マタニティハラスメント/マタハラとは? 事例、定義

ニュースや新聞で見かけることも多くなったマタハラ。何となく想像できても、実際どんなハラスメントなのか知らない人も多いのではないでしょうか。

ここではマタハラの実態や原因、問題や制度改正、対応や対策、相談窓口について掘り下げてご紹介します。

1.マタハラとは?

マタハラの正式名称は「マタニティハラスメント」です。

会社で働く女性が妊娠や出産を理由に解雇や雇い止めをされたり、妊娠や出産にあたって職場で受けたりする精神的・肉体的なハラスメントを意味します。セクハラやパワハラに並ぶ、働く女性を悩ませる3大ハラスメントのひとつといわれています。

マタハラが生じる原因として挙げられるのは、「男性社員の妊娠出産への理解不足・協力不足」や「会社の支援制度設計や運用の徹底不足」などが挙げられます。

マタハラとは、会社で働く女性が妊娠や出産を理由に企業側に解雇されたり雇い止めされたりすることを意味します

部下を育成し、目標を達成させる「1on1」とは?

・1on1の進め方がわかる
・部下と何を話せばいいのかわかる
・質の高いフィードバックのコツがわかる

効果的に行うための1on1シート付き解説資料をダウンロード⇒こちらから


【人事労務業務を効率化し、担当者の負担をグッと減らす】

カオナビならコストを抑えて労務管理・タレントマネジメントを効率化!

●紙やExcelの帳票をテンプレートでペーパーレス化
給与明細の発行や配布がシステム上で完結できる
年末調整の記入や書類回収もクラウドで簡単に
●人材情報の一元化・見える化で人材データを活用できる
●ワークフローで人事評価の運用を半自動化できる

詳しくはこちらから

2.マタハラの実態

ここでは、日本におけるマタハラの実態を紹介します。

マタハラの経験

日本労働組合総連合会(JTUC)が調査したところ、マタハラを経験したと回答した女性は「25.6%」存在しました。

具体的な内容として挙げられたのは、「妊娠中や産休明けなどに心ない言葉を言われた」「妊娠・出産がきっかけで解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導をされた」「妊娠中や産休明けなどに嫌がらせをされた」などです。

マタハラ被害者はどうしたか?

マタハラを受けたと回答している女性に、「その時、どのような対応をしたのか?」という質問をしたところ、「我慢して、人には相談しなかった」が45.7%、「家族に相談した」が35.8%、「会社の同僚に相談した」が17.3%、「社外の友だちに相談した」が14.8%という結果になりました。

以上のことから、半数近くの女性が特に行動を起こすことなく、我慢したと分かります。

周囲にあるマタハラ

さらに職場内や社外の友人など、回答者の周囲で「職場でマタハラにあった人はいますか?」という質問に対しては「マタハラがあった」と答えたのは23.2%という結果に。

具体的な内容として挙げられたのは「心ない言葉を言われた」が8.6%、「解雇された」が7.2%、「異動があった」が5.4%、「正社員→契約社員など、雇用形態を変更された」が3.7%でした。

調査から、実際に会社内でマタハラを受けたにもかかわらず、相談しなかった人が非常に多いという事実が浮き彫りになりました

部下を育成し、目標を達成させる「1on1」とは? 効果的に行うための1on1シート付き解説資料をプレゼント⇒こちらから

3.マタハラが起こる原因と背景

ここでは、マタハラが起こる原因と背景について詳しく説明します。

育児と仕事の両立

女性が働きながら妊娠や出産、育児を行う権利は、労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法によって守られているのです。それにもかかわらず、社会がまだ追いついていないという背景があると考えられます。

また産休や育休を取得する女性の仕事が他の社員に円滑に分担されないなどの問題が生じ、その結果、周囲の社員が不満を抱えてしまうというケースも珍しくありません。その矛先が休暇を取る女性本人にマタハラという形で向けられてしまうのです。

アンコンシャスバイアス

マタハラが起こる原因のひとつが「アンコンシャスバイアス」。日本では古くから、「女性は家庭を守る」という意識が刷り込まれています。特に中高年以上の男性にそのような思い込みが無意識に備わっていると考えられているのです。

働き方改革が叫ばれる昨今でもアンコンシャスバイアスは引き続き存在するとされています。それによって、妊娠、出産、育児と仕事の両立を目指す女性への理解が進まず、結果的にマタハラが生じてしまうのです。

休んではいけないという思い込み

真面目や勤勉といった性格は日本人の長所ですが、「自分が会社を休んだら周囲に迷惑がかかってしまう」「たとえ無理をしてでも働かなければいけない」と思い込む人も多いです。これが社会全体に蔓延していることもマタハラの原因のひとつといえるでしょう。

「会社を休む=悪いこと」という考えを持つ社員にとって、出産や育児で休もうとする女性に対して不満を抱えることも決して珍しくはありません。その結果としてマタハラを引き起こしてしまうのです。

女性同士の軋轢

マタハラは決して男性から女性になされるものとも限りません。昨今では女性同士の軋轢も目立っています。

たとえば同じ会社内でも、結婚する女性もいればそうでない女性もいます。さらに結婚していても産まない女性や妊娠を諦めた女性もいるでしょう。

「産もうとする女性」が育休や時短勤務をすることによって「産まない女性」に仕事のしわ寄せがくることも少なくありません。また「産まない女性」側が、育休などで休暇を取得する女性に対して「自分と違って優遇されている」と考えてしまうことも。

こうしたケースからマタハラが発生してしまうこともあるようです。

マタハラは男性から女性に向けられるものだけでなく、女性同士においても起こり得るものだと分かります

労働力不足の解消、生産性向上、エンゲージメント向上で注目される「キャリア自律」とは? 要点や具体的な取り組みがわかる キャリア自律の解説資料をプレゼント⇒こちらから

4.マタハラが引き起こす問題、デメリット

ここでは、マタハラが引き起こす問題やデメリットについて説明します。

機会損失

上司や同僚からのマタハラによって、育休から復帰できずに退職してしまう女性も少なくありません。会社側の体制基盤が整っていないことで、復帰後想定される収入が途絶えてしまうのです。

また、育休後に復帰できても時短勤務の申請が却下されてしまったり降格や減給をされたりするケースもあります。さらに「マミートラック」という、仕事と子育ての両立はできるものの昇進や昇格は程遠いキャリアコースに追いやられてしまうということも。

雰囲気が悪くなる

マタハラは、一人の女性だけへの影響とは限りません。ひとつのマタハラによって組織のチームワークが乱れ、雰囲気が悪くなってしまうこともあるのです。

同じ会社の中に、生涯独身の女性やキャリアを最優先とするいわゆるバリキャリ、結婚や妊娠、子育てをしながら働き続けたいと希望するワーキングママが共存することも珍しくありません。

その際、後者のワーキングママが時短勤務や育休を取得することで、前者の女性たちの仕事が増えてしまうということもあります。そこから両者の意見が分かれるなど結果的に生産性の低下を招くケースもあるのです。

バリキャリとは?【特徴や年収の基準】キャリアウーマン
バリキャリとは「バリバリ働くキャリアウーマン」のことです。 ゆるキャリとの違い、バリキャリの特徴、バリキャリに多い職業、年収、メリットやデメリットなどを解説します。 1.バリキャリとは? バリキャリと...

裁判になることも

マタハラによって不当な解雇を受け、裁判を起こしたという事例もあります。育児休業後に正社員から契約社員に、さらにその1年後に雇い止めにされたのは違法なマタニティ・ハラスメントだとして、都内の女性(37)が教育関連企業を訴えた裁判です。

東京地裁は「雇い止めは無効」と認定。会社側に慰謝料100万円や給与などの支払いを命じたものの、正社員としての地位は認められませんでした。

マミートラック

マミートラックとは、出産を終えた女性が職場に復帰したにもかかわらず、それまで遂行してきた業務よりも単調な仕事しか与えられなかったり、育児との両立という理由で、出世コースとは異なるコースに追いやられてしまったりすること。

産休・育休明けに仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格は程遠いキャリアコースだというのが特徴です。補助的な仕事しか与えられなかったり、閑職に追いやられてしまったりすることも珍しくありません。

長年培ってきたキャリアが出産・育児を経ても継続できるということは、今の日本においてもまだ決して簡単ではないのです

入社手続き、年末調整、人事評価、スキル管理など時間が掛かる人事業務を効率化。
タレントマネジメントシステム「カオナビ」でリーズナブルに問題解決!
【公式】https://www.kaonavi.jp にアクセスしてPDFを無料ダウンロード

5.マタハラと制度改正

ここでは、マタハラとその制度改正について詳しくご紹介しましょう。

法の改正

「改正男女雇用機会均等法及び改正育児 ・ 介護休業法」が平成 29 年1月1日に施行されました。この中にはマタハラに関する項目も含まれています。

改正男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法第9条第3項をもとにした「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」に、男女雇用機会均等法第11条の2を根拠とした「上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」が追加されました。

これによって企業は、職場における妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメントの防止措置を取ることが義務付けられたのです。その際、労働者個人の問題としてだけでなく、雇用管理上の問題と捉えることが必要とされます。

改正育児・介護休業法

育児 ・ 介護休業法第10条などをもとにした「育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止」に、育児 ・ 介護休業法第25条を根拠とした「上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により育児・介護休業者等の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」が追加されました。

こちらも「男女雇用機会均等法第11条の2(抄)」同様、ハラスメントにおける防止措置を取ることが企業に義務付けられたのです。こちらも労働者個人の問題だけでなく、雇用管理上の体制づくりが必要となります。

厚生労働省が定めるハラスメントの種類

ここでは、厚生労働省が定める2つのハラスメントについてご紹介しましょう。

制度等の利用への嫌がらせ型

「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、「産前休業」「妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置」「軽易な業務への転換」「変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働休日労働の制限や深夜業の制限」などの制度利用に関する言動によって就業環境が害されるもののこと。

たとえば、社員が産前休業の取得を上司に相談した際に「休みを取るなら辞めてもらう」と言われたり、時間外労働の免除について上司に相談した際に「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われたりすることです。

状態への嫌がらせ型

「状態への嫌がらせ型」とは 女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるもののこと。

たとえば社員が上司に妊娠を報告した際に「ほかの人を雇うので早めに辞めてもらいたい」と言われた場合などが該当します。

また上司や同僚が「妊婦はいつ休むか分からないから仕事は任せられない」と継続的に伝え仕事をさせない状況となっていたり、就業をする上で看過できない支障が生じたりする場合もこれに当たります。

厚生労働省が定めるハラスメントには、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「制度等の利用への嫌がらせ型」の2種類があります

部下を育成し、目標を達成させる「1on1」とは? 効果的に行うための1on1シート付き解説資料をプレゼント⇒こちらから

6.マタハラへの対応、対策、対処法

ここでは、マタハラへの対応や対策、対処法などについて見ていきましょう。

ハラスメントの周知

社内にあらかじめ相談窓口対応者を配置し、社員からの相談や苦情に対応できる体制を整えておくとよいでしょう。

社内で生じたマタハラに対応するだけでなく、再発生の可能性を考慮することも重要です。また社員からの報告がマタハラに該当するかどうかが不明瞭でも、柔軟に相談に応じることが必要でしょう。

もしハラスメントが生じたてもすぐ社内全体で確認できるような基盤づくりも欠かせません。同時にそのハラスメントに対し、厳しく対処しましょう。

制度の整備

女性が妊娠・出産を経て育児と仕事を両立するには、職場全体の協力が必要です。また制度だけでなく、社員の妊娠・出産に対する理解の浸透も大切といえます。

妊娠・出産や育児による休業だけでなく、病気や介護などで休む場合においても、社員が気兼ねなく休暇を取得できるような環境こそ、働きやすい職場。

近年では育児に参加しようとする男性に嫌がらせをするパタハラ(パタニティ・ハラスメント)も問題になっています。今後は男女問わず、育児と仕事を両立できる体制づくりが必要でしょう。

ハラスメントを事前に防止

社内におけるハラスメントは事前に防止することが望ましいと考えられます。一般的にハラスメントは上司や同僚からの何気ない嫌味や心無い言葉など、軽いレベルのものから始まるとされています。

職場の雰囲気の維持を優先し、実際に受けたハラスメントを我慢するというケースも珍しいことではありません。また軽いレベルのハラスメントが、大きな問題に発展する可能性もあります。

初期段階から速やかに対応し、重大なハラスメントになることを防ぐことが重要なのです。

女性へのケア

妊娠・出産、育児のために休みを取得する女性はもちろん、企業はそれ以外のすべての女性社員をケアする必要があります。

多様性が求められる昨今、結婚しない女性、産まないと決めた女性、仕事と家庭を両立させたい女性とさまざまな女性が同じ職場で働くことも珍しくありません。

女性同士の軋轢を防ぐためにも、産休や育休を取得する社員のみならず、女性すべてに対して平等にケアすることが必要なのです。

相談窓口の設置

企業には、マタハラを含むハラスメントに関する相談窓口をあらかじめ設置することが奨励されています。

実際のところ、ハラスメントの原因である上司や同僚に直接相談しづらい、という社員も少なくありません。第三者なら、相談する側、相談される側双方が冷静に対処できるでしょう。

相談窓口には内容や状況に応じてヒアリングできる担当者を配置し、社員からの相談や苦情に柔軟に対応できる体制を整えておきましょう。

ハラスメントは、デリケートになりがちな問題です。企業には、社内全体にハラスメント防止への呼びかけや相談窓口の設置が求められます

入社手続き、年末調整、人事評価、スキル管理など時間が掛かる人事業務を効率化。
タレントマネジメントシステム「カオナビ」でリーズナブルに問題解決!
【公式】https://www.kaonavi.jp にアクセスしてPDFを無料ダウンロード

7.マタハラに関する相談窓口

ここではマタハラに関する悩みを受け付けている相談窓口についてご紹介します。

マタハラNet

被害の内容をヒアリングし、公共窓口や法律窓口の紹介を行う団体です。希望により提携する弁護士のメールアドバイスも実施(初回のみ無料)。解決手段の事例を直接聞くことができる少人数によるお茶会なども開催しています。

⇒「マタハラNethttp://www.mataharanet.org/

厚生労働省 雇用環境・均等部(室)

マタハラをはじめ、妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱い、性別を理由とする差別、セクシャルハラスメント、パワーハラスメントなどのハラスメント、育児・介護休業、パートタイム労働などの相談も受け付けています。

⇒ 厚生労働省「雇用環境・均等部(室)所在地一覧https://www.mhlw.go.jp/content/000177581.pdf

日本労働弁護団

セクハラやマタハラなど女性特有の問題に関する女性専用の無料電話相談を実施しています。曜日や時間は限定されますが、基本、女性の弁護士が対応。男性には話しにくい内容も相談相手が女性ならばより安心でしょう。

⇒ 日本労働弁護団「ホットラインhttp://roudou-bengodan.org/hotline/

働く女性の全国センター

働く女性の全国センターの会員の会費と寄付によって運営されるホットライン。無料(フリーダイヤル)と有料(前払い)の2つがあり、用途に応じて選択できます。マタハラだけでなくセクハラ、解雇、パワハラ、長時間労働などについても相談可能です。

⇒ 働く女性の全国ホットライン「無料ホットラインhttp://wwt.acw2.org/?page_id=45

マタハラに関する悩みは、社内の上司や同僚になかなか話しにくいもの。外部の相談窓口なら、気軽に話せるかもしれません

労働力不足の解消、生産性向上、エンゲージメント向上で注目される「キャリア自律」とは? 要点や具体的な取り組みがわかる キャリア自律の解説資料をプレゼント⇒こちらから

8.マタハラと関連の深いハラスメント

最後に、マタハラと関連の深いハラスメントを2つご紹介しましょう。

パタハラ

パタハラとは、育児休業を取得したり育児支援のための短時間勤務やフレックス勤務などを申し出たりする男性社員への妨害やハラスメント行為のこと。パタハラはパタニティ・ハラスメントの略で、パタニティ(paternity)は英語で父性を意味します。

パタハラとは? 事例、マタハラとの違い、原因と対策
パタハラとは育休を取得する男性社員に対するハラスメントです。ここでは、パタハラについて詳しく解説します。 1.パタハラとは? パタハラ(パタニティハラスメント)とは、パタニティ(paternity)と...

ケアハラ

ケアハラとは、育児や介護のための社内制度を利用する社員に対して、上司や同僚が就業環境を害する言動を取ること。

制度を利用する社員に「もう帰るの?」「そういう人は戦力にならない」などの心無い言葉を言ったり、過重な仕事を押し付けたりするなどの嫌がらせ

介護休業を申請した際に、「ほかの家族にやってもらうことはできないのか?」「介護が必要な親御さんがいる人に重要な仕事はさせられない」などと言い、社員を降格させる

などがケアハラに該当します。

昨今よく「イクメン」という言葉を聞きますが、実際に育児休業を取得できる男性社員はまだまだ少ないです。社内の体制づくりは重要な課題のひとつでしょう