経営資源とは、企業が利益を生むのに有用な物資や概念のこと。今回は経営資源の定義、関連する税制や補助金について詳しく解説します。
目次
1.経営資源とは?
経営資源とは、企業が利益を生み、成長を続けるために有用な物資や概念のこと。一般的に、「ヒト、モノ、カネ、情報」の4つとされています。それぞれの意味は下記のとおりで、前に挙げられた要素ほど重要だとされているのです。
- ヒト:企業にかかわる人材
- モノ:製品やそれを生む機器類
- カネ:経営資金
- 情報:ノウハウや顧客データ
経営資源の数は7つ、5つ、4つのどれか?
経営資源の要素数は「ヒト、モノ、カネ、情報」に「時間」や「知的財産」をくわえて5つや6つとする説、さらに「ブランド」をくわえて7つとする説があります。
1990年代まではヒト、モノ、カネ、情報の4つとする説が主流でした。しかしここ20年の間に時間や知的財産をくわえる説が定着し、現在ではブランドをくわえる説も有力になりつつあります。
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2.企業における7つの経営資源
経営資源を語るうえでよく使われるのが、マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「7S分析」というフレームワークです。これは「マッキンゼーの7S」とも呼ばれます。この7Sは企業にとって不可欠な経営資源でもあるのです。
マッキンゼーの7S
組織を適切に導くために必要なハード面の3要素とソフト面の4要素をまとめた、フレームワークのこと。
世界的コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱しました。各要素を英語で表すとすべて「S」から始まるため「7S」とも呼ばれます。
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、7要素の相互関係とそこから見えてくる全体像を知ることが大切だと唱えました。1980年代から組織分析の手法として広く浸透し、現在でも経営者やコンサルタントなどに利用されています。
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1.7Sとは?
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ハードの3S
「戦略」「組織構造」「システム」の3要素のこと。組織としてのあり方を示すもので、比較的着手しやすいです。
- 戦略(Strategy)
- 組織構造(Structure)
- システム(System)
①戦略(Strategy)
企業が目標を達成するための、行動方針や計画などのこと。以下の3つにわかれます。
- 企業の方向性を決める企業戦略
- サービスや商品の展開を決める事業戦略
- 円滑な事業運営のための機能戦略
まずは企業戦略を決め、続いて事業戦略、それにもとづいて機能戦略を立てるのが一般的です。戦略を立てる際は企業の方向性に合っているか、を重視します。
②組織構造(Structure)
企業の組織的な仕組み、またはその特徴のこと。人材を働かせるうえで最も基礎的な決めごとを意味します。たとえば「どのような人材にどの部門で何をさせるか」「部門間の役割分担や上下関係はどうなっているか」などです。以下の3つに大別されます。
- 仕事の内容や目的で分かれた機能別組織
- 各々が独立して意思決定する事業部制組織
チーム(プロジェクト)でわかれ、各々が独立して動くチーム(プロジェクト)組織
③システム(System)
情報システムや各種制度、制度作りそのもののこと。たとえば業績考課制度や予算管理制度、目標管理制度や人事評価システム、給与体系や業務マニュアル、情報システムなどです。
システムがなければ、集まった人材は組織として機能しません。そのため戦略と組織構造が決まったら、必ず続けてシステムの決定が求められるのです。
ソフトの4S
「共通の価値観」「人材やスタッフ」「スタイル」「スキル」の4要素のこと。個人の意識や技術などが含まれるため、強制的には変えにくく、変革に時間がかかるのです。
- 共通の価値観(Shared value)
- 人材、スタッフ(Staff)
- スタイル(Style)
- スキル(Skill)
①共通の価値観(Shared value)
企業内で共有されている価値観や、価値観を共有する方法のこと。企業活動の基盤を成すもので、いわゆるビジョンや企業理念、行動指針などを指します。
価値観がうまく共有されていなければ、組織は一丸となって活動できません。事業活動の停滞を招きやすくなり、優秀な人材の確保も難しくなります。共通の価値観について分析する際は、経営陣と一般社員とで温度差がないかにも注目しましょう。
②人材、スタッフ(Staff)
社員の本質を理解し、最大限に活用すること。たとえば人材マネジメントに不可欠な採用制度や評価制度、教育制度の効果測定と分析、リーダーや組織はどうあるべきかといった考え方を浸透させる取り組みや、モチベーションを上げるための取り組みなどです。
人材を適材適所に配置できれば、業務効率を大幅に向上できるでしょう。
③スタイル(Style)
経営方針や企業風土のこと。たとえば企業の雰囲気や社風、働き方や職場環境、歓迎される社員像などで。また「トップダウン」や「ボトムアップ」といった意思決定の傾向、暗黙の了解や不文律なども含まれます。
スタイルは、人材のモチベーションを大きく左右する要素のため、ビジョンや企業理念との差がある場合、変更を検討する必要もあります。
④スキル(Skill)
企業や所属する人材が持つ他社よりも優れた能力やノウハウのこと。たとえば営業力やマーケティング力、技術力や企画力、販売力などです。
他社と比較してスキルが秀でている企業は、市場を牽引する独自事業を展開できます。逆に足りないスキルがある場合、意識的にそこを補っていかなければ、市場での立ち位置を失うリスクが高まるのです。
3.経営資源を持つメリット
経営資源を持つとさまざまなメリットにつながります。ここでは経営資源を持つ4つのメリットを説明しましょう。
- 他社との差別化
- 顧客満足度の向上
- 自社の課題発見
- 人材マネジメントの効率化
①他社との差別化
豊富な経営資源を集中させて企業の独自性を高めると、下記のような2つの集中戦略を可能にします。
- 差別化集中戦略:特定の市場を狙って他社と差別化を図る。そのような市場で顧客のニーズを掴めば、自社のブランドを確立できる
- コスト集中戦略:他社よりも低価格で製品やサービスを提供する。経営資源を効果的に活用して生産性を高めれば、利益の低下を防ぎつつブランディング効果を得られる
②顧客満足度の向上
経営資源を充実させると高品質な製品やサービスを提供でき、顧客満足度の向上につながります。なかでもスタッフ、つまり人的資源は、より高品質な製品やサービスの開発や提供に欠かせません。
また戦略やスタイルでブランディング効果を高めれば、さらに顧客満足度がアップするでしょう。顧客満足度の向上は、リピーターの増加や潜在顧客の創造につながり、利益の増大をもたらします。
③自社の課題発見
保有する経営資源を分析すると、自社の強みだけではなく弱み、つまり課題も発見できます。企業が成長し続けるためには自社の強みを伸ばし、弱みを潰す、あるいは強みへ転換していかなければなりません。
経営資源の分析結果をもとに、「現在の経営資源を生かして別市場へ参入するか」「新たな経営資源を獲得して今の市場で差別化するか」といった方針を検討しやすくなります。
経営資源から自社の強みと弱みを見出す方法として有効なのは、下記4つの問いに答える「VRIO分析」です。
- 経済価値(Value)
- 希少性(Rarity)
- 模倣困難性(Inimitability)
- 組織(Organization)
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④人材マネジメントの効率化
経営資源を持っていれば、戦略的な人事マネジメントが実現できます。経営資源が少ない状態での人事マネジメントは、「そもそも人事部の人手不足で着手できない」「限られた条件下で実施したもののうまく機能しない」などにつながるからです。
マネジメントできる人的資源が多ければ多いほど、戦略に沿った人事施策を行えます。
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4.経営資源を有効活用するポイント
経営資源を活用する際、それぞれの優先順位を踏まえたうえで方針や戦略を決めるとよいでしょう。ここでは経営資源を有効活用するポイントについて、説明します。
- 人材教育の実施と強化
- 業務の見直し
- 選択と集中の使いわけ
①人材教育の実施と強化
優秀な人材を確保し続けるために、人材教育の実施と強化が必要です。スタッフ(人材)がいなければ、企業活動を継続できません。また育成にも時間がかかるため、経営資源においてもっとも優先すべき要素です。
すでにいる人材を育成する施策として挙げられるのは、定期的な社員研修会や勉強会など。また各々の能力を最大限に生かすため、適材適所の配置も重要です。
②業務の見直し
業務フローを根本から見直して無駄を省くのも、経営資源の有効活用につながります。慣習化している業務フローを第三者が見たとき、思わぬ無駄が見つかる場合も少なくありません。そのような業務を削減できれば、スタッフは重要な業務に取り組めます。
業務を見直す際は、現状に対していち早く柔軟に対応できるよう、適宜現場の声も取り入れましょう。
③選択と集中の使いわけ
自社の強みや得意とする領域を見極めて、そこに経営資源を集中させれば、業績の向上や経営の効率化が実現できるのです。
多数の事業へ経営資源を分散させると、各事業の成果を最大化しにくくなります。たとえ各事業が黒字だったとしても、経営資源の管理が複雑になり、急激な外部環境の変化に対応しきれないかもしれません。
つねに内部環境と外部環境を分析し、経営資源を投入すべき事業を選択する必要があります。
5.経営資源集約化税制とは?
生産性の向上を目的にM&Aを行った中小企業に対して税金を優遇する制度のこと。経営力向上計画の認定を受けてからM&Aを行えば、設備投資減税と準備金の積み立てという2つの優遇が受けられるのです。
対象事業者
対象事業者は「中小企業等経営強化法における特定事業者等」かつ「租税特別措置法における中小企業者等」です。それぞれの意味は下記のようになります。
中小企業等経営強化法における特定事業者等:「常時使用する社員数が2,000人以下の法人または個人」「協同組合」いずれかに該当する事業者
租税特別措置法における中小企業者等:「資本金または出資金の額が1億円以下の法人」「資本または出資を有しない法人のうち常時使用する社員数が1,000人以下の法人または個人」「協同組合」いずれかに該当する企業
設備投資減税(中小企業経営強化税制)
設備投資に対する減税施策のこと。
2023年3月末までに経営力向上計画の認定を受けたうえで設備導入を行うと、「即時償却」または「取得価額に対する税額控除」のいずれかを適用できます。
控除される税額は、資本金3,000万円以下の企業ならば取得価額の10%、資本金3000万円超1億円以下の企業ならば取得価額の7%です。
税額控除と即時償却の違い
2つの違いは下記のとおりです。
- 税制控除:設備投資に対する税金を一定額差し引いてもらうこと
- 即時償却:設備投資にかかった費用をすべてその年の経費として計上すること
税制控除がその後数年間の税金を減らすのに対し、即時償却はその年の経費増大による一時的な節税を狙います。長期的に効果を得たい場合は税制控除を、短期的に効果を得たい場合は即時償却を選ぶとよいでしょう。
準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
一定の要件を満たせば、M&Aのために取得した株式の7割にあたる金額をその年に損金算入できる制度のこと。損金算入により一時的な節税効果を生み出し、M&Aによって買取企業の経営状態が不安定になるリスクを減らします。
適用を希望する企業は、2024年3月末までに経営力向上計画の認定を受なければなりません。
活用要件
準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)を受けるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 買取企業が経営資源集約化税制の対象事業者
- 譲渡企業が常時使用する社員数が2,000人以下の法人等
- 株式譲渡によるM&A
- 株式などの取得価額が10億円以下
同一グループ間での事業移転、親族内での株式移転は対象外となります。
6.経営資源引継ぎ補助金(事業承継・引継ぎ補助金)とは?
事業承継やM&Aによって経営改革、経営資源の引継ぎ、廃業、再チャレンジを目指す中小企業を後押しする補助金のこと。かつて事業承継補助金と経営資源引継ぎ補助金にわかれていましたが、2021年度、現在の形に統合されました。
2022年の申請は「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ事業」の3類型が設けられ、2022年12月16日に事業承継した中小企業を対象としています。
経営革新
事業承継やM&Aにより事業の再構築や設備投資、販路開拓などを目指す中小企業を対象とした分類です。2022年の補助率は費用の1/2以下で、100万円から最大650万円とされています。
なお創業支援型(Ⅰ型)、経営者交代型(Ⅱ型)、M&A型(Ⅲ型)の3つにわかれ、各類型に定められた要を満たさなければ申請できません。
専門家活用
M&Aによって経営資源を引き継ぐために専門家を頼んだ中小企業を対象とした分類です。2022年の補助率は費用の1/2以下で、100万円から最大550万円とされています。
ただし「M&Aを行う両企業の間で事業再編または事業統合の予定がある」かつ「M&A支援機関登録制度に登録された専門家を活用する」場合のみ、申請可能です。
廃業・再チャレンジ
再チャレンジを試みるため、既存事業を廃業する中小企業を対象とした分類です。2022年の補助率は1/2以下で、50万円から150万円までとされています。
期間内に事業承継あるいはM&Aと廃業を行う場合、先に挙げた「経営革新」や「専門家活用」との併用申請が可能です。このとき廃業・再チャレンジ事業の申請を行う必要はありません。