ナレッジマネジメントとは? 基礎理論や事例、ツールなどを解説

マネジメント方法の一つに、ナレッジマネジメントがあります。一体どんなマネジメント方法なのでしょうか?

  • ナレッジマネジメントの意味
  • 始まった背景
  • 基礎理論
  • 手法
  • メリット
  • ナレッジマネジメントツールの種類
  • ナレッジマネジメントの失敗例や成功事例

などについてご紹介します。

1.ナレッジマネジメントの意味とは?

ナレッジマネジメントとは、社員たちが業務を行う中で得た知識=ナレッジを、会社の全体で共有し生かすという経営手法の一つです。

会社全体で経験や知識を共有することにより、

  • 新規事業の開発・改善
  • 教育プログラムの効率化
  • 生産性の向上

などを属人的でない形で実行できるようになります。すると、会社をより良くする施策の効果が高まりやすくなるのです。

スペル、略称

ナレッジマネジメントのスペルはKnowledge Managementで、KMと略されることもあります。

日本語訳「知識管理」「知識経営」

企業の競争優位の源泉としてナレッジマネジメントに注目が集まったのは、1990年代です。現在では世界の多国籍企業の80%が、ナレッジマネジメントプロジェクトを実施しています。

ナレッジマネジメントを理解するためにも、言葉の意味を把握しておきましょう。ナレッジマネジメントは、

  • 知識の管理
  • 知識に基づく経営、知識創造の経営

を意味するといわれています。

提唱者:一橋大学大学院・野中郁次郎教授ら

ナレッジマネジメントの提唱者は、一橋大学大学院の野中郁次郎教授らといわれています。1990年代に発表された日本発の経営理論とされており、このアプローチによる研究や取り組みが急速に広がったのです。

野中氏は、知識の処理ではなく想像の重要性を指摘しており、ナレッジマネジメントはそこから始まっています。

ナレッジマネジメントは、知識の活用だけでなく組織にとって有効な知識や情報を提供することで、新たな知識が生み出され活用されるというシステムを指しているのです。

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2.ナレッジマネジメントの概要

ナレッジマネジメントの一番のポイントは、情報・知識を共有することです。知識や情報は、組織の中で人が活用することで成功につながります。そのためにも、組織風土への変革すなわち人間系の改革が必要なのです。

また、ITを使った経営革新手法にはSE(システムエンジニアリング)があります。情報の電子化は、効率的な情報入手を可能にしました。さらに、

  • ワークフロー化の進行
  • 効率化・質の低下防止
  • 即効性

などの実現も可能とします。

一方でKM(ナレッジマネジメント)は、ITの導入だけでなく、

  • 情報の共有により新たな知識を獲得
  • 検索や活用によりまた新しい知識を入手

という組織能力が必要とされるものです。2つの違いを認識した上で活用することが大事です。

参考 ナレッジマネジメント成功への鍵日本能率協会コンサルティング

ナレッジワーカー(知識労働者)と知識共有

ナレッジマネジメントを活用する上で知っておきたいのが、ナレッジワーカーの定義です。

ナレッジワーカーは、

  1. ナレッジコントリビューター(知識提供者)
  2. ナレッジユーザー(知識利用者)

2つの側面を持ちます。

組織における知識は、「自分に必要な分さえあればいい、自分だけ知識量が増えればよい」ではありません。全員がいかに知的生産性を高めるかに注視する必要があります。

そのために、

  • 組織の目的に貢献し成果を出す
  • 自分の成果を他の人間に供給する

が必要なのです。

参考 ナレッジマネジメント成功への鍵日本能率協会コンサルティング

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3.ナレッジマネジメントの基礎理論

ナレッジマネジメントの理解を深めるには、ナレッジマネジメントの基礎理論について知ることが必要です。基礎理論を把握する上で必要な、

  • 2種類の知識タイプ
  • 組織的知識創造理論の4つの要素

について解説します。

2種類の知識タイプ

ナレッジマネジメントの理論の要点として、以下の点が挙げられます。

  1. 明確な言語・数字・図表で表現された「形式知」
  2. はっきりと明示化されないメンタル・モデルや体化された技能としての「暗黙知

2つは互いに作用し合い、成り変わる可能性があります。詳しく説明しましょう。

①形式知

「形式知」とは、マニュアルのように誰が見ても理解できるように記されたもの、具体的には明確な言語や数字、図表で表現されるものです。組織的に共有できる方法や事例などは形式知でしょう。

形式知は、言語化できるもしくは言語化された客観的な知識のため、比較的明確に理解できる有益なものです。また形式知には、社内で誰もが活用できるというメリットがあります。

②暗黙知

「暗黙知」とは、言語化や図式化といったかたちではっきりと明示化されてはいない、属人的な技能や暗黙のうちにつくられた手法や事例などのことを指します。

たとえば社内の優秀な営業マンが持っているスキルなどは、その人しか持っていないもので、マニュアル化されていないことがほとんどでしょう。

暗黙知をそのままにしても組織全体のスキルがアップすることはありません。その人だけの成果となってしまいます。

組織的知識創造理論の4つの要素

暗黙知と形式知は互いを変換させ、作用させ合うことで知識経営を可能にします。以下のような組織の知のスパイラルで、知識変換が可能です。

  1. 「SECIモデル」
  2. 「場(ba)」
  3. 知識資産
  4. 「ナレッジリーダーシップ」

①「SECIモデル」

共同化(Socialization) 個々人の暗黙知を、共通体験を通じて互いに共感し合う
表出化(Externalization) 共通の暗黙知から明示的な言葉や図で表現された形式知としてのコンセプトを創造
連結化(Combination) 既存の形式知と新しい形式知を組み合わせて体系的な形式知を創造
内面化(Internalization) 体系的な形式知を実際に体験することで身に付け暗黙知として体系化

これらをもとにした知識づくりのプロセス・モデルのことをそれぞれのイニシャルから「SECIモデル」と呼びます

この4つのモードがダイナミックに成り変わることで、組織の知識は成り立っているのです。この理論はナレッジマネジメントの基礎的な理論として知られています。

②「場(ba)」

知識が創造・共有・活用される空間や状況、文脈として「場」というコンセプトがあります。病院という組織では、診察室や手術室が当てはまるでしょう。ネット上のデータベースや電子会議室、理念なども「場」に相当します。

マニュアルを読んで知識を付けても、「場」に行った際、知識だけでは実践できないことも多いものです。実践できるようになるには、暗黙知ではなく納得できる形式知が必要になります。

③知識資産

組織が社会で勝ち上がるには知識が必要で、それを知識資産と呼んでいます。知識資産には、以下のようなものがあります。

経験的知識資産 経験によって得られるスキルやノウハウなど
概念的知識資産 組織の中の理念や経営コンセプトなど
体系的知識資産 マニュアル化され体系化されたもの
恒常的知識資産 組織内に日常的に存在

これらの知識資産をどのように創り、蓄積し、活用するか、が組織経営戦略において重要になるのです。

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④「ナレッジリーダーシップ」

ナレッジマネジメントで成果を出すには、リーダーとしての役割を認識して実践しなければなりません。そうしたナレッジリーダーには、

  • 知識ビジョンを創る
  • 知識資産を絶えず再定義
  • それらが知識ビジョンに合っているかチェック
  • 場を創って活性化し、他の場とつなぐ
  • 知識創造(SECI)プロセスをリード及び促進し、正当化

といった任務があります。知識を創り、活性化させ、率いることが、ナレッジリーダーとして重要です。

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4.富士ゼロックスでの「SECIモデル」具体的事例

ベテランや専門家などが独自に持つスキルを、明確に見えるスキルとして活用することが組織において重要なことです。日本企業においても、それを実現する動きがあります。

富士ゼロックスでは「知の創造と活用をすすめる環境の構築」をミッションの一つとしており、ドキュメントを知の一つの分野として「ザ・ドキュメント・カンパニー」を標榜しています。

このコンセプトをもとに知識共有システムの構築をはじめ、全員設計ルームを設けるなどSECIモデルを実践しているのです。

システム開発のプロセス

知識共有創造システム開発の目的は、最終段階での設計変更という問題点の解決でした。

富士ゼロックスではよりユーザーに近い視点を持つ担当者の意見を反映するために、プロトタイプもしくは製品完成までを待たなければならない状態だったのです。

しかし、その段階で意見を反映すると、開発期間の延長につながります。そこで、各工程の設計者と技術者が相互交流を行い、プロトタイプを待たずに明示的になる暗黙知の獲得が必要となりました。

そのため初期設計の段階から、

  • 全員がコメントを出す
  • 改善提案を出す
  • 決定する
  • それぞれの領域で責任を持つ

という全員設計を生み出したのです。

また、現場の暗黙知であるノウハウの整理、という問題に対してはオンライン上の設計情報共有システムを開発しました。これにより、設計者や技術者は、自分たちのスキルや知識を言葉にしてインプットできるようになったのです。

さらに、上司が優れたものを特定して登録するシステムも構築され、より精度の高いシステムが出来上がりました。

サイクルではなくスパイラル

富士ゼロックスのSECIプロセスは、サイクルではなくスパイラルであることを強調しておきましょう。

ナレッジマネジメントでは、既存の知識を共有し活用する、いわゆるサイクル的な実践をしている企業も多いです。それは効率向上において多少の貢献があるものの、組織における創造性向上への貢献は期待できないとされています。

一方で富士ゼロックスのシステムは、有意義なシステムとなっているのです。

今まではスキルを持っていた人材によるものが、暗黙知を共有することで活用が始まりました。さらにそのノウハウの中でも特に必要なものや有意義に活用できるものが選択され、実践に結び付いたのです。

  • 言語化されたノウハウは「品質確立リスト」に編集
  • 設計者は体系化された形式知を現場の状況に合わせて、暗黙知として体得

していきます。これは知識の共有にとどまらず、拡大しながら共同化され、全員設計ルームで相互作用が行われるのです。これがサイクルではなく、スパイラルなのです。

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5.国土交通省が活用した「SECIモデル」による防災対応力

災害発生時、災害対策用資機材、運用者、指示命令系統などでのトラブルを避け、スムーズに対応しなければなりません。国土交通省では、SECIモデルを活用して防災対応力を高めることを目標としました。

現地や整備局・本局などの作業者からどのようにノウハウを集め、どう提供するかといった「防災対応力の向上に資する情報の共有」に対して、ナレッジマネジメントの考え方を応用し考察した内容を紹介しましょう。

防災対応時のノウハウや経験の共有方法

平成23年3月11日に発生した東日本大震災でも、それぞれのスタッフのノウハウや経験を生かし、防災対応が実践されています。しかし、職員の数そして現場経験が少ないスタッフも多く災害における組織的な防災対応力を高める必要性があったのです。

もちろん、職員個人のノウハウや経験に基づいた対応マニュアルはありますし、課題にも取り組んできました。

しかし、

  • 定期的な情報の更新の難しさ
  • 本当に知りたい情報が閲覧できない

などの問題が浮上していたのです。そこで知識の共有と活用を実践しました。

組織的に個人のノウハウや経験などを有効活用する手法を考案し、防災対応時のノウハウや経験などの暗黙知を共有する取り組みと、重視すべきポイントを整理し、共有ツールを検討したのです。

多様なツールを連携して機能させるとともに、現場適用性の高い知の共有システム関連の技術開発を推進しています。

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6.NTT東日本法人営業本部での「場」の構築事例

NTT東日本法人営業本部では、首都圏の大企業に対して、情報通信に関するソリューション・サービスを展開しています。

  • 最先端のICT技術を利用した新しいサービスの開発や提供
  • ネットワークや通信回線の構築・運用

などを提供しているNTT東日本は、東日本エリアの通信を支える基幹となる企業です。ソリューション・サービスの提供という知識の創造はどのように行われたのでしょう。NTT東日本法人営業本部における場の構築について紹介します。

NTT東日本法人営業本部のナレッジマネジメントの特徴

NTT東日本法人営業本部におけるナレッジマネジメントの特徴は、目的であるソリューション(知識創造)のために、

  • リアルな場(オフィスレイアウト)
  • バーチャルな場(社員約1600名全員の個人ホームページと課、部、本部のホームページ)

を組み合わせている点です。斬新なオフィス環境とイントラネットから、社員のスキルを高めることが目標となっていました。

本部オフィスのリアルな場には、以下のようなものがあります。

ベース・ゾーン プロジェクト・プランニングに使用される個人の席を特定しない
クリエイティブ・ゾーン 対話ができる
コンセントレーション・ゾーン パーティションで区切られている
リフレッシュ・ゾーン ドリンクコーナーなどがある

バーチャルな場には、

  • 個人のプロフィール
  • 営業日報
  • 得意分野
  • 趣味や家族のこと

などを紹介するホームページが作られたり、互いのビジネスファイルにアクセスできたりします。リアル・バーチャルどちらの場も、共有できるようになっているのです。

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7.ナレッジマネジメントに失敗する組織とは?

暗黙知はどこの企業にも存在します。暗黙知を活用するために、ナレッジマネジメントを導入するのですが、うまく活用できないケースもあるのです。

  • なぜ上手に活用できないのか
  • スムーズに機能できないのか

その原因や理由を考察してみました。失敗する原因例も併せて紹介します。

うまく活用できない理由・原因例

失敗する要因に多いのは、知識が共有されないこと・知識がうまく活用されないことです。その要因を挙げてみましょう。

知識が提供されない理由は、

  • 個人が自分のスキルを独り占めして教えない
  • 高いスキルであるにもかかわらず大したことはないと判断など自分の判断で知識を出し惜しみ
  • 伝え方が分からない
  • スキルを伝えることが面倒
  • 手違い

などが要因です。

知識が使われない要因としては、

  • 情報を見つけにくい
  • 情報を得たくても得る方法が分からない
  • 情報を見ることができない
  • 欲しい情報がない

などが挙げられます。このような要因があると、知識や情報は提供されず、活用されないのです。

なぜ機能しないのか?

ナレッジマネジメントがうまく機能しない典型例に、

  • 情報提供をする方法が困難
  • 面倒

などがあります。

ナレッジユーザーは、知識や情報を得る際、

  • 見つけやすい
  • 詳しい情報が欲しい
  • 分かりやすい

といった要望を出しますが、この要望を満たすのは難しく、データベースが減ってしまいます。するとさらに情報がない、見つけられないというクレームにつながるでしょう。

ナレッジコントリビューターは本来、気楽に情報提供すればよいものです。しかしナレッジユーザーの素直な要望を聞き入れていくうちに、おのずと情報提供行動の敷居を高くします。これにより、データベース登録数が減ってしまうのです。

効果的に導入するポイント(2段階データベース法)

  • ナレッジユーザーの素直な要望を満たす
  • ナレッジコントリビューターが気楽に情報提供できる

これを実現する方法に、2段階データベース法があります。情報登録のデータベースと、閲覧のデータベースを分けるのです。

まずは情報の蓄積が重要なので、ナレッジコントリビューターは気軽に情報を蓄積します。このとき、情報の良し悪しにこだわらず、日々の中で得た情報や知識をそのまま残すことを優先させます。

次に登録された情報の中から有意義なデータのみを選び、閲覧できるようにするのです。その役割を担うスタッフの存在は重要なので、注意して選びましょう。これらによりナレッジユーザーが望む良質な知識や情報を効率的に得ることが可能です。

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8.ナレッジマネジメントツールの種類

ナレッジマネジメントツールには大きく分けて4つのタイプがあります。

  1. グループウェア型
  2. データマイニングツール型
  3. 知的情報検索型
  4. ヘルプデスク型(FAQ)
グループウェア型
  • ファイル
  • 社員同士のメール
  • スケジュール
  • チャット
  • 社員のブログ

などによりナレッジの共有を図る

データマイニングツール型 文章(テキスト)を単語やフレーズに分解して、
社内に蓄積されているデータを瞬時に検索
知的情報検索型
  1. 社内で情報を共有するイントラネット
  2. イントラネットを社外の取引先や提携先まで拡大したエクストラネット
  3. 企業内検索エンジンと呼ばれているエンタープライズサーチ

の3つがある

ヘルプデスク型(FAQ) システムに業務内の不明な点を入力すると、方法を知っている社員が答えを入力する
これを繰り返してナレッジが蓄積される

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操作方法が分からないために知識や情報が登録されない、という問題以外の場合は、その理由を解明しましょう。

たとえば、

  • どのような情報を登録すればよいか分からない
  • 役立つ情報の判別ができない

などの理由で知識や情報が登録されない場合もあるのです。まず、困っていることや欲しい知識を改めて表出させましょう。どのような知識や情報が必要なのか解明されれば、役立つものが把握でき、登録する側の悩みも減ります。

ツールがうまく活用されていないときは、日常の中の困りごとや悩みごとなどを具体的に拾い出してみましょう。