診療報酬改定とは? 改定の頻度、改定率、スケジュール

診療報酬改定とは、保険医療機関の治療や診療に関わる報酬を改定すること。基本的には2年に一度実施されますが、消費税が増税などで見直されることもあります。

1.診療報酬改定とは?

診療報酬改定とは、医療保険から医療機関へ支払われる報酬を見直して改定すること。診療では原則2年に1回、薬剤費は毎年改定され、厚生労働省から改定率が公表されているのです。

診療報酬はそれぞれの医療行為や薬剤などに定められた点数(評価)を1点10円で計算しています。診療報酬改定によってそれぞれの基準や点数を見直すのです。

なお報酬改定後の報酬は金額ではなく、前回の診療報酬からの増減を割合で表します。たとえば「診療報酬+0.55%」や「薬価-0.99%」などです。

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2.診療報酬とは?

公的医療保険から保健医療機関などのサービスや診療に対して支払われる報酬のこと。病院やクリニックにて、医師や看護師などの人件費、医薬品や医療機器などの購入費、施設の維持費などは診療報酬から支払われているのです。

診療報酬の目的

目的は病院といった施設や設備、医療従事者の人件費、そのほかランニングコストといった医療機関の運営資金に当てること。

公的医療保険や保健医療機関から医療機関が報酬を受け取れるため、患者(被保険者)は診療費を全額負担せずに済んでいます。診療報酬は病院やクリニックと被保険者の双方にメリットのある制度なのです。

診療報酬の使われ方

医療機関を維持運営するすべての費用を賄うために使われます。たとえば病院といった施設や診療の設備費、医師や看護師、各医療技術者といった医療従事者の人件費、医薬品や補助器具といった医療材料費など。

人件費やテナントの賃料、医療機器のメンテナンス費など毎月発生するランニングコストも報酬診療でまかなわれています。

診療報酬は2年ごとに改定

社会情勢や経済状況に対応していくため原則、2年ごとに診療報酬が改定されます。厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)にて改定内容を審議したのち、厚生労働大臣が決定するという流れです。

審議では、個々に提供される診療の報酬水準や報酬の対象となる疾患、看護や技術サービスを提供する医療従事者の配置、施設や設備の要件などさまざまな事項を含めて総合的に検討しています。

診療報酬の役割と影響

診療報酬には、日本の医療を支えていくという重要な役割もあるのです。そのため日本の医療体制をどのように維持発展させていくかというマクロ視点と、医療サービスの維持というミクロ視点の双方から改定内容を検討しなければなりません。

また診療報酬は全国で一律に定められているため、改定によって日本の医療や財政に大きな影響をおよぼすのです。

医療提供体制

医療提供体制とは、医療法にもとづき地域の実情や医療計画に沿った医療施設やサービスを提供する体制のこと。たとえば医療サービスに対する診療報酬が不十分だった場合、医療の提供が困難になります。

最悪、医療機関自体が地域から撤退してしまうでしょう。このような状況を避けて地域の医療提供体制を確保していくには、適正な診療報酬が不可欠なのです。

医療機関経営

医療機関で生じる費用の多くを診療報酬でまかなっているため、診療報酬は医療機関の経営に影響します。医療費の内訳は初診料や再診料、検査や入院料、投薬や処置などさまざま。

これらの医療費は診療報酬で細かく公定価格が設定されており、医療機関では価格を決定できません。支払われる診療報酬が減ると、医療機関の利益確保が難しくなって経営難に陥る恐れもあるのです。

国家財政

医療機関に供される報酬は、公的保険料と個人が負担する診療費、公費の3つで構成されています。公費とは国家財政から医療機関へ支出される財政支援のこと。

公的保険料と公費はともに国家が負担している社会保障費であり、2021年では一般会計歳出の3分の1まで膨らんでいるのです。このまま増加し続けると財政の収支バランスを崩しかねません。

診療報酬点数とは?

医療行為のサービスや技術の提供、薬剤の提供などを点数化したもの。1点を10円として計算して医療費が算出されます。そのため病院やクリニックでもらう領収書の「保険」の部分は、「円」ではなく点数で記載されているのです。

たとえば保険適用分の合計が3万点の場合、医療費は30万円です。ただし医療保険制度により70歳未満の被保険者は原則3割負担となるため、実際の負担額は9万円となります。

また高額療養費制度(医療費が高額になった場合に、一定の金額を超えた分が払い戻される制度)が適用された場合、さらに負担額が減額される場合もあります。

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3.改定率が指すもの

改定率とは、診療報酬改定で改定された報酬額の変化率。改定率は医療統計(医療経済実態調査)や公共医療機関の人件費、高齢者の人口や国家予算の状況を踏まえて決定されます。

2020年の改定率

2020年12月17日に行われた来年度予算編成では、全体改定率を+0.46%相当と決定。これは約500億円の削減に相当します。

内訳は、診療報酬本体が+0.55%、薬価と材料は+1.01%。医科と歯科、調剤の各科の診療報酬本体(技術料)は、医科+0.53%、歯科+0.59%、調剤+0.16%となりました。

改定率の影響

改定率は前年の診療報酬の実績や医療費などを根拠として算定された推定値です。しかしあくまで推定値なので、たとえば改定率がマイナスで設定されたとしても、医療機関が患者数あるいは医療行為を増加できれば報酬増は可能なのです。

実際の診療報酬に関しては、改定率より個別に設定される点数の改定による影響が大きいと考えられるでしょう。

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4.診療報酬改定のスケジュール

診療報酬の改定スケジュールは、4月中からスタートして翌年3月まで行われます。ここでは改定の公表までどのように進められていくのか、見ていきましょう。

STEP.1
中医協が改定の方向性を見定める
その年の春から夏にかけて、中医協(中央社会保険医療協議会)が改定の方向を見定めます。秋からは以下の個別論点に関する審議を行い、方向性となる答申を出すのです。

  • 診療報酬
  • 保険医療機関および保険医療養担当規則
  • 訪問看護療養費

中医協は、1950年に社会保険医療協議会法にもとづいて設立された厚生労働大臣の諮問機関のこと。学者といった公益委員と医師代表の診療側委員、健保組合などの支払い側委員から構成されています。

STEP.2
社会保障審議会 医療保険部会・医療部会が基本方針を決める
秋以降には、社会保障審議会によって中医協の答申の検討を始め、12月には方針を定めます。

社会保障審議会とは、2001年の中央省庁再編にともない廃止された社会保障制度審議会の後継組織として設立された組織のこと。人口問題審議会や年金審議会、医療審議会など8つの既存の審議会が統合された組織です。

医療制度に留まらず年金改革や介護制度、児童福祉など社会保障に関連するさまざまな課題に対して審議します。

STEP.3
内閣が改定率を決定
年末の内閣予算編成過程で改定率が決定されます。翌年1月、厚生労働大臣が中医協に診療報酬改定の調査と審議を行うように詰問するのです。このとき中医協は以下の点にもとづいて調査・審議します。

  • 社会保障審議会が決定した基本方針
  • 内閣が決定した改定率
  • 医療経済実態調査
  • 薬価調査、材料価格調査の結果
  • 公聴会やパブリックコメントの実施などを含めた診療報酬点数の設定に係る調査と審議
STEP.4
中医協が改定内容を決定
決定された基本方針や改定率を踏まえたうえでさらに議論し、2月ごろ、中医協で最終的な診療報酬改定の内容を決定。

3月には告示と関連通知が行われ、新年度の4月より改訂された診療報酬にもとづいた点数表が施行されるのです。2022年度にも診療報酬改定が予定されており、新型コロナウイルス感染症対策を基本方針に含める議論がなされています。

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5.2020年の診療報酬改定の概要

2020年の診療報酬改定で示された基本方針は以下の4点です。ここではそれぞれの方針について詳しく説明します。

  1. 地域包括システムの推進
  2. 働き方改革の推進と負担軽減
  3. 身近で質の高い医療の実現
  4. 社会保障制度の安定性・持続可能性の向上

①地域包括システムの推進

各地域に必要な医療を効果的かつ効率的に提供するため、包括的なケアシステムを推進。つまり「住民が住み慣れた地域で、適切な診療行為を継続して受けられる仕組みを構築しよう」というもの。具体的な方針として以下の取り組みが挙げられました。

  • 医療機能や患者の状態に応じた入院院医療の評価
  • 外来医療の機能分化
  • 質の高い在宅医療、訪問看護の確保
  • 地域包括ケアシステムの推進

②働き方改革の推進と負担軽減

診療報酬改定には、重点課題として医療従事者の働き方改革も盛り込まれています。救急医療の実績が一定以上提供されている病院には、改定率の+0.08%を加算すると決定。

長時間勤務が強いられている救急医療施設と救急医療従事者の労働環境を改善するための支援となります。目的は基本方針に示された働き方改革の推進と負担軽減です。

③身近で質の高い医療の実現

患者の安心と安全を確保し、患者一人ひとりが納得したうえで医療を受けられるような、質の高い医療提供の実現を目的とした方針です。具体的には以下の評価を実施することになりました。

  • かかりつけ医の評価
  • 情報提供、相談支援などの評価
  • アウトカムにも着目した評価の推進
  • 重点的な対応が求められる分野についての適切な評価
  • 院内薬剤師業務の評価
  • ICTの利活用を評価

④社会保障制度の安定性・持続可能性の向上

財政面において社会保障制度の安定性と持続可能性を高めるための方針です。具体的な方向性には以下の項目が挙げられます。

  • ジェネリック医薬品の使用促進
  • 費用対効果を重視した評価制度
  • 実勢価格を重視した適正な評価
  • 患者の状態に応じた入院医療の評価
  • 外来医療の機能分化と重症化予防の取組の推進
  • 医薬品の適正使用の推進
  • 医薬品、医療機器、検査などの適正な評価

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6.医療費をとりまく現状

診療報酬改定は医療費を左右するもの。また受診者数の増減や、高齢者の医療費を負担する介護保険制度の創設などにも影響するとわかっています。

医療費の推移

国民全体の医療費は、2000年度が30.1兆円、2010年度には38.5兆円、2018年度になると43.4兆円と右肩上がりに増加。新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年度の見込みは44.4兆円で、これはGDPの約8%に相当します。

コロナ禍で受診を控えた人が多かった2020年度は、4月から12月だけで1.3兆円が減少し、医療保険制度が成立して以来最大の減少幅となると確定しています。なおもっとも医療費が減少したのは、介護保険制度が創設された2000年度でした。

医療費増加の背景

医療費増加の大きな理由として挙げられるのは、高齢者人口と生活習慣病の増加です。2016年度の国民医療費は約42.1兆円で、うち約60%は65歳以上の高齢者の医療費でした。

高齢者人口は2025年には全人口の30%を超えると予測されており、医療費の増加は避けられないでしょう。

また国民全体の医療費から歯科医療費と薬にかかわる費用を除いた一般医療費約30兆円のうち、およそ3分の1が生活習慣病に対する医療費でした。

厚生労働省の調査によると、メタボリックシンドロームの指導が必要な人は、毎年100万人あまり増加しているそうです。

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7.将来に向けた診療報酬改定の課題

診療報酬改定における課題では、先に挙げた高齢化と生活の多様化への対応、そして心の健康づくりが挙げられています。

  1. 診療報酬を含む総合的政策
  2. 診療報酬制度の理解度を高める
  3. セルフケアの推進にむけた環境整備

①診療報酬を含む総合的政策

診療報酬改定のみならず、各種医療制度や補助金の予算措置などを含めた、総合的な政策が求められています。高齢者人口の増加による医療費の増大にくわえ、少子化による保険の構造を支える生産年齢人口の減少に直面しているからです。

こうした環境のなか、医療や診療を安心して受けられる「全世代型社会保障」を実現するには、診療報酬改定をはじめ、医療法や保険制度の再構築が不可欠でしょう。

②診療報酬制度の理解度を高める

国民が安心して医療機関を利用するために、理解しやすい診療報酬制度にしていくことも重要です。改定時の生活スタイルや就労形態、家族形態などで最適な改定内容は変化するものの、改定の理由やメリットなどが公平で納得できるものでなければなりません。

改定時には医療機関に携わる医療従事者による正しい説明が必要です。

③セルフケアの推進にむけた環境整備

労働者の心の健康を守るためには、セルフケアの推進も課題とされています。2018年の厚生労働省「労働安全衛生調査」では、労働者の58%が仕事で強いストレスを感じたことがあると回答。

メンタルヘルス不調で診療を受ける人が増えれば、医療費の増大につながります。そのため企業を始めとした組織には、研修や相談が十分に行える環境整備が求められているのです。