メンターとは? 意味や役割、メンタリングのやり方を簡単に

近年、人材育成を目的にメンター制度を取り入れる企業が増えています。制度の導入を成功につなげるためには、メンターに関する理解が欠かせません。今回は、メンターの意味や役割、メンタリングの方法、メンターの育成方法などを解説します。

1.メンターとは?

メンター(Mentor)とは、「信頼の置ける相談相手」や「良き指導者」「助言者」を意味する言葉です。会社などの組織においては、仕事やキャリア、人間関係に助言をくれる先輩社員を指します。一般的には、「メンター制度」として先輩社員がメンター、新入社員がメンティーになり、1対1のペアを組んで運用されます。

メンティーとは?

メンティー(Mentee)とは、指導や助言を受ける側の人を指します。多くは、新入社員や若手社員、中途社員など。また、メンターがメンティーに行う面談などの指導をメンタリング(Mentoring)といいます。メンターである先輩社員は、メンタリングを通してメンティーの自発的な成長を支援します。

  • メンター:指導や助言を与える側の人(先輩社員)
  • メンティー:指導や助言を受ける側の人(後輩社員)
  • メンタリング:メンターがメンティーに行う面談などの指導

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2.メンター制度とOJT、コーチングの違い

人材育成の方法として、OJTやコーチングを取り入れる企業も多いでしょう。メンター制度は、OJTやコーチングと似ている部分もあるものの、目的やアプローチ方法が異なります。以下で、それぞれの違いを見てみましょう。

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OJTとの違い

OJTとメンター制度は、導入の目的やアプローチ方法が異なります。OJTはOn-The-Job Trainingの略語で、実際の業務を通して、知識やスキルを計画的に教える教育方法です。また、OJTの目的は若手社員の早期戦力化であり、同じ部署の先輩や上司が指導にあたります。

一方、メンター制度の目的は若手社員の定着・自発的な成長・組織風土の継承などであり、業務の指導は行いません。そのためメンター制度では、多くの場合、部署の違う先輩・後輩がペアとなります。

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コーチングとの違い

コーチングとメンター制度は、目的が異なっています。

  • コーチング:相手の目標達成を目的として伴走・支援を行う方法。コーチは、傾聴・質問・承認を用いて本人に「気づき」を促し、目標達成に向かう思考や行動を引き出す
  • メンター制度:必ずしもメンティーの具体的な目標達成を目的としない。相手の精神的なサポートとなり、キャリア全体の成功を支援することが目的

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3.メンターの役割

メンターになったけれども求められている役割がよくわからない、という人も多いのではないでしょうか。以下では、メンターの役割を具体的に解説します。

精神的支えとなる

メンターは、メンティーの悩みや不安に耳を傾けることで、精神的な支えとなります。会話の内容は、職場の悩みだけに限りません。

プライベートの不安や心配ごとも共有できる存在になることが理想的です。一般的に、ペアになる相手は他部署から選ばれるため、客観的な立場で話を聞けるメリットがあります。ここでメンターに求められるのは、指導ではなく傾聴です。

ロールモデルとなる

若手社員や中途社員にとって、メンターはロールモデルとしての役割も果たします。仕事への向き合い方や、関係者との接し方を示すお手本としての役割です。なお、メンティーの視点から見ると、メンターは以下2つのタイプに分かれます。

  1. メンティーと価値観が近しい「話しやすいメンター」
  2. メンティーと価値観が異なる「学びのあるメンター」

メンタリングの早期でこれらの違いを把握しておくことで、関係性を構築しやすくなり、「合う・合わない」といった悩みも発生しづらくなるでしょう。

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成長を促す

メンティーの成長を促す手助けも、メンターの役割です。メンターは、メンティーから相談を受けた事柄に対してすべてに解決策を与えたり、あれこれ指図する必要はありません。メンティー自身が課題に向き合えるよう、サポートすることが重要です。

あくまでも傾聴・問いかけを基本にして、必要であればアドバイスをしたり社内の相談先につなぐなどして支援します。

部署間の交流を促す

メンターは、メンティーと周囲の交流を促し、部署を超えた関わりを取り持つ役割も担います。他部署の人と関わることで、メンティーは組織の全体像を掴みやすくなり、業務の円滑化も期待できます。

部署間の連携・ネットワークが促進され、組織全体の活性化につながることは組織にとってもメリットです。

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4.メンターに適した人材|良いメンターとは?

メンターに適した人材にはどのような特徴があるのでしょうか。以下5つのポイントで解説します。

人材育成に対する意欲がある

若手社員の育成をサポートする意欲がある人材は、メンターに適していると言えます。メンターの役割は、メンティーの精神的な支えとなりアドバイスや支援を行うこと。長期的な関係性を築くために、「成長を助けたい」といった意欲が必要になります。

高圧的でなくフラットに接することができる

年齢の差に関わらず、高圧的でなくフラットな関係を構築できる人物がよいでしょう。メンターとメンティーは、ささいな心配ごとも相談できる関係性が理想です。メンターとなる先輩社員が高圧的であったり、相手を見下すような態度があると、若手社員は萎縮しやすくなります。

コミュニケーション能力がある

メンターにとって、メンティーとしっかり対話ができるコミュニケーション能力は重要です。たとえば、一方的に「話す・教える」ではなく、「傾聴」や「共感・受容」といったスキルが求められます。

感じたことや考えたことを言語化し、誠実に、齟齬なく相手に伝えられる能力があると、なおよいでしょう。このような対話のスキルは、トレーニングによって向上させることも可能です。

業務や組織への理解度が十分である

業務や組織への理解が十分にあることも、メンターに適した人材の要素です。組織内のできごとに関する相談を聞いたり、アドバイスを与えたりするには、インフォーマルな情報も含めて知っている人物がなおよいでしょう。

業務上の利害関係がない

他部署の先輩社員など、メンティーにとって業務上の利害関係がない人物がメンターに適任です。メンターは、実務的な指導をする立場ではなく、「良き指導者」「助言者」としての存在です。直属の上司や先輩であると、評価に影響する可能性があり、メンティーは気兼ねなく相談できません。

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5.メンター制度のメリット

メンター・メンティー・企業のそれぞれの立場における、メンター制度のメリットを解説します。

メンター側のメリット

メンター側のメリットは、メンター自身の成長につながる点です。新入社員・若手社員のロールモデルである自覚が生まれ、普段の行動にも責任感が表れます。

また、メンティーからの相談に応え成長を助ける中で、問題解決能力やマネジメント能力も身に付きます。さらに、メンター自身のキャリアを振り返るきっかけにもなるため、自身の成長に大きく貢献するでしょう。

メンティー側のメリット

メンティーにとっては、精神面の支えを得ることが一番のメリットです。若手社員のうちは様々な不安を感じるもの。しかしいつでも、気兼ねなく相談できる先輩がいるとわかっていれば安心につながります。

また、組織のことをより深く理解している先輩の助言を受けることで、ひとりでは解決できない悩みも解決しやすくなるでしょう。

企業側のメリット

企業側は、主に人材育成でのメリットが得られます。

たとえば、メンターを担う中堅社員の育成につながると同時に、新入社員の定着率アップに貢献します。また組織風土の醸成・継承や社内コミュニケーションの活性化、経験学習サイクルの実践によるメンティーの成長加速などが挙げられます。

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6.メンタリングを行う際のポイント

メンタリングを行う際の心得として、4つのポイントを紹介します。

個人ごとの違いを理解する

メンタリングを行うにあたって、価値観や成長スピードは個人ごとに違うと理解するのはひとつのポイントです。仕事や人生に何を求めるかといった価値観や、気づきを得て変化するまでの成長スピードなどは、人それぞれ異なるでしょう。

メンター自身の型に当てはめて、「なぜこうしないんだろう」と考えないよう注意が必要です。メンティーの成長を促したい気持ちで焦らず、相手のペースを理解する意識を持つとよいでしょう。

命令・説教・否定をしない

メンタリングは「命令・説教・否定」ではなく、あくまでも「傾聴・質問・承認」を重視します。メンティーの口から愚痴や他者への批判などが出ても、否定する言葉は避けましょう。

同時に、うわべだけの雑談や同調で終わらせず、「なぜそう感じたのか?」「どうなると理想的なのか?」といった質問を投げかけることで本人の気づきを促し、成長をサポートします。

話した内容を他言しない

メンタリングの中で話した内容は、絶対に他言しません。たとえばメンティーが抱える体調面の不安やその他のあらゆる事象など、上司に相談が必要だと思うことがあっても、メンターが口外してはいけません。

メンティー本人から上司へ直接相談するように促すか、メンティーの同意を得た上でメンターから報告しましょう。

評価と関連づけない

メンタリングの内容を人事評価に関連付けないようにしましょう。制度としては人事評価と切り分けた上で、メンターおよびメンティーが、話した内容を口外しないことを前提とします。話が漏れると、意識的・無意識的に関わらず、人事評価に影響する可能性があるためです。

また万が一人事評価に影響した場合、メンタリングの信頼関係を失うだけでなく、従業員から組織に対する不信感に直結します。

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7.メンタリングのやり方

メンタリングでは、人事面談や1on1と違ったアプローチが必要です。以下で、具体的なメンタリングの方法を解説します。

メンティーの話を傾聴する

メンタリングの基本は傾聴(相手の言うことを否定せず、耳も心も傾けて相手の話を聴くこと)です。途中で話を遮らず、メンティーの言葉を聞き逃しません。頷くなどして話を聞いている、受け入れていることを表現します。メンティーが気後れせずに話せる気配りを心がけます。

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ポジティブな言葉に言い換える

相手の言葉を前向きな言葉に置き換える「リフレーミング」で、メンティーの不安を和らげます。

たとえば「頑固」→「意志の強い」、「冷たい」→「凛とした」などです。悩みや不安を抱えていると客観的な視点を失いやすくなります。メンターがリフレーミングすることで、メンティーが前向きな気持ちに切り替えるサポートをします。

リフレーミングとは? 意味や効果、5つの手法とやり方、具体例
リフレーミングとは、枠組みを変えることで感じ方を変えるフレームワークです。ここでは、リフレーミングについて解説します。 1.リフレーミングとは? リフレーミング(reframing)とは、物事の枠組...

メンティーの反応をよく観察する

対話をしながら、メンティーの表情や声の調子をよく観察します。何か言いたいことがあるようであれば、質問を投げかけ、言語化をサポートしましょう。また、メンターだけが早口になっていないかなど、話すペースを観察しなるべく相手に合わせるのもポイントです。

話の内容を短くまとめて繰り返す

メンティーが話した内容を簡潔にまとめて繰り返します。その際メンターの主観が入らないよう、「〇〇さんが〜〜と言って、△△さんが〜〜と返事をしたんだね」など、客観的な事実をピックアップするとまとめやすいでしょう。簡潔にまとめて繰り返すことで、話を聞いている安心感を与えつつ、相談内容を整理できます。

対話を通じて気づきを促す

メンターは、対話を通じてメンティーの気づきを促します。相談内容に対して、メンターが直接的な答えを与える必要はありません。メンターは「どう感じたのか?」「どうなると理想的か?」といった質問を交えて、メンティー自身が答えに辿り着けるように対話します。

その際、コーチングの質問形式を参考にするとよいでしょう。自身の経験が役立ちそうなアドバイスがあっても押し付けず、ヒントを与える程度に留めます。

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8.メンターの育成方法

メンター制度を成功に導くためには、メンターの育成が重要です。ここでは、人事部門の担当者が知っておきたい、メンターの育成方法を紹介します。

導入担当者がメンタリングを理解する

制度の導入担当者が、メンタリングの概要と効果、メンターの役割やメンティーへの影響などメンタリングを理解していることが非常に重要です。メンターとメンティーを選出すれば理解なしにメンタリングを実施できます。それゆえに形だけで制度を導入すると、多くの場合は失敗に終わってしまうため注意が必要です。

目的・制度を設計する

目的の設定や制度設計も、成功を左右するポイントです。メンター制度において重要なステップであるため我流で行わず、場合によっては外部サービスを利用するなどして既存のノウハウを活用します。設定するのは、主に以下のような項目です。

  • 目的
  • メンタリングを実施する期間、頻度
  • メンター・メンティーの選出方法
  • メンタリングの実施方法、場所、時間
  • 守秘義務などのルール
  • メンター・メンティーへの研修内容
  • 効果測定の指標(満足度・離職率、など)

関係者へ周知する

メンタリングを成功に導くには、周囲の協力が不可欠です。メンターを担当する従業員の上司・チームメイトには、制度の全体像や実施内容を理解してもらい、協力を仰ぎましょう。なお、理解を助けるためには口頭の説明だけではなく、メンタリングを模擬体験してもらうなども効果的です。

メンターを選出する

メンターの選出とメンティーとのマッチングには細心の注意を払います。メンターの選出方法には、応募、推薦、指名などがあるため、組織風土に合わせて選択しましょう。また、「4.メンターに適した人材|良いメンターとは?」で紹介した特徴も、選出する際のポイントになります。

メンターに教育を行う

メンターの教育には十分な時間をかけます。主に、以下のような研修を通して教育を行います。制度概要・ルールの説明:基礎知識として、制度の概要を説明する

  • コミュニケーション技法の教育:「傾聴・受容・共感」といった基本的なコミュニケーションの技法を身につける
  • コーチング力の教育:「傾聴・承認・質問」といった基本的なコーチングの技法を身につける

前提として、個人の知識量や資質には差があるため、研修を通して一定のノウハウを習得してもらいメンタリングの効果を引き上げます。

フォローアップする

メンタリングを成功に導くためには、メンターをサポートするフォローアップも重要です。

メンタリング期間の開始後は、定期的な研修や座談会を実施し、コミュニケーション技法やコーチング技法の復習、またメンターの不安解消を行います。メンターがいつでも相談できる体制を確保し、メンターには相談先を明確に伝えておきましょう。