ビジネス用語に「ロイヤリティ」や「ロイヤルティ」という言葉がありますが、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。
よく耳にする言葉でも、改めて意味を問われると明確に答えられない人も多いでしょう。今回はロイヤリティとロイヤルティの言葉の意味や定義とともに、言葉の使い方や使用されるシーンなどについても解説します。
目次
- 1.ロイヤリティ(Loyalty)とは?
- 2.マーケティング上のロイヤリティの意味
- 3.LoyaltyとRoyaltyの違い
- 4.エンゲージメントとロイヤリティの違い
- 5.コミットメントとロイヤリティの違い
- 6.日本型経営とロイヤリティの歴史
- 7.組織のロイヤリティを高める目的とは?
- 8.ロイヤリティの種類
- 9.ロイヤリティの5つの思考段階
- 10.ロイヤリティの4つの段階
- 11.ロイヤリティの高い社員の特徴
- 12.従業員ロイヤリティが高い企業の特徴
- 13.ロイヤリティが高い部署と低い部署の違い
- 14.従業員ロイヤリティを高めるメリット
- 15.社員のロイヤリティを向上させる具体的な方法6つ
- 16.ロイヤリティ向上における企業事例
1.ロイヤリティ(Loyalty)とは?
ロイヤリティ(Loyalty)とは、忠誠や忠実を意味する言葉で、ビジネスシーンでは、自社への愛社精神や忠誠心、帰属意識、組織コミットメントなどを意味します。「ロイヤリティの高い社員」という場合、忠誠心の高い社員のことを指します。ロイヤリティでもRから始まるRoyaltyの場合は、特許権や商標権、著作権を意味します。
2.マーケティング上のロイヤリティの意味
マーケティングでよく使われるロイヤリティ(Loyalty)には2つあります。
- ブランドロイヤリティ:特定の商品を指名して繰り返し購入すること
- ストアロイヤリティ:特定の店舗を指名して固定客として利用すること
一方、消費者の視点から見たロイヤリティは、商品指名や店舗指名を意味します。
マーケティング業務のミッションは、ロイヤリティを高めて安定した顧客を獲得すること。そのためロイヤリティは、商品やサービスに対する需要の安定度を測るための重要指標とされているのです。
ただし、ブランドロイヤリティやストアロイヤリティはリピート率と異なります。リピート率の高い顧客といっても仕方なく選んでいる場合もあるため、リピート率が高い顧客=ロイヤリティの高い顧客だとは言い切れないのです。
たとえばコンビニエンスストアの場合、加盟店が本部の商品・ノウハウなどを利用する際に発生する使用料がロイヤリティです
3.LoyaltyとRoyaltyの違い
先ほども触れたように、「Loyalty」は忠誠、忠義、忠実、誠実、愛情、愛着などを意味する言葉です。一方、「Royalty」とは特許権や商標権、著作権に支払われる使用料のことで、もともとは王の権利や王位を意味する言葉でした。
ロイヤリティとロイヤルティの違い
日本語のカタカナ表記では、ロイヤリティとロイヤルティを区別せずに使用する場合もあります。そのため、LoyaltyとRoyaltyのどちらを指しているのかを文脈で読み取らなくてはなりません。
しかし近年は、「Royalty=ロイヤリティ」「Loyalty=ロイヤルティ」と区別して表記したり、どちらも「ロイヤリティ」と読む場合があるようです。
4.エンゲージメントとロイヤリティの違い
ロイヤリティと似た言葉にエンゲージメント(engagement)があります。
エンゲージメントには、婚約、誓約、約束、契約といった意味があり、人事で使う場合は従業員の自社に対する愛着心や愛社精神、思い入れなどを表す言葉として使われるのです。
たとえば、会社と従業員がお互いに理解を深めていくことで絆が深まり、互いに貢献し合えるようになると解釈されます。
エンゲージメントが高まれば会社と従業員が一体となり、従業員の潜在能力も高まるでしょう。それにより、会社全体で最大限のパフォーマンスを発揮できるようになります。
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従業員ロイヤリティとは?
従業員ロイヤリティとは、企業の一員として働く従業員が、企業に対して抱く好意的な感情や精神的つながりのこと。
従業員ロイヤリティが高まれば、社員や組織全体に良い影響を与えます。反対に従業員ロイヤリティが低下すれば、士気も下がり、成果が表れにくくなるのです。
企業と従業員の関係性の違い
エンゲージメントとロイヤリティは意味合いが異なります。
- エンゲージメント:会社と従業員が対等な立場にあり、会社に愛着・愛情を持つ従業員が、自ら進んで能力を発揮して会社に貢献するといった状態
- ロイヤリティ:会社に対する忠誠心が重視される
つまり主従関係に立って、主人である企業に従業員が身も心も捧げるといった状態です。ロイヤリティを愛社精神と捉える場合もありますが、本来はエンゲージメントが愛社精神、ロイヤリティは奉社精神、といったように両者は似て非なるものなのです。
従業員ロイヤリティが高まれば、社員や組織全体に良い影響を与えます。反対に従業員ロイヤリティが低下すれば、士気も下がり、成果が表れにくくなるのです
5.コミットメントとロイヤリティの違い
コミットメント(Commitment)もビジネスシーンでよく使われる言葉です。ロイヤリティは会社への忠誠を示す状態を指しますが、コミットメントは会社からの要望に従業員が応える・承諾するといった状態を指します。
コミットメントとは? ビジネスでの意味や使い方をわかりやすく
コミットメントとは公約、責任を持った約束などの意味があります。ビジネスシーンでも多用されるコミットメントについて深く掘り下げていきます。
1.コミットメントとは?
コミットメントとは、責任のある約束...
6.日本型経営とロイヤリティの歴史
日本の企業は、「年功序列」「終身雇用」「企業別組合(福利厚生)」の三種の神器を軸に社員のロイヤリティを高める、といった仕組みに支えられてきました。
三種の神器は、会社が本人だけでなくその家族の生活をも保障することを意味するため、従業員は生活費や養育費を心配することなく安心して働き続けられます。
さらに、長く働けば働くほど会社に対する忠誠心が高まるのです。日本企業は伝統的に、従業員の忠誠心や愛社精神の高さを武器とした独自のチームワークで、高い競争力を誇ってきました。
30年以上の長きにわたり通信・半導体大手の米モトローラ社を率いたロバート・ガルビンは、対日批判の急先鋒として知られますが、自著で日本(人)の忠誠心は日本的経営の長所であると認めています。
7.組織のロイヤリティを高める目的とは?
従業員ロイヤリティの向上は、顧客ロイヤリティの獲得につながります。忠誠心の高い従業員は、自主的に顧客満足度や生産性を高めるための努力するもの。そのため従業員ロイヤリティの向上は、経営目標を達成させるための手段としても利用できるのです。
8.ロイヤリティの種類
ロイヤリティにはいくつか種類があります。リクルートワークス研究所主幹研究員の豊田義博氏は著書『戦略的「愛社精神」のススメ』で、日本人の「愛社精神」は3種類あると説いています。その3つの愛社精神の概念を見ていきましょう。
- 奉社精神
- 恋社精神
- 愛社精神
①奉社精神
奉社精神は、経済成長の続くバブル以前に培われたロイヤリティです。「終身雇用や年功序列などの制度によって会社が家族を含む自身の生活や人生の面倒を見てくれるから、その対価として奉公しなければならない」という忠誠心に支えられています。
②恋社精神
恋社精神は、一流企業の名前やブランド力に惹かれ、憧れる気持ちから生まれます。恋社精神の特徴に挙げられるのは、「恋愛と同じように長続きしにくい」「入社後に現実とのギャップを埋め切れずに冷めてしまう」などです。
③愛社精神
本来の愛社精神とは、会社への感謝の気持ちから生まれるもの。「自身の成長は会社がその機会を与えてくれたから」「経験を積ませてもらえなければ今の自分はなかった」と実感することで、会社のために頑張ろうと思えるようになるのです。
9.ロイヤリティの5つの思考段階
ロイヤリティには5つの思考段階があります。それぞれの特性についてチェックしましょう。
- 同等の選択肢が市場に存在しない
- 習慣化による流れ作業的選択
- 時間的犠牲や金銭的犠牲、発生リスクを理由とした妥協的選択
- 愛着や忠誠心による離脱への抵抗感
- 継続のため時間や金銭を自主的に使う
①同等の選択肢が市場に存在しない
独自性や希少性に惹かれる顧客や従業員に、ロイヤリティが生まれます。
たとえば、
- 類似商品がない
- 同等の仕事が他の企業や市場に存在しない
- 同じような業務を取り扱う企業はあるが、転職先としてふさわしくない
- 同業他社があっても新規の人材の募集を行っていない
といった状況が当てはまります。
ロイヤリティは「市場で競争原理が働いているときに生まれるもの」であるため、厳密には「同等の選択肢が市場に存在しない」という状況は、ロイヤリティを醸成する段階としてふさわしくありません。
しかし、類似商品や同業他社が増えてからロイヤリティの構築に取り掛かっても、手遅れになる場合もあるのです。
ロイヤリティには、早期に醸成や構築を始めるほど効果が出やすいといった特徴があります。経営者や人事担当者は顧客や従業員の思考段階を正しく見極めましょう。
②習慣化による流れ作業的選択
たとえば、顧客であれば商品などを習慣的に購入している状態、従業員であれば労働が習慣になっている状態を指します。この段階では、顧客と従業員共に組織や企業に対する不安や期待は持っていません。
具体的にはそれぞれ以下のような思考状態にあります。
顧客の場合、
- 特に買う理由もないが、何となく購入を続けている
- 買い替えを検討したり解約の手続きを行ったりするのが面倒
- 類似商品の存在を知らない、類似商品があるのか調べる必要性を感じていない
従業員の場合、
- 仕事にやりがいを感じていないが、長く働き続けるものだと思っている
- 生きていくのに必要な手段であると割り切っている
- 経営トップの考えなどに共感していない
③時間的犠牲や金銭的犠牲、発生リスクを理由とした妥協的選択
この段階の顧客や従業員は、以下のような思考状態にあります。
顧客の場合、
- 近くに類似商品を販売するお店がないため、いつもの商品を買い続ける
- 他社製品のほうが魅力的だが、価格が高いので躊躇している
- 新規契約したいが、利用開始までに長時間かかるので面倒
- 新商品や新サービスを購入してみたいが、使いこなせるか心配
従業員の場合、
- 転職活動をしたいが、時間や金銭の余裕がなく思いとどまっている
- 今の業務や企業に不満はあるが、転職で給与が下がるといったリスクを考えて転職に踏み切れない
- 新しい環境になじめるか、新しい仕事を覚えられるかといった不安がある
不安と現状への不満を天秤にかけた結果、妥協的な選択として現在の商品やサービス、企業にしがみついている状態ともいえます。
④愛着や忠誠心による離脱への抵抗感
この段階の顧客や従業員は以下のような思考状態にあります。
顧客の場合、
- 経営者の考え方やブランドデザイナーのセンスに惚れ込んでいる
- 安心して使用できるのは、この企業の商品だけ
- 顧客を第一に考える企業であると感じている
- このブランドの商品を買い、身に着けることで心が満たされる
従業員の場合、
- 業務内容・福利厚生・給与など一部分に不満を感じているものの、職場の人間関係に愛着や忠誠心がある
- 企業に不満はあるものの仕事自体は好きでやりがいを感じている
- 未経験だった自分を育ててくれた企業には恩返しをしたいと感じている
- 創業者や経営者、上司などに尊敬する人物がいる
⑤継続のため時間や金銭を自主的に使う
かなりロイヤリティの高い段階にあり、自発的に行動する人も多いです。この段階の顧客や従業員は以下のような思考状態にあります。
顧客の場合、
- 長蛇の列に並んで待つとしても、商品を確実に購入したい
- お店が遠方にあっても、商品を購入するためなら交通費を支払うこともいとわない
- 好きな商品やサービスのファンを増やすため、自発的に最新情報や魅力を発信する
従業員の場合、
- プライベートの時間を削ってでも仕事のために勉強したり動いたりするようになる
- 給与や報酬にかかわらず、仕事で最高のパフォーマンスを発揮できるよう努力する
- 多くの人に知ってもらうため、自発的に企業の魅力や最新情報を拡散する
- 仕事を探している家族、知人、友人などに自分が勤めている会社をお勧めする
10.ロイヤリティの4つの段階
日本では長年、終身雇用制度が保証されており、その結果として社員のロイヤリティが維持できていました。しかし、そんな終身雇用制度が日本でも崩れつつあることは周知の事実です。
このような環境の中、どうやって社員のロイヤリティを向上させればよいのでしょう。これは重要視すべき課題のひとつです。
社員のロイヤリティを向上させるには、まずその社員のロイヤリティ段階を確認します。社員がどの段階にあるのかを知れば、個別にロイヤリティを向上させるアプローチが可能になるのです。まずは、ロイヤリティの4つの段階について理解しましょう。
- 真のロイヤリティ
- 見せかけのロイヤリティ
- 潜在的ロイヤリティ
- 非ロイヤリティ
①真のロイヤリティ
真のロイヤリティとは、行動と態度が一致している状態のこと。企業に対する忠誠心が強く、自発的に最高のパフォーマンスを発揮しようと努力するため成績も良いのが特徴です。
自分の成長は企業のおかげだと理解して最大限に貢献しようという姿勢も見られます。ロイヤリティがかなり高い状態にあるため、今後ロイヤリティが下がらないようケアすることが重要です。
②見せかけのロイヤリティ
見せかけのロイヤリティとは、企業や業務内容が好きではないが企業に貢献しようと努力している状態のこと。このとき従業員は、下記のような心理状態にあります。
- 特に好きではないが、転職をする時間も、金銭的・精神的余裕もないため、現在の企業で業務を続けている
- 問題を抱えているものの、上司や同僚に相談する機会がない
一見まじめに貢献しているように見える従業員でも、企業に対する忠誠心はなく、機会があれば離職してしまう可能性が高い状態が見せかけのロイヤリティです。
この段階の社員を引きとめるには、「業務のやりがいを見出させる」「職場・チームでのコミュニケーションの機会を増やす」などの工夫が必要でしょう。
③潜在的ロイヤリティ
潜在的ロイヤリティとは、企業や職場環境、人間関係に対しては好意的な意見を持ちつつも、貢献度やパフォーマンスが低い状態のこと。
ちなみに前述の「顧客ロイヤリティ」は、心理ロイヤリティと行動ロイヤリティに分かれます。
- 心理ロイヤリティ:ある商品などに愛着や好意を持っている状態
- 行動ロイヤリティ:ある企業の商品を繰り返し購入し、周りに商品を勧めたりする状態
これを社員に当てはめて考えると、潜在的ロイヤリティを持つ社員は、心理ロイヤリティは満たしていますが、行動ロイヤリティに当たる自発的な行動などが不足している状態にあるといえます。
実力や資質が業務内容に伴わないなどの理由で、なかなか結果を出せていない可能性もあるでしょう。この場合、ヒアリングやアンケートの実施などで社員が実力を発揮できる場を設けられれば、ロイヤリティの向上につながります。
④非ロイヤリティ
非ロイヤリティとは、企業に対する忠誠心や貢献度が低い状態のこと。心理ロイヤリティも行動ロイヤリティも低いため、企業に貢献しようと努力する様子も見られず、業績も上がりません。他社にロイヤリティを感じ、転職や離職を考えていることもあるでしょう。
ロイヤリティを高めるためにコミュニケーションを取る方法がありますが、この段階にいる社員に高いロイヤリティを期待するのは難しく、コミュニケーションを図っても無駄になってしまう場合も。
社員がこの状態に至る前に、離職率を下げる手段を考える必要があるでしょう。できることなら採用の段階で企業に対するロイヤリティの度合いを見抜くようにします。
11.ロイヤリティの高い社員の特徴
ロイヤリティの高い社員は、そうでない社員と比較して離職率が低く、結果として採用や教育にかかる無駄なコストをカットできます。ロイヤリティの高い社員を育成することは、職場環境の安定・生産性の向上・業務の効率化などで大切なポイントとなるのです。
人事担当者は、ロイヤリティの大切さを啓蒙するだけではなく、誰が何を担当してどうやって取り組むのか、どんなフローで進めるのかなどについて、現場のリーダーの意見を取り入れながら確認しましょう。
その際、必要に応じて人事部から手を差し伸べられるようにするなど、バックアップ体制を築くことも重要です。
特徴の具体例
ロイヤリティの高い社員の特徴として、下記のようなものが挙げられます。
思考傾向の例ですと、
- 組織の一員であることを誇りに思い、組織で働けることに喜びを感じる
- いつまでも組織の一員でありたいと心から願っている
- 現在より格段に良い条件でのヘッドハンティングに対しても全く関心を示さない
- 創業者や企業経営者、トップマネジメント層を尊敬し、思考や戦略を強く支持している
- 自社の商品やサービスを誇りに思い、その存在価値を高く評価している
行動特性の例では、
- 周囲の求職者に対して自発的に自社を勧める
- 組織や所属部署の業績アップを自分のことのように喜ぶことができる
- 組織に貢献することで尊厳欲求(承認欲求)や自己実現欲求が満たされている
12.従業員ロイヤリティが高い企業の特徴
従業員ロイヤリティを高めるにはどうすればよいのでしょうか。従業員ロイヤリティが高いとされているラックスペース、AT&T、プログレッシブ、インテュイット、シンタス (Cintas)といった企業に見られる5つの共通点を解説します。
- 現場の管理職がロイヤリティ向上に責任を持つ
- マネージャーがチームの最も重要な問題を把握している
- チームが顧客志向である
- ロイヤリティ向上施策を社員のセグメントに応じて変えている
- データではなく、対話を重視する
①現場の管理職がロイヤリティ向上に責任を持つ
現場の上司との関係がうまくいっている従業員は、ロイヤリティが高い傾向にあります。
ある調査によると、会社に対するロイヤリティが高い「プロモーター(推奨者)」従業員の87%は、直属の上司を高く評価していました。つまり現場の管理職は、部下の従業員ロイヤリティ向上を優先することが重要なのです。
管理職に従業員ロイヤリティの向上を一任する前に、経営陣が率先してロールモデルになるとよいでしょう。その際、以下の内容に留意する必要があります。
- 従業員ロイヤリティが低いことに対して解決策を提示するのではなく、現場の管理職自身が正しい行動を決定できるように導く
- 従業員ロイヤリティの低さを批判するのではなく、現場の管理職がその根本要因を理解し解決できるようサポートする
②マネージャーがチームの最も重要な問題を把握している
従業員ロイヤリティの高い企業では、議論やトラブルに適切に対応するためのトレーニングやクローズドループと呼ばれる迅速にプロセスを改善しその結果をチームに報告するというアプローチなどを指導しています。
クローズドループは、高い顧客ロイヤリティを獲得している企業が、課題にアプローチする際に用いる有効な手法とされているのです。
管理職にこれらのトレーニングを受けさせれば、従業員ロイヤリティの向上につながるでしょう。特に、昇格したばかりの新任の管理職は、ロイヤリティを高めるための議論や指導をスムーズに実施するのは難しいことも。
管理職トレーニングやコーチングが十分に行われていない企業も多くあります。ロイヤリティ向上を任せるだけでなく必要な知識を与えることも重要です。
③チームが顧客志向である
従業員ロイヤリティが高いと、従業員やチームの顧客志向も高まります。そのような企業では、現場の声を吸い上げて速やかに対応することを重要視しているのです。
たとえば、コールセンターの担当者やセールススペシャリスト、技術者といった現場の最前線で働く従業員は、どんなことで顧客が喜び、不満を持つかといったことについてよく理解しています。
経営陣は、現場の従業員の話に耳を傾けましょう。どうすればロイヤリティの高い顧客を増やせるかの把握とともに、顧客の理解を深められます。
また経営陣が現場の社員の提案やアイデアを積極的に検討し、それが実現されれば、経営陣が従業員を尊重していることを示す証明にもなるため、従業員のモチベーションも上がるでしょう。
こちらのケースでも、声を吸い上げて検討した結果を提案者に戻すといったアプローチの「クローズドループ」が役立ちます。
顧客志向とは?【わかりやすく】マーケティング、メリット
顧客志向とは、ビジネスにおいて顧客を最優先とする考え方です。顧客志向のメリット、実践における注意点、マーケティングにおける成功事例などについて解説します。
1.顧客志向とは?
顧客志向とは、企業や組...
④ロイヤリティ向上施策を社員のセグメントに応じて変えている
従業員ロイヤリティを高めるために、全社員に対して一律に同じことを実施しても十分な効果は上がりません。同じ組織の従業員でもさまざまなニーズが存在しますし、モチベーションを上げるための手法も異なるのです。
たとえば従業員を、年齢、性別、部署、価値観などでセグメント化し、それぞれに適切な対策を行うのです。セグメント化においては、会社へのロイヤリティ向上の責任を現場の管理職に一任する場合と動揺、どう優先順位を付けるか指導することも大切です。
従業員をセグメント化する対策は、人材が多様化している現代において必要不可欠といえるでしょう。
⑤データではなく、対話を重視する
データや指標ではなく対話を重視している点を強調することも必要です。指標だけを見たマネジメントが、短期的に良い結果をもたらしたとしても、長い視点で見て良いものとは限りません。
管理者が数字だけしか見なければ、従業員のモチベーションが下がり、小手先だけで数字を上げるようになるでしょう。
従業員ロイヤリティの高い企業にいる現場の管理職は、従業員ロイヤリティスコアの変動だけを開示して、フィードバックをそのままストレートに伝えるようにトレーニングされています。
こうすることで、ただスコアを気にしているのではなく、根本的な課題にアプローチして、真摯に改善に取り組んでいる姿勢をアピールできるのです。
13.ロイヤリティが高い部署と低い部署の違い
営業や顧客サービス部門では、従業員ロイヤリティスコアが低い傾向にあります。また現場で顧客対応を行っている従業員は、会社に対するロイヤリティレベルが低い傾向にあるのです。
14.従業員ロイヤリティを高めるメリット
従業員ロイヤリティを高めることのメリットについて解説しましょう。
離職率が低くなる
従業員ロイヤリティが高いと、離職率が下がり、平均勤続年数が長くなります。また、従業員ロイヤリティスコアの高い従業員は、会社に貢献しようと努力するため、業務成績が高くなりやすいです。
もし、給料や待遇面で好条件を提示するライバル企業が引き抜きを打診してきたとしても、転職を検討することなく、目の前の業務にしっかり取り組んでくれるでしょう。
長期的な人材育成が可能になる
従業員ロイヤリティが高まることで、組織は従業員の離職リスクを恐れることなく、将来の経営ビジョンの実現に向けて、戦略的かつ長期的な人材育成を実施できるようになります。
離職率が高い状態では、人材育成のための施策を行っても無駄になることも。そういったリスクを気にせずに人材育成の計画を立てられることは、従業員ロイヤリティ向上効果のひとつといえるでしょう。
人材育成における効果判定が容易になる
従業員ロイヤリティの向上によって離職率は低下し、平均勤続年数は伸びます。たとえ、評価判定に長い時間を要する施策でも、継続してモニタリングできるのです。
たとえば人材育成制度や、昇進昇格に関する制度など、組織内のあらゆる規定や施策の評価判定が容易になる上、正確に実施できるようになります。
リファラル採用を活用しやすくなる
従業員ロイヤリティの高い従業員が多ければ、求職・転職活動をしている友人や知人を紹介、推薦してもらう「リファラル採用(リファラルリクルーティング、社員紹介採用)」がスムーズになります。
リファラル採用には、採用コストが削減できたり自社とのマッチング精度が上がったりと、多くのメリットがあるため、積極的に活用する企業も多いです。
ただし、紹介者となる従業員が自分の利益のためでなく、企業の求めている人材像や社風に合う人材像を正しく理解した上で、適切な相手にアプローチしなければなりません。
こういった性質を考えると、ロイヤリティの高い従業員の中でも「真のロイヤリティ」に分類される従業員が適任だといえるでしょう。
リファラル採用とは? 目的やメリット・デメリットを簡単に
昨今、リファラル採用という人材採用経路が注目を集めていますが、ご存じでしょうか?
リファラル採用とは
リファラル採用の目的
リファラル採用が注目を集めている背景
リファラル採用事例
リファラル採用の...
組織のイメージが向上する
従業員ロイヤリティの高い従業員は、自社の商品やサービスなどに強い愛着を持っているため、積極的に周囲にアピールします。会社の良い点を自発的に宣伝してくれる、プロモーター(推薦者)としての役割も担うのです。
15.社員のロイヤリティを向上させる具体的な方法6つ
社員のロイヤリティをより高めるためにできる具体的な方法を6つご紹介します。
- 企業の歴史や貢献した人物について学ぶ
- 社員同士が接する機会を増やす
- 結果や数字ではなく対話を重視
- 現場の上司が部下とのコミュニケーションを図る
- ロイヤリティ・プログラムを導入して社員にインセンティブを与える
- カスタマージャーニーマップを社員にも活用
①企業の歴史や貢献した人物について学ぶ
企業の変遷やかつての優秀な社員の功績を学ぶことは重要です。これまでの歴史で培われた技術やノウハウ、貢献した人物について学べば、従業員ロイヤリティを高めるのに役立ちます。
自社でどんな人物が働いていて、どのような功績を残したのかを理解することで、従業員の会社に対する忠誠心が高まる場合も。レクリエーションや交流会などを通して、楽しみながら企業についての知識を深められる機会を設けるのもよいでしょう。
②社員同士が接する機会を増やす
従業員ロイヤリティを高めて「この企業で長く働きたい」と社員に思ってもらうには、職場環境の改善や良い人間関係の構築が重要です。職場の環境や人間関係に不満があれば、社員のモチベーションが下がり、ロイヤリティも低下してしまいます。
現代の働き方では仕事とプライベートは区別するという考えが常識となっていますが、円滑な組織運営においては、社員同士の交流の場も重要です。
社内でレクリエーションを行う、交流会を開く、社員旅行を実施するなど、プライベートな時間を社員同士で共有する機会を設けてみましょう。社員同士が打ち解け合えば、仕事中のコミュニケーションもはかどります。
③結果や数字ではなく対話を重視
上司と部下の関係をより良くするには、業務に対する目標や数値だけで個人を判断するのではなく、きちんと対話して相手を理解することが重要です。指標だけを見て頭ごなしに指示を出すだけでは、良い成果にはつながりません。
結果だけでなく個人を見てくれる企業である、従業員の提案に耳を傾け、必要とあれば対応してくれる企業であるなどを社員が理解すれば、より従業員ロイヤリティは高まるでしょう。
だからといって、いきなり人事部や経営陣との対話の機会を増やすのではありません。まずは直属の上司との関係を円滑にするようなコミュニケーションの機会を設けることから始めましょう。定期的な面談の場をつくるのも効果的です。
④現場の上司が部下とのコミュニケーションを図る
人事部や経営陣でロイヤリティの向上についてあれこれと思案していても、現場の上司と部下の関係が悪ければ従業員ロイヤリティの向上は見込めません。
現場の上司が率先して部下とのコミュニケーションを図り、関係を構築していけるように指導していくことも大切です。
ミーティングや面談など普段から対話の機会を積極的に持つように心掛け、思いを正直に打ち明け合えるような関係を築くことができれば、上司に対する部下の信頼度も高まります。
万が一、現場の管理者に部下との関係性を築くような自発的行動が見られない場合は、部下のロイヤリティ向上を達成すべきミッションとして提示するとよいでしょう。
経営陣などが指示を出すことで、現場の管理者が部下と関わる機会が増え、互いの理解が深まります。また上司の意識が向上し、上司と部下の関係が円滑なものになれば、個人のミスやトラブルのフォローも素早く行えるでしょう。
⑤ロイヤリティ・プログラムを導入して社員にインセンティブを与える
ロイヤリティ・プログラムとは、一定期間企業に貢献した社員に対してインセンティブ(特典)を与えるというもの。マーケティングの施策に、長期間利用したユーザーに対して特典を与えるというものがありますが、それと同じことを企業内で行うのです。
ロイヤリティ・プログラムの導入により、社員のモチベーションはアップし、従業員ロイヤリティを高められます。
たとえば、勤続年数が長い社員に賞与やリフレッシュ休暇を与える制度があるとします。これにより、「長く働くことにはメリットがある」と社員に周知できるのです。
⑥カスタマージャーニーマップを社員にも活用
「カスタマージャーニーマップ」とは、顧客が商品やサービスに触れ、購入し、どのように感じたかといった流れをマップにして可視化したもの。
流れを明確にすると、自社にどのようなサービスが必要か、何が足りなかったのかが分かるため、改善につながります。また、社員のロイヤリティ向上にも活用できるのです。
たとえば、
- 社員がなぜこの企業を選んで就職活動を行ったのか
- この企業で働いていてどのように感じたのか
- 離職してしまった場合は、なぜ離職をするという決断に至ったのか
といった事柄を明確に把握すると、従業員ロイヤリティの向上に役立つのです。また従業員ロイヤリティ向上効果で、離職率が下がり、勤続年数を伸ばすことも期待できます。
16.ロイヤリティ向上における企業事例
ロイヤリティ向上施策の事例として、アメリカの企業の例を紹介しましょう。
ラックスペース社の「ストレートジャケット(拘束衣)賞」
米国のIT企業ラックスペースは、社是である「熱狂的な顧客サポート」にこだわる企業です。この社是を実現するために、従業員ロイヤリティの向上を最優先取り組み事項のひとつに掲げています。
なぜなら従業員ロイヤリティが高まれば、社員が自発的に顧客を第一に考えて行動するようになるからです。
ラックスペース社では、あるユーモアに満ちた賞を設けました。「ストレートジャケット(拘束衣)賞」と呼ばれるもので、夢中でサービスに熱中している従業員に授与される同社で最も名誉ある賞です。
賞品として自社ブランドロゴ入りのストレートジャケットが贈られますが、社員はこの賞品を獲得するために懸命に仕事に取り組んでいます。
このような賞以外にも、同社では顧客対応部門のメンバーを集めた定期的なミーティングや現場の管理職とのチームミーティングなどを通じて、従業員ロイヤリティの向上に大きな投資を行っているのです。
ロイヤリティ向上の手法
ラックスペース社は従業員ロイヤリティを向上させるため、「ラッカーパルス」と呼ばれる四半期ごとの従業員フィードバック調査を導入しています。
この調査は、顧客に対して実施している「NPS(ネット・プロモーター・スコア)調査」と同じ手法で行われているのです。
「自社で働くことを友人や知人に薦めるか」などの質問とその理由を聞く簡単な調査で、結果は匿名にて現場の管理者にフィードバックされます。これを確認することで、現場の管理者は自分のチームのロイヤリティレベルや課題などを把握できるのです。
その一方で、経営陣は、経営会議で定期的に従業員ロイヤリティの向上を議題に取り上げ、組織を横断して話し合う場を設けていることも特筆すべき点でしょう。