ローカルベンチマークとは、地域企業の経営診断指標です。ここでは、ローカルベンチマークについて解説します。
目次
1.ローカルベンチマークとは?
ローカルベンチマークとは、企業の経営診断に使う指標のこと。
- 経営者
- 金融機関
- 支援機関
などが、企業の状態を把握するために設けられました。
2.ローカルベンチマークが採用され出した背景
ローカルベンチマークが採用された背景には、急激な人口減少があります。人口減少が大きな問題となっている地域の経済活動を維持するには、「地域企業が付加価値を創造する」「新たな雇用を創出し続ける」などが必要です。
そこで「日本再興戦略 改訂2015」に、「中小企業団体、地域金融機関等による地域企業に対する経営支援等の参考となる評価指標・評価手法(ローカルベンチマーク)」の策定が盛り込まれました。
ローカルベンチマークが目指しているもの
ローカルベンチマークは、「経営者」「金融機関」「支援機関」3者の対話を深めるために用いられます。そのため利用者それぞれにとって「分かりやすく使いやすい」指標であるかどうか、を目指しています。
ローカルベンチマークは、「産業・金融一体となった地域経済の振興を総合的に支援するための施策」。「地域経済施策」「中小企業施策」「地域金融施策」を結び付ける要の役割を果たしています。
どんな目的で企業に導入されているのか
ローカルベンチマークの導入目的は、「企業の経営状態を把握する」「金融機関や支援機関との早期の対話や支援につなげる」こと。
「売上高増加率」「営業利益率」「労働生産性」「EBITDA有利子負債倍率」「営業運転資本回転期間」「自己資本比率」といった6つの財務情報と、「経営者・関係者・事業・内部管理体制への着目」4つの「非財務情報」各データを入力して作成します。
3.ローカルベンチマークのメリット
ローカルベンチマークには一体どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは下記4つのメリットを解説します。
- シンプルで使いやすい
- ステークホルダーと同じ目線で話せる
- 事業計画を作成しやすくなる
- 助成金・補助金申請の際に役立つ
①シンプルで使いやすい
財務情報の計14項目を入力すれば、「財務指標の自動計算」「業種に応じた基準に従った指標のもと5段階で評価」「総合評価の提示」「14項目の非財務情報で会社状況の整理」などが可能です。
②ステークホルダーと同じ目線で話せる
ローカルベンチマークを、「経営者」「金融機関」「支援機関」3者が利用すると対話のツールになります。対話を通して、担保や保証、事業性や成長性といった「事業性評価」に関する共通認識を形成できるのです。
③事業計画を作成しやすくなる
ローカルベンチマークは、経営状態の把握や自社の経営分析に役立ちます。また経営分析をもとにして、「助成金の申請」「経営改善の推進に大きな影響を持つ事業計画の作成」など、新たな展開につなげている企業も多くあるのです。
④助成金・補助金申請の際に役立つ
助成金・補助金を申請する際は、「沿革や基本情報などの企業概要」「顧客ニーズや市場の動向」「経営方針」「目標と今後のプラン」などが記載された経営計画を、添付しなければなりません。
ローカルベンチマークで経営計画が作成できれば、助成金などの申請も容易になるでしょう。
4.ローカルベンチマークのデメリット
便利そうに見えるローカルベンチマークにも、デメリットがあるのです。ここでは、下記3つのデメリットについて、解説しましょう。
- 最適な活用方法が分からない
- 活用している金融機関が少ない
- 会計の知識が必要
①最適な活用方法が分からない
ローカルベンチマークは企業だけでなく、「金融機関」「税理士・会計士・商工会議所・商工会といった各支援機関」に認知・活用されるもの。しかし最適な活用方法が分からない場合も多いため、効果的に活用されているとは言いにくい現状があるのです。
②活用している金融機関が少ない
「都市銀行」「地方銀行」「信用銀行」「信用組合」「信託銀行」「商社」「リース会社」など、ローカルベンチマークを活用すべき機関は多くあります。
しかし「ローカルベンチマークを活用している機関は少ない」「金融機関内での認知度も低い」という問題点があるのです。
③会計の知識が必要
ローカルベンチマークは、指定の財務情報を入力するだけのシンプルで使いやすいツール。しかし貸借対照表や損益計算書といった最低限の会計知識は必要です。使いやすいと言っても、会計知識を知らずに活用するのは難しいでしょう。
5.ローカルベンチマークの使い方
ローカルベンチマークの使い方を知れば、さまざまな活用方法が見えてきます。ここでは、ローカルベンチマークの使い方について、解説しましょう。
- 現状認識
- 経営戦略・目標の策定
- 外部環境や内部環境の整理
- 課題の共有
①現状認識
3期分の財務情報を入力すれば、「財務情報の経営分析が自動計算される」「経営の収益性・安全性・生産性・成長性などの評価点が付けられる」「評価が表やチャートとして表示される」ため、現状認識に活用できます。
分析結果をもとに競合他社と比較すれば、より深く自社の現状を理解できるでしょう。
②経営戦略・目標の策定
ローカルベンチマークで現状認識ができれば、戦略や目標を策定しやすくなります。「バランススコアカード」「PDCAサイクル」などのフレームワークも活用すれば、現実的な戦略・目標を策定できるでしょう。
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③外部環境や内部環境の整理
ローカルベンチマークでは、「企業の過去の状況を占める財務情報」「企業の現在と将来の可能性を示す非財務情報」を可視化できます。それをもとに、「企業を取り巻く環境」「稼ぐ力の源」がどうなっているのかを整理できるのです。
④課題の共有
ローカルベンチマークシートには、同規模・同業種と比較した企業の財務状況の評価も記載されています。つまり6つの財務指標の分析結果を「経営者」「金融機関」「支援機関」それぞれが理解しやすい作りになっているのです。
そのため、関係各所が課題を共有できます。
6.ローカルベンチマークに取り組む方法
ローカルベンチマークに取り組む方法とは、何でしょう。ここでは、下記2つについてポイントを解説します。
- ローカルベンチマークツールをダウンロード
- ローカルベンチマークツールの記入例
①ローカルベンチマークツールをダウンロード
ローカルベンチマークツールは、経済産業省のホームページからダウンロードできます。
ツールはExcelファイルで作成されており、操作しやすいです。
ホームページでは、初心者向けに、「対話の流れやコツ」「記入方法」などの動画解説もありますので、参考にできます。
②ローカルベンチマークツールの記入例
ローカルベンチマークツールには、「財務分析シート(商流・業務フロー)」「非財務ヒアリングシート(4つの視点)」に必要事項を記入するのです。しかし具体的にどのような項目を記入するのでしょうか。
ローカルベンチマークツールの記入例を、財務分析シート・非財務ヒアリングシートに分けて解説します。
財務分析シートシート(商流・業務フロー)に必要事項を記入
財務分析シートシート(商流・業務フロー)に必要事項14項目を記入します。
- 最新期売上高
- 前期売上高
- 営業利益
- 従業員数(正社員)
- 借入金
- 現金・預金
- 減価償却費
- 純資産合計
- 負債合計
- 売掛金
- 受取手形
- 棚卸資産
- 買掛金
- 支払手形
入力シートにある黄色い網掛け部分に情報を入力・選択すれば、「財務分析結果シート」に、6つの指標が計算され、点数が算出されるのです。
非財務ヒアリングシート(4つの視点)に必要事項を記入
非財務ヒアリングシート(4つの視点)に、「経営者」「事業」「企業を取り巻く環境」「関係者」「内部管理体制」といった必要事項を記入します。
シートでは項目がさらに細分化されており、たとえば経営者の視点では、「経営理念・ビジョン」「経営意欲」「後継者の有無」などについて記入するのです。
非財務ヒアリングシートでは最終的に、「現状認識と将来目標」「目標に照らし合わせ、課題と対応策」を明らかにしていきます。
7.ローカルベンチマークの活用事例
ローカルベンチマークは実際、どのように活用されているのでしょうか。ここでは下記4つの例を見ていきます。
- 清和工業
- あさひ製菓
- コーテック
- 北都銀行
①清和工業
清和工業は、「アスベスト除去」「解体」「メンテナンス」を行っている企業です。ローカルベンチマークシートを作成する際、従業員にも一緒に検討してもらい、自社の強みや課題について話し合いました。
その結果、「顧客から自社が選ばれている理由」「他社との差別化ポイント」などについて、経営者と従業員とで共通認識を持てたのです。
②あさひ製菓
あさひ製菓は老舗菓子メーカーで、ローカルベンチマークシートを活用しながら、業務フローや商流・組織体制などの現状を可視化しました。
金融機関などとの対話ツールとして使用したため、「社内で気が付かなかった自社の強み」「社内でできなかった人材育成や広告宣伝」などのアドバイスが得られ、組織力の底上げになったのです。
③コーテック
コーテックは、半導体製造装置および周辺機器、部品の売買などを行っています。営業や技術、購買といった部門別に、ローカルベンチマークと早期経営改善計画のアクションプランの検討を進めました。
部門共通課題などがあぶりだされた結果、「人材育成」「新商品開発」「即戦力の採用」「受注の獲得」に取り組むと決まりました。
④北都銀行
北都銀行は、秋田県秋田市に本店を置く地方銀行です。比内地鶏などの地方産品を活用した自社ブランド展開するノリット・ジャポン社の支援機関として、ローカルベンチマークを活用した支援に取り組みました。
経営者との対話を通して従業員に求めるパッションを掘り下げた結果、「行動指針の策定」「設備投資」「社内の活性化」についても新たな気付きを導き出せたのです。