時差出勤とは、勤務時間帯をずらして勤務する制度です。ここでは時差出勤についてさまざまな角度から解説します。
目次
1.時差出勤とは?
時差出勤とは、勤務時間帯をずらして設定する制度のこと。通常の勤務時間帯と比較して、始業時刻を早めたり遅くしたりして、多様な働き方やワークライフバランスを実現するのです。ここでは下記3つについて解説します。
- 英語での表記
- 時差出勤導入企業の動向
- 時差出勤とフレックス制との違い
①英語での表記
時差出勤の英語表記は、下記のようになっています。
- staggered commuting
- staggered office hours
- staggered working hours
- staggering [staggered] work times
②時差出勤導入企業の動向
日本CHO協会の調査によると、48%の企業が新型コロナウイルスの流行前から、時差出勤やフレックスタイム制が実施していたとのこと。
またMMD研究所の調査によると、新型コロナウイルスの影響を受けた勤務体系の変化は、「在宅勤務、時差出勤が最多」「7割は出勤を維持」だったそうです。
③時差出勤とフレックス制との違い
時差出勤とフレックス制には違いがあります。
- 時差出勤:始業時刻を早めたり遅くしたりしても1日の勤務時間は変更しない。目的はラッシュを避けること
- フレックス制:日により勤務時間を増減できる。目的は、成果と勤務時間が比例しない業種でも働きやすい環境の整備
2.時差出勤で期待できる効果とは
時差出勤ではどんな効果が期待できるのでしょう。それぞれについて解説します。
- 従業員のストレス軽減
- 相手に合わせた調整が可能
- 従業員のライフワークバランスの向上
- 人材確保
①従業員のストレス軽減
満員電車や混雑するバスに乗るのは、非常にストレスがかかるもの。しかし時差出勤をすればラッシュ時間を避けられるため、通勤のストレスを軽減できます。朝の通勤ストレスから解放されれば、業務効率や生産性の向上が期待できるでしょう。
②相手に合わせた調整が可能
時差のある海外の顧客や夜間にオープンする店などとやり取りする際、これまで早朝出勤や深夜残業で対応していました。しかし時差出勤を利用できれば顧客に合わせて、出勤や退勤の時刻をフレキシブルに選べます。
③ワークライフバランスの向上
育児や介護、通院のため時短勤務していた従業員も、時差出勤で始業や終業の時刻を調整できるため、通常どおり勤務できます。時差出勤はワークライフバランスのうえでも大きな効果が期待できるのです。
④人材確保
さまざまな家庭の事情により、時短勤務を余儀なくされている従業員は多いでしょう。時差出勤を利用すれば、都合の悪い時間を避けた勤務パターンがつくれるのです。そのため時短勤務をしていた人も正規の戦力として活躍できます。
3.時差出勤導入における注意点
時差出勤導入における注意点があります。それぞれについて解説しましょう。
- コミュニケーション不足への対応
- 人事評価制度の整備
- 労働時間の管理
- 給与計算
①コミュニケーション不足への対応
時間差で出勤するため、部署内のメンバーと顔を合わせる時間が減ったり、チームでミーティングを開催しにくくなったりと、社内外でコミュニケーション不足に陥る場合もあります。時差出勤とあわせて、コミュニケーション不足を補う対策が必要でしょう。
②人事評価制度の整備
時差出勤でフレキシブルな勤務が実現しても、従来の時間外労働が前提となっている評価・賃金制度が引き継がれていては、働き方の多様化も形骸化しかねません。時差出勤導入に合わせた人事評価制度を再構築して初めて、多様な働き方が実現します。
③労働時間の管理
時差出勤をする従業員が多いほど、労働時間の管理は煩雑化します。就業管理ツールやタイムレコーダーなどを用いて、従業員一人ひとりの労働時間を効率的に管理しましょう。
休憩時間に時差が出ると一斉休憩ができないため、労使協定の締結が必要です。
④給与計算
時差出勤で午後10時を超える時間に勤務した場合、給与計算に注意が必要です。下記について理解しておきましょう。
- 通常午後10時~午前5時は「深夜労働」で、50%の深夜割増賃金が発生する
- 時差出勤における実働8時間以内の労働時間は、割増率が25%
4.時差出勤を導入する際の手順
時差出勤を導入する際、どのような手順を踏めばよいのでしょう。下記4つのステップについて解説します。
- 目的と対象者を決める
- 出勤時間を決める
- 就業規則に記載する
- 従業員へ周知する
①目的と対象者を決める
時差出勤導入の目的は、「働き方改革実現」「育児や介護との両立支援」のように具体的な形で設定しましょう。
対象者についても、「育児は小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員」「介護は、要介護状態にある家族を介護する従業員」などと具体的に設定します。
②出勤時間を決める
就業規則の絶対的記載事項に、始業・終業時刻があります。そこで出勤時間について複数の出勤パターンや繰り上げ・繰り下げの時間幅、時間指定の方法などを決めるのです。一般的に、1~2時間の間で始業時間をずらす制度設計になっています。
③就業規則に記載する
始業時刻と終業時刻は、就業規則における絶対的必要記載事項のひとつで、必ず記載しなければならないと労働基準法で定められています。時差出勤を導入する際は必ず、始業・終業時刻を勤務パターンごとにすべて記載するのです。
規定の整備事項
時差出勤を導入する際、始業・終業時刻以外にも、規定に整備しなければならない事項があります。たとえば、「時差出金の対象者」「対象業務」「期間」「労働時間のパターン」です。
具体的な対象者や制限の対象とする対象業務、労働時間のパターンすべてを記載します。
時差出勤の申請書類
時差出勤を導入する際には、従業員が記入する申請書類の準備が必要です。「時差出勤申請書」と呼ばれるもので、下記のような事項を記載します。
- 所属と氏名
- 申請機関
- 勤務時間
- 希望する理由
- そのほか特記事項
時差出勤を希望する従業員は、「時差出勤申請書」に必要事項を記入・捺印して上司へ提出するのです。
④従業員へ周知する
就業規則に時差出勤にかかる制度を新たに記載した場合、変更後の就業規則を従業員に周知徹底させなければなりません。変更内容や導入の目的を従業員全員で共有すると、制度をより広く深く社内に浸透できるでしょう。
5.妊娠中の時差出勤
妊娠中の時差出勤については、「妊娠中の人材が望み、医師の指導が入る」場合、時差出勤を行わなければならないと法律で定められています。妊産婦が「母性保護」の観点から守られているからです。
妊娠中の勤務時間変更は法律で認められている
妊娠中の勤務時間変更は、就業規則への記載がない場合でも、法律で認められています。
勤務時間変更以外でも、下記のような事柄が法律で定められているのです。
- 軽易業務転換(労働基準法第65条第3項)
- 妊産婦の請求にもとづく時間外労働や休日労働、深夜業の制限(労働基準法第66条第2項、第3項)
- 保健指導等にもとづく勤務時間の変更、勤務の軽減(男女雇用機会均等法第13条第1項)
6.時差出勤の導入事例
時差出勤を制度として導入している企業があります。下記3つの企業が導入した時差出勤制度をご紹介しましょう。
- NTTアドバンステクノロジー
- コクヨ
- アスネット
①NTTアドバンステクノロジー
NTTアドバンステクノロジーは、ソフトウエアの設計や開発、販売や運用などを手がけるNTTグループの技術的中核企業です。下記のように時差出勤制度が積極的に活用されています。
- 出勤時間帯は6時半~10時の間で設定する
- 自分や家族の事情に合わせて出勤時間帯を調整できる
- 退社時の気まずさといった点も解消している
②コクヨ
コクヨは文房具の製造販売、オフィス家具の製造販売などを手がける企業で、多様な働き方の実現を目指して時差出勤制度を導入しました。
アイデアの創出や家庭と仕事との両立などに利用されており、2018年夏には、テレワークや時差出勤を推奨する3週間のキャンペーンが実施されたのです。
③アスネット
アスネットは、システム開発のソリューションベンダーです。導入している時差出勤の特徴は、事前申請不要である点。体調不良や家族の都合などで時差出勤を利用できるため、従業員にも好評です。
時差出勤制度の導入で、「無駄な残業が減少した」「チームワークへの悪影響もない」など、効果的な制度導入を実現しています。