経営力向上計画とは、中小企業などの経営力を向上させるための計画のこと。一体どのようなものか、メリットや仕組み、作成方法などについて解説します。
目次
1.経営力向上計画とは?
経営力向上計画とは、中小企業や小規模事業者などが、人材育成やコスト管理のマネジメント、設備投資といった経営力を向上させるために取り組む内容を記載した事業計画のこと。
経営力向上計画が事業所の所管大臣に申請して認定されると、「中小企業経営強化税制(即時償却等)」「各種金融支援」を受けることができます。作成にあたっては、認定経営革新等支援機関のサポートを受けることも可能です。
2.経営力向上計画によるメリット
経営力向上計画は、国による中小企業支援策のひとつですので、計画を作成した企業には、さまざまなメリットが享受できる仕組みが整っているのです。そんな経営力向上計画によるメリットを3つ解説しましょう。
- 税制に関する優遇措置
- ビジネス拡大につなげる金融支援
- 補助金の申請が有利になる
①税制に関する優遇措置
税制の優遇措置とは、下記のとおりです。
- 新たな設備の固定資産税軽減
- 法人税の即時償却や税額控除
具体的な内容は、
- 固定資産税軽減は、平成31年3月末までの取得分に限り3年間にわたり1/2にする
- 法人税についての即時償却または取得価額の最大10%の税額控除の選択適用
となっています。
②ビジネス拡大につなげる金融支援
金融支援とは、下記のとおりです。
- 商工中金や日本政策金融公庫による低利融資
- 新事業活動限定の保証の別枠や保証枠拡大
- 海外銀行への債務保証を日本政策金融公庫が行うスタンドバイ・クレジット
- 中堅企業や食品製造業者限定の債務保証
③補助金の申請が有利になる
補助金の申請には審査があり、その際、厳しい条件のクリアが求められます。しかし経営力向上計画を策定した場合、補助金を申請する段階で有利になるような加点が行われる、つまり、各種補助金施策の審査が一般より有利になるのです。
3.認定を受けるまでの仕組み
経営力向上計画の作成から認定までの基本的な流れを理解するためには、指針や認定状況
、認定の対象となる範囲などの把握が必要です。ここでは、経営力向上計画の作成から認定までの流れを解説します。
基本的な仕組み
経営力向上計画書を作成して自社事業の種類に応じて所管する主務大臣へ提出、これが経営力向上計画の認定を受ける流れです。所管する主務大臣は、「建設業では国土交通大臣」「衛生業務では厚生労働大臣」になります。
ただし、計画書の提出から認定まで1カ月ほどの時間がかかったり経営力向上計画に関する特典利用にはいくつかの期限があったりという点から、余裕のあるスケジュール管理が必要です。
計画書を自社で計画書の作成が難しい場合、地域の金融機関や商工会議所、税理士が所属する経営革新等支援機関の支援が受けられます。
国が定めている指針
国が定めた指針とは、指定する19業種に関して経営改善のアイデアをまとめたもので指定する19業種は下記の通りです。これらの業種は、指針に沿って指定項目のうち数項目を選択し、計画書に盛り込みます。
- 製造業
- 卸小売業
- 外食中食
- 旅館
- 医療
- 保育
- 介護
- 障害福祉
- 貨物
- 自動車運送
- 自動車整備
- 船舶産業
- 建設
- 有線テレビ
- 電気通信
- 不動産
- 地上基幹放送
- 石油卸燃料小売
- 旅客自動車運送
認定の状況と傾向
2018年7月時点での経営力向上計画は、認定件数が65,966件あり、約半数が製造業で件数には、建設業も多い傾向にあるのです。
認定された業種はさまざまですが、特に製造業と建設業が多いのには理由があります。それは、設備投資を行う際に経営力向上計画が認定されていれば税制上の優遇措置が受けられるというメリットがあるからです。
対象となる範囲
経営力向上計画を作成する際、計画の対象となる中小企業者などの範囲を把握しておくとよいでしょう。中小企業者などは下記のとおりです。
- 個人事業主
- 会社
- 企業組合、協業組合、事業協同組合など
- 生活衛生同業組合など
- 一般社団法人
- 医業を主たる事業とする法人
- 歯科医業を主たる事業とする法人
- 社会福祉法人
- 特定非営利活動法人
さらに、
- 会社または個人事業主、医業、歯科医業を主たる事業とする法人では、資本金が10億円以下もしくは従業員数が2,000人以下
- 社会福祉法人や特定非営利活動法人では、従業員数が2,000人以下
も要件になっています。
4.計画書の作成方法とポイント
経営力向上計画の認定を受けるためには、手順に沿って適切に計画書を作成する必要があります。ここでは、経営力向上計画書の作成のための事前準備から認定後まで、押さえておきたいポイントを4つ解説しましょう。
- 事前準備が大切
- 計画実施後の効果を盛り込む
- 認定を受けた後は計画を実施する
- 専門家のサポートを受ける
①事前準備が大切
事前準備で最も大切なのは、自社が経営力向上計画の対象か否かを確認すること。計画書の提出により受けられる固定資産税の半減には、「対象となる設備が新規に購入したものである」「金額についての要件」など条件があるからです。
また、自社が対象の場合、購入を決めた設備が生産性を向上させると証明するためにも、メーカーに対して証明書の発行を依頼しなければなりません。メーカーから証明書を取得するのに一定期間が必要ですので、早めに準備を行います。
②計画実施後の効果を盛り込む
事前準備が完了したら、経営力向上計画の中に計画実施後の効果を盛り込む作業に入ります。経営力向上計画には、計画の実施前と実施後で生じた変化を盛り込む項目がありますが、どの項目に記載するかは、国が定めている事業分野別指針を参考にしてください。
製造業の指針では、自社の強みを直接支える項目として、下記が定められています。企業はこれら指針の中から、必要数とされる項目を自由選択して計画書に記載するのです。
- 従業員等に関する事項
- 製品や製造工程に関する事項
- 標準化や知的財産権等に関する事項
- 営業活動に関する事項
③認定を受けた後は計画を実施する
経営力向上計画書の作成が終わったら、事業所を所管する主務大臣に申請します。事業分野ごとに提出先が異なるため、申請先が不明な場合には中小企業庁の事業環境部企画課に確認しましょう。
計画書が認定されたら、税制措置や金融支援を受けながら、計画書に沿って経営力向上の取り組みを進めます。仮に、途中で経営力向上計画の変更を余儀なくされる場合は、変更申請が別途必要です。
変更申請は、資金調達額の若干の変更や法人の代表者の交代といったものを除き、設備の取得日から60日以内に当初の経営力向上計画を認定した所管する主務大臣へ提出します。
④専門家のサポートを受ける
経営力向上計画書の作成は、認定要件の正しく理解した上で進めなくてはなりません。もし、自社で経営力向上計画書の作成が難しい場合は、認定経営革新等支援機関のサポートを受けられる制度を利用しましょう。
認定経営革新等支援機関には、公認会計士や税理士といった経営の専門家が所属しており、相談や計画書の作成、認定取得やその後の計画実施をトータルで支援してくれるため、少ない負担で計画書を作成できます。
5.計画書を作成するときの注意点
この制度では、計画書に基づいた取り組みを実施した結果、目標に届かなかった場合でも認定の取り消しにはなりません。しかし、目標達成に近づけるような計画書を作成するためには、下記の点に注意が必要です。
- 必要な資金と調達方法
- 設備投資の種類を記載する
①必要な資金と調達方法
経営力向上の内容を実施する際、必要となる資金や資金の調達方法を記載します。資金の調達方法には、自己資金や融資、補助金などがあり、これらからどれを選択したかを記載するのです。
もし、複数の資金調達方法を併用する場合、資金調達の目的が同一でも資金調達方法ごとで項目を分けるとされています。資金と資金調達は非常に重要な項目です。社内で検討を重ねて資金額や調達方法を決定しましょう。
②設備投資の種類を記載する
設備投資の種類の記載を求められるのは、固定資産税や法人税、所得税など税制優遇措置を受ける場合です。記載方法には、下記のような決まりがあります。認定の遅れを防ぐためにも、記載漏れがないようにしましょう。
- 「所在地」の欄には設備の設置予定場所を記載する
- 「取得年月」の欄には、設備の取得年月を記載する
- 「証明書等の文書番号等」の欄には、工業会等の証明書の整理番号や経済産業局の確認書にある文書番号を記載する