監査とは、組織の運営や経営が適切に行われているかを確認することです。ここでは監査の種類や目的、内部監査の実施手順や監査が義務付けられている企業などについて解説します。
目次
1.監査とは?
「監査」は会社の会計や経営を監督し検査すること。会社法および金融商品取引法の規定において、一定の要件に当てはまる会社には「監査」を受けると義務付けられています。
会計や経営を監督し検査すること
「監査」を文字どおりに解釈すれば「監督し、検査すること、もしくは検査する人」です。一般的に監査は、「業務の執行や会計、経営などを監督・検査し、決算書の内容が正しいか正しくないかについて会計士が意見すること」を指します。
「監査」は、専門用語で「保証」や「監査意見」と表現される場合もあるのです。
会社法で定められている
公認会計士または監査法人が、計算書類およびその附属明細書が適正に作成されているか監査する業務を「会社法監査」といいます。
上場会社をはじめ利害関係者に大きな影響力を有すると考えられる大企業など、一定の要件を満たす会社は、「会社法監査」を受けると義務付けられています。取引量が小規模な会社は影響を受ける利害関係者が少ないため、会社法監査の対象になりません。
なぜ監査が必要なのか?
「監査」を決算書の不正がないかチェックするものだと考えている人もいるでしょう。正確にいえば監査の目的は不正のチェックではなく、株主や債権者、投資家の保護です。
会社は株主や債権者、投資家に対して大きな責任を負っています。会社の利益や成長の実態を正しく公開しなければ、彼らの判断を誤らせ、結果として会社に大きな損害を与えてしまうのです。
そこで会社の実態を示す決算書が正しいのかどうかを、監査で担保します。
監査とレビューの違い
監査と「レビュー」、どちらも財務諸表の内容を確認しますが、範囲や度合い、そして信ぴょう性に違いがあります。2つの違いは、下記のとおりです。
- レビュー:あくまでも「社内」の資料や社員への質疑応答にて、決算書の内容を確認する
- 監査:社内だけでなく「外部」の情報も用いて財務諸表の内容を確認する。かかる費用や期間、信ぴょう性は監査のほうが高くなる
法定監査
監査は「法定監査・任意監査」の2種類に分かれます。「法定監査」とは、その名のとおり法令などの規定によって義務付けられているものです。
一般的な中小企業の場合、毎年税務署に提出している「法定調書合計表」に対して実施される税務調査を「法定監査」といいます。適正かつ公平な課税を実現するには、法定調書の税務調査が欠かせません。
任意監査
法定監査以外のすべての監査を「任意監査」といいます。法定監査と違って法律による規定はありません。目的は、「外部からの財務情報に対する信頼性を高める・組織としての内部統制機能を高める」などです。
任意監査を受ける企業は監査対象となる書類を用意しなければなりません。これには当然業務的負担や金銭的負担が発生します。
2.監査の種類と目的
監査とは企業の経営活動とその結果の正確性、妥当性を判断し、報告すること。監査人と目的によって下記の3種類に分かれます。それぞれの監査の目的や特徴について説明しましょう。
- 内部監査
- 外部監査
- 監査役監査
①内部監査
「内部監査」とは、その名のとおり会社が任意に設置した内部監査人や内部監査部門による監査のこと。法的な規定はないため、組織内部のメンバーが自主的に行います。
一般社団法人日本内部監査協会による「内部監査基準」では、内部監査の定義を「組織内部の規律保持と士気高揚を促し、社会的な信頼性を確保すること」と定めています。
内部監査の目的
内部監査の目的は「内部統制を機能させてリスクを減らす・社内における経営目標の達成や不祥事の防止を図る」の2つです。日常の企業活動が組織ルールにもとづいて行われているか、リスクをもたらす行為がないかをチェックします。
チェック項目は多岐にわたり、その特性に応じて以下の「会計監査・システム監査・ISO監査」などに分類されるのです。
会計監査
「会計監査」とは、公認会計士または監査法人が会社の作成した財務諸表(金融商品取引法で作成が義務付けられている書類)に対して行う監査のこと。
財務諸表が適正に作成されているかに対して、会社に利害関係のない第三者の「会計監査人」が意見を表明します。この意見によって投資家は、会社の財務情報を信頼できるのです。
システム監査
「システム監査」とは、企業が導入している情報処理システムを対象とした監査のこと。社内および外部に対して信頼性があるシステムなのか、さらに経営に対してその情報処理システムがどのように役立っているのかを審査します。
システム監査の背景にあるのは、企業運営やデータ管理のIT化にともなうさまざまなリスクの存在です。
ISO監査
「ISO監査」とは、現代のビジネスにおいて欠かせないISO認証規格の基準が満たされているかを判定する監査のこと。
内部監査と呼ばれ、適合を自ら証明する「第一者監査」、顧客もしくは組織に利害関係を持つ者によって行われる「第二者監査」、外部の独立した組織によってマネジメントシステムの適合を確認する「第三者監査」の3種類に分かれます。
②外部監査
「外部監査」とは、公認会計士または監査法人といった外部の組織形態が実施する監査のこと。金融商品取引法と会社法により、大企業には「外部監査」が義務付けられています。
外部監査の目的
外部監査の目的は、株主や投資家、債権者などの利害関係者に対して企業の会計処理や業務が適正に行われていると明らかにすることです。
外部監査がない場合、財務諸表だけが一方的に公開されるため、投資家たちは資産が効率的に扱われているかどうか判断できません。安心して売買を行うためにも、第三者の公正な立場から企業の財務諸表を担保するのが外部監査の目的です。
監査法人とは?
「監査法人」とは、公認会計士法にもとづいて公正性と信頼性の高い会計監査を目的とした法人組織のこと。
監査そのものは公認会計士ひとりでも行えるものの、大規模な株式会社の決算書を監査するには多くの公認会計士が必要になります。大規模監査に対し、組織的に質の高い監査を行うために公認会計士を集めたのが「監査法人」という組織です。
法人設立には5人以上の公認会計士が必要になります。
③監査役監査
「監査役監査」とは、業務監査と会計監査の両方を行い、取締役の職務執行が適法に置かれているかどうか監視すること。監査役監査では意見の交換だけでなく、実際の監査に立ち会ってその様子を見る必要があります。
監査役監査の目的
監査役監査の目的は職務執行の違法性をチェックすること。そのためにも監査役は取締役会に出席し、必要に応じて意見を述べなければなりません。
「取締役が違法行為を行った際はそれを差し止めるよう請求する・取締役に対して調査や報告を請求する」なども監査役監査の役割です。内部監査が時代への適応に重きを置いているのに対して、監査役監査では法令・定款の遵守に重きを置いています。
3.内部監査の実施手順業務
「内部監査」は、どのような手順で行われるのでしょうか。ここでは内部監査の手順を4つに区切って説明します。
- 計画の立案と作成
- 予備調査
- 本調査
- 調査報告
①計画の立案と作成
まずは「監査計画」を立ててリソース配分を定めます。ポイントは、自社の業務すべてを網羅したうえで監査対象となる業務範囲や考慮すべき点などの方向性を盛り込むこと。
監査結果に大きな影響を与えるため、特に内部監査人の選定は慎重に行わなければなりません。計画が決定したら監査対象部署に事前通知を行い、日時や必要データ、責任者の同席を求めます。
②予備調査
監査計画を策定したら、実際に内部監査を行う前に「予備調査」を実施します。予備調査の目的は、下記のとおりです。
- 監査対象の業務を理解する
- 監査業務で使用する情報を取得する
- 追加監査が必要な場合にその判断材料とする
規程やマニュアルの整備状況、データや書類の保管状況を予備調査にて把握してから、本調査に入ります。
③本調査
予備調査で準備された書類やデータをもとに「本調査」を実施します。本調査では「規程やマニュアルに沿った業務が実施されているか・不正な取引はないか・データや書類に関して不整合な部分はないか」などをチェックするのです。
本調査では必ず客観的な立場から監査します。また相手を責めるような物言いは避けなければなりません。たとえ問題点を見つけても、見過ごしたり感情的に責めたりしては監査の意味がなくなってしまいます。
④調査報告
本調査が終了したら、入手した監査証拠から総合的な判断を行って「監査報告書」を作成します。監査報告書は監査の概要やその結果を報告するためのもの。監査の目的や範囲、結果が記載されていれば、形式に規定はありません。
監査報告書を取締役や経営幹部、監査対象部門に提出して、問題解決のための行動を促すのです。
4.内部監査におけるIT化
組織が社会的な信頼性を確保するための内部監査には、多くの時間と労力を必要とします。内部監査を効率的に実施するため、近年注目されているのが監査におけるITの活用です。ここでは内部監査におけるIT化について説明しましょう。
情報のデータベース化を行う
紙媒体での情報管理ではどうしても保管スペースや印刷コストの問題が出てきます。膨大な書類のなかから必要な情報を都度探すのは非効率的です。
そこで情報のデータベース化を行い、コストの削減、検索の効率化を実現します。書類情報をデータベースに登録できれば、紙の経年劣化や紛失といった問題も解決するでしょう。
ツールやシステムの導入を検討する
ツールやシステムを導入し、情報のIT化を進めるとミスや不正を防げるのです。よく内部調査では出張費の不正が発覚します。紙媒体での精算管理には時間がかかるため、隠れた費用の水増しやカラ出張の隠ぺいも可能です。
ITツールやサービスを活用すれば、このような不正を防げます。入力した情報は出張者や出張命令者だけでなく関連経理部門なども見ていけるため、結果としてミスや不正を防げるのです。
5.監査が義務付けられている企業
監査が義務付けられている企業とは、何でしょう。具体的に以下の企業です。
- 大会社
- 監査等委員会設置会社および監査役会設置会社
- 会計監査人の任意設置を行った会社
①大会社
会社法328条では、以下条件を満たす株式会社が「大会社」と定義されています。
- 最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上である
- 最終事業年度に係る貸借対照表において、負債の部の合計額が200億円以上である
いずれも期末時点で判断するため、期中に増資や原資によって資本金に増減が生じても、その時点で、「大会社になる・大会社でなくなる」ような事態になりません。
②監査等委員会設置会社と監査役会設置会社
監査等委員会設置会社、および指名委員会等設置会社にも会計監査人による監査が義務付けられています。
「監査等委員会設置会社」とは2014年の会社法改正によって導入された株式会社におけるガバナンスの形態のひとつ。監査等委員設置会社での監査人の立場は取締役ですが、監査役会設置会社では監査役が監査人の立場を務めます。
なお会計監査人による監査の取扱いは、大会社と同様です。
③会計監査人の任意設置を行った会社
会社法では株主総会と取締役の設置を義務付けていますが、これ以外の機関については任意の設置となっています。定款に定めると取締役会や会計参与、そして監査等委員会や指名委員会などを設置できるのです。
会計監査人を設置した場合、定款変更によって会計監査人設置をやめるまで、会計監査人監査が法定監査として義務付けられます。
監査を置かなくてもよい条件
会社法では自由な機関設計が可能となっているのです。そのため中小企業を想定した場合、以下の企業は監査を置かなくてもよいとされています。
- 株式譲渡制限会社である
- 取締役会を設置していない
- 取締役会を設置し、かつ会計参与を設置している
- 委員会設置会社の場合
監査には、会社の業務会計が適切に行われているかどうかを調査する重要な役割があります。設置が任意とはいえ、しっかり検討しましょう。