過緊張とは、過度な緊張状態によって自律神経のバランスが崩れてしまった状態のことです。ここでは過緊張の症状や原因、治し方などについて解説します。
目次
1.過緊張とは?
過緊張とはストレスによる緊張で交感神経が過剰に働いてしまい、自律神経のバランスが崩れてしまった状態のこと。
交感神経と副交感神経からなる自律神経は、通常相互に上がったり下がったりしながらバランスを保っています。しかしこのバランスが崩れ、交感神経から副交感神経への切り替えがうまくできなかった場合に起きるのが過緊張です。
適度な緊張は創造性や柔軟性を高め、仕事のパフォーマンスをアップさせます。しかしこの緊張状態が過度になると不眠や頭痛などの身体的不調、うつ病などのメンタルに不調をきたすおそれもあるのです。
過緊張は、仕事や人間関係などさまざまなストレスに囲まれた現代人が陥りやすい状態のひとつ。悪化しないうちに自分自身で過緊張状態を自覚して、対策を講じることが理想です。
2.過緊張の症状
過緊張が続くと睡眠障害や慢性的な疲労感、頭痛やメンタルの不調などさまざまな問題を引き起こす可能性があります。はじめのうちは単にうまく寝付けなかったり頭痛が増えたりしていた症状が、うつ病状態に発展するのも少なくありません。
過緊張性発声障害
声帯粘膜に炎症や腫瘍など目に見える変化がないにもかかわらず、声が出にくくなったりかすれてしまったりする病気のこと。喉が詰まって苦しそうな声をしている、話しているとすぐに疲れてしまうなどの症状は過緊張性発声障害の可能性があります。
過緊張性発声障害の原因は、精神的なストレスや必要以上に喉に力を入れて発生する癖などによって生じる声帯以外の収縮です。
ストレスがかかった状態、また一時的な炎症が起きた際に無理に声を出し続けてしまうと、甲状咽頭筋や輪状咽頭筋などの筋肉が固くなります。治療には言語聴覚士による音声治療が必要です。
痙攣性発声障害
過緊張性発声障害と似た症状に「痙攣性発声障害」があります。こちらも喉頭に運動麻痺や器質的異常を認めないものの、声がつまる、声が震えるなどの症状が見られる病気です。
過緊張性発声障害と区別しにくいため、専門の音声外来で診察を受ける必要があります。
3.過緊張の原因
過緊張のおもな原因は、過度なストレスによる自律神経の乱れです。
そもそもストレスとは外部から刺激を受けた際に生じる緊張状態のこと。ストレスの原因となる刺激を「ストレッサー」といいストレッサーは日常のあらゆる箇所に潜んでいるのです。代表的なストレッサーとして、以下の例が挙げられます。
- 化学的ストレッサー:化学物質による刺激のこと。公害物質やアルコール、食品添加物など
- 心理社会的ストレッサー:会社や家庭など社会生活を営むうえで生じる刺激のこと。人間関係やライフイベント、経済状況や社会的立場など。日常生活で用いられるストレスは心理社会的ストレッサーを指す場合が多い
- 物理的ストレッサー:物理的な環境刺激によるもの。騒音やにおい、温度や光など
- 生物的ストレッサー:生体が免疫反応を起こす刺激のこと。ウイルスや細菌、花粉や疾病など
これらのストレッサーをすべて排除するのは不可能といえます。つまり私たちは無意識のうちにさまざまなストレスを受けているのです。
またコロナ禍によってリモートワークが浸透した現代にも、過緊張の原因が潜んでいるといわれています。仕事とプライベートとの切り替えが難しく、いつまでも仕事のモードのままで交感神経が優位に働いているケースも見られるからです。
4. 過緊張が続くと出る悪影響
すべてのストレス、緊張状態が心身に異常をきたすわけではありません。適度な緊張は交感神経を刺激し、行動力や判断力を高めます。
ただし交感神経が過剰に優位になってしまった過緊張状態が長く続くと、パニックやうつ病、高血圧や胃潰瘍などさまざまな悪影響が生じてきます。
- パニック症
- うつ病
- 胃潰瘍
- 高血圧
①パニック症
突然動悸やめまい、吐き気や手足の震えなどの発作を起こし、生活に支障が生じている状態のこと。パニック障害によるおもな症状は次の3つにわかれます。
- 自律神経バランスの崩壊による動悸やめまい、過呼吸や冷や汗など
- 自身では表現、コントロールできないほどの不安や恐怖といった異常感におそわれる
- 過緊張状態になった際の記憶を失う、あるいは何らかの要因により突然当時の記憶がフラッシュバックされる
パニック障害の治療法としては薬物による治療および精神療法的アプローチが行われます。
②うつ病
気分障害のひとつである「うつ病」は、いまやめずらしい病気ではありません。厚生労働省からは、およそ15人にひとりが生涯のあいだにうつ病を経験していると報告されています。国内におけるうつ病(躁うつ病)の総患者数は、2020年時点で約172万人です。
「何をしても楽しめない」「1日中気分が落ち込んでいる」「不眠状態が続く」「食欲がない」など身体症状によって日常生活に支障をきたしている場合、うつ病の可能性があります。
うつ病の発症原因は明確に定義されていません。しかし感情や記憶、意識を司る脳に何らかの不調が生じることにより発症するといわれています。
③胃潰瘍
胃の粘膜が炎症を起こし、一部が欠損している状態のこと。胃潰瘍の原因には細菌感染や薬の長期使用などさまざまなものがあり、過労やイライラ、不眠や不安などを引き起こす過緊張も胃潰瘍の原因となるのです。
自律神経は消化器系にも作用しています。つまり過度のストレスが続くと消化器をコントロールする自律神経がバランスを崩し、胃潰瘍を引き起こす可能性があるのです。
胃潰瘍のおもな症状は吐き気や嘔吐、みぞおちの痛みや食欲不振など。食後に痛みや不快感が見られた場合は胃潰瘍の可能性があります。
ひとえに胃潰瘍といっても良性の消化性潰瘍と胃がんによるガン性胃潰瘍があるため、上記症状がみられる場合は早めの受診が推奨されています。
④高血圧
安静状態での血圧が慢性的に高い状態のこと。日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」では診察室での収縮期血圧が140mmHg以上の場合、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上の場合に高血圧と診断しています。
もちろん緊張状態によって一時的に血圧が上昇するのは一般的であり、通常はしばらく時間をおくともとの血圧に戻るのです。
しかしこの高血圧状態が持続すると動脈硬化が早まり、心筋梗塞や狭心症などのリスクを高めます。過緊張が続くと交感神経が優位な状態も続くからです。リラックスして過緊張から抜け出せれば、血管も拡張して血圧が下がります。
参考 高血圧資料ガイドライン2019日本高血圧学会5.過緊張の治し方
うつ病やパニック障害などさまざまな影響を引き起こす過緊張は、取り返しのつかない状況になる前に過緊張状態を自覚して対策を講じることが重要です。ここでは過緊張の治し方について3つの視点から説明します。
- プライベートを謳歌
- 深呼吸
- 自律訓練法
①プライベートを謳歌
過緊張状態になるのが会社あるいはその前後だった場合、仕事が生活の中心になっている可能性も高いです。緊張が続く環境で仕事をしていたり、周囲環境に過度に敏感だったりすると、プライベートの時間にうまくリラックスできません。
- 週末なのにやり残した業務を考えて休めない
- 会社の外にいても誰かに見られているのではないかと感じ、気軽に行動できない
などが続くと過緊張を引き起こすおそれもあります。
このようなときは趣味や熱中できるものに取り組んで、プライベートを謳歌するとよいでしょう。手軽に作れる料理やアロマ、ウォーキングなどは時間や体力を大きく使わずにはじめられます。
②深呼吸
「緊張をほぐすために深呼吸する」のも手軽にリラックスできる方法のひとつ。
自律神経と呼吸には深いつながりがあるのです。人間の体は息を吸うときに交感神経、吐くときに副交感神経で支配されるようになっています。緊張状態になると、呼吸が浅くなりやすいため、意識的に深く息を吐き、副交感神経の働きを高めるのです。
深呼吸が難しいシーンではため息でも構いません。自分の意思で呼吸を整え、自律神経のバランスを整えることが目的です。電車の中やイベント時、休憩時などの緊張しやすい場面では意識的に深呼吸を繰り返し、過緊張を回避しましょう。
③自律訓練法
自己暗示によって心身の変換をもたらすリラクゼーション方法のこと。1932年、ドイツの精神科医シュルツ(Schultz, J.H.)によって体系化されました。
リラックスした状態で「右腕が重たい」「左足が温かい」など、身体の一点に意識を集中させると呼吸が整って副交感神経が優位になり、緊張状態がほぐれるのです。
1セットにかける時間は3~5分程度。1日のうちに2~3回取り入れるとより効果があがります。副交感神経が優位な状態になると寝つきもよくなるので、入眠前に取り入れて睡眠の質をよくするのもよいでしょう。