リーンスタートアップとは、コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のこと。
現在、さまざまな企業でリーンスタートアップの方式が取り入れられています。そんなリーンスタートアップについて、手法、メリットとデメリット、事例などから見ていきましょう。
目次
1.リーンスタートアップとは?
リーンスタートアップ(Lean startup)とは、できるだけコストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のことです。
需要につながらない製品やサービスをただの思い込みから開発してしまう際に発生する「ムダ」を省くためのマネジメント手法だといわれています。
何事にも本質を理解していないと、想定外のことが発生した際、意思決定や行動が表面的になってしまいがち。情熱のみでプロダクトをつくったり、ツールの使い方を知っているだけだったり、プロセスに固執しすぎたりすれば、不十分となってしまうでしょう。
リーンスタートアップはムダを出さないための手法で、自己満足で終わらない新規事業開発を可能とするもの。「マネジメントの第2世紀」ともいえる方法論なのです。
リーンスタートアップの提唱者
1979年生まれのアメリカの起業家エリック・リース氏が、紆余曲折の末にインターネットのコミュニケーションサイトの運営ベンチャーを起業した経験からリーンスタートアップを提唱しました。
リーンスタートアップは、ビジネスシーンで大きなムーブメントとなり、今や世界中の企業や個人が実践しています。
エリック・リース氏は「スタートアップの教訓(Startup Lessons Learned)」というブログを執筆し、さまざまな大企業・ベンチャー事業に製品戦略のアドバイスを提供しました。
リーンの意味
日本語では筋肉質、痩せたという意味です。トヨタの生産方式をもとに、米国MITで提唱された「Lean Production System」(リーン手法)を指した用語です。
2.リーンスタートアップの手法
リーンスタートアップの手法には、以下の4つの手順が必要です。
- 構築
- 計測
- 学習
- 再構築
①構築
リーンスタートアップ最初の手順は構築です。その流れは、
- 最初はアイデアといった仮説をもとに新しい製品・サービスの企画を作成
- 「顧客のニーズに合わせて、どのような製品・サービスが望ましいのか」という仮説を立て、新規ビジネスのアイデアを練る
- 練り上げたアイデアをもとに製品・サービスを、なるべくコストおよび時間をかけることなく開発する
アイデアを思いついたら(仮説の構築)、完璧でなくてもいいから形にし、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる実用最小限の製品を開発し、顧客に試してもらう
②計測
続いて、構築に基づいて作成された製品やサービスの試作品(MVP)が、どのような反応となるのかを見極めます。
- 計測=Measure:アイデアに基づいた試作品(MVP)をコストをかけずに製作して、少人数の顧客に提供して反応を見る
- 開発されたMVPを、アーリーアダプター(Early Adopters: 初期採用者)という流行に敏感かつ情報収集を自ら行って判断している人々に提供して、実際に製品やサービスを活用してもらい、その反応を見る
試作品にいろいろなことを盛り込みたくなりますが、あくまでこの段階は計測。最小限の機能を備えた試作品で試すことが重要です。あまりに盛り込みすぎると実験にはならず、時間や労力のムダになってしまいます。
③学習
計測の結果をもとに、MVPを改善していくことを「学習=Learn」といいます。一般顧客により受け入れてもらえる形として組み直していくのです。
アーリーアダプターの反応から、最初に立てた仮説に誤りがあるという判断となった際は、仮説そのものを見直して、方向性を大きく変えましょう。思うような結果が出ない場合は、即座に製品やサービスの改良に取り組み、軌道修正して、事業内容を一新します。
仮に計測が失敗しても、学習を積むことで経験を次に活用できます。それこそが事業の成功率を向上させる秘訣だといえるでしょう。
なお学習のメリットは、これ以上続けても成功しないと判断が下された場合、早期に撤退できる点です。
④再構築
どうしてもうまくいかない場合は、できるだけ早い段階で構築からやり直します。
この方向転換はバスケットボールの用語になぞらえて「ピボット」と呼ばれているのです。そして、顧客にとって何が最上の価値なのかを見極められるまで、市場の反応を確認しながら「構築→計測→学習」のサイクルを繰り返します。
再構築は一見遠回りのようにも感じられますが、試行錯誤型の経営戦略は、イノベーションの成功確率を劇的に高める効果があるのです。
ベンチャーのみならず大企業の新規事業立ち上げにも、「構築→計測→学習」のサイクルは取り入れられていますし、良い組織の条件の一つに、常に新しいものを取り入れる新陳代謝の良さが挙げられています。
3.リーンスタートアップとMVP
MVPとは小さなレベルの試作品のことで、「Minimum Viable Product」の頭文字を取ってMVPと呼ばれます。直訳すると「実用最小限の製品」であり、意訳すると、「顧客に価値提供できる最小限の機能を持った試作品」といった意味になります。
MVPは、「リーンスタートアップ(Lean Startup)」というシリコンバレー発の起業の方法論の中で紹介されて、一般的に知られるようになりました。
MVPは完全な製品を目指さず、実用最低限の製品としますが、かといって出来の悪いものをリリースするわけではありません。アイデアが市場に受け入れられるものかを判断するのはほとんど不可能で、実際に製品を市場に投入するまでは分からないことも。そこで、まず試作品を市場に投入し、実際の顧客の反応を試すのです。
そして顧客が示した反応から製品を改良して、確実に顧客に受け入れられる製品に組み直していきます。
4.リーンスタートアップおよびMVPの効果とメリット
ここでは、リーンスタートアップとそれを生かしたMVPについて、どのような効果とメリットがあるのかを解説します。
- コストや時間をかけずに計測できる
- 市場で優位に立てる
- いち早く顧客の声を拾える
①コストや時間をかけずに計測できる
一般的に、完全な製品となるまで開発を続けると、非常に多くの時間やコストがかかります。そのため、MVPをつくる際は必要最低限と決まっているのです。それにより、コストや時間をかけずに計測できるでしょう。
またMVPの提供を繰り返すことで、正確な顧客ニーズの素早い把握も可能となりますし、改善を繰り返してより多くの顧客が満足する製品・サービスに練り上げていくこともできます。
さまざまな機能を含めてのアプローチでは、時間的にも労力的にも限界が生じてしまうでしょう。さらに顧客の反応が今ひとつだった場合、何が原因なのかが特定しづらくなってしまいます。
MVPは、顧客の反応による改善点を特定しやすいため、正規製品・サービスのリリースを早めることが可能になるのです。
②市場で優位に立てる
MVPを最低限に整え、いち早く計測することで、先行利益を獲得できます。これにより市場で優位に立ちやすくなり、利益も出しやすくなるでしょう。
- MVPのアプローチによって、比較的早期に製品・サービスを市場に出すことができるため、収益化の時期を早めることも可能
- 製品・サービスの改良に素早く対応できるため、市場の成長が早い業界で優位に立てる
- 「試作品やサービスに改善を施して、再び顧客に提供する」というサイクルを繰り返すことで、起業や新規事業の成功率が飛躍的に高まるとされる
これらの効果から、後から市場に競合が参入しても、市場の認知度と開発スピードで差をつけることができる
③いち早く顧客の声を拾える
素早く市場に製品やサービスを出せるため、最重要である顧客の具体的なフィードバックを早く拾うことができます。これにより改善や伸ばすべき箇所も早く見つけられるでしょう。
製品が完成したら市場に投入されますが、当該製品が市場に受け入れられるかどうかは、課題となります。
顧客が製品やサービスを気に入り、彼らのニーズを満たしているのかどうかが重要となるのです。顧客からのフィードバックを取得することで、製品やサービスが改善され、より顧客が望む形で市場に投入できるでしょう。
さらにフィードバックによって顧客にとって本当に必要なものを提供できるようになるため、顧客満足度も向上して、自社の信頼度も高まります。
5.リーンスタートアップのデメリット
順当に段階を踏んで製品やサービスの質を練り上げていくリーンスタートアップのデメリットについて説明しましょう。
- うまくいくとは限らない
- 試すうちに目的がずれる
うまくいくとは限らない
リーンスタートアップおよびMVPは素早く市場で試せるものの、下記のようにうまくいかない可能性もあるのです。
- 多くの予算と時間を割いて市場に参入したものの、顧客に試作品が受け入れられない
- 軌道修正が難しい状態だとダメージが深くなり、改善のメドも立たずに失敗してしまう
- リーンスタートアップおよびMVPは見切り発車とまではいかないまでも、先行きが見えない、不確定な要素が多いという懸念がある
- 軌道修正や顧客のフィードバックがうまくいかないと、ゴールを見失うことも
試すうちに目的がずれる
リーンスタートアップを進めるうちに、何のために行っているのか目的がずれてしまうこともあります。「MVPを作成する」「MVPを試す」などを繰り返すうちに、当初の目的やゴールが途中で変わってしまうこともあり得るでしょう。
また、MVPを試していくうちに、当初の「顧客のニーズを満足させる」という目的から外れて、MVPを繰り返すことが目的と化してしまう恐れもあります。
6.リーンスタートアップの事例
リーンスタートアップを導入した主な企業やサービスに、
- トヨタ
- Yahoo!
- インスタグラム
があります。ここでは、3つの事例を説明しましょう。
①トヨタ
リーンスタートアップの名付け元となったのがトヨタが進めた「かんばん」方式。これは「必要なものを必要なときに必要な分だけつくる」というムダのない方式のことで、ジャストインタイムとも呼ばれています。
- 「かんばん方式」とは、部品納入の時間、数量が書かれた作業指示書のことで、各部品箱に付けられている
- 在庫をできるだけ持たないという仕組み
- 誕生は製造業だったが、現在はプロジェクト管理の手法としても活用されている
- チーム全体の情報が把握しやすく、一元管理しやすい
しかし、必要なときに必要な分だけ商品を納入する方式を導入したことで、交通混雑や環境破壊を引き起こす原因にもなっています。そういったことから「多頻度小口配送を見直したほうがいい」という声も上がっているのです。
また、大量生産に向いていないということから、大幅なコストカットが困難という側面もあります。
②Yahoo!
Yahoo!では、COM室の河合太郎氏が社内のイノベーションの活性化として、起業や新規事業の早期立ち上げのため、構築、製品、計測、データ、学習、アイデアをサイクル化して、アプリ開発などに「リーンスタートアップ」を導入しました。
アプリ開発では、出来上がったアプリを公開して利用者からフィードバックを受け、ブラッシュアップしていくというプロセスを繰り返したのです。これによりメンバー自身も満足いくものが仕上がり、ユーザーに飽きられることのないスループットが実現できました。
本来のリーンスタートアップは製品を作る前に市場にフィットするのか試します。しかしYahoo!では先に製品を作成するなど、プロジェクトごとに合った方法でリーンスタートアップを取り入れているのです。
③インスタグラム
インスタグラムは、もともとは「Burbn」という位置情報アプリとしてリリースされました。しかし想定していたよりも人気が出なかったことから、リーンスタートアップで改良し、誕生したのです。
アイデアの構築・計測・学習を繰り返したことで「写真の共有機能が最も人気」ということを発見し、写真投稿をメインにしたSNSに方向転換しました。それから「写真投稿」「コメント」「いいね」の3機能を含んだ「インスタグラム」が完成したのです。
その後もアイデアの構築・計測・学習を進め、写真のエフェクトやストーリー、ショッピングなど、さまざまな機能の追加を行って変化を遂げています。近年は「インスタ映え」という言葉が流行になるほど、定番のツールとなっています。