ナレッジとは、知識や知見といった意味を持つ和製英語です。ここではナレッジと間違えやすい用語や関連用語などについて解説します。
1.ナレッジとは?
ナレッジとは、本や新聞、文章などから得られる知識のこと。英語の「knowledge」をカタカナ表記した和製英語で、辞書上は知識や情報といった意味を持ちます。
ビジネスシーンでの意味
前述の通りナレッジ(knowledge)は、知識や情報、知見といった意味を持っています。しかしビジネスシーンにおいては企業などの組織に有益な知識や事例、ノウハウや付加価値のある経験などを意味するのです。
文字として可視化された情報だけでなく、体験から得た技術や技能、経験などを含めて「ナレッジ」と呼びます。
2.ナレッジと似た意味の言葉
「ナレッジ」と混同しやすい単語に
- ノウハウ
- スキル
があるのです。ここではそれぞれの言葉の意味とナレッジとの違いについて、説明しましょう。
ノウハウ
ノウハウとは、物事を進めるうえで必要な技術や知識のこと。ビジネスシーンにおいては、「手続き的知識」という意味で用いられます。
言葉を媒体として知識を伝えるナレッジに対して、体験を媒体としているのが特徴です。ナレッジ=知識、ノウハウ=知恵と区別できます。
スキル
スキルとは、仕事やスポーツなど、実体験を経て自身が身に付けた専門的な能力のことで、ノウハウよりもさらに深い理解にもとづいています。特徴は肉体的な能力に限らず、頭脳的な能力にも広く使われる点。スキルは、英語の「skill」をカタカナで表記した和製英語です。
3.ビジネスシーンでよく使われるナレッジ関連用語
ビジネスシーンにおける「ナレッジ」の関連用語には「ナレッジベース」や「ナレッジワーカー」、「ナレッジマネジメント」などがあります。それぞれの意味を見ていきましょう。
ナレッジベース
ナレッジベースとは、「業務に関する知識や情報を集めたデータベース」のことで、ナレッジ(知識)とベース(データベース)を組み合わせたビジネス用語です。
単にデータベース(DB)や知識ベース(KB)と表記する場合もあります。「個人や組織が持っている知識やノウハウに、社内全員がアクセスできるデータベース」と考えるとイメージしやすいでしょう。詳細については後述します。
ナレッジワーカー
ナレッジワーカーとは、情報や知識といった意味を持つ「ナレッジ」と、労働者を指す「ワーカー」を組み合わせた言葉のこと。形のない知的生産物を生み出す知的労働者、という意味があります。
経営学者・社会学者であるピーター・ドラッカー氏が提唱しました。自らの専門的なスキルや知識によって企業価値を向上させてくれる人材、といった意味で用いられます。
ナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントとは、労働者が業務を行うなかで得た知識、すなわちナレッジを組織全体で共有し、企業価値を高める経営手法のこと。
それまで各個人の暗黙知とされてきたものを、データベース化して形式知に変えていくマネジメントのこと。組織としての強みを生かし続けるには、ナレッジマネジメントが欠かせません。詳細は後述します。
4.ナレッジベースとは?
先に触れたナレッジベースというビジネス用語について、もう少し詳しく掘り下げてみましょう。業務に関する知識や情報がまとまったデータベースを指す「ナレッジベース」には、どのようなメリット、またどのような構築ツールがあるのでしょうか。
ナレッジベースのメリット
はじめに、ナレッジベースのメリットについて解説します。ナレッジベースのメリットは、下記の3点です。
情報の共有とアップデートの迅速化
ナレッジベースを構築しておくと、労働者は業務に必要な情報や知識をいち早く理解できます。また情報がアップデートされるたびにデータベースを更新しておけば、いつでも最新の情報を得られるのです。
ナレッジベースでは、各労働者がそれぞれ直接データベースにアクセスできます。そのため労働者間や部署間での伝達ミスを防げるのです。
業務効率化
必要な情報の共有がスピーディーになり、かつ労働者間での伝達ミスが減れば、それはそのまま業務効率化につながります。毎回使用する定型文書や業務フローなどをナレッジベースに蓄積しておけば、その都度ゼロから資料を作り直す必要もありません。
新しくプロジェクトに加わった労働者にも必要事項をかんたんに共有できるため、企業全体としての業務効率を高められるのです。
顧客への対応力向上
顧客のニーズやクレームに関する情報をすぐに共有できる企業と、共有に時間がかかったり齟齬が発生したりする企業。どちらの顧客対応力が高いかはいうまでもありません。
素早い情報共有と業務効率化ができれば、当然業務スピードはアップします。ナレッジベースの構築は企業の競争力アップ、顧客への対応力を高めるためにも欠かせないデータベースといえるでしょう。
ナレッジベースを構築するツール
さまざまなメリットを持つナレッジベース。構築するにはどのようなツールを利用すればよいのでしょうか。
データベース型
データベース型とは、膨大なデータを蓄積し、必要に応じて検索、抽出できるタイプのこと。知識情報検索型とも呼ばれ、使用方法次第でさまざまな目的に利用できるため、応用性が高いツールです。
ヘルプデスク型
ヘルプデスク型とは、主に文書ファイルを扱うタイプのこと。「回数の多い質問をまとめたFAQの作成」「顧客のクレームや問い合わせを自動的にデータ化」などに特化しています。労働者が困ったときの拠り所として運用できるのです。
グループウェア型
グループウェア型とは、メールやチャット、ファイル共有やスケジュール管理など、ネットワークを使用した情報共有に便利なタイプのこと。労働者間でコミュニケーションを取りながら業務を進めたり、進捗状況を把握したりできます。
社内wiki型
社内wikiとは、インターネット上に構築された百科事典「Wikipedia(ウィキペディア)」の社内版のこと。ページにアクセスできるすべての労働者が、情報の書き込み・編集・検索・閲覧を実行できます。
スピード感を持った情報の共有、属人化したナレッジの共有が可能になるため、業務の効率化が期待できるでしょう。
5.ナレッジワーカーとは?
続いて、ナレッジ(知識、情報)とワーカー(労働者)を組み合わせた「ナレッジワーカー」について詳しく説明していきましょう。ナレッジワーカーとは具体的にどのような職種を指し、どのような能力が求められるのでしょうか。
主な職種
労働者自身が持つ専門的な知識やスキルによって企業価値を向上させる「ナレッジワーカー」は、以下のような職種を指します。
コンサルタント
コンサルタントとは、ある分野に関するコンサルティング(相談や指導)を行う人のこと。コンサルティングとは経営や投資、人事や医業経営など、さまざまな分野で企業や組織などのクライアントから相談を受け、問題の解決や発展に協力する仕事です。
豊富な知識と経験を生かし、分析や情報収集を行う仕事はまさにナレッジワーカーに該当する仕事といえます。
金融アナリスト
資産運用を専門的にサポートする金融アナリストもまた、ナレッジワーカーの一種。戦略立案を中心として幅広い金融取引に従事する金融アナリストには、世界マーケット情報の収集や経済動向を見ながらの投資が欠かせません。
日々の研究が必要不可欠な職業という意味では、金融アナリストもコンサルタントと同じくナレッジワーカーが活躍する職種といえるでしょう。
ナレッジワーカーに求められる主な能力
さまざまな情報を集約して分析するナレッジワーカーには、いったいどのような能力が求められるのでしょうか。
コミュニケーション力
コンサルタントにせよ金融アナリストにせよ、基本となるのは「情報・知識」。そのため大勢の人間から情報をヒアリングする「コミュニケーション力」は必須とされています。
もちろん情報を集めるだけでなく、集積した情報をフィードバックするための能力も必要です。コミュニケーション力の高さはナレッジの質に影響すると考えられます。
情報収集能力
ナレッジワーカーの武器となる情報や知見はただ聞き出すだけでなく、これらの収集・記憶も必要です。「本当に必要な情報は何か」「どうやったら欲しい情報を効率よく集められるか」といった取捨選択の能力が求められます。
また専門外の知識を求められる場合も。その際「どんな方法で情報を収集するか」「誰に相談すればよいか」などの把握も情報収集能力のひとつです。
6.ナレッジマネジメントとは?
最後に、業務を行うなかで労働者が得たナレッジを組織で共有し、企業全体としての価値を高める経営手法とされる「ナレッジマネジメント」について解説します。このナレッジマネジメントは、以下に解説する2つの概念によって形成されています。
- 暗黙知
- 形式知
①暗黙知
暗黙知とは、文字どおり個人的な経験や勘にもとづいた主観的な知識で、言語化されない(あるいはできない)知識のこと。経験や勘、思い入れなどを思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。
職人気質や職人技などの主観的な暗黙知は人によって捉え方が異なるため、第三者への共有が困難です。そこで個人が持っている「暗黙知」を数値や図表に落とし込んだり、マニュアル化したりする「形式知化」が必要になってきます。
②形式知
形式知とは、主観的な暗黙知を文章や図表を用いて説明できるナレッジにしたもの。客観的な知識、言語化された知識とも言い換えられます。
個人的な体験や勘などの暗黙知を、可能な限り文章化・図表化・マニュアル化できれば、それは立派な「形式知」となります。具体的な例を挙げてみましょう。
- 車を運転する:言葉で説明しがたい感覚なので、「暗黙知」
- ハンドルの切り方やブレーキの踏み方:マニュアル化された運転の方法なので、「形式知」
SECIモデル
個人が持つ暗黙知を形式知に変換し、新たな発見を得るためのプロセスを「SECI(セキ)モデル」といいます。SECIモデルは以下4つのプロセスで構成されています。
- 共同化(Socialization):何らかの経験をとおして暗黙知を第三者に移転させる(例:実務を通して先輩職人の知識や技術を身につける)
- 表出化(Externalization):暗黙知を言語や図表に変換し、第三者に共有する(例:ミーティングで暗黙知を表現する)
- 連結化(Combination):表出された形式知に既存の形式知を組み合わせて新たな知識を形成する(例:現在の仕事に新たなプロセスを取り入れて効率化を図る)
- 内面化(Internalization):新たに得た形式知を蓄積・熟成させるプロセス(例:新ソフトの操作を覚え、都度マニュアルを参照する必要がなくなる)
ナレッジマネジメントのメリット
暗黙知と形式知、2つの概念からなるナレッジマネジメントを行うと、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
組織内の連携が高まる
ナレッジマネジメントを実施すると、チームや部署内の連絡頻度、組織内の連携が自ずと高まります。それまでベテランの個人のみが持っていた知識を一元的に管理するため、若手も業務のノウハウを取り入れられるようになるのです。
これによって個人のスキルアップはもちろん、部署間の情報共有や意見交換も活発になるでしょう。複数の人材・部署が異なる視点でナレッジを共有した結果、新たなアイディアが生まれるかもしれません。
生産性の向上
個人一人ひとりが持つ顧客情報や機械操作のコツなどを共有すると、業務がスムーズになったり、生産性が向上したりします。たとえば機械操作のコツが分からないため、時間のかかる業務があったとしましょう。そこで生じる時間を短縮できるのです。
業務の属人化を防ぐ
「この仕事はこの人に任せておけば問題ない」という考えは「その人がいなくなれば知識や情報が失われる」と同じでもあります。特定の人物がいないせいで業務が遂行できない状況では、企業としての活動が成り立ちません。
業務の属人化を防ぎ、特定の労働者に情報や知識が偏重しなくなる点も、ナレッジマネジメントのメリットです。