住宅手当とは? 支給条件、金額の相場、メリット・デメリット

住宅手当とは、福利厚生の一環として企業が行っている補助金制度のこと。ここでは住宅手当の支給条件や会社側・社員側のメリットなどについて解説します。

1.住宅手当とは?

住宅手当とは、企業が住宅費用を補助して社員の生活にかかる負担を軽減する福利厚生のこと。似た言葉に「住居手当」があり、どちらも同じ意味で使われます。

人材紹介のマンパワーグループが18歳から60歳までの男女約1,000人を対象に実施した調査によると、会社の福利厚生として良いと感じる福利厚生の第1位は住宅手当・家賃補助(48%)。住宅手当の人気を裏付ける調査結果となっていました。

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そもそも福利厚生とは?

福利厚生は、社員やその家族の暮らしをサポートする目的でつくられたものです。社員が働きやすい労働環境を整備し、一人ひとりが持つ能力を存分に発揮してもらうためには欠かせない制度となっています。福利厚生は次の2つに分かれるのです。

  • 法定福利厚生:法律によって定められている福利厚生
  • 法定外福利厚生:企業が独自の裁量で自由に決められる福利厚生

いずれもワークライフバランスの推進や、社員満足度の向上には欠かせない制度です。

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住宅手当以外にもある手当の種類

先に述べた2つの福利厚生のうち、住宅に関する福利厚生は企業が独自に定める「法定外福利厚生」に含まれます。もちろん住宅に関する手当だけではありません。

  • 法定福利厚生:会社負担分の健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料や雇用保険料など
  • 法定外福利厚生:住宅手当(家賃補助)や家族手当、社員食堂や託児施設の利用など

いずれも「いかに社員がストレスなく働けるか」「いかに長く働いてもらえるか」を第一に考えた制度です。

住宅手当の相場は?

厚生労働省「令和2年就労条件総合調査の概況」によれば、2019年11月の住宅手当の相場は1万7,800円でした。

なお住宅手当の対象は民間企業だけでなく公務員も含まれます。国家公務員の家賃補助は、月額最大2万8,000円です。

住宅手当の金額に関する法律上の取り決めはありません。どれだけ支給するかは会社ごとの判断によります。

住宅手当の支給と注意すべきこと

住宅手当の計算方法は、支給の形式によって2種類に分かれます。

  1. 給与に住宅手当を上乗せして毎月支給する形式
  2. 住宅手当を引いた分の家賃が請求される形式

住宅手当には法律的な規制や税金の優遇措置などがありません。ここでは住宅手当の具体的な計算方法とあわせて、支給の注意点を見ていきましょう。

毎月支給される給与とともに支給される場合

住宅手当の金額が1万円、かつ月給が20万円の社員を例に見ていきましょう。住宅手当が給与とともに支給される場合、毎月の振込額は「月給20万円+住宅手当1万円(合計21万円)」となります。

住宅手当を除いた分のみの家賃が請求される場合

住宅手当を除いた分のみの家賃が請求される場合とは、企業によって社宅や社員寮などが運営されている場合に取られる計算方法です。

たとえば住宅手当が1万円、額面月給が20万円、家賃が5万円の社宅を利用している場合、額面月給20万円-自己負担分の家賃4万円(本来の家賃5万円-住宅手当1万円)で算出できます。

住宅手当は企業が独自に定める法定外福利厚生の一環です。支払方法には、「給与に上乗せして支給されるか」「手当分を差し引いた家賃が請求されるか」といった違いがあります

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2.住宅手当のメリットは?

住宅手当は福利厚生にかかる費用のなかでも特に大きな割合を占める項目です。先に触れた福利厚生に関する調査によると、福利厚生で良かったと感じるものに16.7%が「住宅手当・家賃補助」を挙げています。

そもそも住宅手当を導入・支給するとどのようなメリットが生まれるのでしょう。ここでは住宅手当のメリットについて、会社側と社員側、両方から解説します。

会社側のメリット

数ある福利厚生制度のうち、住宅関連の費用は47.8%もの割合を占めています。そんな住宅手当を導入すると、会社は下記のようなメリットを受けられるのです。

  1. 企業イメージの向上
  2. 優秀な人材の定着
  3. 社員からの信頼度向上

①企業イメージの向上

求人広告の待遇欄に「住居手当有」と書かれている企業と、何も書かれていない企業。企業イメージがよいと感じるのは果たしてどちらの企業でしょうか。

労働人口の減少や雇用のミスマッチなどさまざまな原因から、転職市場では転職志望者に有利な「売り手市場」が続いています。同じ業務や同じ待遇で複数の会社に悩んだ場合、企業イメージが大きな決め手となるのは想像に難くありません。

住宅手当を設けると、会社にとって企業イメージが向上しやすくなるのです。

②優秀な人材の定着率アップ

社員のなかには賃料の高さから都心に住めず、1時間以上かけて通勤する人もいます。通勤によるストレスは、転職理由のなかでも大きな割合を占めるもの。住宅手当を支給すると、会社は優秀な人材の流出を防げるのです。

人材の定着率を高める方法には、住宅手当や住宅ローン補助のほかに社宅の導入もあります。家主と会社が賃貸契約を結んで社員を住まわせる「借り上げ社宅」には税制上のメリットも大きいため、結果として低コストになるでしょう。

③会社の信頼度が高まる

住宅手当を導入すると、会社は社員からの信頼性を高められます。住宅手当の導入によって、「生活を補助し、精神的・身体的ストレスを軽減したい」と社員にアピールできるからです。

社員の生活や健康に配慮した福利厚生は、社員からの信頼度も高めます。それにより社員満足度や生産性の向上といった相乗効果も期待できるでしょう。同業他社との差別化を図るうえでも効果的です。

社員側のメリット

社員側から見た住宅手当のメリットは、次の2つです。

  1. スキルや実績に関係なく手当が受けられる
  2. 住む場所を自由に決められる

①スキルや実績に関係なく手当が受けられる

何といっても給料の総支給額が増える点でしょう。一人暮らしの家賃や購入した住宅のローンにかかる負担は、お世辞にも少ないといえません。これらにかかる費用を少しでも減らせれば、結果として生活の余裕につながります。

②住む場所を自由に決められる

住宅手当を受けると、社員は住む場所の選択肢が広がります。「賃料の高さから会社から電車で1時間以上かかるエリアにしか住めない」「家族みんなで生活するには手狭だが、予算の都合上広い住宅を選べない」といった問題を解決する糸口になるのです。

社員が一人暮らしを始める際、住宅手当があれば新生活にかかる金銭的不安を軽減できるでしょう。精神的な負担が減って生活に余裕が出てくれば、おのずと仕事に対する姿勢や効率にも変化が出てきます。

住宅手当のメリットは、企業としてのイメージアップだけではありません。社員の帰属意識やモチベーション、生産性の向上などが期待できるのです

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3.住宅手当のデメリット

一方、住宅手当を導入するとどのようなデメリットがあるのでしょうか。大きなデメリットとして考えられるのが、税金面に関する問題です。ここでは住宅手当のデメリットについて、会社側と社員側両方から見ていきましょう。

会社側のデメリット

会社側から見た住宅手当のデメリットは、下記のとおりです。

  • 所得税の課税対象となるため、支払う税額が増える(住宅手当は給与の一部と考えられるため)
  • 社員の住まい状況や家族構成などによって手当の額に差が出るため、不公平感を与えてしまう
  • 社宅と賃貸、持ち家でそれぞれ手当額が異なる場合、社員に引っ越しに躊躇させてしまう

支給による企業側の負担

住宅手当の支給にかかる企業側の負担も、ゼロではありません。住宅手当を支給している企業の多くは、支給にさまざまな条件を課しています。

雇用形態や扶養家族の有無、通勤にかかる時間や距離など、住宅手当の支給条件にはさまざまな種類があるのです。担当者はこれらをすべて把握し、不平等にならないよう適切に手続きを進めなければなりません。

社員側のデメリット

社員側のデメリットは、下記のとおりです。

  • 社会保険や各種税金の負担が増える
  • 一人ひとりの実績や成果に関係なく支給されるため、不平等感が生まれる
  • ボーナスや残業代は基本給をもとに計算されるが、住宅手当は基本給に含まれないため基本給が増えにくくなる

特に大きいのが、税金に関する問題です。

税金の支払いが増える

住宅手当は原則として給与所得となるため、課税の対象になります。住宅手当が増えれば当然、住民税や所得税も増えるのです。

また給与所得の増加は社会保険料の算出にも影響するため、会社と社員どちらも社会保険料の負担が増えます。住宅手当の支給を申請する際は、税金と社会保険料にかかる影響まで考慮しなければなりません。

住宅手当の主なデメリットは税金面です。転職の際は保険料や税金の増減を見越した家計の見直しが必要になります

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4.住宅手当の支給条件

誰もが必ずしも住宅手当の支給を受けられるわけではありません。住宅手当は福利厚生の一環として支給される制度です。そのため法律上の明確な規定はなく、支給条件は会社によって異なります。果たしてどのような条件を満たす必要があるのでしょうか。

ここでは以下5つの側面から、住宅手当の支給条件について見ていきましょう。

  1. 正規社員である
  2. 扶養家族がいるかどうか
  3. 会社からの距離
  4. 独身・一人暮らしかどうか
  5. 賃貸住宅かどうか

①正規社員である

住宅手当の支給条件として一般的に挙げられるのが、正規の社員であること。同じ社員でもパートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用は、住宅手当の支給条件外となる場合があります。

しかし2020年に施行された「同一労働同一賃金(正規雇用、非正規雇用の間に生まれる不合理な待遇差を解消する働き)」の考えから、住宅手当そのものの見直しや改善、廃止が進んでいるのです。

②扶養家族がいるかどうか

扶養家族の有無も、住宅手当の支給基準となります。扶養家族、つまり社員の収入で養っている配偶者や子どもなどの家族が増えれば、必然的に住宅にかかる費用も増えると考えられるためです。

支給額は基本的に家族構成や人数などの状況によって変動します。なかには住宅ローンの支払額を基準として、段階的に住宅手当の支給額を決める企業もあるのです。

③会社からの距離

会社からの距離で住宅手当の有無や金額を決めている会社もあります。会社から道路上3km圏内に住む場合は2万円を条件に支給、といった条件です。

継続的な住宅手当の支給ではなく、「会社の5km圏内に引っ越した場合、初回のみ引っ越し補助として最大10万円を支給」と定めている会社もあります。

④独身・一人暮らしかどうか

独身や一人暮らしの場合に住宅手当の金額が変わる場合も珍しくありません。たとえば、「30歳未満、かつ独身である場合最大1万円の住宅手当を支給」「宅からの通勤が困難な独身者に社員寮を提供」などです。

なお、地方自治体によっては父子家庭や母子家庭を支給する制度もあります。

  • 東京都久留米市:18歳未満のお子さまと同居するひとり親家庭に月額3,500円の手当を支給
  • 埼玉県蕨市:蕨市に1年以上住むひとり親世帯に最大1万円の助成を行う など(それぞれ諸条件あり)

⑤賃貸住宅かどうか

社員の住宅が賃貸なのか、もしくは持ち家なのかによっても支給の有無や金額が変わるのです。賃貸に住んでいる場合、当然ながら毎月の家賃支払い義務が生じます。

一方、実家で親と同居している場合、親に一定額渡していたとしても、自身が家賃を支払うわけではありません。賃貸住宅や住宅ローンを支払っている場合、住宅手当の支給対象に、実家暮らしの場合は対象外とするケースに多く見られます。

住宅手当の支給条件は企業によってさまざまです。受給を検討する際は、他社との比較ではなく自社の就業規則を確認しましょう

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5.実際の住宅手当の例

住宅手当は具体的にどのような形で支給されるのでしょう。なかには毎月の補助金や社宅の提供だけでなく、他社には見られない少しユニークな方法で支給しているものもあります。

ここでは住宅手当を実際に導入している企業の実例を挙げながら、住宅手当の実情を解説します。

会社によって住宅手当があったりなかったり? 実情は?

住宅手当の導入割合は、どうなっているのでしょうか。

全国の成人男女を対象にしたインターネットリサーチによれば、住宅手当の支給がないと回答した人は100サンプル中69人。3社のうちおよそ2社は住宅手当の支給そのものがないとしています。

また総務省の調査によれば、2018年時点で住宅手当のある地方公共団体はおよそ11%。将来的に住宅手当そのものが廃止される可能性も十分考えられるでしょう。

実例1:住宅手当

学習塾および幼児教室の運営事業を行うLITALICOでは、正社員を対象に住宅手当を支給しています。支給条件は1年以上勤務している正社員で、対象社員に対して家賃の半額(上限3万円)を支給しているのです。

クックパッドも、実際に住宅手当を導入している企業のひとつ。「住宅手当・近距離奨励金」という名称で導入された制度は、会社から2km圏内に居住する社員に対して住宅補助を支給する制度です(上限毎月3万円)。

会社の2kmにはじめて引っ越す場合、近距離奨励金20万円が別途支給されます。

実例2:家賃補填

インターネット広告事業を主とするサイバーエージェントや、インターネット広告のリアルタイム取引を日本で初めて事業化したフリークアウト・ホールディングスでは「家賃補助」として住宅手当を支給しています。

サイバーエージェントはオフィスの最寄り駅から各線2駅圏内、フリークアウト・ホールディングスは徒歩圏内もしくは3駅以内が基本条件です。どちらも通勤にかかるストレスを少しでも減らしたいという思いから制度がつくられました。

実例3:社宅・独身寮

バブル崩壊によって多くの社員寮が消滅したなか、総合商社の伊藤忠商事は2018年に国内最大級の独身寮を復活。また本田技研工業(HONDA)では独身寮や社宅の手配、家賃補助なども進めています。

独身寮や社宅には原則として敷金・礼金の概念がありません。HONDAでは持家促進制度も導入し、持家取得の促進、計画的な自己資金の積み立てに貢献しています。いずれも、居住費にかかる社員の軽減を実現する福利厚生制度です。

実例4:住宅手当なし

企業によってさまざまな住宅手当を導入している一方、住宅手当の見直しや廃止を進める企業も少なからず存在します。その背景にあるのが「成果型賃金制度」の導入です。

成果型賃金制度とは、企業業績の貢献度に応じて賃金を決定するシステムのこと。年齢や在籍年数にかかわらず、実力や能力に応じて給料の妥当性を評価するという考えにもとづいています。

対する住宅手当は、基本的に社員の実績や成果に関係なく支給されるのです。2つが相反しており近年、成果主義へシフトする企業が増えているため、住宅手当の見直しや廃止が行われています。

近年、住宅手当を含む会社の固定費を可能な限り削り、その分を成果配分として社員に還元したいと考える企業も増えているのです