従業員エンゲージメントとは? 目的や調査方法、調査の効果、調査を行う際の注意点

従業員エンゲージメントとは、従業員が会社に対して愛着(帰属意識)を持っている状態のことです。もともとは1990年代のアメリカ企業で生まれた考え方で、今や世界中に定着しています。

1.従業員エンゲージメントとは?

従業員エンゲージメントとは、会社と従業員の間に構築された信頼関係のうえに成り立つ概念のこと。愛着心や思い入れとも訳され、従業員と会社をつなぐ絆としての意味で用いられます。

シチュエーションによっては、結婚や婚約、協約や契約などさまざまな意味に解釈される場合もあるのです。

「会社の課題」を解決するものである

従業員エンゲージメントを向上する目的は、会社としての課題を解決すること。たとえば、下記のようなものです。

  • 人材育成:上昇志向の高い若手社員、スキルアップに関心を持つ中堅社員のキャリア形成を後押しする
  • 離職率の低下:人材の流動化が叫ばれるなかで、従業員の流出を防ぐ
  • 業績アップ:仕事への心理的、感情的な打ち込みを高め、企業業績をアップさせる

従業員エンゲージメントと「従業員満足度」の違いとは?

従業員満足度とは、「従業員が報酬や待遇などに対してどれだけ満足しているかを示した指標」のこと。

  • 従業員満足度:従業員の一方的な働きがいや働きやすさを土台としている
  • 従業員エンゲージメント:双方向の信頼関係が土台にある

2つは同一に捉えられることもありますが、その意味は大きく異なります。

従業員エンゲージメントのベースには相互の信頼関係があるため、ピンチのときでも会社全体が一丸となって立ち向かえる強さを持っています

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2.従業員エンゲージメント調査の目的とは?

従業員エンゲージメントの定義は非常にあいまいです。会社により指標が異なるからこそ、調査をとおして定量的に計測しなければなりません。そして結果から従業員の熱意や意欲をはかり、会社側の体制見直しなどを行うのです。

従業員と会社との関係性を見える化するため

限られた人材を定着させ、会社全体として業績を上げるためには、まず従業員と会社の関係性を把握しなければなりません。

相互の関係性が単発的、主観的なものにならないよう、定量的かつ客観的に計測します。会社と従業員の間にある意識のずれを明らかにすることが、従業員エンゲージメント調査を行う第一の目的です。

会社の隠れた問題・課題を発見するため

業績や生産性の低下、離職率の高さや従業員意欲の低下にはどのような原因が潜んでいるのでしょうか。従業員エンゲージメント調査により従業員と会社との関係性を明らかにしたら、そこから会社の課題を探ります。

解決すべき課題が明らかになっていれば、「報酬を与える」「福利厚生を増やす」「ミーティングの場を設ける」などの取り組みも、より一層効果が高まるのです。

「成長の機会がない」「会社に必要とされていないと感じる」「非効率な雑務が多くて生産性を上げられない」など、従業員が抱える課題を明らかにしましょう。

人材を育成するため

右肩上がりの成長は今や昔。長く勤めれば人材は自然と育つ、全社員に平等的な育成が効果的、という時代は過去になりました。会社は一人ひとりの特性に応じて社員の育成を進めなければなりません。

これは若手社員に限らず中堅従業員も同じです。社員それぞれの性格や特性を掴み、それに合った育成方法を探ることも従業員エンゲージメント調査を行う目的です。

マネージャーや管理職の育成に役立たせるため

従業員エンゲージメントを調査すると、管理職のマネジメント力を測定できます。管理職のマネジメント力は、従業員エンゲージメントの高低に大きく影響するもの。

「十分なフィードバックが行われているか」「仕事に関係する会話だけでなく心情を気にかけたコミュニケーションがなされていると感じるか」などを調べ、マネージャーや管理職の育成に役立てましょう。これも、従業員エンゲージメント調査を行う目的です。

従業員の思考・行動の質を上げるため

従業員エンゲージメントの調査には、従業員の思考や行動の質を上げる目的もあります。人は机上の知識からではなく、経験から内省と概念化、挑戦を経て深い学びを得られるもの。

フィードバックではこの特性を利用するのです。管理者は質問→要約→行動促進→経験支援をひとつのサイクルとして繰り返し、部下の学びと経験を積み重ねます。成長する方法を身に付け、思考や行動の質を上げて従業員エンゲージメントの向上につなげるのです。

従業員エンゲージメントを調査すると、それまで漠然としていた課題や隠れた問題点が明らかになります

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3.従業員エンゲージメント調査はどう行う?

従業員エンゲージメントを調査する方法には、何があるのでしょうか。実際に欧米で実施されている従業員エンゲージメントの調査方法を見てみましょう。ここで紹介するのは「アンケート調査」と「1on1ミーティング」を使用した調査です。

アンケートを行う

世界有数のコンサルティング会社、コーン・フェリー社では、アンケート形式によるエンゲージメント調査を実施しました。アンケートを行う上での注意点は以下の3点です。

  • 集計から分析まですばやく対応し、課題の鮮度を保つ
  • 実施頻度と設問数を調整して負荷を減らす
  • 調査の目的を人事担当者だけでなく従業員にも共有する

これにより、従業員の率直な回答を集めます。

どんな質問にするとよいのか

同社が実施したアンケートでは、以下のような5つの設問を用意しました。

  1. 自社で働くことに誇りを感じる
  2. 自社から求められる以上に仕事に取り組もうと思う
  3. 自社は自分が期待されている以上の貢献をする気持ちにさせてくれる
  4. あとどのくらい自社で働いていたいと思うか
  5. 自社をよい会社だと他者に勧められる

それぞれの肯定的、否定的な回答比率を、従業員エンゲージメントの高低として捉えるのです。

5段階の回答例

同調査では、回答を次の5段階から選ぶ形式としました。

  1. 非常にそう思う
  2. そう思う
  3. どちらともいえない
  4. そう思わない
  5. まったくそう思わない

さらに5段階を「肯定的回答・中立的回答・否定的回答」という3つのレベルに分け、その高低差で従業員エンゲージメントのレベルを測定します。非常にシンプルな手法ながら、簡略的に従業員エンゲージメントの高低を測定できる調査方法です。

1on1ミーティングを行う

世界的なIT企業が集中するアメリカ・シリコンバレーでは、多くの企業で「1on1ミーティング」を実践しています。

1on1ミーティングとは、上司と部下との間で定期的に行う1対一の対話のこと。一般的には週に1回程度、最低でも月に1回の頻度で行われます。国内でも2010年代後半から一躍注目を集め、業界を問わず多くの企業で導入されるようになりました。

人事考課の面談と1on1ミーティングの違い

1on1ミーティングと類似するものに「人事考課面談」があります。この2つは目的が大きく異なるため、実施する際は注意が必要です。

  • 人事考課面談の目的:目標設定や進捗確認、中間達成とのフィードバックなど「管理のための時間」
  • 1on1ミーティングの目的:経験学習支援や従業員エンゲージメントの形成など「育成のための時間」

1on1ミーティングの効果測定方法とは?

実施効果を測定するため、1on1ミーティング終了後にアンケートを実施します。1on1ミーティングが続かない理由の多くは「1on1ミーティングに価値が感じられないから」です。

ミーティングを設けても一方的な聞き取りで終わり、従業員エンゲージメントの形成につながらなければ人事考課面談と変わりません。悩みや課題の開示度、満足度などを問うアンケートを実施して、従業員エンゲージメントの向上に役立てます。

従業員エンゲージメントの高低は短期的に改善されるものではありません。さまざまな調査を通して中長期的に様子を見ていきます

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4.従業員エンゲージメント調査の効果

従業員エンゲージメントの調査では、どのような効果が期待できるのでしょうか。1度の調査で終了しないよう、調査結果をエンゲージメント向上に結び付け、サイクル化します。ここでは従業員エンゲージメント調査の効果を4つに絞って解説しましょう。

  1. 従業員のモチベーションアップ
  2. 生産性の向上
  3. 離職率の低下
  4. 問題の早期発見

①従業員のモチベーションアップ

従業員エンゲージメントを調査すると、従業員のモチベーションを測れます。何に興味を持つか、どんな環境でモチベーションが高まるかは人それぞれ。その従業員が意欲的に取り組める要因を探り出せれば、案件と人材のミスマッチを防げます。

従業員もまた、「会社に理解されている」「必要とされている」と感じるでしょう。得意な分野で活躍できれば、意欲的なスキルアップ、生産性の向上も期待できます。

②生産性の向上

調査によって、従業員エンゲージメントが高くなる業務と低くなる業務を特定できます。エンゲージメントの低い業務は、言い換えれば必要性が感じられない、従業員の特性に合っていない業務でもあるのです。

これらから仕事の優先順位を見直しましょう。場合によっては不要な業務を切り捨てる選択ともなります。これは戦略や方向性を見出し、業務プロセスや体制を整えるとも同じこと。改善されればエンゲージメントや生産性の向上につながるでしょう。

③離職率の低下

従業員が離職を考える理由は何でしょうか。コーン・フェリー社の調査では「キャリア目標の達成見込みがない」「業績に見合った評価、認知がない」という回答が上位を占めました。

自社で成長が見込めないと感じれば、他社に目が向くのも無理はありません。従業員エンゲージメントを高め、離職率を下げるにはこれらの不満を拾い上げ、制度や体制を改善する必要があります。

④問題の早期発見

先に述べた1on1ミーティングには、問題を早期に発見できるというメリットがあります。問題が小さいうちにアラートが発せられるため、大事になる前に対策を講じられるのです。

問題を早期に発見・対策できれば、従業員も自分の声が拾い上げられている、自分の存在が会社に必要とされていると感じられるでしょう。

調査結果をうまく活用できれば従業員エンゲージメントが高まります。貴重な人材の流出も防げるでしょう

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5.従業員エンゲージメント調査を行う際の注意点

従業員エンゲージメントの調査を闇雲に行っても効果は出にくいです。調査の目的を見失うと、コストや時間を無駄に費やしただけで終わってしまうでしょう。ここでは具体的な事例から、調査を行う際の注意点について見ていきます。

  1. 従業員エンゲージメントが低い要因に注目する
  2. 時間がないからと後回しにしない

①従業員エンゲージメントが低い要因に注目する

従業員エンゲージメントが低い要因がひとつとは限りません。

「全社的な戦略や方向性が定まっていない」「会社が信頼できない」「必要以上のリソースを割きたくない」「品質向上を望まない」といくつかの要因が段階的に絡まっている場合もあります。

またこれとは反対に、従業員エンゲージメントが高い要因に注目することも重要です。それは自社にとっての強みになり、他社との差別化を図れるでしょう。

エンゲージメントに関連する要因「ドライバー」

コーン・フェリー社では、従業員エンゲージメントの高低に影響する因子項目を「ドライバー」と呼んでいます。ここでは12項目に分けられたドライバーの一部を紹介します。

  • 品質、顧客志向:顧客を中心とした質の高い商品、サービスを提供できているか
  • 個人の尊重:個人としての立場が尊重され、よい仕事をしたときにはきちんと認めてもらえる風土があるか。仕事と生活の両立ができているか
  • 成長の機会:組織に学習、成長する機会があるか、周囲のサポート体制は充実しているか
A社の事例

ドライバーのなかでも「品質・顧客志向」と「リーダーシップ」が特に低かった会社の事例を見てみましょう。A社では「できるだけミスしたくない」「余計な仕事を抱え込みたくない」という意識が蔓延していました。

「会社の行き先や見通しに対して説明を受けたことがなく、そもそも知る必要はない」という無言の圧力を感じていた点が調査によって明らかになっています。

調査により、A社では市場トレンドが掴めず、度重なる品質問題への隠蔽体質があったと明るみに出ました。このような会社で「生産性を高めたい」「会社に貢献したい」と考える従業員が姿を消していくのは必然といえるでしょう。

C社の事例

従業員エンゲージメント調査により、「全社的に仕事の優先順位が付けられていない」だけでなく、「十分な人材の確保」や「生産性を高めるための環境整備」なども不十分だと明らかになったのです。

現場は会社全体の経営戦略を意識する余裕がなく、さらにモチベーションや生産性も低下するといった負のスパイラルに陥っている事例でしょう。

②時間がないからと後回しにしない

従業員エンゲージメントの調査に1on1ミーティングが効果的という点は先に述べたとおりです。しかし従業員一人ひとりに向き合う必要があるため、どうしても時間がかかります。

1on1ミーティングの強みは課題を小さいうちに見つけ、大きな問題に発展する前に対応できること。時間がないからといって後回しにせず、全社的に従業員エンゲージメント調査の優先度を高めるとよいでしょう。

従業員エンゲージメント調査を形骸化させないためには、自社スタイルに適した取り組みが必要です。今働いている人たちにフォーカスし、必要に応じて調査方法や要因を見直していきましょう