結果となります。
コストの損失・増加
人材が流出すれば、その穴を埋めるために新たに人材を確保しなければなりません。そうなると、求人広告の出稿費や人材紹介会社への依頼などが発生し、採用コストが増加。加えて、これまで教育してきたコストが無駄になり、コストの損失も発生するのです。
新たな人材には、また1から仕事のやり方や企業理念などを伝えていかなければなりません。既存社員の教育コストが増加するほど業務に費やせる時間も失うことになり、生産性低下の原因にもつながります。
後継者の損失
人材流出は、後継者を失うことにもつながります。後継者は候補を立てて中長期的に育成するものであり、スキルだけでなく、適性や企業文化、自社への深い理解が必要です。
後継者候補が流出してしまうとそれまでの育成コストを失うだけでなく、早期に新たな候補を選出、採用する必要が出てきます。中小企業では後継者がいないことで倒産へと追い込まれるケースも珍しくないほど、経営に大きな影響を与えてしまうのです。
生産性の低下
欠員が出ることで、現場の負担が増加します。新たに採用しても早期離職が起こったり、なかなか応募がこない、採用が決まらなかったりする状況では、人手不足の状況は変わりません。
欠員分の負担を負うことで一人あたりの業務量が増加し、疲労やストレスも増大。そうした状況が改善されないと、ストレスや疲労から生産性の低下につながります。
生産性の低下により業務品質が低下すれば、顧客が離れてしまい、結果的に企業力の低下を引き起こすリスクも高まるでしょう。
企業イメージの低下
人材流出が激しく、離職率の上昇に改善が見られない場合、企業イメージが低下する恐れがあります。離職率が高い企業はブラック企業のイメージがつきやすく、反対に離職率が低いと働きやすい会社といったイメージづけがなされやすいです。
求職者にとって、離職率や定着率は応募先・就職先を見極めるための重要なポイントのひとつ。企業イメージが低下するとなかなか応募も集まらず、流出が起きてもその穴を埋められなくなり、常に人手不足な状態が続いてしまう可能性があります。
3.人材流出が止まらない原因
人材流出が起こる原因は、職場への不満や人間関係などさまざまです。企業によって原因は異なるため、自社の人材流出の原因はしっかりと分析する必要があります。
ここでは、主な原因を解説していきます。
労働条件・環境に不満がある
休日出勤や残業が多い、有給が取りにくい、ハラスメントが横行しているなど、労働条件・環境への不満は流出を加速させる原因です。
近年はワークライフバランスややりがいを重視するなど、労働条件や環境を重要視する人も増えています。働き方改革にともなって、労働条件を変革している企業も増えている中、従業員も労働条件・環境には敏感です。
人間関係に問題がある
上司との相性が悪い、チームに馴染めないなど、職場の人間関係は流出の大きな原因になる要素です。人間関係に問題があると、居心地が悪くなり、ストレスから生産性が低下する恐れもあります。
また、最近ではリモートワークの導入が進み、新入社員や中途社員が職場に馴染みにくいといった課題も人材流出につながる可能性のある課題です。
仕事にやりがいが感じられない
仕事内容に飽きてしまった、モチベーションがないなど、仕事にやりがいを感じられない場合、やりがいが感じられる場所へと流出してしまう傾向にあります。
やりがいを感じられない理由はさまざまあるものの、頑張りが評価に反映されないなど、企業側の対応がやりがい喪失の原因となっているケースも少なくありません。
やりがいが感じられないと仕事に対しても意欲的・主体的に取り組めず、流出が起こらなくとも生産性や品質の低下を招く恐れがある重大な問題です。
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報酬が見合っていない
業務量と報酬が見合っていない、残業しても残業代が出ないなど、働きぶりや成果が報酬に反映されていないと、働く意味やモチベーションを失ってしまいます。
また報酬自体に満足していても、自分より成果を出していない従業員と報酬が同程度であるなど、不公平感から報酬に不満を抱くケースもあります。
社風・文化が合わない・馴染めない
社風や文化などへの不満、馴染めないことも原因のひとつ。企業には歴史とともに形成されてきた独自の社風や文化があり、入社してからその点にミスマッチを感じるケースも少なくありません。
社風や企業文化が合わないと、居心地の悪さから離職が起こることもあるのです。
評価制度に不満がある
成果を出しても正当に評価されない、評価に贔屓が見られ不公平感があるなど、評価制度への不満も人材流出を加速させる原因です。評価基準が曖昧、評価者の評価スキルが不足しているなど、評価制度に不満が起こる原因はさまざまあります。
評価制度は報酬や役職、キャリアに大きな影響を与えるもの。長期的に同じ企業で働くうえでは報酬や役職アップがひとつの目標となり、やりがいやモチベーションを形成する要素です。
そのため、評価制度への不満はその企業で働き続ける意味を喪失させてしまう恐れがあります。
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将来性・キャリアパスに不安がある
このまま仕事を続けていてもスキルが身につかない、明確なキャリアパスがなくキャリアが設計できないなど、長く勤めていても将来に不安を感じる、将来性がないと判断されると離職につながりやすいです。
安定性や成長性に期待できず、企業自体の将来性を不安視されてしまう場合も、従業員は転職を検討する傾向にあります。
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4.人材流出の防止策
人材流出は、企業にとってネガティブな影響しか与えません。人材流出を防ぐには、原因に応じて必要な防止策を講じることが重要です。自社で人材流出が起こる原因を分析し、必要な防止策を実施しましょう。
評価制度の見直し・整備
明確な評価基準のもと、公正公平かつ適切な評価制度が運用されていないと従業員のモチベーションが低下し、最終的には離職に発展します。
まず評価制度に対する従業員の声を調査し、評価制度自体に問題がないかをチェックしましょう。課題に合わせて、評価制度の該当項目を見直し、必要に応じて評価制度全体を大幅に変えることもひとつの手です。
労働環境・働き方の見直し
労働環境・働き方の見直しは、働き方改革の一環としても有効です。労働時間の見直しやノー残業デーの導入、休日出勤の廃止などから、労働環境を見直してみましょう。
近年はワークライフバランスを重視する人も多いため、リモートワークやフレックスタイム、時短勤務など多様な働き方の導入もオススメです。
心理的安全性の高い労働環境や柔軟な働き方ができる環境ではエンゲージメントも向上し、その環境にとどまりたいと思いやすくなります。
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福利厚生の充実
福利厚生は報酬以外の労働対価であり、従業員の家族にも適用されるものです。福利厚生が充実していることは、エンゲージメント向上にも有効です。加入義務のある保険や年金などの福利厚生外である、法定外福利厚生を充実させましょう。
代表的な法定外福利厚生には、以下のようなものがあります。
- 家族手当
- 通勤手当
- 家賃補助
- 食事補助
- 人間ドック
導入する福利厚生は企業が自由にカスタマイズできるため、従業員の声も取り入れつつ充実させてみましょう。充実した福利厚生は他社との差別化にもなり、採用力強化にもつながります。
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社内コミュニケーションの活性化
良好な人間関係を構築するには、コミュニケーションが欠かせません。意見交換しやすくなることでチームワークが構築しやすくなり、企業に対する帰属意識の醸成にも有効です。社内コミュニケーション活性化のためにできる取り組みは、以下のようなものです。
- 社内チャットの活用
- オープンスペースの設置
- フリーアドレス制
- 社内イベントの開催
- 部活動
上司と部下、先輩社員と新入社員のコミュニケーション活性化には、1on1やメンター制度もオススメです。
スキル・キャリアアップのサポート
長く働き続ける上では、社内で思い描くキャリアが実現できるかも重要なポイント。そのためには、キャリアパスを明確にした上でそのために必要なスキルが身につけられ、キャリアアップをサポートしてくれる環境を構築することが必要です。
書籍購入費の補助や資格取得支援制度、社内公募制度やジョブリターン制度など、スキル・キャリアアップをサポートできる制度を導入してみましょう。
採用方法の見直し
早期離職や社風などのミスマッチによる流出を防ぐには、採用方法の見直しも有効な防止策です。カルチャーフィットのように選考時点でカルチャーや価値観がマッチするかを見極めることで、社風や企業文化のミスマッチによる流出は防ぎやすくなります。
また、リファラル採用やスカウト型採用などを導入し、求める人物像にマッチする人材を採用することもオススメです。コストの無駄を防ぐためにも、採用の見直しは行って損はありません。
カルチャーフィットとは?【意味を簡単に】見極め方、質問例
カルチャーフィットとは企業文化・風土が従業員にマッチしている状態であり、価値観や特性と企業文化のマッチング度合いを重視する採用手法を指します。
早期離職や人材の定着が課題となっている企業も多く、そうし...
5.人材流出対策の企業事例
2社から、人材流出対策の事例をご紹介します。
株式会社レオパレス21
不動産業界はもともと離職率が高めな業界であるなか、株式会社レオパレス21は過去、業界水準を超える離職率を記録しました。
優秀な社員の流出防止、新たに採用した人材を定着させるため、以下のような取り組みを実施した結果、3年連続で離職率が改善したのです。
- 研修の充実
- 人事制度・評価制度の見直し
- 労働時間の短縮
とくに若手がモチベーションを持って働けるよう尽力したことが、全体の離職率改善に大きく貢献しました。
株式会社鳥貴族
飲食業界はブラックなイメージが強い業界であることからも、離職率は高め。しかし、居酒屋チェーンである鳥貴族は、人材の定着率が高いことで有名な企業です。
人材流出が少ない秘訣は、むやみやたらに採用せず、しっかりと見極めて入社してから活躍できる人だけを採用する手法にあります。
また働きやすい職場を構築するため、無断残業・無断休日出勤を禁止するなど、飲食業界の「当たり前」となりつつある環境を打開していることも人材流出防止につながっているのです。