過剰適応とは、自己犠牲をして他人や組織のために尽くしてしまう状態のこと。原因、症状、治し方、職場への影響などを解説します。
目次
1.過剰適応とは? 意味や特徴
過剰適応とは、自分が置かれた環境に合わせようと、自分の考えや行動を合わせすぎてしまう状態のこと。心理学では自分の都合よりも周りを優先させて、無理しながらもがんばっている状態を指す場合もあります。
過剰適応を起こしやすいのは、「人に良く思われたい」「認めてもらいたい」といった承認欲求が強すぎる人。このような人は本来の自分の性格よりも他人からの目を優先してしまい、過剰適応に陥る場合があるのです。
しかも一度人から認められると「もっと認められたい」とさらに承認欲求が高まり、過剰適応が習慣化しやすくなります。
また人から物事を頼まれると断りにくいと感じる人や、うつ病・パニック障害など精神疾患に陥りやすい人も、過剰適応を持ち合わせている傾向にあるのです。
2.過剰適応の目安となるふたつの「適応」
過剰適応の場合、本来の考えや欲望を押し殺して、過剰に他人の要求に応えようとする傾向にあります。その結果、うつやパニック障害など精神疾患を引き起こす可能性も少なくありません。
しかし「周囲の期待に応えたい」などの承認欲求は誰でも抱くため、どこからが過剰適応なのか線引きが難しいとされています。そこで目安となるのが「外的適応」と「内的適応」です。
外的適応と内的適応
ふたつの違いは下記のとおりです。
- 外的適応:社会や現実の要求に応じて自分を変化させていこうとする状態
- 内的適応:幸福や満足感を経験して精神的に安定している状態
過剰適応かどうかを判断する目安は「外的適応と内的適応のバランス」にある
外的適応ばかりが重要視され、内的適応が軽視されている場合、過剰適応の傾向があるといえるでしょう。このバランスが崩れると、うつやパニック障害などにつながる恐れもあります。
青年心理学研究第28巻第1号に掲載された日潟敦子氏の論文『過剰適応の要因から考える過剰適応のタイプと抑うつとの関連』では、外的適応行動よりも内的適応の過剰行動が精神疾患に関連すると分析しているのです。
過剰な外的適応行動により「自分らしさがない」「自分に自信がない」など自己不全感が生まれてしまい、他人に合わせるしか選択肢がない状況下で、過剰適応が生じると考察しています。
3.過剰適応の原因
親子や人間関係、社会への不安などが過剰適応の原因です。さらに「和を尊ぶ」日本人特有の精神により、周囲に合わせながら自分の役割もこなさなくてはいけない場面が多々あることも原因と考えられています。日本特有の原因になり得るポイントは次の5つです。
- 不況による社会変動
- 非正規社員の増加と職場環境の悪化
- ふたつの電通事件―「過重労働」「過労自殺」
- ITの発展とストレスの高まり
- 日本人の心性:心の性質やあり方。集団主義的な日本人は、自分よりも他人や組織を優先し、周囲に合わせる傾向が強いため、過剰適応に陥りやすい
4. 過剰適応が続くと出る職場での悪影響
社員に過剰適応が続くと、ある日急に休職せざるをえない不調に陥る可能性もあります。しかし過剰適応の傾向にある人は、周囲へ心配をかけないため「大丈夫」「元気」などというので、周囲もかんたんに気づけません。
過剰適応に陥った社員を見極める方法のひとつが、上司が「疲れた」と積極的に伝えること。「辛いときは素直に伝えてもよい」という雰囲気になり、部下も自分の気持ちを言いだしやすくなります。
また過剰適応の社員がヘルプを出した際は、まず助けを求める行動や言葉に感謝するような態度をとるとよいでしょう。
「つらいときに自分の気持ちを話してくれてありがとう」と伝えると、社員は承認と安心を同時に得られます。それにより過剰適応が和らぐかもしれません。
5.過剰適応の対策と治し方
過剰適応に陥り、自分の気持ちを押し殺して相手や環境に合わせすぎると、睡眠障害、やる気の減退、精神疾患などのリスクが高まります。ここでは過剰適応に対する対策と治し方として以下の4つを解説しましょう。いくつかは、1on1に取り入れるのも可能です。
- 限界を設定
- アサーション
- 主体性を保持
- 自分の気持ちを感知
①限界を設定
過剰適応の傾向にある人は、人から頼まれるとなんでも受けてしまい、ときには自分を犠牲にしてでも相手に尽くします。「頼まれた仕事を断れず、残業してでもこなす」「パートナーのためなら何でも要求をのんでしまう」といった傾向のある人は注意が必要です。
上記のような人は過剰適応にならないよう、自分の限界を設定するのが効果的です。「相手のためにここまでなら無理のない範囲でがんばれる」と自分の中で決めておくと、自己犠牲をせず思いやりの範囲で相手の役に立てるでしょう。
職場では上司が部下の仕事量を把握し、外的にコントロールする必要があるかもしれません。
②アサーション
自分の気持ちを伝えつつ相手の気持ちも配慮する「アサーション」の考え方を訓練するのも効果的です。一般的にコミュニケーションの手段は、以下の3つが挙げられます。
- 攻撃的な自己表現
- 非主導的な自己表現(過剰適応)
- 相手と対等な自己表現(アサーティブ)
アサーションは、上記の中の「相手と対等な自己表現」の状態を目指すもの。訓練してアサーティブが実現すれば、自己犠牲的な承認を軽減できます。
職場では、アサーティブコミュニケーション研修を実施したり、面談での会話などでアサーティブコミュニケーションを実践したりする方法が有効です。
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③主体性を保持
過剰適応の状態から抜け出すには、本人が自分自身の心に触れることが重要です。自分の気持ちに素直になり、それがほかの人に認められる体験を積み重ねると、主体性を保てるようになっていきます。
心理学における主体性とは、「自己主張をする」「率先して行動する」といった意味ではありません。ほかの人の意見に従って行動しても理性的な判断ができ、自分の気持ちが揺らがない状態を指します。
主体性を育むためには、決定や決断をする機会を増やすのが効果的です。小さな成功体験を積み重ねていくと、自分の中で自分の価値観が確立していくもの。職場であれば、未知の仕事へ挑戦させるのもよいでしょう。
④自分の気持ちを感知
過剰適応の状態になっている人は、他人からの重圧により自分の心や気持ちと向き合えていない傾向にあります。まずは下記の4つを自覚するのがよいでしょう。
- 自分自身の状態
- 無理をして合わせていないか
- 本当は嫌なのではないか
- 我慢できる範囲を超えていないか
これらの自覚で自分の心と向き合うと、先に挙げた主体性を保ちやすい状態になれます。
また「メタ認知力(自分を客観的に把握して観察する)」を鍛えるのもひとつの方法です。下記のようなトレーニング方法があります。
- 「私は○○と考えているな」と自分を主語にして感情を確認する「だな法」
- リラックスして自分の感情を眺める「呼吸観察法」
- 自分の似顔絵に吹き出しで言葉をつけて、考えを分析する「自分の似顔絵法」
- 混乱していることを「事実、思考、感情に整理する」
- 「なぜ?」を繰り返し自分の考えを深堀りする「なぜなぜ法」