会社で年末調整しない場合、自分で確定申告を行います。ここでは、会社で年末調整をしない場合について解説します。
目次
1.会社で年末調整しない場合はどうする?
会社で年末調整しない場合、確定申告が必要です。通常、会社に扶養控除等申告書を提出すれば年末調整をしてくれます。しかし、なんらかの理由により会社で年末調整しない場合、所得に応じた適正な所得税額を確定させるために確定申告を行う必要があるのです。
また扶養控除等申告書を提出しても、状況次第で年末調整されないケースもあります。
2.会社で年末調整する場合、しない場合
会社で年末調整する場合としない場合があります。年末調整の対象になる人と、ならない人について解説しましょう。
年末調整の対象となる人
「給与所得者の扶養控除等申告書」いわゆる扶養控除等申告書を年末調整を行う日までに会社へ提出している一定の人です。ただし対象であっても、「年末調整を12月に行う」「年の中途で行う」場合とで要件が異なります。
12月に行う年末調整の対象になる人
12月に行う年末調整の対象になる人とは、1年間の給与総額が2,000万円を超える人を除いて年末まで勤務している人。
年の途中で行う年末調整の対象になる人
年の途中で行う年末調整の対象になる人の要件は以下のとおりです。
- 海外支店に転勤したため非居住者となった人
- 死亡により退職した人
- 著しい心身の障がいにより退職した人(退職後に再就職し、給与の受け取り見込みのある人を除く)
- 12月の給与の支払を受けたあとで退職した人
- 退職後、同じ年にほか勤務先から給与支払を受ける見込みのある人を除き、パートタイマーとして働いている人が退職し、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下の人
年末調整の対象とならない人
原則、その年に退職しており、12月31日時点で会社に在籍していない人となります。そのほか、年末調整の対象とならない人の要件は以下のとおりです。
- 1年間の給与収入の合計額が2,000万円を超える人
- 災害減免法により、所得税の源泉徴収の納税猶予や還付を受けている人
- 2カ所以上から給与支払を受けており、別の勤務先に扶養控除等(異動)申告書を提出している人
- 扶養控除等(異動)申告書を提出していない人
- 年の中途で退職して年末調整の対象となるケースに該当しない人
- 非居住者
- 一定の条件を満たす日雇労働者
なお転職者は、「転職前の会社では年末調整の対象外」「転職後の会社では年末調整の対象」となります。
パートタイマーの年末調整は必要?
パート・アルバイト・契約社員なども年末調整は必要です。会社に雇用されていて、扶養控除等申告書を会社に提出している人が対象となるため、パートやアルバイトといった雇用形態を問わず、年末調整を行います。
通常、社会保険料控除後の月の収入が8万8,000円以上になるとパート、アルバイトであっても所得税が源泉徴収されるのです。所得税を払い過ぎている場合、年末調整で精算できます。
3.年末調整と確定申告
所得税の納税方法は、年末調整・確定申告があります。
- 年末調整
- 確定申告
- 年末調整と確定申告との違い
①年末調整
給与から源泉徴収されている所得税額を再計算して、適正な税額を確定させること。所得税は一年間の所得に応じて税率が決定されます。12月末になれば、正確な年度の所得が確定するのです。
年末調整によって、源泉徴収した概算の所得税額の再計算や還付、追加納税などの調整を行えます。
国税庁による年末調整の定義
国税庁による年末調整の定義は、以下のとおりです。
「給与の支払者は、毎月(毎日)の給与の支払の際に所定の源泉徴収税額表によって所得税及び復興特別所得税の源泉徴収をすることになっていますが、その源泉徴収をした税額の1年間の合計額は、給与の支払を受ける人の年間の給与総額について納めなければならない税額(年税額)と一致しないのが通常です。」
「1年間の給与総額が確定する年末にその年に納めるべき税額を正しく計算し、それまでに徴収した税額との過不足額を求め、その差額を徴収又は還付し精算することが必要となります。この精算の手続を「年末調整」と呼んでいます。」
年末調整とは? 確定申告との違い、対象者、流れ、計算、適用される控除
年末調整とは、1年間に支払った所得税の過不足を調整する作業のことです。ここでは必要な理由や確定申告との違いなどさまざまな点から、年末調整について解説します。
1.年末調整とは?
年末調整とは、所得税...
②確定申告
個人一人ひとりの1年間の税額を確定させるために自己申告する制度のこと。
- 確定申告の該当期間は1月1日~12月31日
- 確定申告の申告期間は翌年2月15日~3月15日
つまり1年間(1月1日から12月31日まで)の収入の合計金額から税額を計算し、翌年に申告するのです。
国税庁による確定申告の定義
国税庁による確定申告の定義は、以下のとおりです。
「所得税等の確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた全ての所得の金額とそれに対する所得税等の額を計算し、申告期限までに確定申告書を提出して、源泉徴収された税金や予定納税で納めた税金などとの過不足を精算する手続です。」
確定申告とは? やり方、期間、対象者、手順をわかりやすく
確定申告は、所得税の税額を計算して納税する手続きです。そんな確定申告では、一体どのような事柄を行うのでしょうか。ポイントを詳しく解説します。
1.確定申告とは?
確定申告とは、1年間の所得にかかる税...
③年末調整と確定申告との違い
年末調整と確定申告の違いは、下記のとおりです。
- 年末調整は所得税の過不足を精算する
- 確定申告は所得の申告をする手続き
年末調整も確定申告も納税にかかわる手続きとなります。年末調整の目的は、「給与から毎月源泉徴収した税額」「一年間の収入から計算した適正な税額」の過不足を計算し精算すること。
一方、確定申告は、フリーランスや個人事業主が収入を申告し、適正な税金を確定させるために行います。
4.人事総務が知っておきたい年末調整の手続き
年末調整はどのように手続きを進めるのでしょう。それぞれについて解説します。
- 従業員からの各種書類の提出
- 年末調整の計算
- 源泉徴収票の作成、発行
- 法定調書作成、提出
①従業員からの各種書類の提出
毎年10~11月頃、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「給与所得者の保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」の準備を開始します。必要事項を記入後、従業員に生命保険・地震保険などの控除証明書とともに、提出してもらいます。なお、その年分の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書が提出されていない場合は、年末調整はできません。
従業員に必ず提出を求める書類
従業員に必ず提出を求める書類は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書です。給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、扶養控除等申告書とも呼ばれます。
扶養している親族について、氏名やマイナンバー、居住地などさまざまな情報を記入するための書類です。本人に扶養親族がいない場合にも記入、提出が必要となります。
該当者のみに提出を求める書類
該当者のみに提出を求める書類は以下のとおりです。
- 所得のある配偶者がいる場合に受けられる控除のための給与所得者の配偶者控除等申告書
- 一般生命保険、国民年金保険料などを申告し控除を受けるための給与所得者の保険料控除申告書
- 住宅ローンを利用してマイホームを買った人に関する控除を受けるための住宅借入金等特別控除申告書
- 年途中で入社した人の前職の源泉徴収票
会社は提出書類の記載内容に従ってさまざまな控除の計算をし、適正な納税額を計算します。控除を受けたい従業員は期日までに必ず提出しなければなりません。
②年末調整の計算
年末調整の計算は以下の手順で進めます。
- 1年間の給与支給額から年間収入額を算出する
- 控除した社会保険料や源泉徴収した所得税を別途集計する
- 1年間の総収入額から、収入額に応じた給与所得控除額を差し引き、給与所得額を決定する
- 給与所得額から各種控除申告書にある所得控除額を差し引き、最終的な課税所得を算出する
- 課税所得に所得税率を掛けた後、控除額を差し引き、年間所得税額を算出する
- 年調所得税額に復興特別所得税を乗じ、年調年税額を算出する
- 源泉徴収した所得税額と年調年税額を比べ、過不足分の精算を行う
③源泉徴収票の作成、発行
源泉徴収票を作成する際、下記を記載します。
- 支払金額
- 所得控除額の合計額
- 源泉徴収税額
- 控除対象扶養家族の数
- 社会保険料等の金額
- 生命保険料の控除額
源泉徴収票の発行のタイミングは、「年末調整後」「従業員の退職時」「従業員からの要請時」となります。
源泉徴収票に関する注意事項は以下のとおりです。
- 源泉徴収票は非正規雇用者にも発行する
- マイナンバーの記載は不要
- 通勤手当は課税対象外の項目であるため、支払金額に通勤手当は含めない
源泉徴収票の交付は事業主の義務
源泉徴収票は、給与を支払っている会社のみが発行できる大事な書類。よって源泉徴収票の発行は事業主である企業が行わなければならない義務です。年末調整後・従業員の退職時・紛失などによる再発行など従業員から要請があった場合、応じなければなりません。
④法定調書作成、提出
法定調書とは、所得税法にもとづいて納税者が税務署に提出する書類のこと。会社が提出する法定調書は以下のとおりです。
- 源泉徴収義務者が支払った内容を記載した支払調書
- 税務署に提出する各種法定調書を集計した法定調書合計表
- 従業員に渡したものと同じ源泉徴収票
- 事業者から市区町村へ提出する給与支払報告書
5.会社が年末調整をしないのは違法?
会社が年末調整をしないと違法になるのでしょうか。結論からいえば会社が年末調整をしないのは違法です。年末調整は、その年の最後に支払う給与で、源泉徴収した税額と実際に支払うべき税額の過不足を精算すること。
所得税法により会社は、パートやアルバイトなど雇用形態を問わず原則、すべての従業員から扶養控除等申告書を提出してもらい、年末調整を行うと定められているのです。
もし会社が年末調整を行わない場合、所得税法違法となり、罰則が科せられる場合もあります。
年末調整を行わなかった会社への罰則
会社は従業員へ賃金を支払う以上、年末調整を実施する義務があります。年末調整は、従業員の適正な所得税額を計算する大変重要な制度。そのため、年末調整を実施しない会社は所得税法違反と見なされ、以下の罰則が科せられるのです。
- 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金
- 過少申告加算税と延滞税
なお「書類の提出」「所得税の納付遅延」などでも、罰則が科される場合もあります。
従業員の都合で年末調整ができなかった場合
「従業員が扶養控除等(異動)申告書といった必要書類を提出しなかった」のように、年末調整ができなかったケースもあるでしょう。このような場合、会社には非がないので罰則の対象にはなりません。
なお会社で年末調整しなかった従業員は、自分で確定申告を行います。
従業員が年末調整を拒否した場合
会社は年末調整をしようとしているのに、従業員がそれを拒否した場合です。
所得税法194条では、扶養控除等申告書の提出について「従業員は、給与所得者の扶養控除等申告書を勤務先経由で税務署へ提出しなければならない」と規定しています。従業員が年末調整を拒否した場合従業員自身が所得税法違反になるのです。
6.会社で年末調整しない場合の確定申告の方法
会社で年末調整しない場合には、自分で確定申告をします。確定申告のステップと方法を解説しましょう。
- 必要書類の整備
- 確定申告書の入手と作成
- 確定申告書の提出と納税
①必要書類の整備
確定申告には、「申告書作成に必要となる資料」「申告時に添付を求められる添付書類」を事前に整備しなければなりません。たとえば、下記のような必要書類を整備します。
- 還付を受けるための金融機関の口座情報
- 帳簿の内容を確認するための領収書やレシート
- 医療費控除証明書、社会保険料控除証明書、寄附金受領証明書など、控除に関する各種証明書
- マイナンバーカード
②確定申告書の入手と作成
入手しなければならないのは、下記の書類です。
- 確定申告書
- 白色申告の場合、収支内訳書、青色申告の場合、青色申告決算書
確定申告書の入手方法
確定申告書には、A様式とB様式があり、下記のように定められています。
- 会社員、年金所得者などはA様式とB様式のどちらも使用可
- 個人事業主はB様式を使用
確定申告書の入手方法は以下のとおりです。
- 国税庁のWebサイトから用紙をダウンロードする
- 税務署や確定申告会場の窓口
- 市区町村の担当窓口
- 確定申告ソフトの使用
- 国税庁のWebサイト「確定申告書等作成コーナー 新規ウィンドウで開く」を使用
確定申告書の作成
確定申告書の作成方法は、入手した申告書によって異なります。
- 国税庁が用意している確定申告のためのシステムである、確定申告書等作成コーナーや確定申告ソフトを利用する際は、パソコンを使って作成する
- 国税庁のウェブサイトで用紙をダウンロードしたり、税務署や確定申告会場などで用紙をもらったりしたら手書きで記載する
手書きの記載は非常に手間がかかるもの。記入漏れや記入欄のズレなどもあるため、確定申告ソフトを使って作成するとよいでしょう。
③確定申告書の提出と納税
確定申告書の提出方法・納税方法について解説します。
確定申告書の提出方法
確定申告書の提出方法は以下のとおり3つあります。
- 税務署の窓口に持っていき提出する
- 税務署へ郵送する
- 「e-Tax(電子申告)」を使ってオンライン上で提出する
確定申告書に必要事項を記入したら、いずれかの方法で申請します。
- 添付書類とともに税務署に直接持参
- 添付書類を同封し税務署に郵送
- 国税庁が提供する電子申告・納税システム「e-Tax(電子申告)」を利用
「e-Tax(電子申告)」なら、オンラインを使ってどこからでも申請できるため便利です。
納税方法
確定申告の納税方法は5つです。
- 振替納税を利用する
- 金融機関や税務署の窓口で現金納付する
- e-Taxで納付する
- クレジットカードで納付する
- QRコードを読み込み、コンビニエンスストアで納付する
納税方法の注意点は、下記のとおりです。
- 振替納税では領収証書が発行されない
- QRコードによる納付できる金額は30万円以下
- 税の納付期限を過ぎると、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて延滞税が課される