皆勤手当とは、所定の期間に一日も欠勤することなく勤務した場合に付く手当のことです。ここでは、皆勤手当の相場や受給条件、実際にあったトラブルなどについて解説します。
1.皆勤手当とは?
皆勤手当とは、一定の期間中一日も欠かさず出勤した場合に支給される法定外手当のこと。時間外労働や深夜労働手当などと異なり、法的に定められた手当ではありません。そのため皆勤手当が存在しない会社も、存在します。
手当とは? 主な種類一覧、課税・非課税対象をわかりやすく
初期費用無料! めんどうな紙の給与明細の発行がWEBでカンタンに。
「ロウムメイト」で時間が掛かっていた給与明細発行業務を解決!
⇒ 【公式】https://www.kaonavi.jp にアクセスし...
皆勤手当と間違いやすい精勤手当とは?
精勤手当とは、無欠勤もしくは欠勤が少ない場合に支給される手当のこと。皆勤手当との違いはなんでしょうか。まず皆勤と精勤の意味の違いについて、見てみましょう。
- 皆勤:一日も休まず出勤する
- 精勤:仕事に励む
言葉の意味に着目すれば、両者の違いが区別できます。しかし「精勤」の定義は非常にあいまいですし、何を軸として仕事に励んでいるか一言に定義できません。そのため欠勤の日数を評価軸として、精勤手当の支給有無を決定する会社が多くなっています。
皆勤手当は法定外手当に含まれる
皆勤手当および精勤手当は、法定外手当の一種で企業が独自に定める手当となります。そのためすべての企業で、必ず支給されるわけではありません。
厚生労働省が実施した調査によると、皆勤手当を支給している企業の割合はおよそ30%。大企業に比べて中小企業に多く、とりわけ運輸業や郵便業、サービス業や製造・鉱業などで多く導入されています。
なお皆勤手当は、残業代計算の基礎賃金に含まれます。また所得税の課税対象となるため、源泉徴収の対象です。
会社が出す手当の種類とは?
手当とは基本給以外に支払われる賃金のことで、給与明細では一般的に基本給と別の項目に書かれます。しかし税務上は区別されず原則として課税対象になるのです。会社が出す手当には、次の2種類があります。
- 法定手当
- 法定外手当
いずれも従業員間の金銭的な負担差を軽減するためのもので、モチベーション向上やスキルアップを促す目的があります。
法定手当
法定手当とは、その名のとおり法律で定められている手当のこと。
- 時間外手当/残業手当:労働基準法で定められた労働時間を超えて勤務した際に発生する手当
- 深夜労働手当:午後10時から午前5時までに行われた労働に対して発生する手当
- 休日出勤手当:週1回以上、4週間に4回以上の法定休日に行われた労働に発生する手当
法定外手当
法定外手当とは、法律上の定めはなく企業が独自に定めた手当のこと。皆勤手当は、この法定外手当に該当します。ほかにも役職手当や家族・扶養手当、住宅手当や通勤手当などがあるのです。
精勤手当という言葉
先に述べた「精勤手当」は、多くの企業で「皆勤手当」と同じ意味に使われます。なかには皆勤とする判定の期間や手当の内容で2つを区別する企業も存在するのです。しかしこれはどちらかといえば少数でしょう。
企業によっては多少の遅刻や早退、欠勤があっても皆勤手当を支給します。「皆勤」と名付けているにもかかわらずこういった状況でも支給する場合、皆勤手当を精勤手当、もしくは精皆勤手当と呼ぶ場合があるのです。
2.皆勤手当の相場
皆勤手当が会社独自の制度である以上、金額は企業によって異なります。平均額はいくらくらいなのでしょうか。ここでは皆勤手当の相場額や導入企業の割合、実施企業の傾向などについて見ていきましょう。
皆勤手当の平均額
厚生労働省「令和2年就労条件総合調査の概況」によると、2019年11月の皆勤手当の平均額は9,000円。なお同調査における他法定外手当の平均額は、下記のとおりです。
- 通勤手当:11,700円
- 住宅手当:17,800円
- 家族・扶養/育児支援手当:17,600円
- 勤務地手当:22,800円
- 単身赴任/別居手当:47,600円
全体の25%程度が皆勤手当を設けている
皆勤手当はすべての企業で支払われているわけではありません。厚生労働省の調査によると、皆勤手当を支給している企業の割合は25.5%(2019年11月時点)。
1974年には64.7%という高い水準を記録していましたが、以降は徐々に減少して近年では2割5分程度までになってしまいました。一体なぜなのでしょうか。
まず労働契約は、「労働者は労働日に労務を提供しなければならない」というもの。つまり労働日への出勤はある種当然のことです。
それにもかかわらず、「出勤の成績によって手当の有無を決めることがおかしい」という考えがあります。その結果、皆勤手当そのものの見直しが進んだと考えられているのです。
中小企業・サービス業・運輸業
厚生労働省の調査によると、従業員1,000人以上の大企業における皆勤手当の採用率は9.6%、一方100人未満の小企業での採用率は28.7%でした。つまり皆勤手当を支給しているのは大企業より、中小企業が多かったのです。
また皆勤手当の導入率は業種によっても異なります。特に採用割合が高かった業種は、運輸・郵便業、製造業やサービス・娯楽業などでした。
3.皆勤手当を出す理由は?
なぜ企業は皆勤手当を出すのでしょうか。その目的は大きく2つに分かれます。
- 欠勤や遅刻、早退によって生じる業務上の遅延やダメージを最小限にとどめるため
- 従業員のやる気やモチベーションを向上させるため
①欠勤や遅刻、早退によって生じる業務上の遅延やダメージを最小限にとどめるため
業界や職種によっては、継続的な働き手の確保が難しいケースも。小売業界やアパレル勤務、運送業や製造業など、交代制が必要な業務やシフト勤務などをイメージすると分かりやすいでしょう。
従業員の欠勤や遅刻が、業務上致命的な遅延・損失を発生させる場合もあるのです。これを防ぐため、企業は皆勤手当を導入し、働き手の確保につなげています。
②従業員のやる気やモチベーションを向上させるため
皆勤手当の相場はほかの法定外手当に比べて格段に大きい金額わけではありません。しかしやはり、上乗せされていれば嬉しいものです。
皆勤手当によって給与が増えれば、従業員の意識によい影響を与えます。またやる気も引き出されるため、業務の遅延や損失を防いで、スムーズな業務遂行をもたらすのです。
4.皆勤手当の受給条件
労働環境の改善により、生産性向上や従業員の長期雇用も期待できる皆勤手当。手当を受給するには、いったいどのような条件をクリアすればよいのでしょうか。ここでは皆勤手当の受給条件について掘り下げてみましょう。
皆勤手当は臨時の手当?
皆勤手当の受給条件を考えた場合、ひとつの疑問が生まれます。「皆勤手当は、割増賃金の計算に参入しない臨時の支払いになるのでは?」というもの。
結論として、これはNOです。皆勤手当は臨時の支払いと見なされません。よって割増賃金の計算に、算入されます。
なぜなら皆勤手当の支給要件が確定しており、支払いの有無は会社が決めた「支払い方」の問題にあると解釈されるからです。正社員だけでなく、パートやアルバイトの場合も同じになります。
1日も休むことなく出勤する
皆勤手当の受給条件に「1日も休むことなく出勤すること」という項目があります。しかしここでいう「1日」とは、いつからいつまでを指すのでしょうか。
「1日」の定義も会社によって異なります。有給を取得した場合や遅刻・早退をした場合でも、就業規則によっては「1日の出勤」と認められるのです。
5.有休をとった場合の皆勤手当は?
原則として、1日も休まずに出勤すれば皆勤手当を受給できます。しかし有休を取得した場合、皆勤手当は受給できるのでしょうか。また遅刻、早退をした場合はどのように計算されるのでしょう。
有休を取った場合でも受給可能
結論からいえば、有休を取得した場合でも皆勤手当は受給されます。労働基準法附則第136条にて、「使用者は有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないように進めなければならない」と明記されているのです。
労働基準法では、有休の取得を従業員の権利として認めています。つまり「有休の取得を理由に皆勤手当の支給をしない」場合、本質的には違法となるのです。しかし就業規則にて有休の取得に触れている場合、この限りではありません。
早退・遅刻の場合は?
早退、遅刻に関しても企業の方針やルールによって異なります。遅刻の理由や回数、時間によって皆勤手当に影響を与えるかどうか判断している会社も存在します。悩んだ場合は、就業規則に次のような規定が明記されていないか確認してみるとよいでしょう。
- 途中入退社の場合は日割り計算をする/皆勤手当は支給しない
- 遅刻や早退は3回で欠勤とみなす
有休と皆勤手当のトラブルの例
皆勤手当は、会社によって受給条件が異なるため、金額の大きさや与える影響の大きさにより、皆勤手当の不支給が違法と判断されない場合もあるのです。これにより有休と皆勤手当に関するトラブルが、過去に多数起きています。
一体どんなトラブルがあるのか、具体的なトラブルの事例を2つ見てみましょう。
トラブル事例1
1970年代、従業員が年休で欠勤した日を、会社が通常の欠勤と同等に扱ったため、皆勤手当が支払われず裁判になったのです。
本事件では、「年休の取得を理由とした皆勤手当の不支給は違法である」と判決が下されました。皆勤手当のために年休を取れないこと自体が違法であり、本来の皆勤手当の目的から外れていると判断されたためです。
そして会社には、従業員に対する皆勤手当の支払いが命じられました。同様の判例は他にも多数あり、いずれも違法であるという判決が下されています。
トラブル事例2
一方で、皆勤手当の不支給に違法性が認められず、労働者側の敗訴に終わった判例もあります。それが、1993年に起きた事例です。
もともと「欠勤1日に対して手当の半額が控除」「2日に対して0となる」点が労働協約にて締結されていました。その欠勤に有休が含まれていたため、裁判となったのです。しかし、2審で敗訴しました。
理由は、「給与支給額に対する影響が1.85%と少額だった」「当番表を作成した後の年休取得が運行稼働率改善の障害となる」と判断されたためです。
6.皆勤手当を導入している職業
従業員のモチベーション維持や突然の働き手不足を防ぐ目的で導入された皆勤手当。ここではそんな皆勤手当を実際に導入している職業について、具体的に見ていきましょう。もちろん、ここに挙げた業界・会社のすべてに皆勤手当があるわけではありません。
中小企業
皆勤手当は、従業員1人あたりの役割が大きい、つまり1人の欠勤が業績に大きな影響を及ぼす可能性のある中小企業が多く採用する傾向にあります。
ここでいう中小企業とは、資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社、または常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人のこと(製造業その他の場合。卸売業、小売業、サービス業など業種分類によって範囲が異なる)。
しかし皆勤手当は、2020年に施行された「同一労働同一賃金」にて真っ先にやり玉に挙げられると考えられます。そのため今後は、中小企業でも導入の減少は進むと見られているのです。
サービス業
レストランやカフェなどの飲食店、ホテルやリゾートなどの宿泊施設や娯楽施設、美容理容店などのサービス業でも、皆勤手当が導入されています。
しかしサービス業は、多岐にわたるのです。情報提供サービスやレンタル業、修理業やアミューズメント運営などもサービス業の一種。
狭義には第三次産業のうちガスや電気、水道などのインフラ、金融や保険、医療や福祉などが含まれます。これら形がない財を提供する非製造業全般が、総じて「サービス業」と呼ばれるのです。
運送業
運送業とは、荷物や人を運ぶ業務全般のこと。法人や個人から手数料(送料)を受け取り、目的地まで人や荷物を運ぶ運送業。もしもこの業種に皆勤手当がなく、業務上必要な働き手が確保できなかったらどうなるでしょうか。
「私たちを目的地に運んでくれるタクシーや電車の数が減って、予定どおりに到着できない」「スーパーの食品が届かなかったり、何日たっても荷物が届かなかったりするかもしれない」といった事態が考えられます。
運送業は、私たちの日常生活を支える非常に重要な業務。だからこそ、多くの企業が皆勤手当を導入しているのです。
郵便業
郵便業もまた、運送業と同じく現代社会において必須とされる業務のひとつ。だからこそ、多くの企業が皆勤手当を導入しているのです。
そもそも郵便業とは、郵便物や信書便物として差し出された物品の引受や取集、区分および配達を行う事業のこと。
厳密にいえば、郵便局または簡易郵便局で行う郵便事業は郵便業に分類されます。しかし銀行窓口業務や物流事業は、該当しません(金融代理業や道路貨物運送業、運輸に附帯するサービス業になる)。
採石業
採石業とは、以下2つの定義を満たした職業のこと。
- ダムや道路の建設、宅地の造成など営利・非営利に関係なく岩石の採取を目的とする事業
- 事業目的が岩石採取でなくても、社会通念からみて採石業の実施と見なされる行為が伴う事業(工事現場において分離された岩石を販売、もしくはほかの場所で使用する事業などがこれに該当する)
採石業では、肉体労働が主な仕事です。従業員のモチベーションを喚起する目的で、皆勤手当を導入しています。
砂利採取業
採石業とよく似た事業に「砂利採取業」があります。砂利採取業とは、営利・非営利、また個人・法人に関係なく洗浄を含む砂利の採取を事業目的として反復継続する事業のこと。
こちらも採石業と同じく、欠員の発生が他従業員の負担に影響します。必要以上に負担を増やさず、従業員のやる気を削がないためにも、皆勤手当が重要な役割を果たしているのです。
製造業
製造業とは、原材料に加工を施して製品を生産する産業のこと。主として新製品の製造加工を行う事業所と、製造加工した新製品を主として卸売する事業所の両条件を備えています。
皆勤手当は、製造業でも「一人欠勤してしまうとそれだけで業務が滞り、バランスが崩れてしまいがちな職場」で特に導入されています。