階層別研修とは、社員を階層ごとに分けて異なる内容の研修を受講させること。ここでは階層別研修の目的や種類、実施のポイントなどについて解説します。
目次
1.階層別研修とは?
階層別研修とは、社員を階層ごとにわけ、それぞれに異なる内容の研修を受講させること。階層は「新人社員」「中堅社員」「管理職」「役員」など、社内での役職や立場を指します。
階層別研修を実施する目的は、各役職や立場で必要なスキルや、仕事に取り組む姿勢を身につけさせること。そのため階層によって研修内容が異なります。
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企業ではしばしば研修が実施されます。研修...
階層別研修の必要性
企業の発展のためには、各社員が課題意識を持って主体的に行動し、成長していくことが不可欠です。しかし階層ごとに求められる役割やスキルは、世界情勢によってつねに変化しています。
このため社内での「役職」や「立場」が変わる場面ごとに、階層別研修を行う必要性があるのです。
2.階層別研修の目的
階層別研修の大きな目的は、階層別に求められるスキルを各社員に習得させること。しかしスキル習得だけが目的ではありません。ここでは階層別研修における企業の目的を3つ説明します。
- 企業が望む役割の自覚
- 社員の能力向上
- 社員の自主性を促進
①企業が望む役割の自覚
各階層には、それぞれに果たすべき役割があり、全社員がこの役割を正しく理解して実践しなくてはなりません。なぜなら階層は企業の業績を向上させ、経営目的を達成するために作られているからです。
しかし階層の役割を十分に理解せずに、各自の考えにもとづいて行動すれば、組織としての方向性が定まりません。時間や労力をかけても、求める成果を得られないでしょう。
組織としての方向性を定め、各階層に求められる役割を一人ひとりの社員に周知させるためには、階層別研修が効果的なのです。
②社員の能力向上
階層別研修では、対象社員に「所属する階層に必要な知識やスキル」を習得させます。なぜなら各社員が、それぞれの階層において企業が求める役割を理解していても、業務で実践できなければ意味がないからです。
社員すべてが階層にふさわしいパフォーマンスを発揮できれば、組織が強化されて企業全体の発展につながります。
③社員の自主性を促進
各階層に求められる役割は一定ではありませんし、研修で習得したスキルが、今後も役立つとは限りません。なぜなら流動的な社会情勢のなか、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化していくからです。
社員に根本的な業務の意義を教育し、状況に応じて「求められる役割」や「必要なスキル」を自ら習得することの重要性を認識させるために、階層別研修が役立ちます。
3.階層別研修と選抜研修の違い
階層別研修とよく比較される研修制度が「選抜研修」です。
選抜研修とは「企業が重視する育成分野において、一定の基準を設けて期待する人材を選抜して、戦略的に行う研修」のこと。「次世代リーダーの育成」「次期経営陣の育成」「特命ミッションの推進」などの内容で行われるのが一般的です。
ここでは、階層研修と選抜研修の「目標」と「対象者」の違いを説明します。
目的の違い
階層別研修の目的は「底上げ」です。ある階層になった社員全員に、そこで必要な能力や仕事への取り組み方を習得させるために行います。
一方選抜研修の目的は「引き上げ」です。企業が期待する社員を選抜して、ひとつ上の階層に上がるためのスキルや思考法を学ばせます。
つまり階層別研修は「ある階層になってから行う研修」なのに対し、選抜研修は「ある階層になる前に行う研修」なのです。
対象者の違い
階層別研修は「その階層になった社員全員が対象」です。一方選抜研修は「企業に選ばれた優秀な社員が対象」であり、全員が受けるものではありません。
選抜研修に選ばれた社員には、研修に参加する意味を理解してもらうため、企業側の考えをしっかり伝える必要があります。ただし同時に、選抜されなかった社員へのケアも考慮しなければなりません。
4.階層別研修体系図とは?
階層別に求められる「役割」「スキル」「目標」「研修内容」を明確化して、わかりやすい図にしたもの。たとえば「新入社員」なら「社会人としての基礎を身につける」ことを目標に、「業務の基礎技能」「タイムマネジメント」といった研修を行います。
しかし「中堅階層」になると「リーダー」という目標に変わり、「業務の基礎技能」にくわえて「リーダーシップ」「キャリアアップ」などに関する研修が追加されるのです。
このように文字だけで表すと、複数階層に渡る研修内容がわかりづらくなってしまうでしょう。これらを図にまとめると、階層別の目標やそれを達成するために必要な研修内容を整理できます。
階層別研修体系図の必要性
計画的で自社の実情に合った研修体制を構築するには、研修体系図の作成が必要不可欠です。企業の教育で問題になりがちなのが「思いつきの教育」。無計画で継続性がない、あるいは研修後のフォローがなくすべて本人任せにするような教育を指します。
このような教育では、社員の育成にいくら労力とコストをかけても大きな成果は得られません。研修体系図を見れば、「その階層の社員には、どんな研修が必要なのか」「研修後の効果を上げるために、どんなフォローをすればよいのか」がひと目でわかります。
5.階層別研修体系図の作り方
階層別研修体系図の作成は、研修体系の見直しから始めます。階層別研修体系図を作るための手順を説明しましょう。
- 体系図の項目考案
- 社員の役割を明確化
- 研修のニーズ調査
- 研修内容の決定
- 図式化
①体系図の項目考案
階層別研修体系図の「縦軸」と「横軸」の内容を考えます。縦軸には役職や等級などの階層、横軸には研修内容を入れるのが一般的です。
たとえば「トヨタ自動車」の教育体系図は「事技系」と「技能系」にわけ、それぞれの内容に合った項目を策定しています。ここでは事技系の項目をご紹介しましょう。
【縦軸】
- 事技職「基幹職」「主任職」「指導職」「担当事技職」
- 業務職「上級業務職」「担当業務職」
【横軸】
- 職位別教育
- 資格別教育
- 知識・スキル教育
②社員の役割を明確化
次に縦軸に設定したそれぞれの階層の役割を明確にして、どの階層の社員にどのような内容の教育をするかを検討します。各階層に求められる役割は企業によって異なり、一般的には以下のような内容が挙げられるのです。
【管理職】
- 部門戦略の立案
- 部下の能力開発と人材育成
- 担当部門の業績向上
【中堅社員】
- 周囲とともにチームとしての成果を上げる
- 自ら課題設定を行い問題解決に取り組む意欲を持つ
【若手社員】
- 業務遂行のためのスキルや知識の習得
- 業務への積極性と主体的な取り組み
③研修のニーズ調査
各階層の役割が明確になったら、横軸の「研修内容」を検討します。このとき研修内容を研修担当者だけで策定するのはオススメできません。
現場の声を聞き、現状のニーズに合ったテーマを策定しないと、対象社員の興味が薄れて研修の効果が高まらないからです。各階層の社員やその上司にヒアリングをして、現場のリアルなニーズを調査するとよいでしょう。
④研修内容の決定
現場のニーズを調査して研修テーマを決めたら、各階層の具体的な研修内容を決定します。以下で各階層における研修内容の例を紹介しましょう。
【管理職研修】
- 組織マネジメントの方法
- リスクマネジメントの知識やスキルの習得
【中堅社員研修】
- リーダーシップに必要な知識とスキルの習得
- アサーティブ、アンガーマネジメントのスキル習得
【若手社員研修】
- ビジネスに必要な思考法や実務スキルの習得
- OJTやプレゼンなどコミュニケーションスキルの習得
⑤図式化
研修の内容が決まったら体系図にまとめます。体系図に決まった様式はありません。表形式を用いて、縦軸に等級や役職、横軸に研修内容や研修の目的などを記載する書式が多く見られます。
厚生労働省や人材コンサル、あるいは他社の体系図なども参考にしながら、自社に合った様式で図式化しましょう。
6.階層別研修のメリット
階層別研修はスキルの習得はもとより、ほかにもいくつかのメリットを得られます。ここでは階層別研修の3つのメリットを説明しましょう。
- スキルや知識の共有
- 人材育成のコスト削減
- 目的意識を再認識
①スキルや知識の共有
同じ階層の社員が集まりコミュニケーションを取ると、研修で得た知識やスキルを深く共有できます。同じ階層の社員は同等の経験を積んでおり、同じ課題や悩みを抱えている可能性が高いからです。
また企業側は、階層別研修をとおして各階層が持っている基本的な知識やスキルを把握できます。それらの情報を生かし、人事や研修を効率的に行える点もメリットです。
②人材育成のコスト削減
各階層に対する研修を繰り返してノウハウが蓄積されるため、本来大きなコストがかかる人材育成を低コストで行えます。
選抜研修を実施する際、戦略や目的などによって研修内容が変わるため、教材や講師、会場などの準備を都度行わなければなりません。
しかし階層別研修は、各階層に至った社員に対して定期的に実施します。研修目的や内容が明確化されているため、事前に実施内容や準備をマニュアル化しておくと余計なコストを抑えられるでしょう。
③目的意識を再認識
階層別研修を受けた社員は「自分が企業から何を求められているのか」を自覚するようになります。
社内での自分の役割を客観的に認識でき、仕事に対する責任感が芽生えるからです。また役割を遂行するために必要となる知識やスキルが明確になるため、自主的に取得へ取り組むでしょう。
目的意識は、社員のモチベーションも向上させます。モチベーションが上がると作業効率や生産性、エンゲージメントなども高まるため、企業にとっても大きなメリットとなるのです。
6.階層別研修のデメリット
メリットの多い階層別研修にはデメリットもあります。
形骸化の恐れ
「昇格した時に行われる顔合わせのようなもの」「定期的に参加するルーティンのような研修」などと捉える社員が多いと、形骸化する恐れがあります。これでは研修を実施しても高い効果が期待できません。
形骸化を避けるためにも、企業全体で階層別研修の重要性を理解しておきましょう。上司があらかじめ研修の目的を伝えておけば、研修を受ける社員の意識も変わります。
スケジュール調整が必要
対象社員をひとつの会場に集めて実施するため、社員のスケジュール管理が必要です。このため多くの企業ではスケジュール調整が難しく、とくに管理職以上の研修は実施回数が少ない傾向にあります。
このデメリットを回避するには、それぞれの場所で研修に参加できるオンライン研修が有効です。また内容を録画すれば繰り返し視聴でき、理解がより深まります。
7.階層別研修実施のポイント
階層別研修といっても、全員へ一律的な研修を行うわけではありません。また研修内容の改善も必要です。ここでは実施時のポイントを3つ解説します。
- 研修は個人単位で育成
- 定期的に内容を再検討
- アウトプットを意識
①研修は個人単位で育成
階層別研修で重要なのは、各社員の立場でそれぞれが知りたい情報を与えること。「この階層の社員はこうあるべき」という一律的な内容を押しつけず、個人の現状に合わせて育成しましょう。
「この社員にはこのスキルを確立する」「この社員にはこの知識を身につけさせる」など、各参加者に対して柔軟かつ戦略的に運用するのがポイントです。
②定期的に内容を再検討
企業を取り巻く流動的な環境に合った研修を実施するためにも、定期的に内容を見つめなおして再検討しましょう。
また実施内容をマニュアル化して準備を簡略化できるメリットがある反面、研修内容がマンネリ化しやすいという欠点があります。何年も同じ内容で階層別研修を実施せず規模や経営目標、アンケート結果などから最適な内容へ改善しましょう。
③アウトプットを意識
階層別研修の基本は「インプット」と「アウトプット」で、現在ではとくにアウトプットが重視されています。インプットした知識やスキルをアウトプットすることで理解が深まり、自身の能力として身につきやすいからです。
研修には「個人発表」や「グループ発表」「ロールプレイング」など、アウトプットを意識した活動を積極的に取り入れるとよいでしょう。
8.階層別研修の課題
階層別研修を実施するにあたり、研修の設計や教育体系の見直しなども課題です。しかし根本的な2つの課題にも対峙しなければなりません。
積極的な参加意識
階層別研修では、指定された内容の研修を受講します。つまり対象社員は研修内容を自ら選べるわけではありません。このため自ら積極的に学ぶ意識が高まらず、「なんとなくよい話が聞けた」と満足して終わってしまう恐れもあるのです。
またスケジュール管理の難しさから、役職が上の階層ほど出席率が低いという課題もあります。
全階層へ積極的な参加意識を持たせるには現場のリアルなニーズを調査して実際の業務に役立つ研修内容を準備し、研修のオンライン化も検討すべきです。
研修と業績向上の不一致
「階層別研修をしても業績に結びつかない」と悩む企業も少なくありません。たとえばある企業では、階層別研修を行っても業績が伸びませんでした。そこで原因を調査したところ、以下の点が判明したのです。
- 「営業利益」「販管費」などの基本的な数字を理解していない社員が多い
- 中堅以上の社員の業務時間の多くが、部下の文書添削に費やされている
その結果、全階層の研修へ「数字を読む力」と「文書作成能力」を養う内容を盛り込みました。このような課題はどの企業でも起こりえるため、研修の効果測定と改善は必須といえます。
9.階層別研修の種類とカリキュラム例
階層別研修の対象は新入社員から役員までにわたります。各階層研修で用いられるカリキュラム例を紹介しましょう。
新入社員研修
ついこの間まで学生だった社員を対象とするため、ビジネスマナーやマインドなど社会人としての自覚を高めるカリキュラムが必要です。具体的には以下の研修が挙げられるでしょう。
- コンプライアンス研修:法令遵守や個人情報の管理など
- ビジネスマナー研修:挨拶や敬語、電話やメールなどの対応、ビジネス文書の作成など
- OA研修:パソコンや社内システム、関連ツールの使い方など
- マネー研修:社会保険や税金、給与体系など
新卒だけでなく、社会人としてブランクがある社員や、他業種から転職してきた社員に対する新人研修も整備しておきましょう。
若手社員研修
正確な業務の遂行が求められる若手社員に必要なのは、「計画性立てて実行する力」や「論理的に考える力」。中堅社員へステップアップするための土台になるスキルを育成するカリキュラムを整えましょう。具体的には以下の研修が挙げられます。
- プロジェクトマネジメント研修:段取りや仕事の進め方など
- 対人対応研修:ビジネスコミュニケーションやリーダーシップなど
- ロジカルシンキング研修:論理的に考えて伝えるための思考、クリティカルシンキングの必要性など
中堅社員研修
一般的には入社3年目以降の役職のない社員を指します。「管理職と現場の橋渡し」という役割を求められる場合も多いため、自分だけでなくチームの成果をあげるためのスキルを養う研修が効果的です。具体的には以下の研修が挙げられるでしょう。
- フォロワーシップ研修:リーダーのサポートや組織の強化など
- メンター研修:後輩に対する助言や指導におけるポイント
- セルフマネジメント研修:自身の仕事を振り返り改善するためのノウハウ、自分も含めてチームの成果を上げる方法など
管理職研修
管理職研修には「新任管理職研修」「管理職研修」(課長クラス)、「上級管理職研修」(部長クラス)にわけられます。研修では、それぞれの階層に合わせた管理スキルや人材育成スキルを養います。具体的には以下の研修が挙げられるでしょう。
- リーダー育成研修:リーダーとなる人材の発見と育成
- コーチング研修:部下に気づきを与えるコーチングのノウハウ
- マネジメント研修:業務、人材、スケジュールなどのマネジメント方法
役員研修
役員研修には「取締役研修(新任・在任)」「役員・幹部研修」などがあります。役員に求められるのは「全体的・長期的な視点での問題発見力」や「問題解決できる仕組みを作る力」です。
ほかにも「業務管理」「企画立案」「部下の育成」など多くのスキルが必要となります。具体的には以下の研修が挙げられるでしょう。
- アカウンティング研修:会計や経理、会計報告の知識
- コンプライアンス研修:社会的規範や企業倫理、社内規定、就業規則などの知識
- 財務戦略研修:経営目標の達成に向けた資金調達や運用