行動特性とは、従業員の思考や行動パターンのことです。行動特性を活用すれば、採用や人材育成の効率化に役立ちます。
今回は行動特性とは何かをふまえて、行動特性の活用シーンや活用するメリット・デメリット、ハイパフォーマーの特徴などを詳しくご紹介します。
目次
1.行動特性とは?
行動特性とは、従業員の思考・行動パターンのこと。1970年代にアメリカで生まれた概念で、日本では1990〜2000年にかけて多くの企業が行動特性を適性検査に採用していました。
行動特性は学歴や成績、キャリアに依存にせず、環境や教育で培われるもの。どれほど個人の能力や学歴、キャリアが優れていても成果につながるとは限りません。しかし安定して高い成果をあげる従業員は思考・行動パターンが優れている傾向にあります。
行動特性を見極めれば学歴やキャリアなどからはわからない従業員のポテンシャルが見極められるため、適性検査や人事評価に活用されているのです。
2.行動特性の4タイプ
アメリカの心理学者 ウィリアム・モールトン・マーストンが1928年に提唱したDISK理論では、行動特性を下記4つに分類しています。
従業員がどのタイプに当てはまるかを理解すると、適切なコミュニケーションや指導ができたり、人員配置に活用したりが可能です。以下で各タイプを詳しくみていきましょう。
- 主導型(Dominanca)
- 感化型(Influence)
- 安定型(Steadiness)
- 慎重型(Conscieniousness)
①主導型(Dominanca)
主導型の主な特徴は、下記のとおりです。
- 成果を早く出そうとする
- 行動や判断が早い
- プレッシャーに強い
- 意思をはっきりと伝える
- 権限を求める
主導型は人にコントロールされることを好まず、人の上に立って主導していきたいタイプです。競争力が高く、結果に焦点を当ててリーダーシップの役割を果たすのに向いている一方、ルールやチームワークへの優先順位が高くない傾向にあります。
意思決定が早く、行動につなげる力があるのでリーダーやマネジメントする立場に向いています。主導型への指導は、本人の主体性を尊重したり、チャレンジングな目標を与えたりするとよいでしょう。
②感化型(Influence)
感化型の主な特徴は、下記のとおりです。
- 社交的でコミュニケーション能力に優れている
- 楽観的でエネルギッシュ
- 感情表現が豊か
- 周囲のモチベーションを上げられる
感化型は楽観的で社交的、みんなのムードメーカーとなる明るい存在です。成果に対する関心があまりなく、人に厳しく接するのが得意でない点が特徴。タスク作業や成果が目にみえる営業部門に向いています。
感化型に対しては、積極的にコミュニケーションを取って気にかけている姿勢を見せたり、人前で褒めたりするとモチベーションを向上させられます。
③安定型( Steadiness)
安定型の主な特徴は、下記のとおりです。
- マニュアルやルールを大切にする
- 指示に対して忠実
- 協調性や忍耐力がある
- 周囲との関係性を大切にするので信頼性がある
- 変化を好まない
安定型は指示を忠実に実行し、チームワークを大切にするタイプです。一方、積極性に欠けたり、新しい環境や物事への順応が苦手だったりします。そのため、マニュアルが整った事務作業が向いているのです。
安定型に対しては、不安要素を取り除き、心理的安全性を確保した状態で業務に臨めるよう環境を整えましょう。「段階的にチャレンジしてもらう」「手順や道筋を明確にして具体的に指示を出す」ことが指導時のポイントです。
④慎重型(Conscieniousness)
慎重型の主な特徴は、下記のとおりです。
- 細部にまでこだわる
- ミスがないよう確認に徹する
- 論理的な傾向が強い
- データを重視する
- 自分が納得したうえで計画的に物事を進めたい
慎重型はミスや間違いがないよう丁寧かつ正確に業務を遂行します。一方、自分が納得できない状況や自分の考えに対して反論・批判されるのが苦手です。
指示に対して質問が多く、納得するまですぐに行動に移せない慎重型は、正確さや合理性が求められる経理や法務に向いています。
慎重型への指導におけるポイントは「相手の理解したい姿勢に寄り添う」「根拠と具体的な指示を提示する」「納得できるまで質問させる」などです。
3.行動特性とコンピテンシーの違い
コンピテンシー(Competency)とは「能力」「適性」「力量」「適格」を意味し、ハイパフォーマーの業績や成果につながる行動特性のこと。
行動特性を意味する点では同じであるものの、コンピテンシーはハイパフォーマーに限定して用いられます。
つまり社内のロールモデルに当たるような人材の行動特性がコンピテンシーにあたり、一方、行動特性は対象を限定せず、誰にでも用いられる言葉です。
コンピテンシーの概念は、1970年代にアメリカで誕生しました。きっかけは、米国文化情報局(USIA)が「高いパフォーマンスとIQや高学歴は直結しない」と仮説を唱えたことにあります。
その後の調査・分析でIQと学歴、パフォーマンスの相関性は低いと明らかになったのにくわえ、高い成果を上げる人には特有の行動特性(コンピテンシー)があると判明しています。
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4.行動特性評価(コンピテンシー評価)とは?
行動特性評価(コンピテンシー評価)とは、スキルや知識ではなく、行動特性を評価すること。具体的には、どのような行動が成果につながっているのか、なぜその行動を取ったのかなどの行動や思考を評価します。
評価方法は、自己評価や他者評価、行動観察やインタビューなどとさまざまです。
近年、成果主義へとシフトする企業が増えているため、行動特性評価が注目を集めています。しかし、業界や個々の職務ごとに成果につながる行動特性は異なるもの。業界や職務ごとに定義された行動特性をもとに評価する必要があります。
下記は、一般的な行動特性のカテゴリです。
- コミュニケーション能力
- リーダーシップ
- チームワーク
- 問題解決能力
- 柔軟性
実際の行動特性評価では、職務要件に合わせてカテゴリをカスタマイズしていくのです。
行動特性評価は組織や個人の成果向上、キャリア開発に役立ちます。有効活用するには、適切な評価基準やフィードバック、公平性や透明性が確保された評価システムが重要です。
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5.行動特性を活用するシーン例
行動特性はどのようなシーンで活用されているのでしょう。下記で、主な活用シーン例をご紹介します。
- 採用選考
- 人事評価
- 人材育成
①採用選考
自社に所属するハイパフォーマーの行動特性にマッチする人材を見極めると、ハイパフォーマーになる可能性が高い人材を採用できます。
自社が求める行動特性を明確にしたうえで採用に生かせば、採用のミスマッチ低減に役立つでしょう。また、応募者の行動特性から最適な配属先や業務内容の選定に活用するのも一例です。
採用のなかでも、一度に多くの人材を採用する新卒採用にて利便性が高いといえます。
②人事評価
人事評価では個別の職務に応じた行動特性や自社が掲げる行動特性を評価基準として活用でき、評価基準の安定性や人事評価に対する納得感の高まりに役立ちます。
企業側が行動特性を明確にすれば、従業員にも「企業として期待すること」を浸透させられるため、会社の求める行動特性が自然と養われるのです。
③人材育成
コンピテンシーが明確であれば、ハイパフォーマーの育成にも活用できます。企業としての行動特性が明確なら目指すべき方向性や教育の方針も固まるため、一貫した教育ができ、自社が求める人材を育成できるでしょう。
自社が求める行動特性を明確にしたり、ハイパフォーマー分析ができる環境を構築したりするのはポイントのひとつです。
6.行動特性を活用するメリット
行動特性を活用するメリットは、主に下記4つです。各メリットについて詳しく解説します。
- 人材戦略に活用できる
- マネジメントの質が向上する
- 企業の方針を共有できる
- 評価基準の公平性・透明性が確保できる
①人材戦略に活用できる
行動特性は、採用や配置、評価などさまざまな人材戦略に活用できます。
たとえば、自社のコンピテンシーからハイパフォーマーになる可能性の高い人材が採用できるほか、自社の行動特性に則って選考するため理想の人材を見極めやすくなります。
また、イプによって得意や苦手、向いている業務は異なるため、行動特性を踏まえて適材適所の配置も検討可能です。行動特性を軸に人材戦略を行うと、企業にとっても従業員にとってもwin-winな結果をもたらしやすくなるといえます。
②マネジメントの質が向上する
行動特性を活用したマネジメントは、誰に対しても公平にアプローチできます。マネジメントの標準化ができるため、不公平感の軽減にも役立つのです。
さらに、行動特性を踏まえて指導すれば、その人に合ったマネジメントが可能です。根拠あるアドバイスができ、相手にも納得してもらいやすいでしょう。
このようなマネジメントは、上司と部下の信頼関係構築にもつながり、効果的なマネジメントによって生産性やエンゲージメント向上にも有効です。
③企業の方針を共有できる
自社が定義する行動特性は、求める人物像ともいえます。つまり行動特性を把握し、コンピテンシーモデルが構築できれば、企業が目指すべき方向性が明確になるのです。
企業や職務などによって求められる行動特性は異なるもの。組織に応じて適切な行動特性を明確にするとよいでしょう。
④評価基準の公平性・透明性が確保できる
求める人物像として、行動特性を明確にすれば評価基準としても機能します。明確な評価基準によって評価システムの公平性・透明性が確保できるだけでなく、評価結果にも納得してもらいやすくなるからです。
従業員も目指すべきところが明確になるため、行動特性やコンピテンシーモデルに則って行動できます。
7.行動特性を活用するデメリット
一方で、下記のようなデメリットも存在します。
- すべての企業で活用できるとは限らない
- 導入に時間と労力がかかる
- 正確な分析・評価が難しい
①すべての企業で活用できるとは限らない
行動特性を活用したマネジメントや人材戦略が、すべての企業で活用できるとは限りません。というのも、企業風土や組織形態は企業によってさまざまであるため、行動特性の活用が最適でない場合もあるからです。
たとえば、そもそもマネジメントの形態ができあがっていたり、役職や上下関係がなくマネジメント業務自体がなかったりする場合、行動特性が活用しにくいといえます。行動特性を導入する際は、自社の企業文化に合うかをチェックしておきましょう。
②導入に時間と労力がかかる
企業規模が大きいほど従業員の行動特性を把握するのが難しく、行動特性の分析・把握に時間がかかります。さらに、そのなかからコンピテンシーモデルや自社の求める行動特性を明確にするまで時間と労力がかかるでしょう。
くわえて、職種や役職などによってもコンピテンシーモデルが異なるため、各方面でのコンピテンシーモデルの定義化も必要です。
人事は、ただでさえ多岐にわたる業務を抱えているはず。行動特性を導入・活用するにはかなりの時間と労力がかかるため、リソースや現状をふまえて慎重に検討しなければなりません。
③正確な分析・評価が難しい
行動特性は、思考や行動といった言語化が難しいものを分析しなければなりません。どの行動や思考が成果につながっているのか、見極めるのはかんたんではなく、明言できないものもあれば、複数パターンあるものなど正解のない分析が続きます。
さらに、ハイパフォーマーの行動特性をきちんと抽出し、言語化できるかも確実ではありません。正しく分析・評価するのが困難で、挫折してしまう担当者が出てくる恐れがある点は要注意です。
8.ハイパフォーマーに共通する行動特性の種類一覧
ハイパフォーマーに共通する行動特性は、企業によってさまざまです。そこから代表的なハイパフォーマーの行動特性をご紹介します。
- ルール・マナーを守る
- コミュニケーション能力に優れている
- 行動力が高い
- 学習・成長意欲が高い
- 周囲と良好な関係を築いている
- メリハリをつけられている
- 成果を重視している
①ルール・マナーを守る
ルール・マナーを守ることは、ビジネスパーソンとしての基本です。社会人としての規範や身だしなみ、立ち振る舞いに問題がない人は、コンプライアンス違反のリスクが少なく、良好な人間関係を築ける傾向にあります。
とくに、若手のうちは基本がなっているかどうか、について重要度が高いです。新人・若手だからこそ、この点がしっかりしている人材は将来有望な可能性が高いと判断できます。
②コミュニケーション能力に優れている
組織に属する以上、コミュニケーション能力は不可欠。個人プレーの多い業務でも、社内での人間関係や他部署との連携が必要なときもあります。営業であれば、高いコミュニケーション能力を発揮して成果を生み出せるでしょう。
コミュニケーション能力が高く、チームプレーが得意な人材は、リーダー候補としても有力です。
③行動力が高い
失敗を恐れず行動する積極性と主体性を備えた姿勢は、ハイパフォーマーに共通して見られる傾向です。「周りを巻き込みながら行動できる」「失敗しても次につなげられる」人は、ハイパフォーマーとして活躍できる見込みが高いでしょう。
④学習・成長意欲が高い
大器晩成型で後からどんどん伸びる人は、成長意欲や学習意欲が高い傾向にあります。バイタリティが高いため、モチベーションを維持しながら目標に向かって突き進めるでしょう。
高いスキルや経験、学歴を持っていても、仕事ではさまざまな壁にぶつかることも多々。こうした状況を成長機会ととらえられ、粘り強く意欲的に取り組める人はハイパフォーマーとして成長できる可能性が高いといえます。
⑤周囲と良好な関係を築いている
仕事を円滑に進めるうえで、周囲と良好な人間関係を築くのは大切です。良好な人間関係が築ければ職場でのストレスも少なく、目の前の業務に集中できて生産性も向上します。
またコミュニケーションから新たなアイデアが生まれることも多いです。さまざまなコミュニケーションから多くを吸収できれば、イノベーションも活性化されます。さらに、人脈から新たな仕事につながるといった、成果も生み出せるでしょう。
⑥メリハリをつけられている
オンとオフをうまくつけ、ストレスコントロールしながら業務に取り組める人は、生産性が向上し、成果につながりやすくなります。オンの状態をしっかりと周囲にアピールできれば、「やるときはやる人」と印象づけができ、信頼も獲得できるはずです。
⑦成果を重視している
ハイパフォーマーに共通する特徴は、しっかりと成果が出せていること。成果はただこなすだけではついてこないため、成果を重視していかに工夫しながら粘り強く取り組めるかが重要です。
成果重視の姿勢なら、その過程で壁にぶつかっても諦めずに突き進めるでしょう。成果主義の企業が増えているなか、こうした行動特性の重要性が高まっています。
9.行動特性の分析方法
行動特性の分析とは、従業員の思考・行動パターンの把握です。行動特性やハイパフォーマーの分析ができるツールもあり、効率的に従業員の特性などをグラフ化したり、優秀人材の行動特性の共通点を洗い出してハイパフォーマーを抽出したりできます。
そのほか、以下のような方法から行動特性が分析可能です。
- アンケート調査
- インタビュー
- 行動観察
①アンケート調査
アンケート調査は、個人の行動特性分析の一般的な手法です。行動分析を専門とするツールもアンケートの回答結果から、行動特性を分析する手法をとっています。
質問を作成して自己評価または他者評価で回答してもらい、回答結果から行動特性のタイプを分析するのです。
②インタビュー
対話を通じて、個人の行動特性を分析する手法です。具体的な回答から、ハイパフォーマーの行動特性が抽出できます。ポイントは、行動特性が分析できるようなインタビュー内容を作成することです。
③行動観察
狭い範囲での調査なら、個人やチームメンバーの行動を直接観察するのも有効な分析方法です。普段の業務やプロジェクトを進行するなかでの行動を観察し行動特性をつかみます。成果を生み出す過程を観察できれば、その結果からハイパフォーマーの抽出も可能です。