休業手当は社員が休みでも支払われる賃金です。なぜ働いていないのに賃金が発生しているのか、考えたことはないでしょうか。
- 休業手当の定義や種類
- 具体的な事例
- 休業手当がどのような性質のものか
などについてまとめました。
目次
1.休業手当(の定義)とは?
休業手当とは、その休業が使用者の責任で発生したものである場合に手当が支払われる制度。そのため、休業手当を取得すると社員が働いていなくてもその日の給与が支払われます。
使用者の責任で発生した休業理由として考えられるのは、
- 経営悪化による仕事量の減少
- ストライキの結果
など。また休業の際に条件を満たすと、政府が事業者に対して給付する雇用調整助成金を受け取れるケースもあります。
「休業」「休暇」「休日」の違い
- 休業
- 休暇
- 休日
の違いについて考えたことはあるでしょうか。どれも似ており混乱しがちな概念ですが、これらはどれも一般的に会社に通勤しない、働かない日を意味する言葉です。しかし意味はそれぞれ違います。
休日とはもともと労働する義務が課せられていない休みを指す言葉。一方「休業」と「休暇」は使用者によって労働義務が課せられている労働日の中、何らかの理由で労働義務を免除された日を指す言葉です。休業手当の「休業」もこれに当たります。
休業手当と有給(年次有給休暇)の違い
休んでいても賃金が支払われる仕組みに年次有給休暇があります。年次有給休暇と休業手当はどのような違いがあるのでしょうか。
年次有給休暇とは労働基準法第39条で認められた権利で、行使によって休暇でも賃金が支払われます。たとえば、休業になり休業手当が支払われる場合は、労働者の希望があれば、年次有給休暇を取得して、60%の休業手当ではなく100%の賃金を受け取ることも可能とされているのです。
休業手当と休業補償の違い
休業手当と似た言葉に休業補償という言葉があります。同じように感じるかもしれませんが、2つは全く別物です。
休業補償は業務災害によるけがや病気の治療をするために働くことができなかった日に対して、会社が平均賃金の60%を支払うというもの。労働基準法の第76条で定められています。
大きな違いは、
- 休業手当が60%以上に対して休業補償では60%ときっちり決まっている
- 会社の所定休日であっても支払われる
です。
休業手当は課税、休業補償は非課税
休業手当と休業補償は性質だけでなく、所得としての取り扱いも違います。休業補償は所得税法の規定により所得税は非課税です。労働の対価として支払われる賃金と休業補償をまとめて所得として計算しないよう注意しましょう。
一方、休業手当は休業前の給与と休業中の休業手当に実質に違いがないため、給与所得に該当します。そのため給与と同じように所得税が課せられます。
休業手当は「賃金」
労働基準法では、会社から支払われる賃金に対して毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないといった規則も定めており、休業手当もこの賃金に該当します。
労働基準法における賃金とは、賃金や給料、手当や賞与など名前に関係なく、労働の対価として使用者が労働者に支払うものすべてとされているため、休業手当も賃金として扱われるのです。
休業手当の金額(平均賃金の100分の60以上の額の支払い義務)
休業手当の金額は平均賃金の60%以上と労働基準法第26条に定められています。このときの平均賃金とは直近の3カ月間(賃金締切日がある場合は直前の賃金締切日から3カ月)の賃金を、その3カ月のカレンダー上の日数で割った賃金です。
つまり、直近の仕事の状態によっても休業手当の額に違いが出ます。また1日の一部を休業させた場合についても別途定められているのです。
雇用保険など社会保険料を控除できる
労働基準法上、休業手当は給料や賞与などと同様に賃金として扱われます。賃金として扱われると労災や雇用保険、健康保険などの保険料計算の対象となるため、源泉所得税の課税対象になるのです。
そのため、通常の給与と同様に労働者負担分の社会保険料を休業手当から差し引くことができます。
休業手当の対象となる期間とならない期間
休業手当は使用者の責任で休業した場合に支払われる手当です。では地震や火災といった災害時、休業を余儀なくされた場合はどうなるのでしょう。
これは使用者の責任ではないため休業手当の支払いは困難です。事実、2011年の東日本大震災の後に行われた計画停電時にも休業手当は認められていません。どのようなものが休業手当として認められるのでしょうか。
例①休業期間中の休日
休業期間中に公休日や就業規則で休日とされている日がある場合、その日に対する休業手当の支払いは必要ありません。
例②代休日
代休日は、休業してはいますが休日に労働した代わりに取得する休みです。これは使用者に責任が生じるような休みではないため休業手当の支払いは行いません。
例③解雇予告期間中
- 解雇が予定されている場合の解雇予告期間中に働かせない
- 自宅待機などになっている場合
は使用者側の都合として休業手当の支給が必要です。
例④ロックアウト(作業所閉鎖)
ロックアウトとは、使用者が労働者の労務提供を拒否して作業所や工場、店舗が閉鎖すること。ロックアウトが正当であると認められる場合、休業手当の支払いは必要ありません。
2.法律で定められている「休業」の種類(要件、対象者)
- 業務上の負傷・疾病の療養のための休業
- 産前産後の休業
- 使用者の責に帰すべき事由による休業
- 育児休業
- 介護休業
①業務上の負傷・疾病の療養のための休業
法律では休業した場合の取り扱いについても定めています。
たとえば業務でけがや病気になり、療養のため休む場合もあるでしょう。この際の休みは労働基準法第12条3項1号によって休業と規定されており、就業規則等で定めがない限り賃金は支払われません。
ただし労災給付を受けられるほか使用者に安全配慮義務違反があれば損害賠償の請求が可能です。
②産前産後の休業
産前産後も休みが必要になる時期です。労働基準法第65条1項によると妊娠した女性は、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)に休業を請求できます。
女性から休業請求があった場合必ず休業させなければなりません。しかし、請求がないときに使用者が無理に休業させることは不可です。
産後8週間経っていない女性については、請求のあるなしにかかわらず、必ず休業させなければいけません。しかし、産後6週間経過後、医師が問題ないと診断した場合は、女性からの請求で休業を解除できます。
③使用者の責に帰すべき事由による休業
労働基準法では使用者の責に帰すべき事由によって労働者を休業させた場合には休業手当の支払いが必要と規定しています。労働者は使用者の行動により仕事が発生しなかった場合、賃金が受け取れません。その責任を使用者が取るという考え方です。
この際の「使用者の責に帰すべき事由」は、
- 使用者が何らかの理由であえて休業した、
- 過失で休業するしかない
だけではありません。休業について使用者が責任を取るべきといえる場合、たとえば経営上の障害などで休業した場合も休業手当の対象です。
これは民法でいうところの帰責事由に当たらないため、損害賠償請求はできません。しかし労働基準法上は使用者の責任として休業手当の支払いが求められます。ただし、天災事変などの場合は不可抗力なので休業手当の対象にはなりません。
④育児休業
育児期間の休業も必要です。「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」では1歳未満の子を養育する労働者からの申し出のもと育児休業が認められています。これは男女問わず取得できるため、父親でも母親でも育児休業を取得できます。
⑤介護休業
育児と同様に介護のための休業も育児・介護休業法によって定められています。育児・介護休業法では要介護状態の配偶者や父母、子ども、配偶者の父母がいる場合、労働者からの申し出によって介護休業が認められているのです。
これらの休業中は就業規則などで定めがない限り、賃金は支払われません。しかし、介護については雇用保険の介護休業給付の支給を受けることが可能です。
ノーワーク・ノーペイの原則とは?
労働に対する基本的な考え方にノーワーク・ノーペイの原則があります。ノーワーク・ノーペイの原則とは労働者による労務の提供がなければ、会社に支払い義務は発生しない、要するに働かなければ賃金なしというもの。
原則の前提に、労務を提供できなかった理由が、労働者の責任もしくは労働者と使用者のどちらの責任でもないということがあります。たとえば理由なく自宅待機を命じられた場合、使用者の責任になるためノーワーク・ノーペイの原則には該当しません。従って、働いていなくても労働者は賃金を受け取ることができるのです。
3.休業手当支給の具体的事例
ここまでは休業手当の対象となるケースや、休業手当の算定方法について見てきました。しかし、具体的にどのようなケースで休業手当の支払いが認められるのでしょうか。休業手当の支払いにおけるトラブルについてケーススタディで学びましょう。
事例①採用内定者の休業手当
休業手当の支払いがあるかどうか争点となったケースを紹介しましょう。
採用が内定して春から出社予定だったにも関わらず、業績不振を理由に自宅待機を命じられたケースです。労働基準法第26条では、使用者の責任で休業になった場合、休業手当を支払わなければいけないと定めています。
しかしこのケースは、まだ働き始めていません。このような採用内定者にも休業手当の支払いは必要なのでしょうか。
会社の都合で採用内定者を自宅待機にする場合、労働契約が成立していると認められる限り休業手当の支払いが必要です。在籍したまま一旦仕事を休み、必要時に復帰する一時帰休の場合も同様でしょう。
会社に在籍して労働契約が継続している以上、休業期間中も手当を払わなければいけないと考えられます。
事例②午前中のみ勤務だった場合の休業手当
休業は一日すべてが休みになると限りません。午前中は働いたものの、会社の都合で午後働けなくなった場合はどうでしょうか。ノーワーク・ノーペイの原則からすると働いていない以上、賃金は発生しないと考えられます。
この場合は午前中に支払われた賃金の額によって扱いが違うのです。
一日のうち一部だけが休業だった場合、働いた分に支払われた賃金が平均賃金の60%を超えていれば、休業手当などの支払いは不要です。もし労働分の賃金が60%に満たない場合はこの差額の支払いが求められます。
平均賃金が10,000円で、時給が1,000円、5時間働いたというケースを考えましょう。
この場合、現実に働いた賃金は5時間分の5,000円です。他方で平均賃金の60%は6,000円になるため、この差額1,000円を支給しなければなりません。
逆に言えば一時休業になっても60%の支払いがあれば問題ありません。ですが労働基準法上で問題がなくても、民法上では労働者の賃金請求権が問題になる可能性はあります。
事例③派遣社員の休業手当
時給制の場合、当然ですが働かない限り賃金が発生しません。これはノーワーク・ノーペイの原則でも明らかです。では派遣社員はどうでしょう。多くの派遣社員は時給制で勤務しています。もし派遣社員が派遣先企業から仕事がないから休むよう指示されたり、正社員の増員に伴って雇用を打ち切られたりした場合はどうなるのでしょうか。
実は派遣社員でも労働基準法の第26条が適用されるため、休業手当の支給を受けることができます。
ただし、派遣先企業の都合による休業でも休業手当の支払い義務があるのは派遣元企業です。ですので派遣社員は、派遣元企業に休業手当の支払いを求めるか、別の派遣先の紹介を求めることができます。
休業手当は生活保障のための定め。自宅待機や急な打ち切りが発生すると、いきなり収入が断たれるため、生活に支障をきたします。休業手当の支払い義務は、突然の事態から労働者を守る目的で行われるのです。