メンタルヘルスとは、心の健康です。ここでは、メンタルヘルスについてさまざまなポイントから解説します。
目次
1.メンタルヘルスとは?
精神・心理面の健康状態、健康状態の回復や維持、増進などの意味で用いられる言葉のこと。
WHO(世界保健機関)では、メンタルヘルスを「自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに自分が所属するコミュニティに貢献できる健康な状態」と定義しています。
メンタルヘルスは集中力や決断力などに影響を与えるため、不調を放置すると、うつ病や自殺など深刻な問題に発展するのです。
厚生労働省によるメンタルヘルスの不調に関する定義
厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」内で、メンタルヘルスの不調に関して次のように定義しています。
「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう。」
メンタルヘルスは対処を誤ると状況を悪化させる恐れがあるため、適切な対処が重要です。
2.メンタルヘルスが注目されている背景
メンタルヘルスが注目されている背景は、義務化されたストレスチェックにあります。2015年12月1日から従業員50名以上の職場に対し、年1回のストレスチェックが義務化されました。
ストレスチェックの結果を従業員に通知し、必要に応じて就業上適切な措置を講じることが求められたため、メンタルヘルスに注目が集まったのです。
3.メンタルヘルスの不調を知らせるサイン
メンタルヘルスの不調を早期にキャッチできれば、従業員の心身の健康を守ったり職場の生産性を維持したりできます。人事や管理職はメンタルヘルス不調のサインが出たら、早期に対応しなければなりません。
メンタルヘルスが不調になると、心身にさまざまな症状としてあらわれるのです。ここでは代表的な兆候として、下記4つを見ていきます。
- 日常行動の変化
- パフォーマンスの低下
- 遅刻、欠勤など勤怠の変化
- 身体的不調
①日常行動の変化
たとえば下記のような変化です。これらはメンタルヘルスの不調のサインである可能性が高いと考えられます。
- 会えばあいさつをしていた従業員が、あいさつをしなくなった
- 服装や髪型の乱れを気にしなくなっている
- 職場で笑顔を見せなくなった
- 話しかけてもうわの空
②パフォーマンスの低下
メンタルヘルスの不調を抱えていると集中力や決断力、実行力などが鈍ります。物事に集中できない・仕事を進めていくスピードが遅くなるなど、業務そのものに支障をきたすケースもあるのです。結果、仕事のパフォーマンスも低下していきます。
③遅刻、欠勤など勤怠の変化
下記のような行動が見られた場合、メンタルヘルスの不調を疑ってもよいでしょう。
- 最近、遅刻や早退が目立つ
- 有給休暇をひんぱんに取得するようになった
- 以前はなかった無断欠勤をするようになった
- 勤務中にもかかわらず離席時間が長い
- 休憩をひんぱんに取るようになった
④身体的不調
メンタルヘルスの不調は、身体的な不調の症状も引き起こします。たとえば、下記のようなものです。
- 食欲不振
- 背中や腰の痛み
- 肩こり
- だるさ
- 微熱
- 頭痛
- 吐き気
風邪のような症状に似ているため見逃しがちですが、これらはメンタルヘルスの不調のサインである可能性があります。
4.企業に行えるメンタルヘルス対策
企業はどのようなメンタルヘルス対策を進められるのでしょうか。メンタルヘルスに関する3つの段階やメンタルヘルスに関する4つのケアについて、解説します。
メンタルヘルスに関する3つの段階
メンタルヘルスに関する3つの段階とは、ストレスの段階別予防・対処のことで下記3つがあります。
- 一次予防
- 二次予防
- 三次予防
①一次予防
ストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善など、企業と従業員がメンタルヘルス不調を未然に防止するために行う取組のこと。
一次予防ではセルフケアやラインケアといった、従業員や現場でできるストレス要因や反応の軽減、ストレス耐性の強化を行います。
②二次予防
メンタルヘルスが不調に陥っている従業員を早期に発見し、当該従業員に治療といった適切な措置を講じる取組のこと。
ここでは、事業所内産業保健スタッフなどの専門的な支援を受けます。不調の早期発見や治療どうスムーズに行うかで予後が大きく変わるため、非常に重要な段階です。
③三次予防
メンタルヘルスが不調になった従業員に、当該従業員と職場への影響が最小限におさえられるよう職場復帰の支援を進める取組のこと。
ここでは事業所外の専門家や機関などを活用します。メンタルヘルスの不調を乗り越えた従業員が職場復帰できるよう、専門家によるきめ細かなサポートが行われるのです。
メンタルヘルスに関する4つのケア
メンタルヘルスに関する4つのケアとは、2015年に厚生労働省が公表した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示されたケアのことです。
- セルフケア
- 管理監督者によるケア
- 産業医や衛生管理者など職場内産業保健スタッフによるケア
- 外部機関によるケア
①セルフケア
従業員自らが自身のストレスを予防し、不調が見られた際、適切に対処すること。メンタルヘルスの不調は、外見からはわかりにくいもの。自分の不調をいかに早く察知し、自身でケアするかが重要になります。
②管理監督者によるケア
管理監督者が職場におけるストレス要因や従業員の不調を把握して、それらを改善することで、ラインケアとも呼ばれているのです。
管理監督者には、日ごろから従業員の性格や言動などの理解が求められます。そして、普段と変わった点があれば速やかに対処するのです。
③産業医や衛生管理者など職場内産業保健スタッフによるケア
メンタルヘルスに不調のある従業員のケアやメンタルヘルスに関する教育研修の企画・実施・相談窓口の設置といった体制の整備など、さまざまな取り組みを行います。
④外部機関によるケア
産業カウンセラーや臨床心理士、メンタルヘルスに特化した支援機関など、外部の専門知識を有する機関やサービスのこと。
従業員によっては、事業場内でのケアを希望しない、より専門的知識やサービスの支援が必要といった場合があるからです。
5.メンタルヘルスが職場にもたらす効果
メンタルヘルスは、従業員だけでなく職場や企業にも効果をもたらすのです。ここでは、メンタルヘルスが職場にもたらす効果について解説します。
- リスクマネジメントができる
- 生産性低下を阻止できる
- 従業員の活力を向上できる
①リスクマネジメントができる
従業員がメンタルヘルスの不調に陥ると、集中力や注意力が散漫になり、事故を起こしやすくなります。事故が起きると損害賠償や社会的信頼が失墜してしまうでしょう。メンタルヘルス対策によって、こうしたリスクを減らせるのです。
②生産性低下を阻止できる
従業員がメンタルヘルスの不調に陥ると、「当該従業員の集中力や実行力の低下による生産性の低下」「休職や離職などの影響を受けたチーム全体の生産性の低下」の両方が起こります。メンタルヘルス対策を行えば、生産性の低下を阻止できるのです。
③従業員の活力を向上できる
企業がメンタルヘルスに真摯に向き合う姿勢を見せれば、従業員全員がメンタルヘルスへの理解を深めますし、職場におけるメンタルヘルスの不調要因も除去されます。結果、従業員の活力や職場の生産性を高められるのです。
6.メンタルヘルスマネジメント検定
メンタルヘルス不調の予防や活気ある職場づくりに求められる知識や対処方法を習得するために作られた検定試験のこと。
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にもとづいてつくられたもので、下記3つのコースがあります。
- 人事労務管理スタッフや経営幹部を対象としたI種(マスターコース)
- 管理監督者を対象としたII種(ラインケアコース)
- 一般社員を対象としたIII種(セルフケアコース)
①人事労務管理スタッフや経営幹部を対象としたI種(マスターコース)
I種は、経営幹部や人事労務管理スタッフが対象で、目的は社内のメンタルヘルス対策の推進です。
取得できれば、自社の人事戦略や方針を踏まえたうえで、メンタルヘルスケア計画や産業保健スタッフや専門機関との連携、従業員への教育研修などに関する企画・立案・実施が可能となります。
②管理監督者を対象としたII種(ラインケアコース)
II種は管理監督者が対象で、目的は部門内もしくは上司として行う部下のメンタルヘルス対策です。
取得できれば、「部下がメンタルヘルスの不調に陥らないような日常的配慮」「部下にメンタルヘルスの不調が見られた際、安全配慮義務に則った対応」などが可能となります。
③一般社員を対象としたIII種(セルフケアコース)
III種は一般社員が対象で、目的は組織における従業員自らのメンタルヘルス対策の推進です。
取得できれば、「従業員自らがストレスの状況や状態を把握」「メンタルヘルスの不調を早期発見」「従業員自らによるケアの実施や他者による支援の求め」などが可能となります。
合格率から見た難易度
メンタルヘルスマネジメント検定の合格率はどのくらいでしょうか。2020年11月1日(日)実施のコース別合格率を見ていきます。
- I種 実受験者1,276人 合格者数272人 合格率21.3%
- II種 実受験者10,343人 合格者数5,840人 合格率56.5%
- III種 実受験者5,046人 合格者数4,361人 合格率86.4%
メンタルヘルスマネジメント検定の公式テキスト
メンタルヘルスマネジメント検定では、公式テキストも販売されています。たとえばI種の公式テキストでは、下記のような事柄を学べるのです。
- 企業経営におけるメンタルヘルス対策の意義と重要性
- メンタルヘルスケアの活動領域と人事労務部門の役割
- ストレスおよびメンタルヘルスに関する基礎知識
- 人事労務管理スタッフに求められる能力
- メンタルヘルスケアに関する方針と計画
- 産業保健スタッフの活用による心の健康管理の推進
7.メンタルヘルスチェックシート
メンタルヘルスチェックシートとは、義務化されたストレスチェックの簡易な例として、厚生労働省が提供しているシートのこと。男女別に作成されたリストに従い、4段階から当てはまるものを回答すると、ストレス状態を診断できます。
ここでは、質問内容の一部をご紹介します。
仕事について
仕事に関する質問の例です。
- 非常にたくさんの仕事をしなければならない
- かなり注意を集中する必要がある
- 勤務中はいつもの仕事について考えていなければならない
- 自分で仕事の順番、やり方を決められる
- 自分のペースで仕事ができる
最近1カ月の状態
最近1カ月の状態に関する質問の例です。
- 活気がわいてくる
- 生き生きする
- 元気がいっぱいだ
- イライラしている
- 内心腹立たしい
- ひどく疲れた
- だるい
- 不安だ
- 気がはりつめている
- 落ち着かない
周りの人々について
周りの人々に関する質問の例です。
- 次の人たちはどれくらい気軽に話せますか?
- あなたが困ったとき、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?
ここでは上司や職場の同僚、配偶者・家族・友人から回答を選択します。
満足度について
満足度に関する質問の例です。ここでは2つの質問項目が用意されており、「仕事に満足だ」「家庭生活に満足だ」といった問いに対し、「満足」から「不満足」までの4段階で、最も当てはまるものに〇をつけて回答します。