決算賞与とは、業績に応じて臨時的に支給される賞与です。決算賞与は余剰利益を従業員に還元でき、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上に有効です。一方で、キャッシュフローが減ってしまうなどのデメリットもあります。
今回は決算賞与について、一般的な賞与との違いや支給対象者、決算賞与のメリット・デメリットや賞与額の決め方などを詳しく解説します。
目次
1.決算賞与とは?
決算賞与とは、業績に応じて支給される賞与(ボーナス)のことです。夏や冬に定期で必ず支給される賞与とは別に、決算時に業績が良かった際に臨時的に支給されます。業績が悪かった場合には支給なし、あるいは良し悪しに関わらず一切支給しない企業もあります。
決算賞与の支給有無や支給額、支給時期などのあらゆる要件は企業の裁量で決められる賞与です。
2.決算賞与と一般的な賞与(ボーナス)との違い
決算賞与と一般的な賞与の大きな違いは、支給時期と支給額にあります。主な違いは、以下のとおりです。
決算賞与
- 支給時期:決算後
- 支給額:業績に応じて変動
- 支給義務:義務はなく、業績によって判断
- 支給対象者:正社員、企業によってはアルバイト・パートも対象
一般的な賞与
- 支給時期:夏期、冬期
- 支給額:企業の定める算定方法にもとづく(例:基本給の○か月分)
- 支給義務:義務はないが、慣習的に年2回の支給が一般的
- 支給対象者:正社員、企業によってはアルバイト・パートも対象
支給義務がなく、企業側で自由に支給有無を決められるのは共通点です。とはいえ、一般的な賞与は慣習的に支給されることが多いでしょう。
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3.決算賞与をもらえる人・もらえない人
一般的にもらえる人は正社員であり、企業によっては契約社員やパート、アルバイトも対象です。決算賞与の支給対象者の範囲は企業が自由に決められ、支給の有無や支給対象者の範囲については、就業規則や労働条件通知書、雇用契約書に記載されているでしょう。
企業によっては、在籍期間や個人の業績、勤務態度などが考慮され、もらえない人が出てくる可能性もあります。必ずしもすべての従業員に支給しなければならないものではないため、もらえる人・もらえない人の基準や要件が明確に定められている企業もみられます。
トラブルを回避するためにも、企業側は決算賞与をもらえる人・もらえない人の要件を明確に定め、就業規則などで提示することが必要です。
4.決算賞与の支給日・支給時期はいつ?
一般的な支給時期は、決算後です。決算賞与は決算処理が終わって利益が確定してからでないと、支給有無や支給額が決定できません。
支給日は企業によって異なるものの、決算日の翌日から1か月以内には支給されるケースが一般的です。というのも、決算日の翌日から1か月以内に支払うと、当期の損金に参入することが認められているからです。
多くの企業は年末や3月末、9月末を決算期としているでしょう。たとえば、3月決算の企業では、3月下旬〜4月までに決算賞与が支給されます。
5.決算賞与の平均額・相場
企業の業績によって支給有無や支給額が変動するため、決算賞与の平均額や相場は存在しません。ただし、年度内の余剰利益を従業員に分配するため、一般的なボーナスよりは金額が少なくなるケースが一般的です。
また、企業規模が小さいほど分配者が少ないため、大企業よりも中小企業の方が一人当たりの支給額が大きくなることもあるでしょう。
一方、余剰利益が多かったとしても、その年は新規事業の立ち上げや設備投資に資金を回したいなどの理由から、決算賞与の支給がない、または余剰利益に対して少なくなるケースが出てくる場合もあります。
従業員間でも支給額に差が出る場合もある
すべての従業員が支給対象であっても、余剰利益が均等に分配されるとは限りません。企業によっては、個人業績が良かった人や勤続年数の長い人に多く分配されるケースもあります。
企業側は支給基準についてもあらかじめ決めておき、就業規則などに記載しておくとよいでしょう。
6.決算賞与の金額の決め方
決算賞与は、業績に応じて金額が決まる点が特徴です。もっと詳しくいえば、余剰利益をどう分配するかによって金額が決定します。金額の決め方は、「一律型」「給与連動型」「給与非連動型」の3種類があります。
なお、従業員間や部署間で金額に差をつけることは問題なく、支給対象者を一部に限定することも可能であるため、そのうえで金額を決定しましょう。
一律型
一律型は、余剰利益を均等に分配する方法です。従業員個々の成果や勤続年数などに関係なく、企業の利益拡大を公平に還元したい場合に最適な分配方法です。貢献度の高い従業員が不満を感じてしまう恐れもあるものの、金額を決める手間が軽減できます。
給与連動型
給与連動型は「給与×支給率」で金額を決める方法であり、給与が高い人ほど支給額が大きくなります。基準が明確であるため、金額が決めやすい点が特徴です。
一方で、利益拡大に大きく貢献した人が必ずしも給与の高い人であるわけではないため、実際に大きく貢献した人に公平に支給できるとは限らず、不満が生じる可能性がある点はデメリットでしょう。
給与非連動型
給与非連動型は、役職等級や勤続年数、個人・部署の業績などを基準に金額を決める方法です。個人や部署の業績に応じた決め方は公平性が高く、不満が生じにくい点はメリットです。
ただし、細かく貢献度を算出するのに手間がかかり、支給額を決めるまでに時間を要してしまう恐れもあります。
ベース金額は一律型や給与連動型で決め、とくに貢献度の大きい部署や個人には上乗せするなど、給与非連動型を組み合わせるのも一つの方法です。
7.決算賞与にかかる社会保険料と税金
一般的な賞与と同様に、決算賞与にも社会保険料と税金がかかります。そのため、実際の支給額は、支給決定額から社会保険料や税金を差し引いた金額です。「支給決定額×0.7〜0.8」で概算が算出できます。
社会保険料も差し引かれる
決算賞与から差し引かれる社会保険料は、「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」の3つです。支給対象者が40歳以上の場合は、介護保険料も差し引かれます。
各保険料は、以下計算式で算出できます。
- 健康保険料:賞与額×健康保険料率×1/2
- 介護保険料:賞与額×介護保険料率×1/2
- 厚生年金保険料:賞与額×18.3%(厚生年金保険料)×1/2
- 雇用保険料:賞与額×0.6%(雇用保険料率)
上記合計額が差し引かれ、そこに課された所得税を差し引いた額が実際の支給額となります。下記は、具体的な数値を用いた計算例です。
【モデル】東京都在住・42歳会社員、標準賞与額:80万円(1,000円未満切り捨て)
- 健康保険料:80万円×9.98%×1/2=3万9,920円
- 介護保険料:80万円×1.60%×1/2=6400円
- 厚生年金保険料:80万円×18.3%×1/2=7万3,200円
- 雇用保険料:80万円×0.6%=4,800円
- 賞与から控除される社会保険料の合計:12万4,320円
※各種保険料は協会けんぽ「東京支部 令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」より適用
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決算賞与は所得税の課税対象
決算賞与は所得税の課税対象であり、社会保険料の金額を差し引いた額に課されます。
賞与に対する所得税は、賞与が支給される前月の給与を基準額として算出。そのため、まずは賞与支給の前月の給与や扶養人数の条件から、国税庁が発表している「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」より源泉徴収税率を割り出します。
その上で、以下式に当てはめることで賞与にかかる所得税が計算できます。
(賞与の総支給額−社会保険料)×賞与にかかる源泉徴収税率
下記は、具体的な数値を用いた計算例です。
【モデル】東京都在住・42歳会社員/扶養家族2人。前月の給与:30万円 額面ボーナス:80万円 ※いずれも社会保険料を差し引いた額
- 源泉徴収税率:4.084%
- 所得税額:80万円×4.084%=3万2,672円
※源泉徴収税率は国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 5 年分)」をもとに算出
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8.決算賞与を支給するメリット
決算賞与を支給することは、以下のようなメリットがあります。
- 従業員のモチベーションが向上する
- 節税効果に期待できる
- 採用面でのアピールになる
各メリットを詳しくみていきます。
①従業員のモチベーションが向上する
決算賞与は、企業の利益を従業員に還元する目的があります。決算賞与が支給されることで従業員は頑張りが認められたと感じられ、モチベーションやエンゲージメントの向上につながるでしょう。会社から大切にされていると感じられることで帰属意識も高まり、定着率の向上にも期待できます。
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②節税効果に期待できる
利益が出ればそれだけ課税所得も増え、法人税が高くなります。決算賞与は以下要件を満たすことで損金算入できるため、節税効果に期待できます。
- 支給額を支給対象となるすべての従業員に通知している
- 通知した額を事業年度終了の翌日から1か月以内に支払う
- 支給額を通知した日の事業年度までに損金経理をしている
損金にすることでその分課税所得が減らせ、法人税の節税に有効です。ただし、上記要件を1つでも満たせないと損金にできないため注意しましょう。
③採用面でのアピールになる
報酬は求職者からしても重要な条件です。通常の賞与のほか、決算賞与があることは求職者からしても魅力的であり、利益を従業員に還元してくれる会社との良いイメージ付けにもなります。
9.決算賞与を支給するデメリット
一方で、決算賞与の支給には以下のようなデメリットもあります。
- キャッシュが減る
- 支給できないと従業員のモチベーションが下がる
①キャッシュが減る
損金算入することで節税効果があるものの、支給することでその分のキャッシュは減ってしまいます。また、社会保険料や厚生年金保険料は会社が折半で支払うため、その分の資金も必要です。
節税効果だけを見て無計画に多額の賞与決算を支給してしまうと、キャッシュフローの悪化を招く恐れがあります。
決算日から2か月後には法人税や消費税、法人住民税や法人事業税の納付もあるため、キャッシュが足りないということにならないよう、計画的に支給額を決定しましょう。
②支給できないと従業員のモチベーションが下がる
毎年業績が良いとは限らず、常に決算賞与が支給できるとは限りません。
しかし、基本的に毎年決算賞与が支給されている企業ですと、従業員にとっては決算賞与の支給が当たり前と感じ、業績悪化などで支給されなかった場合にモチベーションが大幅に下がってしまう恐れがあります。
決算賞与と通常の賞与は別物であり、決算賞与は業績に応じて支給されるものだと認識してもらうことが必要です。
10.決算賞与を導入する際の注意点
決算賞与を導入する際は、以下のポイントに注意しましょう。
役員に支給した分は損金算入できない
役員報酬は法人税法によって詳細に規定されており、損金算入には制限がかけられています。
というのも、役員報酬を自由に設定できるようにすると、意図的に課税所得や税金を調整できてしまうため、決算賞与のような臨時的な賞与は損金算入できない仕組みになっています。
従業員への通知は書面で行う
損金算入の要件にも、決算日までに支給することを従業員に通知することが定められています。通知方法が明確に定められているわけではないものの、通知したことを証明するには文書が確実です。
メールや口頭でも通知したことに変わりはないものの、客観的な証明が難しくなってしまう恐れもあります。ただし、メールはログが残るため、従業員に漏れなく通知できたかをしっかり確認できれば通知方法として問題ありません。
銀行振込で決算日の翌日から1か月以内に支給する
こちらも損金算入の要件にかかわる注意点です。損金算入するには、決算日の翌日から1か月以内の支給が必要です。
また、支給は通知通りの額を期日までに従業員に支給したことが客観的に証明できるよう、銀行振込にしましょう。
臨時的に支給するものだからと手渡しにしてしまうと、いつ支給したか、通知通りの額を支給したかが証明しにくくなってしまいます。万が一、現金かつ手渡しで支給する場合には、従業員全員から領収書を受け取ってください。