現在、働き方改革により仕事のあり方が見直されています。ここではそのなかから「勤務間インターバル制度」について解説します。
目次
1.勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度とは、2017年3月から始まっている「働き方改革」の政策の一環で行われている制度のこと。この制度では、1日の仕事の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に一定の休息時間を設けるよう努めなければなりません。
たとえば9時から18時までの勤務では、勤務終了時間である18時から翌日の9時までの時間が勤務間インターバルとなります。
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どんな目的で導入されているのか
目的は、労働者の健康維持やワークライフバランスの確保。労働者が十分な睡眠時間や生活の時間を確保できないまま働くと、心身ともに大きな負荷がかかります。インターバル制度の導入は、この負担を軽減するための制度なのです。
次の勤務日までに十分な休息が確保されるので、労働者は健康的な生活を送れるようになります。
働き方改革により努力義務化
勤務間インターバル制度は事業主の「努力義務」として規定されています。2018年の6月に制定された「働き方改革関連法」で「労働時間等設定改善法」が改正された際、努力義務と定められました。
つまり「努力義務」であるため守らなくても罰則は特にありません。しかし規定をきちんと守るため、勤務間インターバル制度を導入している企業が増えています。
就業規則への盛り込み方
勤務間インターバル制度を導入する際は、企業の就業規則に盛り込む必要があります。しかし現行の就業規則では、終業時刻から翌日の始業時間の間隔が勤務間インターバルの時間を満たさないケースもあるようです。
その場合は「その時間分の始業時間を遅らせる」といった対応を就業規則に盛り込むとよいでしょう。勤務間インターバルと翌日の仕業時間が重なる場合、重複している時間を労働時間として計算するなどの対応も検討すべきです。
2.勤務間インターバル制度が導入された背景
勤務間インターバル制度が導入された背景にあるのは、一体何でしょうか。下記4つについて解説します。
- 時間外労働の問題
- ワークライフバランスの推進
- 過労による離職
- 労働市場のグローバル化
①時間外労働の問題
昔から「日本人は働きすぎ」といわれるように、時間外労働の増加が背景にあります。長時間労働が原因で健康面に支障を来たす場合も多々。最悪の場合、過労死という結果になってしまいます。
状況を打開するため、勤務間インターバル制度を設けて労働者の環境を整えようとしている企業が増加しているのです。
②ワークライフバランスの推進
健康面の確保に付随し、十分な休息時間を与えてワークライフバランスを整えるのも、勤務間インターバル制度を導入した背景にあります。
残業で長時間働く場合、一定の休息時間が確保できる勤務間インターバル制度を導入すると、ワークライフバランスを保てます。働いたぶんしっかり心身を休める時間が確保されるのです。
③過労による離職
過労による離職の増加も背景のひとつにあります。長時間労働が避けられない労働環境から抜け出そうとして離職する労働者は後を絶ちません。中には過労死する人もいるほどです。
離職に至らないまでも、体や心の健康を損ねて休職してしまう可能性も懸念されます。勤務間インターバル制度は、このような長時間労働による離職を抑止する目的もあるのです。
④労働市場のグローバル化
日本だけでなく海外の労働力が増加した点も、勤務間インターバル制度が導入された背景のひとつ。近年、グローバル化やIT化が進み、外国人の労働力を雇うのも珍しくありません。
これを機に日本の働きすぎという今までのスタイルを捨て去り、日本人だけでなく今後も増え続ける海外の労働力に対して働きやすい環境を提供するのも目的です。
3.勤務間インターバル制度のメリット
勤務間インターバル制度の導入で、企業はどのようなメリットが得られるのでしょう。ここではそのメリットを4つ解説します。
- 従業員の健康確保
- 労働生産性の向上
- ワークライフバランスの実現
- 離職率の低下
①従業員の健康確保
勤務間インターバルが短ければ短いほど、人の健康面に悪影響が出やすいというデータも出ています。
長時間労働により従業員が健康を損ねていたかもしれない企業は、勤務間インターバル制度を導入すると、長時間労働が是正されるでしょう。
②労働生産性の向上
国際的に、労働時間が長くなればなるほど労働生産性が下がり、労働時間が短いと労働生産性は向上すると統計で報告されています。働く時間が短いと労働者も集中力やモチベーションを維持しやすくなり、効率も良くなるでしょう。
勤務間インターバル制度の導入は労働生産性の向上につながるという、大きなメリットを持つのです。
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③ワークライフバランスの実現
勤務間インターバル制度を導入すれば、労働時間にゆとりを持たせられます。必然的に生活の時間を多く持てるようになり、私生活も充実するでしょう。仕事に追われずプライベートが充実すれば、メンタル面の健康も保てます。
ワークライフバランスの実現は勤務間インターバル制度の大きなメリットです。
④離職率の低下
勤務間インターバル制度を導入すれば、長時間労働が原因の離職を減らせます。従業員のワークライフバランスが改善され、私生活の時間も十分に取れるようになるためです。従業員は心身ともに健康を保てるため、仕事のモチベーションを維持しやすくなります。
これらの相乗効果で離職率の低下が実現されるのです。
4.勤務間インターバル制度の助成金
勤務間インターバル制度を導入した企業は、厚生労働省から助成金を受け取れます。ただし結果や成果を生み出すといった、一定の条件を満たさなければなりません。ここではその条件から申請の方法まで解説しましょう。
支給要件
支給要件は、勤務間インターバル制度の導入を目的に、外部の専門家によるコンサルティングや、労務管理のため新たな機器を導入すること。
導入だけでなく導入後に一定の改善や成果を生み出した場合、勤務間インターバル制度導入にかかった費用の一部が支給されます。なお申請には36協定を締結し届け出ておく必要もあるのです。
成果目標
助成金を受け取るには、一定の成果や改善が必要です。勤務間インターバル制度を導入した結果、「事業主が事業実施計画にて指定していたすべての事業所にて、従業員に9時間以上の勤務間インターバルを設けた」という実績を証明しなければなりません。
この証明ができれば成果として認められ、助成金を受け取れます。
支給額
実際に支給される助成金の金額は、勤務間インターバルの時間に応じて変わります。9時間以上11時間以内の場合、制度導入にかかった費用の4分の3が助成され、最大で40万円の助成金を受け取れます。
11時間以上の勤務間インターバルを設けていた場合はかかった費用の4分の3が助成されるのです。受け取れる助成金は最大50万円までとなります。
申請方法
助成金の申請に必要な書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。必要事項を記入して、書類を最寄りの都道府県労働局雇用環境均等部に提出しましょう。
2021年の申し込み期間は2021年11月30日まで。勤務間インターバル制度の導入を予定している企業は、期間内に間に合うよう計画を進めましょう。
5.勤務間インターバルを導入する際のポイント
勤務間インターバル制度を導入する際、何に気をつければよいのでしょう。それぞれのポイントや導入の際に困った場合にどうすればよいのかについて説明します。
インターバルの時間数
勤務間インターバルでは、11時間から12時間の休息時間を設けるとよいでしょう。
総務省の調査によると、睡眠や食事などの「1次活動時間」の平均は1日あたり約10時間、通勤時間の週平均は1日あたり約1時間。合計すると労働時間以外の時間は11時間となるためです。
適用除外の設定
勤務間インターバル制度では、適用除外となるケースを設定できるのです。制度の詳細は法律などで定められていないため、企業ごとに柔軟に対応できます。
たとえばどうしても慌ただしくて勤務間インターバルを守れないときは、そのあとに有給休暇を消化すると、休息の時間を確保するといった対策が取れます。
インターバル時間の設定で困ったら
勤務間インターバルの時間設定で困ったら、専門家に相談してみましょう。各都道府県の労働局には「働き方・休み方改善コンサルタント」がいます。
そこでは勤務間インターバル制度の導入や、勤務間インターバルの時間について相談できるのです。また働き方・休み方改善コンサルタントの利用は無料となっています。個別訪問やワークショップなども行っているため、積極的に利用しましょう。
6.勤務間インターバル制度に違反した場合の罰則は?
勤務間インターバル制度を違反しても基本、罰則はありません。勤務間インターバル制度は努力目標で、義務ではないからです。しかし企業が労働者と契約している内容によっては、労働基準法に抵触する恐れもあります。
具体的な罰則はない
勤務間インターバル制度は企業に課せられた努力義務にあたるため基本、法的な懲役や罰金などのペナルティは発生しません。あくまでも「企業内で定めた規定に従い、できるだけ守るようにしましょう」というのが現状です。
しかし企業内の規定で決まっている以上、守らなかった場合、企業内での罰則が発生する可能性はあるでしょう。
守らないと労働契約違反に該当する可能性も
労働契約の内容によっては、勤務間インターバル制度の違反が労働基準法違反に該当する場合もあります。
従業員との雇用契約時に勤務間インターバルを定めた内容で、契約したケースの場合、勤務間インターバル違反、すなわち労働契約違反にある可能性は高いでしょう。
7.勤務間インターバル制度の導入企業
府が行っている働き方改革の影響もあり、さまざまな企業が勤務間インターバル制度を導入し始めています。ほか企業の事例は自社で導入する際の参考となるでしょう。ここでは勤務間インターバル制度を実際に導入している企業とその取り組みについて説明します。
森永乳業
森永乳業は、2014年の10月から勤務間インターバル制度を導入しています。2008年からワークライフバランスを整える施策を取っていたため、勤務間インターバル制度の導入にも特に抵抗はなかったようです。
導入後はICカードリーダーを導入して勤務時間の管理を徹底。万が一勤務間インターバルが守れなかった場合、企業と労働組合の双方で話し合って休暇を取るといった措置を取っています。
ユニ・チャーム
ユニ・チャームは、2017年の1月から勤務間インターバル制度を導入しました。各従業員の勤務表にアラーム機能を搭載し、定時になるとアラームで知らせる取り組みを開始。
アラーム後は一定の間隔で警告の画面が出るような仕組みをつくり、終業時間を意識させています。もし勤務間インターバルを守れなかった場合、その週に有給を取って対応するなどの措置を取っているのです。
本田技研工業
本田技研工業の勤務間インターバル制度導入は、すでに1970年代から行われています。ただしその際の制度の名称は「深夜業務における翌日出社時間調整」というものでした。
全従業員を対象に、勤務間インターバルの時間は基本、12時間として設定。もし勤務間インターバルを守るために本来の始業時刻を過ぎた際は、インターバルと終業時間が被っている時間を労働時間に含むといった対応を取っています。