給与所得控除とは、会社員にとっての経費のようなもので、もらった給与に応じて控除される金額のことです。その意義や、2020年に改正された点などについて詳しく説明しましょう。
目次
1.給与所得控除とは?
給与所得控除とは、収入から概算で経費を計算し、控除すること。収入が高いほど控除される額の割合が少なくなり、税を多く負担する仕組みになっており、国による統計調査が行われ、基準が毎年見直されているのです。
2.給与所得控除の必要性
自営業者やフリーランスなどの事業所得者は、収入から経費を差し引いています。対して会社員やアルバイト・パートなど給与所得者には、経費の概念がありません。しかし、給与所得控除の制度により、給与収入に応じた一定額を控除できるのです。
給与所得者の経費計上のため
会社員には、筆記用具などの事務用品、スーツやカバン、靴など仕事のために自己負担で用意するものがあります。顧客と直接対面する営業職の場合、身だしなみを整え清潔感を保つため、調髪の費用も必要でしょう。
このように給与を得るためには、会社員が自分で用意するものが欠かせません。自己負担分を経費と見なし、年収から控除するのが給与所得控除の制度です。
給与所得者増加による公平性のため
給与所得控除という一律の基準を設けることで、「個別に経費を判断する煩雑さがない」「公平性がある」というメリットが生じます。
もし、会社員一人ひとりが「仕事関係の経費としてかかった分だけを計算して控除する」と、確認する税務署の作業は膨大なものになるでしょう。また、「どのようなものを」「どの程度使用したか」具体的に経費と見なす判断も難しくなります。
そこで給与などの収入を金額ごとに段階で分けた基準を設け、一律に計算して、煩雑さを減らすと同時に公平性も保っているのです。
所得控除とは別のもの
「給与所得控除」と「所得控除」は、似た名称ですが全く異なるものです。
- 給与所得控除:無条件に年収から差し引かれる控除
- 所得控除:ある一定条件を満たした上で、申告した人が差し引かれる控除
給与所得控除は、負担すべき税金を計算するにあたり、収入(年収)から差し引く控除のことで、所得控除は、所得から差し引く控除のことで、生命保険控除や扶養控除、地震保険料控除などがあります。
3.給与所得控除と所得控除との違い
所得控除とは、給与所得控除のほかにある一定の条件を満たすと控除される金額のこと。給与所得控除と所得控除は、課税所得を計算する際の扱いに違いがあるため、は全く別ものとなります。
所得控除:税額を計算するときに収入から控除するさまざまな金額
所得控除は、所得税額を計算する際に各納税者の個人的事情を加味するためのもの。それぞれの所得控除の要件に当てはまる場合、各種所得控除の額の合計額を差し引き、所得税額は、その残りの金額を基礎として計算します。
代表的な所得控除は、下記の通りです。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦(寡夫)控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
申請しないと受けることができない
所得控除は、年末調整や確定申告の際に申請しないと控除されません。会社員は年末になると書類が配布され、扶養家族、生命保険や地震保険の支払額を記入すると、その分が課税所得から控除されるのです。
控除される要件があっても、自分で申し出なければ適用されず損をしてしまいます。毎年、控除の基準は制度によって変わるため、「知らなかった」ということがないようチェックしておくとよいでしょう。
基礎控除のみ申請不要
基礎控除は全ての人に適用される控除で、ほかの所得控除のように一定の要件に該当する場合に控除するというものではなく、合計所得金額ごとに一律に適用されます。
近年、会社員と同じような内容の業務を個人事業主として請け負うフリーランスといった働き方の人が増えてきました。このような人は、給与所得控除が受けられないため税負担が多くなりがちでしょう。
しかし、一律の所得控除の制度が充実することで、ある程度は負担が軽減されると考えられるのです。
給与所得控除: 給与を受け取る人が受けられる所得控除
給与所得控除は、会社員の収入から差し引かれる控除のことで、会社員にも必要経費があると見なし、その分を控除して課税します。その年の年収に対して、計算式を当てはめて控除額を算出するのです。
年収には、毎月もらえる基本給のほか、ボーナスや交通費、住宅手当や家族手当も含んで計算されます。
年収の段階ごとに控除額の基準があり、収入が多いほど控除額が減り、多くの税金を負担するようになっているのです。しかし、その基準が見直される年があるため注意しなくてはなりません。
4.2020年の基礎控除・給与所得控除改正点
2020年分以後の所得税が改正され、基礎控除額が増えて給与所得控除が減少しました。一体どのようになったのか、変更点を見ていきましょう。
基礎控除額が10万円増額
基礎控除とは、所得税の計算をする際に年収から差し引くことができる控除で。多いほど負担する税金が少なくなります。今まではこの控除の額が、所得税額にかかわらず一律38万円でしたが、最高で48万円に増額されたのです。
ただし合計所得金額に制限があり、48万円の基礎控除を受けられるのは年収が2,400万円以下の場合となります。それ以上は、年収が増えるほど段階ごとに基礎控除額が少なくなる、つまり年収が多い人ほど、より多くの税を負担するように定められたのです。
2020年から基礎控除に所得制限
2020年から、基礎控除の金額は年収によって変わるようになりました。
- 年収2,400万円以下:48万円
- 年収2,400万円超~2,450万円以下:32万円
- 年収2,450万円超~2,500万円以下:16万円
- 年収2,500万円超:0円
このように年収が2,400万円以下の場合、48万円の基礎控除が受けられますが、それ以上になると次第に控除の額が減り、年収2,500万円を超えると基礎控除がなくなります。
給与所得控除額は10万円減額
会社員のための給与所得から、必要経費と見なして控除されるものに「給与所得控除」があります。年収に応じた計算式に当てはめ、控除額を算出するのです。
収入が多いほど控除額自体は増えますが、税負担の割合は多くなる仕組みになっています。この給与所得控除も見直されました。
今までの最低額は65万円でしたが、2020年からは55万円に引き下げられたのです。全体的に控除額が減ったことで、税負担が増えています。
給与所得控除額の上限額も変更
給与所得控除額は下記の通りです。
- 180万円以下:収入金額×40%-10万円(55万に満たない場合は55万円)
- 180万円超~360万円以下:収入金額×30%+8万円
- 360万円超~660万円以下:収入金額×20%+44万円
- 660万円超~850万円以下:収入金額×10%+110万円
- 850万円超:195万円
税制改正ごとに給与所得控除の上限額は引き下げられており、2017年~2019年の場合、1,000万円超の上限額は220万円でした。
5.給与所得控除の計算方法
給与所得控除は年収により、計算式が異なります。給与所得控除の額が分かったあとは、「給与等の収入金額―給与所得控除=給与所得」という計算によって、「給与所得」の額を求める段階になります。
この控除後の「給与所得」を直接、算出する表や計算式が国税庁から提供されています。利用によって手間が減り、作業もスムーズに進むでしょう。
それでは、給与所得控除後の「給与所得」を求める方法を見ていきます。
給与等の収入金額が660万円未満の場合
給与等の収入金額が660万円未満だった場合、所得税法別表第五(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)に基づいて計算します。そのため上記で挙げた給与所得控除の計算式を使った場合と金額に若干の違いが生ずる場合があるのです。
表には給与額の範囲に対して、給与所得控除後の給与等の金額が示されており、該当するものを当てはめると、計算をしなくても給与所得控除後の給与所得を求められます。
給与等の収入金額が660万円以上の場合
給与所得の源泉徴収票が2枚以上あれば、合算して合計額で計算します。たとえば、1年の中で、副業をしている、アルバイトを掛け持ちしている、企業の役員などを兼任している、年の途中で転職をしたなど複数から給与所得を得た場合です。
うっかり忘れてしまうと、本来は負担しなくてもよく年末調整で返還されるはずの源泉所得税を受け取り損ねるなど不利益が生ずる場合もあります。また、収入を正しく申告していないという状況によって、後から問題が起きるかもしれません。
2枚以上の源泉徴収票は、適正に取り扱いましょう。
660万円以上850万円未満
給与等の収入金額が660万円以上~850万円未満の場合、「収入金額×90%-110万円」で給与所得控除後の給与所得の金額を算出できます。実際の数字を当てはめてみましょう。
給与の収入金額が700万円だった場合、「700万円×90%-110万円=520万円」つまり給与所得は520万円になります。一旦、給与所得控除を算出してから収入から差し引いて給与所得を求めても、520万円と給与所得控除額を求めた計算と同じ結果になります。
850万円以上
給与等の収入金額が850万円以上の場合、「給与所得控除額-195万円」以下の計算式で給与所得控除後の給与所得の金額を算出できます。実際の数字を当てはめてみましょう。
給与の収入金額が900万円だった場合、「900万円-195万円=705万円」つまり給与所得は705万円になります。収入金額が850万円以上だと、控除額が195万円と決まっているので、ただ差し引くことになり、結果、705万円になります。
直接、給与所得を算出しようとすると、ひと手間省くことになるため、作業が早くなります。
給与所得者の特定支出控除とは?
特定支出控除とは、給与所得者にも経費の支出が認められるという制度です。次の特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、その年中の給与所得控除額×1/2を超えた分について給与所得控除後の所得金額から差し引くことができるのです。
下記の6つが該当します。
- 一般的な通勤費
- 転勤のための転居費
- 職務のために必要な研修費
- 職務のために必要な資格取得費
- 単身赴任の場合などの帰宅旅費
- 勤務必要経費
給与所得者に認められる経費を申告して控除される
このうち、6つ目の勤務必要経費とは下記3つで、給与の支払い者から職務に必要だと証明を受けたものです。
- 図書費:書籍、定期刊行物など職務に関連する図書を購入するための費用
- 衣服費:制服、事務服、作業服などの購入費用
- 交際費:交際費、接待費などの費用で、得意先・仕入先、その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答などの支出
ただし合計が65万円を超える場合、65万円までとなります。確定申告を行い、定められた様式に従って証明書を添付するといったことが必要となるのです。
6.新設の所得金額調整控除とは?
2020年に新設された所得金額調整控除とは、給与収入が850万円を超える人の負担増を緩和するために設けられた制度のこと。控除される金額は、「給与等の収入金額※-850万円)×10%」となります。(収入金額が1000万円を超える場合、1,000万円が限度)
適用される条件は、下記の通りです。
- 特別障害者に該当する人
- 年齢23歳未満の扶養親族がいる人
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる人
特別障害者に該当する人
特別障害者に該当する人は、所得金額調整控除が受けられます。特別障害者とは、特に重度の障害がある場合を指し、具体的には下記の通りです。この制度で、特別障害者本人の税負担が増えるのを軽減できます。
- 身体障害者手帳に、身体上の障害の程度が1級又は2級と記載されている人
- 精神障害者保健福祉手帳に障害等級が1級と記載されている人
- 重度の知的障害者と判定された人
- いつも病床にいて、複雑な介護を受けなければならない人
23歳未満の扶養親族がいる人
23歳未満の扶養親族がいる人は、所得金額調整控除を受けることができます。これまで「控除対象扶養親族」といえば16歳以上を指しましたが、所得金額調整控除においては0歳から22歳までの扶養親族が対象になるのです。
この扶養家族とは子を想定しています。一般的に子どもが学校を卒業し就職、扶養を外れ自立するまでの年齢です。子育てや教育で費用が必要な保護者の税負担が増えないように配慮されていると考えられます。
特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる人
特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる人も、所得金額調整控除を受けることができます。同一生計配偶者、扶養親族共に合計所得金額の要件はもともと38万円以下でしたが、改正された2020年分以降は48万円以下になっています。
2020年の税制改正により、特別障害者と生計を同じくし、扶養する人の税負担増加を緩和する配慮がされています。たとえば、給与所得が900万円の場合(給与所得の上限は1,000万円)、「(950万円-850万円)×10%=10万円」となり、10万円が控除されるのです。