帰納法とは、個別的事例から普遍的な法則を見出そうとする論理的推論の方法のことです。ここでは、演繹法などの推論方法や帰納法の仕組みなどについて説明します。
目次
1.帰納法とは?
帰納法とは、個別的事例から普遍的な法則を見出そうとする論理的推論の方法のこと。特徴は、さまざまな事実から導き出される傾向をまとめあげて、結論へ結び付けるプロセスで、別名「帰納的推論」と称されます。
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帰納が抱える問題
一般的に帰納法は、確率や確度といった蓋然性(確実性の度合い)の導出に留まると考えられています。複数の事実から同一の傾向を導きだして、結論に紐付けるという性質があるため、断定的な意味合いが演繹法より薄い印象を与える場合もあるのです。
マーケティングやアンケートの結果を重視し、論理展開を行う際に適しているでしょう。
2.帰納法以外の推論方法について
「帰納」という言葉は、広義には演繹ではない推論全般を指しますが、狭義には枚挙的帰納法を指す言葉として使われています。ここでは、帰納法以外の推論方法について演繹法や枚挙的帰納法を用いながら説明しましょう。
- 演繹法
- 枚挙的帰納法
- アナロジー(類推)
- アブダクション(仮説形成)
①演繹法
演繹法は、誰しもが知っている普遍的な事実を前提として、そこから結論を導き出す方法です。たとえば下記のような使い方があります。
- <前提1>馬は哺乳類である
- <前提2>哺乳類には血液が流れている
- <結論>(たぶん)全ての馬には血液が流れている
2つの普遍的な情報を前提に、結論を導き出せます。このように演繹法では「一般論」を前提とするという基本があるのです。
演繹とは? 演繹法の使い方、注意点、帰納法との違いを解説
演繹とは、2つの情報を関連付け、そこから結論を必然的に導き出す思考法のこと。ここでは演繹の意味や演繹法の使われ方などについて説明しましょう。
1.演繹とは?
演繹とは、2つの情報を関連付けることで、...
②枚挙的帰納法
枚挙的帰納法は、ある特殊な命題から一般的な命題を導くという推論方法のこと。帰納法に近い性質を持ち、事実を対象として、ある事実から一般的事実を導くという意味合いが強いといえます。使い方の例は、下記のとおりです。
- <前提1>犬は動物である。
- <前提2>猫も動物である。
- <結論>(たぶん)全ての犬は動物である。
③アナロジー(類推)
アナロジーは日本語で「類推」といい、AとBで「似ている要素」を洗い出した上で、BをAに当てはめて考えることを指し、知っている情報を「知らない分野」に当てはめて応用するという要素があります。下記は、アナロジーとしての一例です。
- <前提1>日本酒はお酒である。
- <前提2>焼酎は日本酒と似ている。
- <結論>(たぶん)焼酎はお酒である。
④アブダクション(仮説形成)
アブダクションとは演繹法や帰納法に近い推論方法で、とある結論がなぜ導かれたのか分からない際、それが正しいのかを論じるための方法として使用されます。下記は、アブダクションとしての一例です。
- <前提1>子供がうずくまって泣いている。
- <前提2>「転んで強く膝をぶつけると子供は泣く」と仮定すると、「その子供はあの段差で転んで膝をぶつけたはずである」がうまく説明される。
- <結論>(たぶん)その子供は転んで膝をぶつけたはずである。
3.演繹の欠点
演繹は、1つ以上の一般論から論理法則に基づいて結論を導く思考ですが、一般論が間違っていれば、導き出される結論も間違ってしまうという問題点があるのです。つまり前提にする事象や観察事項を、慎重に選ばなくてはなりません。
演繹は情報量が増えない
演繹は、一般的なものから個別的なものを導く推論という性質を持つため、結論となる内容は全て前提に含まれているといえます。また前提に主観が混じってしまうと、論理が崩れてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
演繹でない推論は情報量が増える
すでに知っている普遍的な情報を新しい情報と組み合わせる思考方法のため、演繹でない推論は情報量が増えると考えられます。演繹的論理展開は、包含関係で考えると分かりやすくなるケースも少なくありません。
演繹は真理保存性が働く
演繹は前提が正しければ必ず結論も正しいという性質上、真理保存性が高いといえるでしょう。しかし前提に結論が含まれるため、「新たな知識が得られない」という欠点もあるのです。
4.枚挙的帰納法の欠点
枚挙的帰納法の欠点として指摘されるのは、「早すぎる一般化」です。枚挙的帰納法で仮説を正当化する際、なんらかの障壁があるとも考えられます。
たとえば「ウイスキーには水が入っている」「ワインにも水が入っている」「カクテルにも水が入っている」、つまり「水を飲むと酔う」という極端な展開になってしまいかねないのです。
事実の理論負荷性
事実の理論負荷性も、枚挙的帰納法の欠点といえます。事実の成立を可能とする理論的文脈なしに、事実は存在し得ないとも考えられており、絶対的な客観性は困難という考え方もあるのです。
つまり帰納の前提となる事実を、容易に信頼できません。そこには、思い込みや先入観のない事実は存在しないという意味合いも備わっているのです。
帰納の飛躍
枚挙的帰納法のプロセスでは、どれだけ多くのデータや事実を収集してもその数は有限です。そのため無限の事柄を言い当てるという肯定を導くことが難しい、との指摘もあります。
つまり枚挙的帰納法には、有限から無限へという極端で無理難題な飛躍があるとも捉えられるのです。これこそが枚挙的帰納法の課題といえます。
簡潔性原理の前提
また枚挙的機能は簡潔性の強い原理の前提とも考えられます。自然法則は簡略な体系を持つことを前提にしなければ、集められた情報から一意的な決定ができません。
複数の法則に帰結するのであれば帰納は意味を持ちませんが、現実には多様性が伴います。よって簡潔な法則を選ぶという前提も考えられますが、その原理自体を帰納で証明することは難しいのです。
5.帰納法の例
複数の現象や数値などの観察事項現象における共通項を見い出して、結論を導き出すのが帰納法です。帰納法の事例について、市場環境の視点や競争環境の視点、自社の視点などから紹介しましょう。
帰納法を取り入れた事例
帰納法には以下のような事例があります。
- 「東京都民の通勤時間は長い」……観察事項1
- 「愛知県民の通勤時間は長い」……観察事項2
- 「大阪府民の通勤時間は長い」……観察事項3
- 「福岡県民の通勤時間は長い」……観察事項3
- 「よって大都市圏に住む人の通勤時間は長い」……ルール(一般論)
このように、さまざまな事例から導き出される傾向を、まとめて結論につなげる性質を持ちます。
市場環境の視点
- 「日本の洋菓子市場は規模が拡大している」……観察事項(市場環境の視点)
帰納法はさまざま物事から共通点を導き出し、結論付ける論理展開を進めますが、最初は市場環境の視点を簡潔に洗い出し、展開するという流れになります。
ここでは日本における洋菓子市場と例に挙げて帰納法を具体的に説明しましょう。まずは市場環境の視点から見い出します。
競争環境の視点
- 「日本の洋菓子市場は強い競合企業が存在していない」……観察事項(競争環境の視点)
- 「日本の洋菓子市場は規模が拡大している」……観察事項(市場環境の視点)
複数の事例から共通点を見つけて結論を導き出す帰納法では、物事の論理付けをしながら展開します。その際、「市場環境の視点」の次に「競争環境の視点」を追加するのです。
自社の視点
- 「日本の洋菓子市場は強い競合企業が存在していない」……観察事項(競争環境の視点)
- 「日本の洋菓子市場は規模が拡大している」……観察事項(市場環境の視点)
- 次に物事の論理づけとして、観察事項の「自社の視点」を追加します。
- 「日本の洋菓子市場では、自社の特許製法を活かせる」……観察事項(自社の視点)
実例をもとに共通点を見出す
- 「日本の洋菓子市場は強い競合企業が存在してない」……観察事項(競争環境の視点)
- 「日本の洋菓子市場は規模が拡大している」……観察事項(市場環境の視点)
- 「日本の洋菓子市場は自社の特許製法を活かせる」……観察事項(自社の視点)
- つまり、「自社にとって日本の洋菓子市場は魅力的な市場と言える」
市場環境、競争環境、自社の視点という3つの事例から、日本の洋菓子市場は自社にとって魅力的だという共通点が見つかります。
共通点を根拠に結論づける
「よって自社は日本の洋菓子市場に参入すべきである」
最後に共通点を根拠として結論を見い出します。この例では、日本の洋菓子市場は3つの視点から大変魅力的な市場であると分かった点から、日本での出店に乗り出すべきという結論が導き出されました。
「事例自体が間違っていないかどうか」「共通点を見い出す際に飛躍がなかったか」などへの注意も必要です。
6.帰納法はロジックチェックが必要
帰納法はロジックチェックが必要という性質を持っています。特に情報の入手経路が単一である場合、複数の事実から導き出された結論とは言えず、論理的推論が成立しない場合もあるので注意が必要です。
帰納法が破綻する3つの原因
帰納法の論理がきちんと成立しているかどうかについては、「なぜならば」という接続詞を用いて論理展開をチェックしてみましょう。
気を付けたい注意点は、帰納法は複数の「状況証拠」から共通点を見い出して結論づける使い方であること。ここでは、帰納法が破綻する3つの原因を説明します。
- 状況証拠自体に間違いがある
- 状況証拠から共通点を見出す際に飛躍がある
- 共通点から結論に至る筋道に飛躍がある
①状況証拠自体に間違いがある
事例が間違いだった場合、共通点や結論付けを行う際も間違えてしまうため、その論理は破綻してしまいます。「状況証拠」を洗い出す際は、より慎重にならなければなりません。
②状況証拠から共通点を見出す際に飛躍がある
共通点を見い出す際、飛躍を誤ってしまうと、論理全体に矛盾や間違いが生じてしまいます。「なぜならば」という接続詞を用いて、正しく展開されているかどうか、常にチェックしましょう。
③共通点から結論に至る筋道に飛躍がある
共通点を見つけ出すときに例外が見つかった際、その論理が破綻に導かれる可能性が高くなります。とはいえ一度破綻を見つけたとしても改めて論理展開を行っていけば、新しい発見が生み出される可能性もあると考えられているのです。
7.帰納法を習得することで得られるメリット
帰納法は、論理的な思考を行っていくと、ビジネスシーンでの活用も可能です。またさまざまな能力が鍛えられるともいえます。ここでは、帰納法の習得によって得られる4つのメリットを紹介しましょう。
- 分析力の向上
- 問題解決能力の向上
- コミュニケーション能力の向上
- 生産性の向上
①分析力の向上
論理的な思考は、さまざまな事象や問題に対して、「問題の分類」「因果関係や相関関係の解明」「分解から適切な対応策や判断を導き出す」などを可能にします。
問題をただやみくもに考えたり、その場だけの一時的な対応をしたりするのではなく、問題の吟味や関係性の理解から課題を深掘りできるのです。
②問題解決能力の向上
一般的に問題解決をする際、問題が発生した箇所や背景の特定が欠かせません。論理的思考を鍛えれば、ロジックツリーやMECE(ミーシー)などの論理的フレームワークを使って、問題の発生箇所や然るべき背景が特定できます。
場当たり的な対処ではなく、根本的な問題を解決できるのです。
③コミュニケーション能力の向上
コミュニケーション能力とは、相手の意見を的確に理解するスキルや、自分の意見や要望を正確に伝える能力のこと。
コミュニケーション能力があれば、相手の考えと自分の考えをすり合わせながら、論点のズレや事実と意見の違いを最小限に抑えられるため、円滑に交渉を進められます。
④生産性の向上
「イシューツリー」というフレームワークを活用すると、問題の本質をより見極められます。また不必要な思考やプロセスを省けるため、効率化も進むでしょう。
正しい仮説や問題の基本がしっかりとベースにあるため、「手戻り」のような再検討をすることなく生産性の向上を目指せるのです。
8.帰納的な思考の鍛え方
論理的思考が基本となる帰納法ですが、考える習慣を付けるとより展開しやすくなります。また日常業務でも帰納的な考え方は鍛えられるのです。ここでは、日々の業務から帰納的な思考を鍛える方法について見ていきましょう。
企画業務で帰納法を使う
新しいアイディアなど提案が多い企画業務で帰納法を使う場面は、多くあります。
PESTや3Cなどのフレームワークは、「複数の実例を挙げて」「実例をもとに共通点を見出し」「共通点を根拠に結論付ける」という帰納法の使い方に沿っていると考えられるのです。
企画業務に従事している場合、積極的に帰納法を取り入れて論理的に考える習慣を付けましょう。
依頼業務で帰納法を使う
帰納的な思考は、依頼業務でも鍛えられます。たとえば会議やミーティングを開催した旨の依頼メールをただ漫然と送るのではなく、帰納的思考で内容を考えていくと、参加メンバーに主旨が明確に伝わるのです。
依頼業務は特定の部署に限らず、業務のさまざまなシーンで多く存在するでしょう。常に帰納的思考を意識して、スキルアップを図ってみてはいかがでしょうか。