持株会社とは、子会社の経営や事業を目的に、株式を保有する会社のことです。その意味や持株会社をつくる方法、メリット・デメリットなどを解説します。
目次
1.持株会社とは?
特殊会社とは、ほかの会社を傘下にするという目的のもと、対象会社の持株を保有する会社のこと。
銀行持株会社などさまざまな呼び方があり、近年ではホールディングカンパニーとも呼ばれています。日本にも三菱UFJフィナンシャル・グループや野村ホールディングス、日清食品ホールディングスなど多くの持株会社があります。
会社の株式を多数保有すると、その会社の事業活動の指針を決められるうえ、グループ全体の経営戦略や事業計画を行えるのです。組織の再編を行う際に設立される場合が多く、大規模なグループ会社のほとんどで持株会社が設立されています。
セブン&アイホールディングス、ソフトバンク、読売新聞なども持株会社です。
持株会社の類義語
持株会社と似た用語として、「親会社」があります。親会社が意味するのは「株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」(会社法2条4号)です。
同じく混同されるものに「持株会」があります。持株会は、持株制度により金銭を搬出して、会社の株式を取得する組織です。
持株会社制とカンパニー制
カンパニー制とは、事業分野ごとに独立採算制をとる社内分社制度のこと。それぞれのカンパニーに執行役員といった人材を配置して、投資や人事、予算などの権限と責任を与えます。
カンパニー制はあくまでも同じ企業内で運営され、法的にも同じ法人の扱いになるのです。それに対して持株会社は別会社となり、法的に扱いが定められています。
かつて持株会社は禁止されていた
戦後の財閥解体により、独占禁止法によって原則、持株会社の設立は禁止されていました。しかしM&Aによる企業のリストラや新規事業への進出の際、独占禁止法が邪魔になるとして持株会社設立の解禁を求める要望が出たのです。
そして2002年、独占禁止法の改正が行われて規制が解除され、持株会社は復活しました。
2.持株会社には2つの種類がある
持株会社は下記の2種類に分かれます。それぞれについて解説しましょう。
- 事業持株会社
- 純粋持株会社
①事業持株会社
事業持株会社とは、他社の活動を支配するだけでなく、本業も相当な規模で事業を行っている持株会社のこと。
独占禁止法(第9条第4項第1号)の「持株会社」の定義では、「子会社の株式の取得価額(最終の貸借対照表において別に付した価額があるときはその価額)の合計額が、当該会社の総資産額に対して100分の50を超える会社」とあるため、自ら事業を行っている事業持株会社も含まれます。
日本の事業持株会社は、楽天や近鉄エクスプレス、日本板硝や日本電産などです。
②純粋持株会社
純粋持株会社とは、自ら販売や製造などの事業を行わず、株式の所有を通じてほか会社の事業活動を支配する点だけを事業目的とした持株会社のこと。子会社からの配当が売上になります。
一般的に純粋持株会社ではグループ内の子会社同士に上下関係はなく、原則並列の関係となるのです。
親会社となる持株会社は特定の事業に傾倒せずグループ全体の視点に立った経営戦略の策定に専念できます。一方の子会社は、それぞれの事業活動に専念できるのです。
3.持株会社が増えた背景
独占禁止法によって禁止されていた持株会社は、1997年6月の法改正により解禁されました。そのあと関連法の整備によって、2002年以降から持株会社数の推移は増加傾向にあります。その背景について解説しましょう。
- 企業再編の流れ
- 産業構造の変化
- 金融ビッグバン
①企業再編の流れ
親会社(純粋持株会社)にグループ全体の資源配分の役割を集中させ、個別企業(子会社)が各事業を行うといった内部組織編成があります。その目的はグループ内の経営効率向上。カンパニー制や事業部制、コーポレート制や分社化といった組織形態の1つです。
②産業構造の変化
産業構造の変化が加速するなか、「持株会社のほうが経営戦略上望ましい」との声が産業界を中心に高まり、事業領域の転換が迫られました。
持株会社はグループ傘下の会社にそれぞれの事業に特化した企業を持ちます。そのため新規事業に参入するのが、容易になるのです。また有力企業は持株会社制度を活用して、事業の統合や吸収、合併などを効率的に進めています。
③金融ビッグバン
1998年に設立を解禁した金融ビッグバンによって、金融業界で競争原理が生まれた結果、金融持株会社が増えました。銀行や証券、保険会社が中心となって持株会社を設立。その傘下には銀行や信託、証券や保険、リースやクレジット会社などがあります。
その結果、顧客は1つの金融機関から多様なサービスを受けられるようになりました。
4.持株会社のメリット
持株会社化にはどんなメリットがあるのでしょう。6つのメリットについて解説します。
- 企業統合の容易化
- 合併・買収の促進
- 買収の防衛
- 子会社の恩恵
- 規模の経済
- 業務の明確化
①企業統合の容易化
持株会社を設立して、その傘下に統合される複数の企業をおくと、統合が容易になります。
持株会社には統合型と組織再編成型があり、統合型は業界再編を企図して企業統合をする際につくられるのです。企業合併は組織・人事で摩擦が大きいため、それを抑えるために持株会社を設立して複数の企業を傘下におきます。
②合併・買収の促進
近年、中小企業のM&Aが積極的に進んでいるため、経営統合したほか企業を買収しやすくなります。もしグループ会社であれば買収した企業をそのままグループ企業として置けるため、買収の手続きがスムーズに進むのです。
またほかグループ企業と摩擦が生じても、持株会社が統制役となってトラブルを回避できます。
③買収の防衛
持株会社におけるグループ企業の株式所有は二重構造になっているため、各グループ企業がそれぞれ独立しています。よって、もし持株会社が買収を持ちかけられても、非上場の子会社の経営権を防衛するための対抗策を取れるのです。
一般のグループ企業では、親会社の買収によって、子会社も買収できます。
④子会社の恩恵
持株会社におけるグループ企業への人事制度導入や権利の移譲が、容易になります。持株会社のグループ企業はそれぞれ独立しているため、権限や責任を大幅に移譲して明確にできるのです。経営体制を柔軟に変更するのも容易になります。
また1つのグループ企業が損失を出しても、他社を売却すれば損失をカバーできるのです。
⑤規模の経済
会社が大きくなると生産量や生産規模が高まり、単位当たりのコストが減ります。子会社の管理費用を一元化すれば会計処理も明確化し、さらなるコストダウンにつながるでしょう。
持株会社のグループ企業はそれぞれが独立しているため、労働条件もそれぞれで設定します。異なる賃金体系を取れるため、人件費も削減しやすくなるのです。
⑥業務の明確化
グループ会社を事業ごとに整理すると、それぞれの業務対象を明確にできます。持株会社は経営戦略に専念し、グループ会社はそれぞれの事業運営に専念できるため、経営効率が向上するのです。
またグループ企業にそれぞれの事業を行わせたうえで、持株会社はグループ全体の意思決定を迅速に行えます。
5.持株会社のデメリット
持株会社の設立には数々のメリットがあります。しかし一方で、経営課題もあるのです。それぞれについて解説しましょう。
- グループ統制の乱れ
- 企業間連携の困難
- 管理業務の重複
①グループ統制の乱れ
持株会社はグループ会社の事業内容に立ち入らず、株主の立場でグループ資源の配分といった経営に特化します。またグループ会社の事業計画や予算などの判断ができないので、子会社の経営層にすべてを委ねるのです。
その結果、経営層が育っていないと、グループのコントロールが難しくなる場合もあります。
②企業間連携の困難
持株会社のグループ企業はそれぞれが独立した会社として事業を行うため、各グループとの連携や資源の共有、事業ユニット間の調整が難しくなる場合もあるのです。同じ企業体でありながらコミュニケーションが取れないため、事業が円滑に進まなくなります。
経営方針についても各グループ企業の裁量が大きいです。そのため持株会社とグループ会社の連携が、難しくなる場合もあります。
③管理業務の重複
持株会社とグループ企業で、機能の重複が生まれやすくなります。企業には経理や総務、人事などを行う部門が欠かせません。持株会社の各グループ企業にこうしたバックオフィス業務の部門があるため、グループ全体で重複してしまうのです。
会計処理の複雑化、事務負担の増加は業務効率化を低下させるうえ、コストが増加してしまいます。
6.持株会社を作るには?
持株会社はどのような方法でつくるのでしょうか。その方法は下記の3つです。それぞれについて解説しましょう。
- 抜け殻方式
- 株式移転方式
- 株式交換方式
①抜け殻方式
抜け殻方式は、純粋持株会社設立を目的とした際に取り入れられる手続きです。親会社となる既存会社から現物の出資や事業の譲渡などを行って、子会社に事業を分割します。
経営の効率を高めるために行われる場合の多い方式です。親となる会社は自身で事業を行わず、子会社の支配を事業とする手続きを行います。
②株式移転方式
株式移転方式とは、すでにある会社が単独または複数で新たに完全親会社を設立し、それぞれ保有する株式を親会社にすべて移転したあと、自らその完全子会社となる方法です。
その際、完全親会社と完全子会社に会計処理が発生します。また完全子会社は上場をやめ、完全親会社が代わりに上場する手続きを行うのです。
③株式交換方式
株式交換とは、すでに存在する株式会社2社の株式を交換する方法です。これにより一方が完全子会社化となるため、他方の完全親会社が株式のすべてを保有します。対価として子会社に親会社の株式が交付されるのです。
「強制的に少数株主の交換が行える」「新たな株主が経営に参加して企業が活発化する」といったメリットが生まれます。
7.持株会社の具体例
実際の持株会社はどのようなものなのでしょう。具体例を見ていきます。
- NTT
- ソフトバンク
- 日清食品グループ
①NTT
NTTは1952年に日本電信電話公社(電電公社)として設立、1985年に電電公社からNTTとして民営化されました。その後1999年にNTTが分割され、下記のように再編成を行ったのです。
- 持株会社として全体を統括する「日本電信電話(NTT)」
- 県間通信事業を担当する「NTTコミュニケーションズ」
- 県内通信事業を担当する「NTT 東日本」「NTT西日本」
②ソフトバンク
1999年、ソフト・ネットワーク事業を主体とする事業持株会社に移行。そして「出版部門・金融部門・総務人事部門」を分社化しました。
持株会社の導入により「各事業における収益性および経営責任を明確化するとともに、それらに応じた人事制度や給与体系、インセンティブプランなどを採用し、グループ全体の一層の経営効率化を図ります」と述べています。
③日清食品グループ
2008年に日清食品の社名を「日清食品ホールディングス株式会社」に変更し、純粋持株会社へ移行しました。そして下記のようにそれぞれ設立したのです。
- 即席麺事業を「日清食品株式会社」
- チルド食品事業を「日清食品チルド株式会社」
- 冷凍食品事業を「日清食品冷凍株式会社」
- 業務サポート部門を「日清食品ビジネスサポート株式会社」