個人事業主とは、個人で事業を行っている事業者のことです。働き方の特徴やメリット・デメリットなどについて解説します。
目次
1.個人事業主とは?
個人事業主とは、株式会社といった法人を設立せず、個人で事業を行っている事業者のこと。
「個人」という言葉があるため一人または家族などの少数で事業を営んでいるイメージをもたれやすいものの、法人を設立していなければすべての事業者は個人事業主扱いになるのです。
もし税務署に開業届を出していなくても個人事業主を名乗れます。ただし、事業により一定以上の所得がある場合、納税の義務が発生するのです。
税制上の定義
「事業者」とは、個人事業主・法人のこと。小売業や卸売業、賃貸業や運送など、あらゆる事業を営んでいる人は事業者になります。
そもそも事業とは、対価を得て行われる資産の譲渡などを継続かつ独立して行うこと。ただし個人事業主が事業用ではない自動車やテレビの資産を売った場合、事業として行う取引にはなりません。
2.個人事業主と法人、フリーランスとの違いは?
個人事業主と法人、フリーランスなど働き方にはさまざまな名称があります。それぞれどのような違いがあるのでしょう。
法人との違い
株主が出資をして設立し、登記・定款などの作成が必要になります。一方個人事業は税務署に開業届を提出するだけで認められるのです。また税金の仕組みについては、それぞれ次のような違いがあります。
- 法人…法人税、法人住民税合わせておよそ30%前後
- 個人事業…所得が高くなるほど税率が高くなり、所得税や住民税が50%を超えるケースもある
会社員との違い
会社に雇用され、会社が定めた就業規則のもとで働きます。一方個人事業主は個人の裁量によって働くのです。
収入の仕組みについては、会社員は一般的に勤務形態に応じて給料が支払われます。しかし個人事業主は働いた分だけ収入を得るのです。個人事業主は会社員に比べて収入が安定しないというリスクがあるほか、納税なども自分で行わなくてはなりません。
フリーランスとの違い
「フリーランス」は税法による区分はなく、働き方そのものを表す呼称です。一般的に、会社や団体などと雇用契約を結ばず、独立して業務を行うことを指します。個人事業主も、フリーランスという働き方の範囲に含まれるのです。
自営業との違い
自営業者とは、自身の手で事業を行い収入を得ている人のこと。個人事業主も、個人で事業を営んでいる人を指すので同じ意味になります。ただし自営業は規模によって法人化することも。開業届を出している個人事業主より広い範囲の働き方を指すといえます。
3.個人事業主になる前の準備
個人事業主になる前にすべき準備として、各種手続きや資金の調達などがあります。どのような準備が必要なのでしょうか。
屋号の決定
屋号とは、会社での「社名」に当たるもの。個人事業主における屋号は、一般的に事業名・店舗名として使用されます。個人名での活動を考えている場合、必ずしも屋号をつける必要はありません。
しかし個人名だけだと取引先に不安な思いをさせてしまう可能性もあるでしょう。あらかじめて屋号を付けておけば、信用を勝ち取れるかもしれません。
クレジットカードと銀行口座の申し込み
個人事業主になる際、個人用・事業用に口座をわけると事業の状況が見えやすくなります。クレジットカード・銀行口座については、事業用を作るとよいでしょう。
確定申告の際、銀行口座に個人と事業が混同していると、事業用の支出や入金がどれか確認したり、最終的な計算を合わせたりするのが困難になります。
開業届など必要書類の提出
個人事業を始める際、必要な手続きは次の2つです。
- 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を税務署に提出
- 事業開始等申告書を都道府県税事務所と市町村に提出
また従業員を雇う場合、社会保険の加入手続きが必要です。手続きに関する書類を、労働基準監督署・公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。
場合によっては青色申告承認申請書も必要
確定申告は2種類あります。
- 青色申告
- 白色申告
確定申告を青色申告で行う場合、「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」を、所轄の税務署に提出しなければなりません。期限はその年の3月15日までです。
青色申告は白色申告に比べて手間がかかるものの、「特別控除で最大65万円の控除を受けられる」「純損失の繰越し・繰戻しができる」といった節税が可能です。
許認可の確認と取得
業種によっては大臣や警察、保健所などの許認可が必要です。許認可には、下記3つのレベルがあります。
- 許可
- 届出
- 登録
それぞれの許認可が必要な業種として、次のようなものがあります。
- 許可…タクシー業、飲食店、中古品販売など
- 届出…軽トラック運送業、クリーニング店、美容院など
- 登録…旅行業など
資金の調達
新しく事業を起こすと、開業資金や運転資金が必要です。開業資金は、主に必要なものの購入や物件の取得・改装などにかかる資金となります。
また商品や原材料の仕入れ、事業所の賃料や光熱費・通信費といった、事業継続にかかる運転資金もかかります。売上の入金が1~2か月先であると考慮し、当面の運転資金を用意しておく必要があるでしょう。
4.個人事業主になってからやること
個人事業主になってから何をするのでしょう。それぞれについて解説します。
- 保険や税金の手続き
- 必要書類の発行や管理
- 確定申告の準備
①保険や税金の手続き
会社員を退職して個人事業を開業するようなケースでは、社会保険の切り替えや住民税の支払いといった手続きを済ませる必要があります。社会保険で加入手続きを要するのは、下記の2点です。
- 国民健康保険
- 国民年金保険
どちらも住まいのある市区町村役所の健康保険担当窓口で加入手続きをします。手続きで持参する書類は、自治体によって異なる場合もあるので確認しておきましょう。
②必要書類の発行や管理
個人事業主は、自分で取引書類を発行や保管をしなければなりません。管理が必要な書類として挙げられるのは、下記のとおりです。
- 契約書…発注側と請負側との間で、双方が合意した内容を明文化した書類
- 見積書…提供する商品やサービスの金額を見積もった書類
- 納品書…納品した段階で発行する書類
- 請求書…請求情報を記載した書類
③確定申告の準備
個人事業主になった場合、自分で確定申告をしなければなりません。個人事業主が納める税金は、以下の4つです。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
こうした税金を納めるために確定申告を行い、所轄の税務署に書類等を提出します。提出する書類として挙げられるのは次のとおりです。
- 確定申告書B
- 青色申告決算書または収支内訳書
- 添付書類台紙
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白色申告
個人事業主が白色申告をする場合、基本的に次の書類を提出します。
- 収支内訳書…収入や必要経費の金額について記入したもので、事業所得を算出する
- 確定申告書B…所得や所得控除について記入したもので、納税額を確定する
- 添付書類台紙…所得控除に関係する証明書や明細書を貼り付けた台紙で、本人確認書類のコピーも添付しなければならない
青色申告
青色申告を選択した場合、提出する基本的な書類は次の3つです。
- 青色申告決算書…損益計算書やその内訳、貸借対照表を記入した書類
- 確定申告書B(原則として第一表、第二表)…所得や所得控除について記入したもので、納税額を確定する
- 添付書類台紙…所得控除に関係する証明書や明細書を貼り付けた台紙で、本人確認書類のコピーも添付しなければならない
5.個人事業主のメリット
個人事業主のメリットについて、次のようなポイントから解説します。
- 届け出の方法
- 法人と違い経理の負担が少ない
- スキル次第で収入アップ
- 仕事における年齢の制限がない
- 青色申告なら大きな節税になる
①届け出の方法
個人事業主になる場合税務署へ「開業届」という書類を提出し事業の申請をすれば、誰でも始められます。
また、サラリーマンとの兼業も可能となっているので、個人事業主になるのは難しくありません。ただし就業規則で副業を禁止している企業もあります。兼業したい場合は規則を確認しておきましょう。
②法人と違い経理の負担が少ない
法人を設立して社長になった場合、「自分の給与計算」「所得税や健康保険、厚生年金などの源泉徴収」「年末調整」などを行い納付しなければなりません。一方個人事業主は給与計算といった事務負担はなく、収入から必要経費を引いた金額が所得となります。
③スキル次第で収入アップ
会社員は基本的に給料制なので、どれだけ働いても企業と契約している分しかもらえません。つまり優れた能力があり大きな仕事を取ってきても、収入はあまり増えない可能性も高いのです。
個人事業主は自身の能力が大きな仕事に結びついた場合、収入も高くなります。
④仕事における年齢の制限がない
会社員は就業規則により基本、定年が決まっています。一方、個人事業主には年齢制限がありません。定年もなく、事業ができていればいつまでも続けられます。ただし未成年の場合、「未成年者登録簿」を「開業届」と一緒に提出しなければなりません。
⑤青色申告なら大きな節税になる
確定申告を青色申告で行うと、次のようなメリットがあります。
- 最大65万円の所得控除が受けられる
- 赤字を3年間繰り越せる
開業届と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」を提出し、要件をクリアすると青色申告の所得控除が受けられます。
6.個人事業主のデメリット
個人事業主にはメリットだけでなくデメリットもあります。次のポイントから解説しましょう。
- 収入の変動
- 信用度が低くなりやすい
- 確定申告が必要になる
- 保険や税金の負担が増える
- 老後の受給資金が少ない
①収入の変動
個人事業主は業績によって収入が増減します。大きな案件を受注できれば収入が増えますが、業務量が減った場合、収入も減ってしまいます。一定の収入が入る会社員と違い、収入は不安定だといえるでしょう。
②信用度が低くなりやすい
個人事業主の収入は業績によって変動するので不安定です。そのため社会的な信用度が会社員に比べ、低くなる傾向にあります。社会的な信用で不利になり、住宅ローン・クレジットカードなどの審査にとおらないこともありえるのです。
③確定申告が必要になる
会社員の場合、所得税や住民税、健康保険などの納付は企業が行い、年末調整もしてくれます。そのため会社員は自分で確定申告をしません。一方、個人事業主は自分で所得を計算し、確定申告をする必要があります。
④保険や税金の負担が増える
会社員であれば健康保険料・国民年金などの支払いは企業が行いますが、個人事業主はすべて自分で負担します。また累進課税により、所得が増えると税率が上がる仕組みになっているのです。
法人であれば法人税が適用されるうえ、企業の規模によって税率が決められています。
⑤老後の受給資金が少ない
個人事業主は、年金や退職金といった老後資金が会社員より少なくなる可能性があります。退職金にあたるものを想定する場合、自分で貯蓄していなければなりません。
また個人事業主の年金は国民年金のみとなるため、厚生年金も支給される会社員に比べて老後資金に差が生まれます。
7.個人事業主が使える補助金・給付金
個人事業主は、状況によって補助金や助成金、給付金などを受け取れます。こうした制度は国や自治体などによって設けられているものの、申請すれば受けられるものから審査を通過しなければならないものまでさまざまです。
- 補助金…政策に沿った事業を始めるなど使用用途が限定されているので、申請しても必ず受けられるものではない
- 助成金…一定の要件も満たしたうえで申請すれば基本的に受けられる
- 給付金…病気や被災した場合などの定められた状態により申請可能になる
- 事業再構築補助金
- ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
- IT導入補助金
- 雇用関係の助成金
- 小規模事業者持続化補助金
- 給付金
①事業再構築補助金
事業再構築補助金の目的は事業再構築を考えている中小企業への支援です。必須要件は、以下のようになっています。
- 2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1~3月)の同3か月の合計売上高と比較して、10%以上減少している
- 事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む
- 補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加、従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成
枠と補助額は以下のとおりです。
- 通常枠…最大8,000万円
- 大規模賃金引上枠…最大1億円
- 回復・再生応援枠…最大1,500万円
- 最低賃金枠…最大1,500万円
- グリーン成長枠…最大1.5億円
- 緊急対策枠…最大4,000万円
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事業再構築補助金とは、中小企業の新しいチャレンジをサポートするための補助金です。事業再構築補助金の仕組みや申請方法などについて、解説します。
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②ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金の目的は新製品・サービス開発や生産プロセス改善等のための設備投資などを支援すること。必須条件は、単価50万円(税抜き)以上の設備投資が必要であることで、枠と補助額は以下のとおりです。
- 通常枠…最大1,250万円
- 回復型賃上げ・雇用拡大枠…最大1,250万円
- デジタル枠…最大1,250万円
- グリーン枠…最大2,000万円
- グローバル展開型…最大3,000万円
- ビジネスモデル構築型…最大1億円
③IT導入補助金
IT導入補助金の目的は飲食店や美容室などの個人事業主から大規模の企業まで、ITツールの導入を支援すること。類型ごとに必須の要件が異なるので、確認が必要です。
対象事業者は中小企業、小規模事業者(飲食、宿泊、小売・卸、運輸、医療、介護、保育などのサービス業のほか、製造業や建築業を含む)など。枠と補助額は以下のとおりです。
通常枠…最大450万円
- ITツール要件…類型ごとのプロセス要件を満たすものであり、労働生産性の向上に資するITツールであること
デジタル化基盤導入類型…最大350万円
- 対象ソフトウェア…会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト
複数社連携IT導入類型…最大3,000万円
- 対象経費…ソフトウェア費・クラウド利用料(最大2年分補助)・導入関連費、ハードウェア購入費、消費動向等分析経費、参画事業者のとりまとめに係る事務費・専門家に係る経費
④雇用関係の助成金
雇用機会がとくに不足する地域の事業主を対象に、地域雇用開発助成金という制度があります。事業所を設置・整備し、さらにその地域に居住する労働者を雇い入れる際、設置整備費用・対象労働者の増加数に応じて一定の額が支給されるのです。
この助成金には、以下の2種類のコースがあります。
- 地域雇用開発コース…1年ごとに最大3回の助成を受けられるほか、いくつかの特例措置もある
- 沖縄若年者雇用促進コース…沖縄県内で事業所を設置・整備し、さらに沖縄県内居住の35歳未満の若年者を雇用した事業者が対象
⑤小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が販路開拓に取り組む費用の一部を補助するもの。必要な要件は、商工会議所・商工会が発行する事業支援計画書の提出で、補助額は以下のとおりです。
- 通常枠…最大50万円
- インボイス枠…最大100万円
- 賃金引上げ枠、卒業枠、後継者育成枠、創業枠…最大200万円
補助対象経費は以下のとおりです。
- 機械装置等費
- 広報費
- Webサイト関連費
- 展示会等出展費
- 旅費
- 開発費
- 資料購入費
- 雑役務費
- 借料
- 設備処分費
- 委託費、外注費
⑥給付金
中小企業・個人事業主への支援として、国が主体となって実施していたものに下記6つの制度があります。
- 月次支援金
- 一時支援金
- 持続化給付金
- 家賃支援給付金
- 働き方改革推進支援助成金
- 事業復活支援金(幅広い事業者向け)
これらはいずれも2022年6月時点で終了しています。