ジョブシェアリングとは、2人以上が組になって職務を分担することです。その意味、メリットやデメリット、導入ポイントなど詳しく解説します。
目次
1.ジョブシェアリングとは?
ジョブシェアリングとは、フルタイム労働者1人で担当する職務を、2人以上が組になって分担すること。共同で職務の責任を負い、評価や処遇もセットで受ける働き方です。
雇用者数の増加を目的とするワークシェアリングの一形態で、仕事と育児、介護や勉強との両立を可能にします。より多くの人材に雇用機会を与える方法とされているのです。
2.ジョブシェアリングとワークシェアリングの違い
ジョブシェアリングとワークシェアリングは、厳密には異なります。
- ジョブシェアリング:目的は、短時間勤務を組み合わせて雇用機会を増やし、多様な人材を確保すること。フルタイム労働者が1人でやるべき業務を2人以上の労働者で担当し、評価や待遇もセットで受けるという働き方
- ワークシェアリング:社会や企業全体で労働時間を短縮できるように、業務をシェアする考え方。2人1組のペアによる生産性向上、セットでの管理による管理コストの削減も期待できる
欧米企業では、人材確保のためジョブシェアリングを積極的に導入しています。
ワークシェアリングとは?【意味をわかりやすく】メリデメ
働き方改革で労働者の働き方がクローズアップされる中、「仕事の分かち合い」を意味するワークシェアリングという言葉をよく耳にするようになってきました。
ワークシェアリングとは何か
ワークシェアリングが注...
3.ジョブシェアリング導入のメリット
ジョブシェアリングを導入すると、企業と労働者それぞれに多くのメリットをもたらすのです。一体どのようなメリットなのか、解説します。
- 働き方の多様化による人材定着や雇用確保
- 雇用の確保
- 生産性の向上
- ストレスの軽減
①働き方の多様化による人材定着や雇用確保
従業員が離職する原因として結婚や出産、介護など環境の変化が挙げられています。しかしジョブシェアリングの導入によって、下記が可能になるのです。
- 1つの職務を月曜から水曜までAさんが担当し、木曜と金曜をBさんが担当する
- 午前中はAさん、午後はBさん、と時間で分担する
こうした勤務形態によって、従業員を取り巻く環境が変化しても正社員として働き続けられます。また女性の離職数が減少すれば、女性の管理職者が増える可能性も期待できるのです。
②雇用の確保
従業員は、労働時間が短縮されても雇用が維持されるため職を失いません。
たとえ企業の業績が悪化しても、1人あたりの労働時間を短縮すれば全従業員の雇用を維持できるため、失業者を出さずに済みます。また求職者は、新しい職に就く機会が増えるかもしれません。
多様な勤務形態や1つの職務を2人以上で担当する働き方は、これまで結婚や出産、育児などで離職した女性の社会進出につながる可能性も高いです。
③生産性の向上
ジョブ・シェアリング先進国である欧米諸国は、「労働生産性の国際比較」の上位に入っています。これらから、ジョブ・シェアリングが生産性向上につながっているとわかるのです。
- アメリカ(5位:68.3ドル)
- フランス(6位:65.6ドル)
- ドイツ(7位:65.5ドル)
- オランダ(8位:65.4ドル)
なお日本は対象35国中20位。日本は先進国のなかでも生産性が低いと、明らかになっているのです。
④ストレスの軽減
労働時間を短縮するため、従業員の精神的負担も軽減されます。余裕ができれば、仕事に対する意欲の向上も期待できるでしょう。
また「家族や友達と過ごす時間が増える」「趣味に没頭できる」「昇進や昇給、知識や視野を広げるための勉強が始められる」など、プライベートの時間も充実します。つまり働きながら効率よく自分の時間を持てるのです。
4.ジョブシェアリングのデメリット
ジョブシェアリングにはデメリットもあるのです。それぞれについて解説しましょう。
- 社内制度の再整備が必要
- 給与計算の手間が増加
- 給与が減る
①社内制度の再整備が必要
新たな就業形態を取り入れる状況になるため、社内制度の再整備が必要になります。単に労働時間を短縮し、新規雇用を増やせばいいわけではありません。
制度を、全従業員にとって公平なものに整えます。賃金といった待遇面で格差が生じれば従業員からの不満はもちろん、生産性にも影響してしまうでしょう。
給与形態も変わる場合、実行までに手間が掛かったり人事や経理担当者に大きな負担が発生してしまったりします。
②給与計算の手間が増加
ジョブシェアリングを導入すると、給与計算や税金の算出方法が大きく変わります。それにより下記のように、手間や工数が増えてしまうのです。
- 導入時、システムの入れ替えやテストなどで工数が発生する
- 新しいシステムに慣れるまで時間が掛かる場合もある
慣れていなくても給与計算にミスがあってはなりません。よって切り替え当初は、担当者の精神的負担も増えてしまうでしょう。
③給与が減る
ジョブシェアリングを選択した従業員はフルタイムで働かなくなるため、労働時間が短縮し、給与も減ります。毎月の給与が減ると、住宅ローンや子どもの教育費などの支払いが苦しくなる従業員も出てくるでしょう。
また給与の減額に不満を感じる従業員が出てくる可能性もあります。その際は、スキルアップ研修の費用を負担したり、副業を認めたり、プラスアルファの対応をするとよいでしょう。
5.ジョブシェアリング導入のポイント
ジョブシェアリングをスムーズに導入するには、何に気をつければよいのでしょう。そのポイントを解説します。
- 運用マニュアルの導入
- 業務の明確化
- 適切な評価
- 助成金の利用
①運用マニュアルの導入
責任者や運用方法、福利厚生や教育制度などの変更点を整理し、従業員に共有するためのマニュアルを、誰が見てもわかるように作成します。
その際、「なぜジョブシェアリングを導入するのか、目的と背景」「導入によって得られる従業員と会社の双方のメリット」なども明確にするとよいでしょう。それによって、導入に不安を抱いている従業員の理解を得やすくなります。
②業務の明確化
ジョブシェアリングに向いているのは、下記のような業務です。
- 複数人で分担できる業務
- 誰が行っても同じクオリティを出せる均一化された業務
- 情報共有しやすい業務
一方、専門性が高いものや1人で行ったほうが効率の良い業務は、ジョブシェアリングに不向きです。これらを洗い出し、それぞれの業務を明確にしましょう。
同時に「コスト削減ができそうな業務」「惰性で続けていたような不要な業務」「効率化できそうな業務」などがないかも確認しておくと、業務改善や見直しにつながります。
③適切な評価
ジョブシェアリングを導入したら、効果を見極めます。「導入の目的は達成できているか」「業績はどう変わっているか」などをチェック項目とし、導入効果を定期的に測定しましょう。
もし「予定通りに業務が進んでいない」「業務に支障が出ている」場合は都度、運用マニュアルを見直します。もしジョブシェアリング導入による成果が出ていたら、成功要因を明らかにして、さらなるブラッシュアップにつなげましょう。
④助成金の利用
ジョブシェアリングを運用する企業は、国から助成金を受け取れます。助成金は次の2つです。
- 時間外労働改善助成金:対象は、働き方改革に取り組む中小企業や小規模事業者。5つの助成コース(時間外労働上限設定コース、勤務間インターバル、職場意識改善コース、団体推進コース、テレワークコース)にわかれ、適用条件もコースによって異なる
- 雇用調整助成金:景気変動といった経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する。一時な雇用調整(休業、教育訓練または出向)の実施によって従業員の雇用を維持すると、助成される