マネジリアルグリッド理論とは、組織の人間への興味と業績への関心の2軸をもとに、リーダータイプを分類する理論のこと。PM理論との違い、メリットなどを解説します。
目次
1.マネジリアルグリッド理論とは?
マネジリアルグリッド理論とは、「人間への興味関心」と「業務への関心度」というふたつの行動論を軸に、リーダータイプを9段階に分類する理論のこと。
この理論は分析だけでなく評価や教育にも役立ちます。マネジリアルグリッド理論は仕事と人間関係の両面に焦点を当て、バランスの取れたリーダーシップスタイルの育成にも効果的です。
理論の起源
マネジリアルグリッド理論は、1964年にテキサス大学教授であるR.R.ブレイク氏と、J.S.ムートン氏によって提唱されました。この理論が公表される以前、リーダーシップの評価は「仕事の生産性」と「周囲の人への配慮」というふたつの軸で行われていたのです。
マネジリアルグリッド理論の提唱後は、従来の理論と比べてリーダーの行動やスタイルを詳細に分析できるようになり、リーダーシップの向上に役立てられました。
この理論を活用すると、仕事と人間関係の両面でバランスのとれたリーダーシップスタイルの育成が可能です。
2.マネジリアルグリッド理論を取り入れるメリット
マネジリアルグリッド理論を導入すると、理想的なリーダーに近づくためのヒントを得られます。詳しく解説しますしょう。
リーダーシップのスタイルを分類し行動指針の作成が可能
マネジリアルグリッド理論を活用すると、リーダーシップの強化や成長に向けた具体的な行動指針を得られます。
自身のリーダースタイルを評価し、自分のタイプがどの領域に偏っているのかを把握すれば、バランスを取るためにどのような行動を取ればよいかがわかり、理想のリーダーに近づくために必要な行動指針明確になるのです。
3.マネジリアルグリッド理論とPM理論の違い
双方の違いはリーダーシップを分類するときの軸です。マネジリアルグリッド理論は、人間への興味と業務への関心というふたつの行動論を軸にタイプを分類します。一方PM理論は、パフォーマンスとメンテナンスの2軸でわけるのです。
PM理論におけるパフォーマンスとは、成果を達成するために発揮するリーダーシップを指し、規則の遵守、進捗状況の管理などが挙げられます。
一方メンテナンスは、組織などの集団をまとめるためのリーダーシップを指し、メンバー間の問題解決やメンバーが業務を遂行しやすい環境を整えるといった行動が該当するのです。
分類における軸の違い
PM理論は、「目標達成」と「チームワーク」を軸として分類し、一緒に仕事をするメンバーのスキルや環境によってリーダーのとるべき行動が変化します。
マネジリアルグリッド理論は、「組織の人間への興味関心」と「業績への関心度」という2軸を用いるのです。そのため本人の意識や価値観などで行動指針が変化する点が異なります。
PM理論とは?【わかりやすく解説】活用例、リーダーシップ
PM理論とはリーダーシップの機能を表現した行動理論のことです。ここではPM理論の意味やリーダーシップの分類、各機能の伸ばし方などについて、解説します。
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4.マネジリアルグリッド理論の評価軸
マネジリアルグリッド理論では、下記の2軸でリーダーシップを分析します。それぞれについて詳しく解説しましょう。
- 人間への興味関心
- 業務への関心度
①人間への興味関心
人間への興味関心とは、職場の同僚や上司に対する関心度のこと。リーダーシップと他者とのかかわりがあって初めて発揮されるものなので、人間への興味関心はリーダーシップの分類を決定するうえで重要な指標となるのです。
なお人間関係を重んじる傾向にあるリーダーは、穏便な人付き合いを好み、物事を決定するときは「人間関係」を重視します。たとえば「上司から褒められたい」「部下をいる状況で働きたい」などの意識が行動につながる傾向にあるのです。
②業績への関心
業績への関心度とは、リーダーが業績や成果に対してどれだけ興味や関心を持っているか、のこと。ただし単に利益や売上の向上だけではなく、目標の達成や課題の解決、組織力の向上なども含まれるのです。
リーダーの業績への関心度が評価軸となっており、成長意欲や欲求の度合いによって振る舞いが異なります。たとえば業績への関心度が高いリーダーは自身の意志やビジョンにもとづいて行動し、積極的に業務に取り組む傾向にあるのです。
一方現状維持を好むリーダーは業績への関心度が低く、安定や既存の状態を維持することを重視するでしょう。
5.マネジリアルグリッド理論におけるリーダーシップのスタイル
ふたつの軸に対する関心度合いによって、リーダーシップは6つに分類されます。それぞれについて説明しましょう。
- 人間中心型(カントリークラブ型)
- 消極型(無関心型)
- 仕事中心型(権威服従型)
- 理想型(マネジメント型)
- 中庸型
- その他の分岐型
①人間中心型(カントリークラブ型)
人間中心型は、目標目標や業績を達成することに重点をおかず、職場の人間関係を良好にすることに力を注ぐタイプです。命令や指示を出すよりメンバーの気持ちやスキルを尊重し、「この仕事をやって欲しい」とお願いする形で業務を任せる傾向にあります。
人間中心型のリーダーがいる職場では、コミュニケーションが良好になるといったメリットがある一方、業績や利益達成を目標にしているメンバーは物足りなさを感じるかもしれません。
②消極型(無関心型)
消極型は「職を失いたくない、自分の立場を守りたい」といった思考が強いリーダーで、人間にも業績にも高い興味を示さないといった特徴があります。
与えられた業務はこなすものの、職場内でなにかしらのトラブルが発生した際、保身のために見て見ぬふりをするかもしれません。
また意見交換での発言は当たり障りのない意見が多いため、メンバーは次第に自らで物事を決定していくようになり、リーダーから離れていく可能性もあります。
③仕事中心型(権威服従型)
仕事中心型は、業績や利益への関心が高い一方で、人間に対して関心が低いタイプのリーダーです。業績向上に力を注ぐため、場合によっては職場内の人間関係を悪化させる行動をとることもあります。
またリーダーの地位を利用して命令によってメンバーを動かす組織構造を好むため、「権威服従型」のリーダーとも呼ばれるのです。業績の向上には貢献する一方で、権威主義的な振る舞いによってメンバーのモチベーションを低下させる場合もあります。
④理想型(マネジメント型)
理想型は、業績と人間どちらにも関心が高く、マネジリアルグリッド論でもっとも理想的なリーダーです。メンバー内の人間関係を良好に保つための努力を惜しまず、同時に業績向上のためのタスク管理もしっかりと行えます。
また理想型のリーダーはメンバーの意見を積極的に取り入れるのが特徴です。そのため理想的なリーダーのもとで働くメンバーは、自分のスキルを発揮し、意見を出せる環境にいるため、仕事へのモチベーションが高まります。
⑤中庸型
中庸型は、業績と人間に対して一定の関心を持つものの「何事も無難が一番」という考えが強い妥協型のリーダーです。新しい内容を取り入れるより、現状維持や中立を重視するため、伝統やこれまでのやり方を重んじて時代遅れな組織になる恐れもあります。
⑥その他の分岐型
1964年にマネジリアルグリッド理論が提唱されて以降、ブレイク氏はさらに「温情主義型」と「日和見主義型」のタイプを発表しました。
温情主義型
温情主義型は、自分に対して尊敬の眼差しを抱かせたいという気持ちが強いリーダーです。細かな指示を出し、意のままにメンバーを行動させて成果を出そうと考える傾向にあります。
思いのままに動いて成果を上げたメンバーには称賛を与え、自分の意にそぐわないメンバーには叱責を繰り返すのが特徴です。そのためメンバーは「この人のいうとおりにしていれば褒められる」と思い、指示に従うようになります。
しかし表面上はリーダーの言うとおりに動いていても、実際は尊敬の眼差しはなく、ただ指示に従っている状態かもしれません。
日和見主義型
日和見主義型は、「人より優位な立場にいること」が行動指針となるタイプです。メンバーがうまく動いてくれるためには、どのような振る舞いをすればよいかを考え、これまで説明した6つのリーダータイプから最善な方法を選択します。
しかしスタイルの一貫性がなくなるため、メンバーが混乱してしまうかもしれません。
6.マネジリアルグリッド論の問題点
マネジリアルグリッド理論はリーダーの配置や育成に有用である一方、問題点もあるため活用時には注意が必要です。
- 人材そのものしか考慮できない
- 客観的な分析や評価が困難
- 実際の成績が伴わないリスク
①人材そのものしか考慮できない
マネジリアルグリッド理論で優秀なリーダーに分類されても、実際の現場では生産性が十分に高まらない場合もあります。
リーダーシップの効果を最大化するには、リーダーの特性や行動だけではなく、仕事の性質やタスクの内容、チームや組織の文化や風土、組織の目標や戦略などの要素も大きく関与するからです。
たとえばタスクが複雑であったり、組織内のコミュニケーションが円滑でなかったりする場合、リーダーが優れた性格やスキルを持っていても、生産性の向上が十分に実現されないことがあります。
②客観的な分析や評価が困難
自己評価や部下による評価は主観が入りやすいため、その正当性を判断するのが難しいという問題があります。
また第三者による評価であっても、人間の性格や行動と業績を同時に評価するのは難しいという研究者の意見もあるのです。マネジリアルグリッド理論は、あくまでもリーダー分析の指標のひとつととらえるほうがよいでしょう。
③実際の成績が伴わないリスク
マネジリアルグリッド理論は、人間と業績への「興味」を分析する手法であり、実際の成果や利益は考慮されません。そのため優れたリーダーであっても、業績向上に直結しない場合もあります。
リーダーの育成にマネジリアルグリッド理論を活用する際は、ほかの手法と組み合わせることが重要です。
たとえば実績や成果、利益など具体的な数値を考慮する評価方法や、リーダーのコミュニケーション能力や組織への影響力を測る方法を併用すると、より包括的な評価が可能になります。
7.マネジリアルグリッド理論を活用する際のポイント
マネジリアルグリッド理論を活用する際は、分類や分析だけでなく、求めるリーダー像を明確にするのがポイントです。
マネジリアルグリッド論の診断を実施
マネジリアルグリッド理論を利用して、なぜ自分が現状そのようなリーダーシップをとっているのか、どのような動機があるのか、考えましょう。内面のリーダーシップを診断すると、意識していなかった潜在的なリーダーシップの可能性を見つけられるからです。
普段の業務では気づきにくい自分自身の特徴や行動傾向が明らかになり、理想的なリーダーになるために必要な成長の方向性を見出せるようになります。
求めるリーダーシップタイプの設定
リーダーシップの理想像は組織によって異なるため、リーダーシップの育成では組織のニーズや目標に適したリーダータイプを明確にする必要があります。
たとえば変革をリードするリーダーシップや、チームの統合を図るリーダーシップなど、部署やチームによって求められるリーダータイプはさまざまです。
マネジリアルグリッド理論を活用する際には組織が求めるリーダータイプを明確にし、それにもとづいて育成計画を立てる必要があります。