解雇予告手当とは、解雇を一定期間前に予告せずに従業員を解雇する場合に、従業員へ支払わなければならない手当です。支払いが必要となるケース、計算方法などについて解説します。
目次
1.解雇予告手当とは?
解雇予告手当とは、一定の解雇予告期間を空けず、かつ正当な理由がなく従業員を解雇する場合に、その従業員へ支払いが義務づけられている手当のこと。
労働基準法20条では、労働者を解雇する際は、少なくとも30日前に解雇を予告しなければならないと定めています。
雇用主が解雇日の30日前までに解雇予告を行わなかった場合、未通知日数に相当する平均賃金の支払いが必要です。従業員をその日のうちに解雇する際は、30日分の解雇予告手当を支払います。
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解雇予告とは?
解雇予告とは、解雇を従業員へ事前通知すること。解雇する30日前までに行わなければなりません。ただしこの30日間には解雇の日自体は含まれないため、解雇予告日の起算に必要です。
たとえば10月31日に解雇を予定している場合、少なくとも10月1日までに解雇予告を完了させる必要があります。
また解雇予告は口頭での通達でも可能です。ただしトラブルを避けるために「解雇予告通知書」と「解雇通知書」を書面で交付することをオススメします。
解雇予告とは? 手続きや注意点、手当の計算法をわかりやすく
解雇予告とは、従業員を即時解雇せず、あらかじめ解雇日を伝える手続きのこと。本記事では、解雇予告と即時解雇との違いや解雇予告が必要ないケース、解雇予告手当などについて解説します。
1.解雇予告とは?
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2.解雇予告手当を支払う必要がある場合
解雇を予告せずに即座に行ったり、予告後30日以内に解雇を実施したりする際は、解雇予告手当の支払いが求められます。
解雇手当の対象はすべての従業員であり、雇用形態を問いません。また普通解雇や整理解雇はもとより、懲戒解雇であっても解雇予告手当の支払い義務が生じます。
パート・アルバイト・試用期間中にも支払う必要がある
解雇予告手当は、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関係なく、すべての従業員が対象です。
ただし試用期間の場合、例外ルールが適用されます。試用期間の開始から14日以内であれば、解雇予告手当の支払い義務が生じません。
試用期間中でも14日を超えて働いている場合には、解雇する際には30日より前に解雇予告が必要となり、解雇予告手当の対象となります。
社内規定で試用期間を3か月間としていても、解雇予告が必要ないのは最初の14日間である点に注意が必要です。
懲戒解雇の場合も支払う必要がある
懲戒解雇であっても、普通解雇や整理解雇と同様に解雇予告手当の対象です。
懲戒解雇は従業員に対するペナルティであるため、解雇予告や解雇予告手当が不要だと考えるかもしれません。しかし懲戒解雇であっても、原則30日より前に解雇予告を行う必要があるのです。
懲戒解雇とは? 理由や条件、手続きなどをわかりやすく解説
懲戒解雇とは、労働者に科されるペナルティの中で最も重い処分です。
懲戒解雇の意味
懲戒解雇の理由
懲戒解雇の要件
懲戒解雇の判断基準
懲戒解雇の手続き
懲戒解雇を言い渡された際に残っていた有給休暇に...
3.解雇予告手当を支払う必要がない場合
特定の状況下では、解雇日の30日前に予告を行わなくても、解雇予告手当の支払いが不要になる場合があります。ここでは3つのケースを解説しましょう。
特定の労働者に該当する場合
定められた契約期間がある従業員を契約期間中に解雇する際は、通常、解雇予告手当の支払い義務が生じません。労働基準法第21条では、次に該当する労働者は解雇予告手当の適用外としています。
- 雇用期間が1か月未満の日雇労働者
- 2か月以内の期間を定めて雇用契約を結んでいる労働者
- 4か月以内期間を定めて雇用契約を結んでいる季節労働者
- 働き始めて14日未満の試用期間中の労働者(14日以降は解雇予告手当の対象)
従業員に大きな非がある場合
労働基準法第20条では「労働者の責に帰すべき事由」がある場合、つまり従業員側に重大な非があるときは解雇予告手当の対象外としています。
従業員に重大な帰責性があるかは会社または労働基準監督署が判断しますが、一般的な判断基準は次のとおりです。
- 会社内で窃盗、横領、傷害など刑法上で犯罪に該当する行為があった
- 賭博、または職場の風紀や規律を乱すような行為があり、ほかの従業員へ悪影響をおよぼした
- 採用されるために経歴詐称を行った
- ほかの事業へ転職した
- 正当な理由なく2週間以上無断欠勤し、出勤するよう促しても応じなかった
- 遅刻や欠勤が多く、注意を数回受けても改めなかった
やむを得ない事由で事業の継続が不可能となった場合
労働基準法第20条で解雇予告手当の対象とならないケースとして挙げられているのが「天災事変やその他やむを得ない事由のために事業が困難になった場合」です。やむを得ない事由に該当するか否かの判断は、労働基準監督署長が行います。
震災で工場や事業所が倒壊した、近隣の火事で延焼により事業所が焼失したなどの場合は、やむを得ない事由にあたります。しかし、自社の過失や故意による火災や、売上減少などによる経営難などは、やむを得ない事由として認められません。
4.解雇予告手当の計算方法
解雇予告手当の計算方法は以下のとおりです。
解雇予告手当=「平均賃金」×「支給対象日数」
一見かんたんな計算に見えるものの、平均賃金の算出には2パターンが存在するため、計算に手間取る可能性があります。計算方法を詳しく解説しましょう。
- 日数の決定
- 平均賃金の計算
- 解雇予告手当の算出
①日数の決定
支給対象日数とは、解雇予告で定める「30日」に不足している日数を指します。即時解雇の場合、予告期間がないため、30日分の解雇予告手当が必要です。解雇予告はしたものの30日より前にできなかった場合は、30日から不足分の日数を差し引きます。
たとえば解雇日の16日前に解雇予告を行った場合、必要な30日の予告期間に14日足りないため、支給対象日数は14日となるのです。
暦日数・労働日数とは
解雇予告手当の算出には、「暦日数」および「労働日数」を用います。この計算の基準となる期間は、解雇予告の直前3か月間です。
暦日数とは、土日祝日を含むカレンダー上の日数を指します。たとえば5月の暦日数は31日、6月は30日、7月は31日です。5月から7月の3か月における暦日数の合計は92日となります。
労働日数とは実働した日数を指し、欠勤した日は含みません。たとえば5月の実働日数が20日間、6月は21日、7月は19日だった場合、この従業員の5月から7月における3か月間の労働日数合計は60日となります。
②平均賃金の計算
平均賃金の計算には、過去3か月間の総賃金を基にして行います。3か月の起算日は、解雇予告日の直前にあたる給料締め日です。
合計賃金は、所得税や社会保険料を控除しない給与額です。通勤手当や住宅手当、役職手当、残業代などを含みますが、賞与や出張手当など臨時的な手当や役員報酬、現物給付されているものは含まれません。
平均賃金は2通りの計算を行い、高額なほうの平均賃金を適用します。
- 直近3か月の合計賃金÷直近3か月の暦日数
- 直近3か月の合計賃金÷直近3か月の労働日数×0.6
なお上記の2は、法律で定められている「平均賃金の最低額」を算出する計算式です。また算出された平均賃金は、1円未満の端数を切り捨てます。
③解雇予告手当の算出
最後に以下の計算式で解雇予告手当の金額を求めます。
解雇予告手当=平均賃金×支給対象日数
この計算で生じる1円未満の端数が生じた場合は、四捨五入することが認められています。モデルケースで解雇予告手当を算出してみましょう。ここでは「直近3か月の合計賃金÷直近3か月の暦日数」を用います。
【モデルケース】
- 週5日勤務で手当を含む月給30万円の従業員で、直近3か月の合計賃金は90万円
- 解雇日は8月31日、支給対象日数は20日
- 5月から7月の暦日数は92日
【計算】
- 90万円÷92日=9,782.6円(平均賃金) 上記の平均賃金を四捨五入し、9,783円とする
- 9,783円×20日=19万5,660円
このモデルケースで支払う解雇予告手当は19万5,660円です。
5.解雇予告手当の支払日
解雇予告手当の支払い期日について、労働基準法ではとくに定めがありません。なお厚生労働省の指針によると、即日解雇の際には、解雇を通知するタイミングで同時に解雇予告手当の支払いを行うことを推奨しています。
そのため考えられる支払い日は次の2パターンです。
- 解雇日予告後、解雇日までに支払う
- 即時解雇する場合は、 解雇当日に支払う
上記の支払日を過ぎてもとくに罰則などがないため、最終給与に上乗せする形で解雇予告手当を支払うのも可能です。
しかし解雇された従業員は会社に対してネガティブな感情を持ちやすいため、不要なトラブルを防ぐためにも、早期に支払いを完了するほうがよいでしょう。
6.解雇予告手当には所得税の源泉徴収が必要
解雇予告手当は退職金と同じく「退職所得」に分類されるため、源泉徴収の対象です。解雇予告手当や退職金などの退職所得の源泉徴収は、そのほかの収入と分離して計算します。なお解雇予告手当は社会保険料の控除対象外です。
退職所得=(解雇予告手当-退職所得控除額)×1/2
解雇予告手当から退職所得控除(最低80万円)差し引き、その差額の半分を源泉徴収の対象とします。退職後1か月以内に退職所得の源泉徴収票を交付しましょう。
ただし解雇予告手当のみの場合は、退職所得控除額の範囲内に収まることが多く、源泉徴収が不要となるケースがほとんどです。
なお源泉徴収を行う場合、解雇日を迎える前に従業員が会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかで、以下のように源泉徴収の計算が変わります。
- 提出している場合:勤続年数を用いて退職所得控除額を計算し、解雇予告手当から差し引いたうえで源泉徴収
- 提出していない場合:解雇予告手当額に20.42%の税率をかけて源泉徴収
7.解雇予告手当未払いの罰則
解雇予告手当の未払いは労基法違反と見なされ、法的な罰則を受けます。訴訟や労働審判に発展すれば、付加金の支払いを命じられることもあるのです。
刑事罰
解雇予告手当の支払いを怠った場合、労働基準法に違反するとして6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科させられます。
予告なしの解雇や解雇予告手当の不支給は重大な違反です。労働基準法違反がステークホルダーに知られた場合は信用を損ねるかもしれません。刑事罰を受けたうえに、自社の価値を大きく下げてしまう可能性があります。
訴訟・労働審判
解雇された従業員が雇用主の対応に納得せず、民事訴訟や労働審判を起こすケースは少なくありません。これらに対応するための時間と労力がかかります。敗訴のリスクのほか、会社のイメージや価値にも悪影響をおよぼすリスクが懸念されるのです。
付加金の発生
付加金とは、労働基準法で定められた賃金や手当を支払わない使用者に対して、労働者が追加で請求できる金銭です。労働者は未払いの解雇予告手当にも付加金を請求できます。付加金の金額は、労働者は本来もらえるはずだった金額の2倍にあたる額です。