ロコモティブシンドロームとは、筋肉や骨などの運動器の障害のために「立つ」「歩く」などの機能が低下した状態のこと。ここでは原因や症状、診断基準や予防法などを解説します。
目次
1.ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは? 意味と定義
「ロコモティブシンドローム」(ロコモ)とは筋肉や骨、関節や軟骨、椎間板など運動器に障がいが起こって立ったり歩いたりするのが困難な状態、つまり「運動器症候群」のこと。
2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、運動器の障がいのため移動機能が低下した状態と定義されています。また主に日本国内のみで使用される用語です。
たとえば「立ったまま靴下が履けない」「階段でつい手すりにつかまってしまう」に該当する人は、日常生活に大きな支障がなくとも、ロコモになっている可能性があります。
ここではロコモティブシンドロームの「症状」「判定基準」「改善方法」「予防方法」などを解説します。ロコモをよく理解して、あなたの健康寿命を伸ばしましょう。
2.ロコモティブシンドロームの症状
ロコモティブシンドロームの症状は、進行の度合いにより以下のように変化します。
- 運動器の症状:まず原因である運動器の障がいによる症状が現れる。具体的には関節や筋肉の痛みや腫れ、変形、しびれなど
- 筋力の低下:運動器の症状により活動量が減少するため、筋力やバランス能力が低下する
- 移動能力の低下:最終的には「立つ」「歩く」が困難になり、日常生活に支障が生じる。介助を受けられず、寝たきりになってしまうケースも少なくない
3.ロコモティブシンドロームとサルコペニア、フレイルの共通点と違い
「サルコペニア」や「フレイル」もロコモ同様、身体機能が低下している状態を示す概念です。
具体的にフレイルは身体的・精神的・社会的な理由で生活機能に障がいが生じている状態です。そして身体的フレイルのうち運動器の障害による移動機能の低下がロコモでロコモのうち筋肉量の低下で身体機能が低下しているのがサルコペニアになります。
下記の概要、そしてロコモとの共通点や違いについて説明しましょう。
- サルコペニア
- フレイル
①サルコペニア
加齢や疾患により筋肉量が減少している状態のこと。「ペットボトルのキャップを開けるのが困難」「青信号で横断歩道を渡りきれない」などに該当する場合、サルコペニアの可能性があります。
ロコモとの共通点は、どちらも進行すれば日常生活に支障をきたし、要介護や寝たきりに陥りやすい状態になる点です。
一方ロコモとの相違点は、ロコモが「すべての運動器の障がいが引き起こす病態」であるのに対し、サルコペニアは「筋肉量の減少が引き起こす病態」にあります。
②フレイル
加齢によって身体機能・精神機能・社会性のいずれかが低下した状態のこと。老化にともなう心身の衰えから「病気にかかりやすい」「ストレスに弱くなる」「社会参加がしにくくなる」などの状態になることを指します。
ロコモとの共通点は、どちらも進行すれば日常生活に支障をきたすこと。要介護や寝たきりに陥りやすく、健康寿命を著しく低下させる恐れもあります。
一方、ロコモとの相違点は、ロコモが「身体機能の低下」のみを指すのに対し、フレイルには「精神機能の低下や社会性の低下」も含まれる点です。
4.ロコモティブシンドロームの判定基準
日本整形外科学会と博報堂が立ち上げた「ロコモチャレンジ!推進協議会」の公式サイトでは、下記のような3つのテストで、ロコモティブシンドロームにあてはまるかをチェックできます。
- 立ち上がりテスト:10cmから40cmの台に座った状態から、片足または両足で立ち上がれるかどうかで下肢筋力を判断
- 2ステップテスト:歩幅を調べて「下肢の筋力」「バランス能力」「柔軟性」などの歩行能力を判断
- ロコモ25:「1か月以内に感じた体の痛み」や「この1か月の生活について」など25個の質問からロコモの段階を判断
診断方法
各テストの結果が、どの段階に該当するかを調べ、最もロコモ度が高いテスト結果を自分の判定結果とします。度合いは下記のとおりです。
- ロコモ度1(移動機能の低下が始まっている状態)
- ロコモ度2(移動機能の低下が進行している状態)
- ロコモ度3(移動機能の低下が進行し、社会参加に支障をきたしている状態)
3つのテストのうち、どれかひとつでも該当する場合は、ロコモティブシンドロームが疑われるため、早期に医療機関で受診しましょう。定期的にこのテストを実施すれば、ロコモティブシンドロームの進行に気づきやすくなります。
5.ロコモティブシンドロームの原因
ロコモティブシンドロームの原因として挙げられるのは加齢や生活習慣、運動器疾患など。これらの原因について解説しましょう。
- 加齢や生活習慣による運動器の機能低下
- 運動器疾患の発症
①加齢や生活習慣による運動器の機能低下
筋肉量や骨量の減少、関節といった運動器の機能低下、生活習慣による肥満や痩せすぎなどで移動機能が低下し、ロコモティブシンドロームに陥る場合もあります。加齢による衰えも大きく影響するものの、必ずしも高齢者ばかりではありません。
たとえば骨格筋の量は10代がピーク、骨量は20代から30代がピーク。このため40代から骨や筋肉量の減少がはじまり、人によっては高齢期に差し掛かる前に移動機能が低下して、日常生活に支障がでる可能性もあるのです。
また暴飲暴食や寝不足、飲酒や喫煙、過度なダイエットなどで生活習慣を乱すと、肥満や痩せすぎに陥るリスクが増大します。
肥満は関節への負担をもたらし、痩せすぎは骨や筋肉を弱くしてしまうでしょう。生活習慣の乱れも、ロコモティブシンドロームに陥るリスクを高めるのです。
②運動器疾患の発症
移動機能を支える運動器の疾患も、ロコモティブシンドロームを引き起こします。運動器の働きと関連する組織は以下のとおりです。
- 身体を支える(骨)
- 身体を曲げる。衝撃を吸収する(関節、椎間板)
- 身体を動かす。動きを制御する(筋肉、神経系)
加齢や生活習慣でそれぞれの組織が衰え、運動器疾病を発症しやすくなります。そのうち「立つ」「歩く」など身体を動かすのが困難になり、ロコモティブシンドロームの状態に陥るのです。
ロコモティブシンドロームの原因となる疾患には、以下の3つが挙げられます。
- 骨粗しょう症とそれに伴う骨折
- 軟骨や椎間板の変性による変形性関節症、変形性脊椎(せきつい)症
- 脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)による神経障害
6.ロコモティブシンドロームの改善方法
ロコモティブシンドロームを改善方法は、以下の3つです。
- 運動器疾患の治療
- 運動やリハビリテーション
- 栄養の改善
ただし単独で行うのではなく、組み合わせて改善効果を高めましょう。それぞれの対処法を具体的に挙げてみます。
①運動器疾患の治療
- 移動機能低下の原因となっている運動器疾患への投薬治療や手術
- 痛みやしびれなどの症状を緩和する処置
②運動やリハビリテーション
- 関節可動域を広げるストレッチやマッサージ
- 筋力低下やバランス力低下を補うトレーニング
- 麻痺(まひ)を緩和するマッサージ
③栄養の改善
- 「骨粗しょう症」「筋肉量減少」「麻痺(まひ)」などを改善するため、不足している栄養素を積極的に摂取
これらの改善方法にくわえて、生活習慣を整えて「肥満」「痩せすぎ」を改善するのも大切です。
7.ロコモティブシンドロームの予防方法
生活習慣を見直し、適度な運動やバランスのとれた食事を心がけると、ロコモティブシンドロームの予防が期待できます。
40代を過ぎると骨や筋肉量が減少していくもの。年を重ねても元気に過ごすには、食事や運動をとおして筋肉や骨を丈夫に保つことが不可欠です。適切な食事と運動は、関節に負担をかける「肥満」や、骨粗しょう症のリスクを高める「痩せすぎ」を防ぐ効果もあります。
ここではロコモ予防のための「運動」と「食事」について説明します。
運動
ロコモティブシンドロームの予防には、「レジスタンス運動」がオススメです。レジスタンス運動とは、「筋肉に負荷をかける動作をくり返す運動」のこと。いわゆる筋力トレーニングで、たんぱく質の合成を促進する効果が期待できます。
日本整形外科学会は、「スクワット」「片脚立ち」を提唱。スクワットの回数目安は、5回程度を1セットとし、1日に3セットほどです。片脚立ちは、左右ともに1分を1セットとし、1日に3セットを推奨しています。ただし無理のない程度で行いましょう。
なおレジスタンス運動は筋肉に負荷をかけるため、トレーニング間隔をあけて筋肉の回復期間を設けましょう。過度のトレーニングは筋肉を痛める危険があるので毎日ではなく週に2回から3回のペースがオススメです。
食事
ロコモティブシンドロームの原因となる運動器の疾患を防ぐためには毎日の食事で「5大栄養素」を摂取することが大切です。具体的には以下の栄養素を指します。
- 炭水化物
- 脂質
- たんぱく質
- ビタミン
- ミネラル
以下の食材を使うと、5大栄養素を摂りやすくなります。
- 主食(米やパン、麺類)
- 主菜(肉や魚、卵や豆類)
- 副菜(野菜やきのこ類、海藻類)
- 乳製品
- 果物
毎回の食事ですべてを摂取するのは難しい場合、1日または1週間で総合的に摂取するよう心がけましょう。
また生活リズムの乱れや運動不足による活動量の低下は、食欲不振の原因になりえます。「生活習慣を整えて、決まった時間に食事を摂る」「適度な運動を行う」「1回の食事を2回に分けて摂る」といった工夫も有効です。