ロックダウンは、新型コロナウイルスで注目されるようになりました。その本来の意味や海外の事例、業務の変化や助成金についてなど詳しく解説します。
目次
1.ロックダウンとは?
ロックダウン(lockdown)とは、都市封鎖のこと。もともと刑務所にて使われていた用語で、文字どおり「鍵をかけて閉じ込める」という意味があります。
本来の意味
ロックダウンの本来の意味は「封鎖・避難」で、例は下記のとおりです。
- 暴動や感染病などが発生した場合に、人々を安全な場所や建物などに閉じ込めておく
- 刑務所用語で使用される場合は、受刑者が騒ぎを起こした際に監房に閉じ込めておく。また外部の人がそこに入ることを禁じる
- 子どもの安全のために帰宅させず、学校内に避難させる
IT用語としての意味
IT用語での意味は、セキュリティ強化を目的としたシステムの封鎖、つまりはOSやアプリケーションの機能を制限する仕組みです。
スマートフォン向け「Lockdown」アプリには、他人に使われないようアプリを封鎖する機能があります。複数のユーザーが共用するコンピューターでLockdownを設定しアクセスや使用を制限できるのです。
緊急事態宣言との違い
緊急事態宣言とは、「国民の生命や健康に著しく重大な被害を与えるおそれ」があると政府が判断した際、改正インフル特別措置法(新型コロナ特措法)をもとに発令される宣言のこと。外出禁止といった強制力はなく、あくまでも「要請」しか行えないとされています。
一方ロックダウンは、政府の専門会議で「教鞭な措置」と定義しているのです。
緊急事態宣言の詳細
緊急事態宣言の詳細は次のとおりです。
- 国民が一丸となって、基本的な感染予防の実施や不要不急の外出の自粛、「3つの密」を避けるなど、自己への感染を回避するとともに他人に感染させないよう徹底する
- 罰則を伴う措置や交通の遮断など行うロックダウン(都市封鎖)とは異なる
- 生活必需品の買い占めなどにつながらないよう冷静な対応を行う
実際に海外で起こったロックダウンの事例
多数の国でロックダウンが実施されています。最初に行ったのは新型コロナウイリス発生源とされている中国・武漢でした。また急速に感染を広げているイタリアやフランス、アメリカなど欧米諸国でもロックダウンが実施されているのです。
世界各国で影響を受けた人口は30億人以上ともいわれています。実際にロックダウンが行われた海外の事例を紹介しましょう。
アメリカ
アメリカは各州の判断にもとづき、外出禁止令を発令。実際に発令されたのはニューヨーク、シリコンバレー、ハワイなど17州です。
カリフォルニア州ではバーや美容室、屋内レストランなどの事業所が閉鎖され、小売店が営業する際は店内の客は収容人数の20%までに限定されました。公園やビーチなども同じ制限が課されたのです。
イギリス
イギリスは、全土でロックダウンを行いました。ロックダウン措置では、学校の閉鎖、生活必需品以外を取り扱う店舗の閉鎖、生活必需品の購入や運動以外の目的での外出自粛を要請しました。
公共の屋外の場所(公園、ビーチ、森林、公共の庭園など)での運動は可能です。しかし1人でもしくは家族と一緒といった条件が決められ、さらに1日1回と限定されました。
中国
世界で最初に新型コロナウイルス感染が見つかった中国湖北省・武漢では、1年を越すロックダウンが実施されました。独自の手法も駆使した結果、全土での感染拡大の封じ込めにおおむね成功したのです。
中国では、都市全体ではなく「社区」と呼ばれるコミュニティー単位で限定的に封鎖しました。
2.ロックダウンによる人事業務の変化
ロックダウンによって働き方や生活様式が大きく変わろうとしています。人事制度についても、どのように変わっていくのか説明しましょう。
- 勤務形態
- 感染防止のための安全配慮
- 採用活動
- 従業員の健康管理
①勤務形態
勤務形態はオフィス勤務とテレワークの併用へと変わってくると考えられています。働く人にアンケートを取ったところ7割の人が、「併用が理想の働き方」と回答しました。7割の経営層もこの回答に賛同しています。
しかし総務や労務担当者など社内でしかできない業務もあるため、完全にテレワークという働き方は難しいようです。
②感染防止のための安全配慮
感染防止のための安全配慮とは、3つの条件が同時に重なったときの行動を抑制させること。
- 換気の悪い密閉空間
- 人が密集している環境
- 近距離での会話や発声が行われている環境
これらの行動が発生しないよう、「時差勤務」「テレワーク」「一時帰休」「出張禁止・抑制」「事業場の閉鎖」といった取り組みが導入または検討されています。
③採用活動
採用活動はリモート採用を行う企業が多くなるといわれています。場所にとらわれずより多くの人材から採用ができるうえ、多様なチームを構築できるメリットがあるとされているのです。
テレワークの増加に伴い、企業は次のようなスキルを持った人材を求めるでしょう。
- コミュニケーションスキル
- 協働スキル
- 段取りスキル
- 時間管理スキル
- 自己管理スキル
④従業員の健康管理
テレワークの活用が増加すると労働者の身体・精神への影響が危惧されています。たとえば「運動不足」「腰痛」「体重増加」「生活習慣病」「不安の増大」「孤立やメンタル問題」などです。
また心身へのストレス反応への影響として、下記のような内容が挙げられています。
- 生活リズムの変化で睡眠や食事、運動へ悪影響が生じる
- 家族のケアで仕事に集中できずイライラする
- コミュニケーション不足で不安や孤独感を抱える
3.ロックダウンに対する企業の準備
ロックダウンの実施に備えて、企業が準備しておくべき5つのことを解説します。
- 在宅勤務ができるかを従業員に確認する
- 連絡手段を確保しておく
- 従業員を休業させる場合の補償
- 就業規則の整備
- ICT環境の整備
①在宅勤務ができるかを従業員に確認する
在宅勤務ができるか、下記の項目を従業員全員に確認します。
- 従業員所有のパソコンの有無(会社のパソコンを持ち出せない場合に使用)
- コミュニケーションツールのインストール(ChatworkやZoomなど)
- セキュリティの確保(ウイルス対策ソフトを入れる)
在宅勤務を行う際は、顧客や取引先へ事前に連絡する必要があります。
②連絡手段を確保しておく
リモートワークでは従業員間のコミュニケーション不足を招きやすくなります。チャットや通話を使って小まめに連絡を取り合いましょう。
またZoomやSkypeなどを活用して、オンライン飲み会やランチ会などを定期的に開催するのもひとつの方法です。コミュニケーションは従業員のモチベーションアップに必要です。
③従業員を休業させる場合の補償
労働基準法には「使用者の責に帰すべき事由により休業した場合、休業手当として平均賃金の60%分以上を支払わなければならない」という定めがあります。
事業の休止により従業員を休ませた際、不可抗力による休業であれば「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらず、休業手当の支払い義務はなくなります。
年次有給休暇
従業員を休業させる場合、従業員への休業手当を支払う必要があります。ただ従業員が休暇を希望した場合は年次有給休暇を取得してもらい、通常の賃金を支払うといったケースがほとんどでしょう。
それ以外の休暇を希望しない従業員や、年次有給休暇が残っていない従業員には休業手当を支払うというのが通常のケースとなります。
④就業規則の整備
就業規則にテレワーク勤務に関する規程がなければ業務を行わせられません。そのため就業規則を適切に整備する必要があります。たとえば次のような項目を定めておくのです。
- 勤務形態
- 適用対象者
- 申請・許可手続き
- 就労場所
- 休憩時間
- テレワーク勤務に適用する労働時間制
- 情報通信機器に関する事項
- 連絡体制
⑤ICT環境の整備
従業員がストレスなくスムーズに業務が遂行できるよう、環境の整備が必要です。そのためにもICT(情報通信技術)を取り入れましょう。
たとえばチャットツールやビデオ会議システムなど、コミュニケーションができるツールを取り入れるのです。クラウドサービスを活用すると安全な環境で情報を共有できます。
テレワーク導入
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のこと。
会社や組織の業務内容、従業員それぞれの環境に合わせて最適な働き方を可能とします。
モバイルワーク、サテライトオフィスやコワーキングスペースなどの施設利用型のテレワーク、ワーケーションも含めてテレワークといわれているのです。
クラウドシステムの導入
インターネットを通じてコンピューターを利用するクラウドシステムの導入により、膨大なデータの保管やさまざまなアプリケーションを容易に使えます。
オンライン商談や取引先との打ちあわせ、同僚とのコミュニケーションなどもオンライン上でストレスなく行えるでしょう。メンテナンスやセキュリティなどは、クラウド提供社の専門スタッフが行います。
4.ロックダウン対策として利用できる助成金
ロックダウン対策として利用できる助成金に、テレワークの導入を検討する中小企業主に対し、取り組みにかかる費用の一部を助成する「厚生労働省 時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」があります。以下で詳しく解説しましょう。
厚生労働省 時間外労働等改善助成金(テレワークコース)
在宅またはサテライトオフィスにおけるテレワークに、新たに取り組む中小企業事業主に対し、その実施に要した費用の一部を助成するものです。
支給対象となる事業主には、「労働者災害補償保険の適用事業主である」「テレワークを新規で導入する、またはテレワークを継続して活用する事業主である」といった条件があります。
支給対象となる取り組み
支給対象となる取り組みとして、次のいずれか1つ以上を実施する必要があります。
- 労務管理担当者の研修
- 労働者に対する研修
- 外部専門家によるコンサルティング
- 就業規則や労使協定などの作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウエアや労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新
- テレワーク用通信機器の導入・更新
- 労務能率の増進に資する整備・機器などの導入・更新
支給額
「支給対象となる取組」の実施に要した経費の一部を、「成果目標」の達成状況に応じて支給します。
- 助成額の計算式「対象経費の合計額×補助率」
- 補助率は、成果目標を達成(3/4)、未達成(1/2)
- 1人当たりの上限額は、成果目標を達成(20万円)、未達成(10万円)
- 1企業当たりの上限額は、成果目標を達成(150万円)、未達成(100万円)
IT導入補助金 2021
IT導入補助金2021とは、中小企業主と自営業者がITツール導入する際の補助金です。目的は、低感染リスク型ビジネスモデルへの転換に向けた中小企業の取り組みを支援して、経済構造の持ち直しを実現すること。
補助額は30万円〜450万円、補助率は通常枠1/2、低感染リスク型ビジネス枠2/3となっています。
支給対象となるITツール
支給の対象となるITツールは、事前にITツールの登録申請を行い、審査を経て事務局に登録されたものです。
ITツールとは、生産性向上に寄与するソフトウェア製品やクラウドサービスと、それに付随するオプションや、役務(導入コンサルティングや保守サポート)などのこと。
支給額
支給額は次のとおりです。
【通常枠】(補助対象経費:ソフトウエア、クラウド利用費など)
- A類型(30万円〜150万円未満)
- B類型(150万円〜450万円)
【低感染リスク型ビジネス枠】(通常枠補助対象経費に加えPC、タブレットなどのレンタル費用)
- C類型(低感染リスク型ビジネス類型)30万円〜450万円
- D類型(テレワーク対応類型)30万円〜150万円
5.ロックダウンで起こりうる雇用調整
近年、自社の従業員向けキャリア研修にて、転職や副業、早期退職について教える企業が増えているとされています。従業員個人が日々真剣に業務へ取り組んでいても、自分の力では避けられない離職が増えている現状だからです。
合意退職
合意退職とは、雇い主から従業員に退職を促し、労使間の合意によって労働契約を解消することで、実務上は退職勧奨をして合意退職へと導きます。
退職勧奨は雇い主が自由に行えるため、従業員の説得の手段や態様などに気を付ける必要があるのです。社会的に相当な手段方法を逸脱して強要したとなれば、不法行為と見なされるケースもあります。
整理解雇
整理解雇とは会社側の事情により従業員を解雇することで、一般的に「リストラ」とも呼ばれています。整理解雇が有効となる要素は4つです。
- 人員整理の必要性…会社の業績悪化に伴う人員削減
- 解雇回避努力…役員報酬の削減や、希望退職者の募集など
- 解雇者選定の合理性…合理的かつ公平な選定
- 解雇手続の相当性…従業員への説明会、個別面談など従業員との協議