2018年4月にスタートした「就労定着支援」は、障がい者を受け入れる企業側と、働きたい障がい者のサポートをするサービスです。ここでは就労定着支援について解説します。
目次
1.就労定着支援とは?
就労定着支援とは、2018年度に創設された障がい者総合支援法にもとづく障がい福祉サービスのひとつです。障がい者が企業に勤める際の課題を把握し、企業などが課題解決に必要な支援を行います。
障がい者が働く際、環境の変化で生活リズムや体調の崩れなどが起こる場合も少なくありません。このような生活面の問題を解決するのが就労定着支援です。
どんな目的で導入されているのか
目的は、障がい者が雇用された企業で就労を継続できるように図ること。近年、障がい者の一般就労が増加しているため、障がい者が抱える日常生活や社会生活に関する課題も増えています。
こうした課題の解決に向けて、就労定着支援は職場や家族、医療機関や福祉施設などと連携して、指導や助言といった支援を行うのです。
就労定着支援とジョブコーチの違い
2つの違いは、下記のとおりです。
- 就労定着支援:障がい者が働く際に生じる生活面の問題を解決するための支援です。利用期間は3年で、就労移行支援事業所で利用できる
- ジョブコーチ:さまざまな障がいの特性を理解し、障がい者が職場に適応するための能力開発。利用期間は8カ月と短期間の支援で、ハローワークや障がい者職業センターでの利用
2.就労定着支援の利用条件とは?
就労定着支援を利用するには、一定の条件を満たしたうえで利用申請を行わなくてはなりません。たとえば就職時に決められた支援を受けているといったものです。ここでは下記3点について、解説します。
- 利用対象者
- 利用期間
- 利用料金
①利用対象者
就労定着支援の利用対象者は、「就労移行支援」「就労継続支援」「自立訓練」「生活介護」などの利用を経て、一般就労へ移行した障がい者です。さらに就労に伴う環境の変化により、日常生活での課題がある障がい者も対象となります。
現在休職中の場合、所定の要件を満たす場合に利用でき、復職した際に一般就労への移行者として扱われるのです。また65歳に達する前に5年間、障がい福祉サービスの支給決定を受けており、65歳になる前日までに就労移行支援の支給が決定していれば、引き続き利用できます。
②利用期間
就労定着支援のサービスの利用期間は最大で3年6カ月。「生活介護」「自立訓練」「就労移行支援」「就労継続支援」を行う事業所から利用者が一般就労した場合、6カ月間は利用していた事業所が定着支援を行います。
その後も定着支援が必要な場合は就労定着支援事業に申し込み、就労定着支援事業所による支援を3年間受けられるのです。なお支援開始から1年ごとに利用期間の更新が必要となります。
③利用料金
利用料金は、厚生労働省が定めた障がい福祉サービスのサービス提供費に応じて設定されます。就労移行支援と同様、1割は自己負担、9割が自治体負担です。さらに前年度の世帯所得や住んでいる自治体などによっても負担の上限額が変わります。
生活保護受給者の場合、利用料金の負担がありません。詳細は各自治体に確認するとよいでしょう。
3.就労定着支援の支援内容
就労定着支援の支援内容は、障がい者が就労する際に生じる生活課題を解決に向けて、必要な連絡の調整やアドバイスを行うこと。
各事業所の担当者は月1回以上のペースで障がい者と対面でヒアリングし、勤務先への訪問、医療機関や福祉機関などの関係者と連携を図ります。
利用者との面談
定着支援では基本、障がい者と受け入れ企業側担当者との面談から始まります。障がい者には、「勤務状況」「業務で問題無く行えている作業や改善点」「現在の生活状況や働くにあたっての困りごと」「企業側担当者に伝えたいこと」などをヒアリングするのです。
企業側担当者には、「受け入れ環境」や「職員教育状況」など、就労希望障がい者に伝えてほしいことや確認してほしいことをヒアリング。こうして両者の面談内容を整理し、マッチングに備えるのです。
関係機関との連絡調整
関係機関との連絡調整も就労定着支援が行うのです。事業主や障がい福祉サービス事業者、医療機関と連携を取り、障がい者が新たに雇用された事業所で就労が維持できるようにサポートします。
たとえば「企業や自宅などへ訪問」「障がい者自身の生活リズムや家計および、体調の管理などの課題解決に向けた連絡の調整や指導、助言」などです。
課題解決に向けた支援
課題解決に向けた支援も就労定着支援のひとつです。障がい者の一般就労定着には一定の時間がかかり、定着までにはいくつもの課題をクリアにしなければいけません。
そのために定期的な訪問や丁寧なヒアリングで状況を把握し、課題解決に向けた指導や助言を実施します。また就労する障がい者だけでなく、受け入れている企業や生活を支える家族とコミュニケーションを通じて状況を共有のもそのひとつです。
4.職場定着支援を実施している事業所
就労定着支援を実施している事業所は、国や自治体が管理する公的機関や民間企業など。ここでは下記の事業所が行う取り組みについて説明します。
- 就労移行支援事業所
- 地域障がい者職業センター
- 障がい者就業・生活支援センター
- 民間企業
- そのほかの団体
①就労移行支援事業所
就労移行支援事業所で就労定着支援サービスを受けられます。就労移行支援とは、一般企業で働きたい障がい者へ、就労に必要な知識や能力を身につけさせるために行う支援のこと。
就労移行支援事業所は全国に3,000か所以上あり、主に「職業訓練」「就職活動のサポート」「職場定着支援」3つの支援が行われています。就労定着支援を受けるには、この就労移行支援事業所を利用している必要があるのです。
②地域障がい者職業センター
地域障がい者職業センターでは、障がい者に対して専門的な職業リハビリテーションサービスを行っています。事業主に対しては、障がい者雇用に関する相談や援助、地域の関係機関への助言や援助などを行っているのです。
地域障がい者職業センターは各都道府県に最低1か所ずつ設置されており、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営を行っています。
③障がい者就業・生活支援センター
障がい者就業・生活支援センターは、働きたいと考えている障がい者を対象に「雇用」「保健」「福祉」「教育」などの関係機関と連携して、就労や生活への指導や助言、職業準備訓練のあっせんなどを行っています。
全国各地の都道府県で複数のセンターが設置されており、運営元の多くは社会福祉法人やNPO法人などです。
④民間企業
民間企業でも職場定着支援を実施しています。一般企業における障がい者の雇用推進と職場定着を目的に、障がい者職場定着支援奨励金という制度が設けられました。
障がい者を雇用して業務に必要な援助や指導を行う職員を配置する事業主に、対象労働者数1人あたり最大4万円を支給。6カ月ごとに給付され、最大で2年間(対象労働者が精神障がい者の場合、最大3年間)の支給が受けられます。
⑤そのほかの団体
「就労継続支援A型事業所」「就労継続支援B型事業所」「生活介護事業所」「自立訓練事業」なども就労定着支援を提供する施設です。これらの事業所では、就労定着支援の開始に関わらず就職後半年間の定着支援を行っています。
事業所によりサービス内容が変更される可能性もあるため、各自治体に確認しましょう。
5.就労定着支援の指定を受けるための申請方法
就労定着支援事業所として支援を提供するには、障がい福祉サービス事業者の認定を受けなければなりません。
障がい福祉サービス事業者になるには、障害者総合支援法第36条第1項の規定にもとづき、事業所が所在する都道府県知事(指定都市および中核市においては当該市の市長)の指定が必要です。ここでは就労定着支援の申請方法について説明します。
事前相談
障がい福祉サービス事業者の指定を希望する場合はまず、地域の支援センターに事前相談します。相談の際は事業計画といった資料を準備し、指定(事業開始)を希望する2カ月から3カ月前をめどに事前相談の予約を取る流れが通常です。
またすでに指定されている事業者も、ほかの障がい福祉サービスの指定を受ける場合、新たに事前相談をしなくてはなりません。
書類を提出
事前相談後、書類を提出します。自治体ごとに所定の申請書類フォームがあり、ホームページ上で必要書類一式をダウンロードすれば書類を作成できるでしょう。複数の支援を行う「多機能型事務所」の場合は、付表の提出も必要です。
申請書類に問題なく審査がとおれば、障がい福祉サービス事業者に指定されます。予定している事業開始日がある場合は、ゆとりを持って早めに申請しましょう。
審査
審査基準の詳細は自治体により異なるものの、指定障がい者支援施設の人員や設備、運営の基準を定める条例により、サービスの内容ごとに大きく分けて3つの視点から指定基準が定められています。
つまり就労定着支援を実施する場合には、以下の3つの基準を満たしていなければなりません。
- 人員基準(従業者の知識や技能、人員配置などに関する基準)
- 設備基準(事業所に必要な設備に関する基準)
- 運営基準(サービス提供にあたって事業所が行わなければならない事項や留意事項など、事業を実施するうえで求められる運営上の基準)
新規指定事業者説明会へ参加
手続きを終えて障がい福祉サービス事業者として指定されたら、「新規指定事業者説明会」に参加しなければなりません。この説明会は各自治体で新規指定事業者を対象として開催されています。
事業開始後の変更届といった手続きや介護給付費に関わる請求概要など、事業運営において重要となる事項の説明が行われるので、必ず参加しましょう。
6.就労定着支援の実例
厚生労働省は「就労移行支援・就労定着支援事例集」「就労継続支援A型事業所の経営改善に関する事例集」として事例を公表しているのです。ここではNPO法人・一般企業・障がい者就業・生活支援センターの事例をご紹介します。
NPO法人 リエゾン
NPO法人リエゾンでは、企業のニーズと就労希望者とのマッチングを重視し、実際の企業訪問や担当者からの密な聞き取りとコミュニケーションに注力した支援を実施しています。
就職直後も週3日程度の訪問を行うものの、環境の慣れや仕事の習得に応じて徐々に回数を減らし、本人や企業からの対応にシフト。定着支援期間終了後も、適宜サービス利用者との相談に乗るといった対応を継続しています。
ジャパンシステム
ジャパンシステムは、肢体不自由・内部障がい・精神障がいといった人の受け入れ実績をすでに持っており、復職希望の障がい者の定着支援を開始しました。現状の確認や復職に向け、本人とともに課題整理を定期的に実施。
企業と就業・生活支援センター間でも、仕事内容や支援のあり方、復職形態(在宅)などを調整しています。企業が積極的に支援機関と連携し、ケース会議に参加した事例といえるでしょう。
障がい者就業・生活支援センターみなと
障がい者就業・生活支援センターみなとは、運営元の病院と連携し、医療とともに総合的な福祉サービスを提供している施設です。自立訓練や障がい者地域活動支援、障害者就労移行支援などを実施しています。
まずは障がい者およびその家族と面談して、支援職員が支援計画を策定。職業訓練や求職活動を助け、就職までをサポートします。就職後はジョブコーチと就業支援の担当者が連携して就労定着支援にあたるのです。