ミスマッチとは「不一致」を意味する言葉で、自分が求めるものと相手が求めるものとの食い違いを意味します。
1.ミスマッチとは?
ミスマッチとは、「不釣り合い」「不一致」を意味する言葉です。食材のミスマッチやサイズのミスマッチなど、日常生活の中で広く用いられる言葉で、ビジネスシーンに限れば採用におけるミスマッチを指すのが一般的です。ビジネスシーンにおけるミスマッチでは、採用した企業側と採用された社員の間で、求めるものが一致しなかった状態を意味します。
ミスマッチとアンマッチの違い
ミスマッチと類似した言葉に「アンマッチ(unmatch)」があり、どちらも不一致を表すものの、両者の間には意味に違いがあります。
- アンマッチ:企業と求職者の求める条件が一致せず、採用が成立しなかった状態
- ミスマッチ:採用自体は成立したものの、実際に働き始めてから企業と従業員の間で不一致が発覚した状態
2.ミスマッチの種類・具体例
企業と従業員とのミスマッチには、いくつかのパターンがあります。ここでは、ミスマッチの種類を、具体例とともに見ていきましょう。
人間関係のミスマッチ
人間関係のミスマッチは、同僚との関係においてだけでなく、上司や部下など様々な関係性において発生し得る問題です。たとえば、面接の採用担当者とは相性が良かったものの、入社してから共に働く上司や同僚との相性が合わなかったというケースはよく見られます。
企業側の視点に立つと、面接での印象は良かった求職者が、入社後に周囲との間でひんぱんにトラブルを起こすといったケースもあるでしょう。
ミスマッチを防ぐためには、配属が予定されているチームの管理者を交えて、メンバーとの相性を事前に見極める必要があります。
企業文化や労働環境のミスマッチ
企業文化や労働環境が自分に合わないというミスマッチがあるものの、入社前に認識するのが難しい状況も多いでしょう。
たとえば、「風通しの良い社風」や「休みが取りやすい」などを期待して入社したものの、実際にはイメージと全く違っていたというケースは少なくありません。
一見すると採用される求職者へのデメリットが目立ちます。しかし新人のモチベーション低下を招くという点で、企業側にも大きなデメリットをもたらします。
企業文化や労働環境は明確に数値化して示せないため、企業側と求職者の間で入社前後のすり合わせを意識的に行うことが大切です。
待遇や雇用条件のミスマッチ
待遇や雇用条件のミスマッチはひんぱんに見られ、給与や賞与、労働時間に関する条件で不一致が生じやすいため注意が必要です。待遇や雇用条件のミスマッチの多くは、企業側の情報提供不足か、応募者の認識不足により発生します。
たとえば、「思ったより残業が多い」や「期待より賞与が少ない」など、企業側の十分な情報提供と応募者による事前確認により、ミスマッチは防げるはずです。
しかし、面接での立ち回りを意識して、求職者側から待遇について詳しく質問できないという事情もあります。そのため企業側は採用前に十分な情報を提供し、ミスマッチ防止に努めるべきです。
業務内容のミスマッチ
業務内容のミスマッチとは、入社前に希望していた業務と実際の業務が異なることを意味します。業務内容のミスマッチは至る所で発生しがちであり、新卒・中途採用・異動など、いずれの場合においても起こりやすいことが特徴です。
期待していた業務とのギャップがある場合に加えて、希望する部署に配属されなかった場合も、業務内容のミスマッチに数えられるでしょう。
入社する前に求職者がよく確認しなかったケースや、企業が求職者の希望を適切にヒアリングできていないケース、企業都合の人員配置などによりミスマッチが発生します。業務内容のミスマッチは、従業員のモチベーション低下に直結するため、早急な対処が必要です。
スキルや適性のミスマッチ
スキルや適性のミスマッチは、期待する仕事のレベルや知識量・経験に大きなギャップがある場合や、適性との不一致により起こります。
スキルのミスマッチは特に中途採用で起こりやすく、応募者のスキルが企業側の求めるレベルに達していないというケースは珍しくありません。
反対に、応募者のスキルが担当業務に対して高すぎる場合、適切な人材配置とは言えずミスマッチになってしまいます。
しかし、知識や経験の不足は教育で、適性の不一致は配置転換で補正することが可能です。企業により業務内容や要求される仕事レベルは異なるため、入社前のすり合わせ・見極めに注力しましょう。
3.ミスマッチがもたらすデメリット
企業と従業員の間にミスマッチが発生するのは避けたいものですが、具体的にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。ここでは、ミスマッチがもたらすデメリットについて考えてみましょう。
パフォーマンスが発揮されにくい
ミスマッチが起きている場合には、入社者が持つ本来のパフォーマンスが発揮されにくいというデメリットがあります。採用された本人が持つスキルと、業務内容との間に不一致があると、持っている能力を十分に活かせません。
また入社者の個性と社風のズレにより、職場に馴染みづらい状態に陥ると、パフォーマンスは大きく低下してしまうでしょう。それにより低評価を受けると、さらに職場環境に適応できなくなるという悪循環につながる可能性があります。
モチベーションが低下する
ミスマッチは従業員に不満を感じさせ、モチベーション低下につながります。モチベーション低下の状態が長期化すると、心身の不調を招く恐れがあり、最悪の場合には早期退職の原因にもなり得るでしょう。
またミスマッチが解消されないままでは、企業への信頼感も醸成されにくく、「ここでは自分の希望が叶わない」と感じてしまうことでエンゲージメントも低下します。
さらにミスマッチは、本人が前向きに仕事に取り組めなくなるというだけでなく、チームや組織全体のモチベーションにも悪影響を与える可能性大です。
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早期離職によりコストの損失が発生する
ミスマッチによる最大のデメリットは、早期退職の原因になること。仕事内容や職場環境のミスマッチは、特に心身の負担となりやすく、早期退職の直接的な原因になります。
入社者本人にとって早期退職は避けたいもので、これは企業視点で見ても大きなデメリットです。採用や教育に投じたコストは多大な損失になり、1人の社員が入社後3か月で退職した場合の損失額は数百万円にもなるといわれています。
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4.ミスマッチが起こる原因
ミスマッチには多くのデメリットがあると述べました。そもそもミスマッチはなぜ発生するのでしょうか。ここではミスマッチの原因を明らかにし、防止するための方策を提供します。
自社の良い部分しか伝わっていない
採用サイトや説明会、面接時のやりとりなど、一連のプロセスにおいて、自社の良い部分しか伝えられていない場合には、ミスマッチが起こりやすくなります。
給与や待遇など条件が良いことばかりを伝えるのではなく、自社の持つ強み・弱み、配属先の環境や業務内容など、より具体的な情報を十分に提供することを心がけましょう。
応募者の意向を十分に汲み取れていない
採用前に、応募者の意向やビジョンを汲み取りきれていない場合にも、ミスマッチの発生を助長してしまいます。
しかし、筆記試験や面接を実施したとしても、応募者の意向を完全に把握することは困難です。企業側は、応募者の希望をできるだけ詳しくヒアリングする機会を設けましょう。応募者のキャリアプランやワークライフバランスの優先順位など、採用前にしっかりと確認しておくことが非常に重要です。
また、応募者の方でも自己分析を十分に行い自分の希望を明確化しておくなど、ミスマッチの発生を抑えるよう努めましょう。
入社後のフォローが不足している
入社したばかりで不安な時期に、会社側からの十分なフォローがない場合に、従業員はミスマッチを感じやすくなります。
たとえば、受け入れ支援としてのオンボーディング体制が確立しておらず、新入社員がすぐに現場に投入されるような環境では、職場に馴染みづらいと感じる可能性があるでしょう。
また、フォロー体制が整っていなかったばかりに、早期に対処できていたはずの入社者の不満に気づかず、大きなミスマッチに発展してしまう場合もあります。入社者の能力を存分に発揮してもらうためにも、職場や業務に順応できるまでの手厚いサポート体制を整えることが重要です。
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伝えていた業務内容が実際と異なる
入社前に伝えていた業務内容と、実際の業務が異なる場合にもミスマッチ発生の原因となります。たとえば、以下のようなケースが典型例です。
- 情報不足による企業と入社者の認識の相違
- 社内体制変更にともなう配属先変更
- 企業の方針転換による目標変更
- 採用時の担当者の異動や退職によるミッション変更
単純な伝達ミスによる認識のズレは防止する必要がありますが、種々の事情により仕事のカバー領域や体制変更がやむを得ない場合もあります。ミスマッチが発覚した時点で従業員とのコミュニケーション強化を図るなどして速やかに対処することが大切です。
5.ミスマッチの防ぎ方
ミスマッチの原因は多岐にわたり、企業側の適切な対応により予防できるケースも多々あります。ここでは、ミスマッチを防ぐための具体的な対策を解説します。
自社の状況を正しく、隠さず伝える
企業側が提供する情報に不足や偏りがあるとミスマッチにつながるため、可能な限り多くの情報を求職者に提供することが重要です。自社で働くメリットだけでなく、デメリットも含めた現状を正確に伝えることで、ミスマッチによる損失を最小限に抑えられます。
自社をよく見せることも大切でしょう。しかしミスマッチを防ぐには透明性の高さを意識して偏りのない情報を提供することが重要です。
リファレンスチェックを実施する
ミスマッチを防ぐためにリファレンスチェックを実施し、応募者の業務実績や人物像を把握しましょう。
応募者が以前勤めていた職場の上司や同僚といった第三者に対して調査を行うことにより、入社後に期待されるパフォーマンスと実際の成果とのギャップを小さくすることが可能です。
入社後のフォローアップ体制を整える
入社後のフォローアップ体制を充実させることにより、ミスマッチの発生抑止または早期解消が期待できます。フォローアップ体制の具体例は以下のようなものです。
- 入社直後にオンボーディングを実施する
- 入社者に対して定期的な面談を行う
- メンター制度を導入する
いずれの方法を用いる場合でも、入社者が能力を発揮できるようサポートすることが大切です。
メンター制度とは? メリット・デメリット、成功事例を簡単に
メンター制度とは、年齢の近い先輩社員が新入社員や若手社員をサポートする制度です。精神面のサポートをメインとすることから、社員の心理的安全性を高める効果に期待できます。
今回はメンター制度について、導入...
6.ミスマッチが起こってしまった際の対処法
ミスマッチが起こってしまったとしても、適切な対処により損失を最小限に止めることが可能です。ここでは、ミスマッチが起きた際の対処法を、従業員側・企業側それぞれの立場で解説します。
従業員側の対処法
従業員として自分が職場とのミスマッチを感じた場合は、上司や人事部に早めの相談を持ちかけるよう心がけましょう。ミスマッチの多くは、企業側との調整により解消できます。
状況を明確にする
従業員本人は、自分が何に不満を感じており、実際にどのような問題が生じているのか、まずは現状を正確に把握する必要があります。
たとえば人間関係や業務内容、待遇などの面で不満を感じているのか、何に不満があるのか、それによりどんな悪影響があるのか、どうすれば不満は解消されるのかなど、できるだけ明確にすることが重要です。
入社前後のイメージにどのようなギャップが生じているのか、自身はどうなることを希望しているのかなど、詳細に言語化してみましょう。
相談する
ミスマッチの状況を洗い出せたら、できるだけ速やかに相談することが大切です。教育担当者→直接の上司という順番で相談するのが望ましいものの、話を切り出しにくい状況であれば直接人事部門に相談しても問題ありません。
相談の際は、自身が採用された理由や期待されているミッションについて改めて質問し、上司や人事の見解も理解しておくことが重要です。
解消方法を決定する
現状を報告したら上司や人事との相談のなかで、ミスマッチの解消方法を決定します。1回の相談ですぐに解消方法が見つかることは稀です。何度も話し合いを重ね、互いに改善できる方法を検討していきましょう。
ミスマッチの解消には、両者の協力が欠かせません。互いに納得できる解消方法を見出せれば理想的です。
企業側の対処法
ミスマッチが発覚した場合には、迅速な初動が企業にとって最も重要です。ミスマッチを感じている本人は管理職と連携し、スピーディーな対処を実行しましょう。
ヒアリングを行う
従業員本人やその上司から相談を受けた場合、まずはそれぞれに対して現状のヒアリングを実施します。人事担当者と本人との間に面談を設定し、具体的な不満点や業務内容など、現状について詳細に把握することが大切です。
解消方法を決定する
ミスマッチを感じている本人と管理職、人事部門など、各所で連携をとり、解消方法を決定します。ミスマッチの具体的な解消方法には以下のようなものが考えられます。
- 業務内容の調整
- 教育担当者の変更
- 部署異動
- 教育方法や育成方法の再考
従業員の意見をできる限り尊重し、対話を重ねるなかで解決策を見出すことが大切です。
原因を分析し予防につなげる
解消方法が決定した後は、ミスマッチが生じた原因を分析し、再発防止のための対策も必要です。ミスマッチの予防例を以下に示します。
- 自社が求める人物像をより明確に定義する
- 求人情報に過不足がないか見直す
- 採用面接の内容・回数を見直す
- 自社の課題やデメリットも誠実に伝える
原因を特定できたらミスマッチ解消や予防に向けて動き出しましょう。