厚生年金基金とは、国に代わって企業が厚生年金の給付の一部を代行し、さらに企業独自の上乗せ給付ができる年金制度。今回は、厚生年金保険法の改正やほか年金制度との違い、厚生年金基金の基礎となる国民年金について解説します。
目次
1.厚生年金基金とは?
厚生年金基金制度とは、厚生年金の老齢給付の一部を企業が国に代わって支給する(代行給付という)とともに、それぞれ独自の年金を加算して給付するもの。ここからは、厚生年金基金について詳しく見ていきます。
厚生年金基金の分類は3つに分かれる
厚生年金基金は、設立の形態によって以下3つに分類されます。
- 企業が単独で基金を設立する単独設立型
- 複数の企業が共同で設立する総合設立型
- 一定の条件によって同じ基金を複数の企業が共同で設立する連合設立型
それぞれの厚生年金基金はどのようなものか、見ていきましょう。
①企業が単独で基金を設立する単独設立型
単独設立型は、1つの企業のみで設立される厚生年金基金のこと。たとえば、〇〇(会社名)厚生年金基金と呼ばれます。
1,000人以上の加入者が必要であるなどの要件があり、主に大企業がこの要件に該当します。一般的に単独設立型では、一部の事業所を除外したり複数の基金を設立したりすることは認められていません。
②複数の企業が共同で設立する総合設立型
総合設立型は、業界団体や地域団体、業界内の健康保険組合に加入している企業などが集まり、基金を設立するもの。
主な特徴として挙げられるのは、「資本関係のない企業同士が集まって厚生年金基金を設立する」などで、たとえば、〇〇業(業種名)厚生年金基金と呼ばれます。5,000人以上の加入者が必要であるなどの要件があります。
③一定の条件によって同じ基金を複数の企業が共同で設立する連合設立型
連合設立型は、単独の企業での設立ではなく、グループ企業全体など資本関係にあり密接な関係がある企業集団によって設立される厚生年金基金です。たとえば、〇〇(会社名)グループ厚生年金基金と呼ばれます。
1,000人以上の加入者が必要であるなどの要件はありますが、単一で1,000人以上が必要である単独設立型に比べ、グループ企業内の全加入者で1,000人以上という条件であるため、系列会社が多い企業グループであれば設立は容易です。
2.実質的に廃止された厚生年金基金
ここまで説明してきた厚生年金基金ですが、実はすでに実質的に廃止され、改正厚生年金保険法が施行されているのです。ここからは、厚生年金基金が実質廃止された理由と改正厚生年金保険法の施行について解説します。
厚生年金基金の運用悪化
年金の3階部分として期待され、設立形態も「単独設立型」「連合設立型」「総合設立型」と大企業から中小企業までが幅広く参加可能な厚生年金基金。当初は厚生労働省の監督の下、健全な厚生年金基金の積立・管理・運用が期待されていました。
将来の原資となるため、それぞれの基金ごとに運用方針を定めて生命保険会社などで運用されていたものの、バブル崩壊とともに生命保険会社などによる運用成績が悪化。
目標とする運用利回りを得られない厚生年金基金が増加し、運用手法によってはかなりの積立不足を生じた基金も発生したのです。
厚生年金保険法の改正
代行部分の積立に不足が生じ、厚生年金基金の代行割れ(代行した年金を給付するために必要な額の不足)が社会問題となった点などから、2014年には厚生年金基金が実質廃止とされ、改正厚生年金保険法が施行されました。
改正厚生年金保険法には、下記のような内容が盛り込まれています。
- 施行日以後は厚生年金基金の新設は認めない
- 施行日から5年間の時限措置として、ほか企業年金制度への移行を促進する
- 施行日から5年後以降は、健全基金以外の基金に解散命令を発動する
3.厚生年金基金における改正厚生年金保険法施行日以降の財政運営について
では、厚生年金基金における改正厚生年金保険法施行日以降の財政運営について解説します。ここでは2019年4月までに基金を解散または代行返上する場合と、2019年4月以降も基金が存続する場合に分けて見ていきましょう。
2019年4月までに基金を解散または代行返上する
解散計画または代行返上計画を実施中の基金は、これらの計画で定めた積立目標の達成が可能かどうか、検証します。原則として、解散・代行返上予定日において、計画を策定した時点で確定している直前の決算年度の積立水準を下回らないことが必要です。
検証の結果、積立目標の達成が難しい場合は達成が見込まれるように計画を変更し、検証の基準日の翌々日から起算して1年以内に計画を実行します。
2019年4月以降も基金が存続する場合
積立が長期計画どおり進んでいるかという継続基準の財政検証は、これまでどおり行います。
倒産などで企業年金をやめた場合でも、これまでの加入期間に見合う給付が可能かという非継続基準の財政検証に変更され、最低積立基準額×1.0、最低責任準備金×1.5を満たしているかを毎年検証する必要があるのです。
検証の結果、積立不足解消が遅れている場合、掛け金を引き上げるなどして不足金を解消しなければいけません。
4.厚生年金基金と各制度の違いを紹介
厚生年金基金と厚生年金、確定拠出年金にはどのような違いがあるのでしょうか。日本の年金制度はよく建物にたとえられます。「1階が国民年金」「2階が厚生年金」「3階が厚生年金基金や確定拠出年金などからなる企業年金」とされているのです。
では、それぞれの違いを見ていきましょう。
厚生年金との違い
厚生年金と厚生年金基金では、公的年金と企業年金(私的年金)といった違い以外にもさまざまな違いがあります。加入の条件については、厚生年金の場合、会社員や公務員などは原則として全員が加入対象となります。
厚生年金基金の場合、会社員でも勤め先の企業が厚生年金基金に加入しているかどうかで加入の可否が決まるのです。勤め先企業が加入していない場合には、残念ながら厚生年金基金に加入できず、厚生年金への加入となります。
確定拠出金との違い
バブルが終わった1990年代から景気が後退し始め、各基金の財政が悪化していきました。結果的に確定給付企業年金に移行し、解散する基金が相次いだのです。
企業にとっても従業員の退職後の生活保障は大きな課題であるため、補完する制度を整備する必要があり、そこで登場したのが確定拠出年金でした。
確定拠出年金は、毎月の掛金を従業員の個人口座に拠出し、拠出された掛け金を加入者が自らの責任で管理・運用を行う仕組みです。
5.厚生年金基金の基礎となる国民年金について
厚生年金基金の基礎となる国民年金とは、日本に住んでいる20歳から60歳未満のすべての人が加入する公的年金のことで、「基礎年金」と呼ばれる場合もあります。ここからは、国民年金について詳しく解説しましょう。
加入するための手続き
国民年金(第1号)の加入手続きは原則、「20歳になるとき」「勤めていた会社を退職し、自営業者やフリーランス、もしくは無職になったとき」に自分自身で行わなければなりません。
20歳になる人は一部の人を除いて、日本年金機構から20歳の誕生月の前月または当月上旬に加入届が送られてきます。その加入届を居住する市区町村役場に提出し手続きを行えば、後日、年金手帳と国民年金保険料納付書が送られてくるのです。
厚生年金に加入していた人が、退職などを理由として国民年金第1号被保険者になる場合も同様に、市区町村役場で手続きを行います。
給付される年金の種類
国民年金から受給できる年金の種類には、「老後に受け取る老齢基礎年金」「老後を待たずして受け取る障害基礎年金および遺族基礎年金」の3種類があります。それぞれの年金について見ていきましょう。
老齢基礎年金
老齢基礎年金は、国民年金に加入していた人が65歳になったときから受け取れる年金のこと。老齢基礎年金を受け取るためには、受給資格期間が10年以上あるかどうかが条件となっているのです。
20歳から60歳までの全期間で保険料を納めた人は、65歳から満額で受け取れます。保険料を全額免除された期間の年金額は1/2となりますが、保険料未納期間は年金額の計算対象になりません。
障害基礎年金
障害基礎年金は、国民年金に加入中、病気や怪我が原因で障害が残ったときに受け取る年金です。障害基礎年金を受け取るためには初診日の前日において、下記の要件を満たしている必要があります。
- 初診月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料が納付または免除されている
- 初診日に65歳未満であり、初診月の前々月までの1年間に保険料の未納がない
遺族基礎年金
遺族基礎年金は、国民年金に加入中の人が亡くなった時に遺族が受け取れる年金のこと。遺族は原則「18歳未満の子のある配偶者」と「18歳未満の子」とされており、遺族が年金を受け取るためには、下記の要件を満たす必要があります。
老齢基礎年金の受給資格期間が25年ある人が死亡したとき(死亡の前日において、保険料納付済期間が加入期間の2/3あること)
国民年金の保険料について
国民年金保険料の金額は毎年法令で決められており、2019年度の保険料額は月額16,410円でした。
保険料は送られてくる納付書を使用して銀行や郵便局、コンビニなどから納付するほか、スマートフォンやパソコンからPay-easy(ペイジー)にアクセスして納付するのも可能です。手続きをしておけば、クレジットカードでの納付や口座振替もできます。
6.厚生年金基金と名前の似た厚生年金保険について
厚生年金保険とは、基礎年金となっている国民年金に上乗せされて給付される年金です。対象者は主に会社員ですが、個人事業主でも従業員が常時5人以上いる場合は強制加入となります。では、厚生年金保険について詳しく見ていきましょう。
厚生年金の保険料について
国民年金の保険料は年齢や収入に関係なくすべての人において一律ですが、厚生年金の保険料は収入額で異なります。一般的に収入が多いほど、保険料が高くなる仕組みです。
厚生年金保険料は、段階的に分けられた31等級の「標準報酬月額」に18.3%の保険料率を掛けた金額として計算され、算出された金額を半分ずつ、雇用主と従業員本人で払います。
標準報酬月額の決め方
標準報酬月額は、給与額に応じて31等級に分けられます。給与額(報酬月額という)とは、基本給のほか「役付手当」「通勤手当」「残業手当」といった各種手当を加えた1ヶ月の総支給額のこと。
臨時に支払われる出張手当や、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賞与などは除きます。従業員の標準報酬月額は毎年1回見直され、「4月」「5月」「6月」の3ヶ月間の平均額で決まり、標準報酬月額は健康保険料の算出にも用いられるのです。
7.厚生年金基金と同じ企業年金である確定拠出年金について
厚生年金基金と同じ企業年金である確定拠出年金。確定拠出年金は、加入者自身が管理・運用するため、将来支給される額は運用方法で異なります。ここからは確定拠出年金の受給条件と種類について、解説しましょう。
給付金の受給条件とは?
確定拠出年金を受け取る方法は、「障害給付金、老齢給付金、死亡一時金の3種類があり、例外的に脱退一時金があります。ここからは、障害給付金と老齢給付金、そして死亡一時金の受給条件について具体的に見ていきましょう。
障害給付金
障害給付金は、60歳に到達する前、傷病によって一定以上の障害状態になった加入者が、傷病になっている期間(1年6ヶ月)を経過した際に受給できます。一定以上の障害状態とは、国の障害基礎年金を受け取れる程度の障害を有している場合です。
障害給付金は、年金払いもしくは一時金のいずれかで給付されます。また障害給付金は所得とみなされないため、非課税です。
老齢給付金
老齢給付金は、60歳以降に受け取るもので、確定拠出年金の受け取り方として最も基本的なもの。50歳以上で加入した場合など通算加入者などの期間が10年に満たない場合、受け取れる年齢が繰り下がります。
もしそういった該当者が死亡した際はその遺族が資産残高を受給できるのです。60歳から70歳までの好きなときに受け取りを開始できます。
死亡一時金
確定拠出年金に資産がある状態で死亡した加入者がいた場合、その資産残高を遺族が死亡一時金として受給できます。死亡一時金は一時払いのみで年金払いはできません。また死亡一時金はみなし相続財産となるため、相続税の課税対象となります。
企業型確定拠出年金とは?
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が掛け金を負担するため、企業側が会社の損金として処理します。企業がルールにもとづいてお金を出すものですが、従業員が一部掛け金を負担するマッチング拠出という方法もあります。
加入対象者は、60歳未満の厚生年金被保険者です。企業型確定拠出年金の拠出限度額は月額55,000円、厚生年金基金などの企業年金を併用している場合は月額27,500円です。
個人型確定拠出年金とは?
個人型確定拠出年金(個人型DC:通称「iDeCo(イデコ)」)は、自分で掛け金の金額を決め、自分でお金を出すものです。自営業者や専業主婦(夫)はもちろん会社員などすでに確定給付年金(DB)、DCに加入している人でも利用できる場合があります。
拠出限度額は人によって異なり、たとえば自営業者とその家族の場合月額68,000円、会社員の場合月額23,000円です。掛け金は全額所得控除の対象となるため、確定申告・年末調整により税金の還付が受けられます。