ムーンショット計画とは、2050年までに解放された社会を実現するための計画です。ここではムーンショット計画について、解説します。
目次
1.ムーンショット計画とは?
ムーンショット計画とは、2050年までに身体や脳、空間や時間といったさまざまな制約から人々が解放された社会を実現すること。「イノベーションの起爆剤」「人々を魅了する野心的な目標」として設定されています。
内閣府が策定した計画のひとつで2020年1月、総理大臣官邸にて開催された「第48回総合科学技術・イノベーション会議」で議論されました。
言葉の由来
ムーンショット計画の言葉の由来は、「月へとロケットを打ち上げる」点にあります。人類が月面着陸を可能にしたように、設定した目標から逆算し、社会に影響をもたらすという壮大な計画を意味しているのです。
2.ムーンショット計画の目的
ムーンショット計画の目標は、下記のとおりです。
- 人の能力拡張による人々が多様なライフスタイルを追求できる社会の実現
- サイバネティック・アバターの活用による国際的コラボレーションのプラットフォーム開発
- 時間空間を超えた新産業の創出
- 生活データに基づく新しい知識集約型産業や新興企業の創出
- 人の能力拡張技術とAIロボット技術の活用による新サービスの創出
3.ムーンショット計画が策定された背景
ムーンショット計画が策定された背景は、4つあると考えられています。それぞれについて解説しましょう。
- 少子高齢化
- 持続可能な社会の実現
- 社会の多様化
- 技術革新
①少子高齢化
我が国では、出生率の低下・医療の高度化に伴う健康寿命の延長などが背景となり、急速に少子高齢化が進んでいます。少子高齢化が進めば、労働人口の減少といった問題を引き起こすでしょう。
このような社会問題を背景に、新しいプラットホームやサービス、社会の創造が急務となりました。
②持続可能な社会の実現
人生100年時代が到来しながらも現実には、貧困や紛争、気候変動や感染症など新たな課題も生まれ、安心して生活し続ける保証がなくなりつつあります。ムーンショット計画は課題を解決に導き、持続可能な社会を実現できるものと期待されているのです。
③社会の多様化
異なる多様な文化的背景やさまざまな価値観、多様な選択肢など、社会はあらゆる分野で多様性を受け入れようとしています。しかしまだその実現には時間がかかるもの。ムーンショット計画は、社会の多様性の実現にも大きな役割を果たすと考えられています。
④技術革新
テクノロジーの進化は速く、日々、進化したイノベーションが誕生しています。「新開発品やサービスを事業化する」「新しい価値から収益を生み出す」イノベーションを広く社会に行きわたらせるのも、ムーンショット計画が目指す目標のひとつです。
4.ムーンショット計画の2050年までの6つの目標
ムーンショット計画には、2050年までの達成を目指す6個の目標があります。それぞれについて解説しましょう。
- 人が身体や脳、空間や時間の制約から解放される社会の実現
- 超早期に疾患の予測・予防ができる社会の実現
- AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
- 地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現する
- 未利用の生物機能をフル活用して、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
- 経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現
①人が身体や脳、空間や時間の制約から解放される社会の実現
少子高齢化による労働力不足が社会問題化している今、多様な価値観や背景を持った人々にライフスタイルに応じた活動への参加が求められています。サイバネティック・アバター技術の活用により、制約から自由になれるのを目指しているのです。
②超早期に疾患の予測・予防ができる社会の実現
2050年までに、「疾患予測や未病評価システムの確立」「未病の状態から健康な状態に引き戻す方法の確立」「 疾患を引き起こすネットワーク構造の同定による新たな予測や予防等の確立」などを目指します。
③AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
2050年までに、「90%以上の人が違和感を持たないAIロボットの開発」「自然科学の領域で、自ら思考や解法の発見を目指すAIロボットシステムの開発」「科学的原理や解法を自動的に発見するAIロボットの開発」などを目指します。
④地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現する
「結合活性化法や結合制御法の開発」「寿命を制御できるサステイナブル材料の設計」「材料分解のための階層構造制御」を実現します。そして使い捨てが当たり前だった資源について、資源循環を実現するためのサステイナブル材料の開発を目指します。
⑤未利用の生物機能をフル活用して、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
「微生物や昆虫等の生物機能の活用で、完全資源循環型の食料生産システムを開発」「健康や環境へ配慮した合理的な食料消費促進のための解決法の開発」など、既存の概念を超え、地球規模で食料の持続的な供給に取り組みます。
⑥経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現
「2030年までに、一定規模のNISQ量子コンピュータの開発と実効的な量子誤り訂正の実証」「2050年頃までに、大規模化を達成と誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現」を目指します。
5.ムーンショット計画に取り組んでいる企業と団体
ムーンショット計画に取り組んでいる企業と団体を4つ、解説します。
- 日立製作所
- アラヤ
- 日本医療研究開発機構(AMED)
- トヨタ自動車
①日立製作所
日立製作所は、ムーンショットの目標6にあたる、大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発に取り組んでいます。半導体の回路集積化技術を生かして、シリコン量子ビットの大規模化や高集積化を目指すのです。
現在の目標は2050年に、高集積性・低消費電力の大規模量子コンピュータを実現させること。
②アラヤ
アラヤは、ムーンショットの目標1にあたる、BMI(ブレインマシーンインターフェース)の実用化に取り組んでいます。
侵襲・非侵襲など多様なBMIにAI技術を活用して2030年までに、侵襲性が低くとも人が思考を始めただけでモノを動かせる技術の確立を目指しているのです。
③日本医療研究開発機構(AMED)
日本医療研究開発機構(AMED)は、令和2年度「ムーンショット型研究開発事業」に係るプロジェクトマネージャー公募を行いました。
「ミトコンドリア先制医療」「組織胎児化による複合的組織再生法の開発」「炎症誘発細胞除去による100歳を目指した健康寿命延伸医療の実現」「睡眠と冬眠といった2つの「眠り」の解明と操作が拓く新世代医療の展開」などの採択PMを決定しています。
④トヨタ自動車
トヨタ自動車は、20年末に閉鎖する静岡県裾野市にある東富士工場跡地を「WovenCity」につくり変えます。
「住民は室内用ロボットなどの新技術を使える」「完全自動運転車の実施」「歩行者とパーソナルモビリティーが共存する道路の配置」など、ロボットやスマートホーム技術などを試験的導入しながら、新都市を構築していきます。
6.企業におけるムーンショット計画
企業におけるムーンショット計画について、「目標設定のためのキーワード」「OKRの一部としてのムーンショット」の2つを解説します。
- 目標設定のためのキーワード
- OKRの一部としてのムーンショット
- 企業のムーンショット計画に必要なこと
①目標設定のためのキーワード
ムーンショット計画に必要不可欠なキーワードのこと。ムーンショット計画の目標を設定する際は、これらのキーワードについての考え方、取り組み方を明確にしなければなりません。
Inspire
「元気づける・刺激」を与えるといった意味を持つ言葉です。ここでは常識で考えたら不可能なことでも実現できるよう、周囲の人々を魅了するのが大切といった意味で用いられています。
たとえば、「実現すれば将来の産業や社会にインパクトを与える」「多くの人や海外の人と価値観を共有できる」「科学者の英知を結集して行う」などです。
credible
「信頼できる・確かな・説得力のある」といった意味を持つ言葉です。ここでは一定のハードルさえクリアできれば、困難な課題も実現可能といった意味で用いられます。
たとえば、「科学的に実現可能性があるもの」「達成状況の検証が可能なもの」「既存の戦略や施策と整合性があり、成果も統合的に活用できる」などです。
imaginative
「想像の・想像的な」といった意味を持つ言葉です。ここでは技術や人類の進歩の直結が大切といった意味で用いられます。
たとえば、「未来社会のシステム変革を目指す」「ヒューマン・セントリックをベースとして、テクノロジーによる未来の姿をイメージできる」などです。
②OKRの一部としてのムーンショット
OKRとは、目標設定・管理方法のひとつでObjectives and Key Resultsの略語です。アメリカのインテル社で誕生しました。GoogleやFacebookなども導入しており、OKRの一部としてムーンショット計画を実施しています。
OKRとは?
会社の目標を設定し、目標から逆算して鍵を握る成果について分析してから、達成するための成果指標を導き出す手順で目標を管理する方法のこと。会社が設定した目標と社員の目標とが紐づけされています。
導入すれば、「社員の成長促進」「社員・組織の目標意識を統一」などが実現できるでしょう。
③企業のムーンショット計画に必要なこと
ここではプロジェクトマネジメントやチームワーク、モチベーションの維持といった3要素と、関連用語のルーフショットについて解説します。
プロジェクトマネジメント
納期限が設定されているプロジェクトを成功させるために、「いつまでに・どのレベルのクオリティを実現すべきか」詳細に計画立てること。企業がムーンショット計画を実施する場合、計画の策定や進捗状況管理が重要になります。
チームワーク
壮大な目標の達成に向けて力を発揮しようとすればするほど、社員は情熱的に仕事に立ち向かいます。情熱は組織にも伝播し、チームの一体感も生まれるでしょう。組織としての団結力が発揮されれば、一人の社員では実現不可能な成果を生み出せます。
モチベーションの維持
社員が仕事に情熱を傾け、組織としてチームワークを発揮できれば、次はモチベーションの維持が重要になるでしょう。プロジェクトマネジメントを成功させるためにも、モチベーションの維持は不可欠です。
【関連用語】ルーフショット
ルーフショットとは、屋根に届くほどのショットです。つまり少しの努力や改善によって達成できる比較的難易度の低い目標のこと。ルーフショットは「前年対比10%」といった形式で表記します。基準地点から無理のない範囲で目標設定するのが、一般的です。