無形資産とは?【具体例でわかりやすく解説】人的資本、投資事例

無形資産とは、権利やノウハウといった形を持たない資産のことで、国際的に重要性が高まっています。どのような資産なのか、種類や具体例、投資事例などとともに解説します。

1.無形資産とは?

無形資産とは、文字通り、形を持たない資産のこと。たとえば下記のようなものです。

  • 権利や特許
  • 商標権
  • データ
  • ノウハウや経験、技術
  • ブランドや文化

企業の資産というと現金や株式、土地や建物、設備や商品などが思い浮かぶでしょう。これらは形があるため有形資産となります。また、欧米では無形資産への投資が急増しているのです。

無形資産の種類

無形資産は、下記の3種類です。

  1. 人的資産:社員が持つスキルや知識
  2. 知的資産:開発した商品やサービスに生じる商標権や著作権
  3. 基盤的資産:企業収益の基盤となる技術

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2.無形資産がなぜ重要なのか?

欧米の先進国では無形資産の経済に占める比重が高まっているため、国際的に無形資産の重要性が増しています。それはなぜなのでしょう。理由について説明します。

  1. 企業価値を測る基準が変化
  2. 無形資産を基盤とする企業の増加
  3. 人的資本への注目
  4. ESG投資の重要性の認知

①企業価値を測る基準が変化

物があふれている現在、製品やサービスでは差別化が難しくなり、信頼やブランド力といった無形資産が企業価値を測る基準となってきています。その企業だけが持つブランドやサービスなど、形を持たない価値が重要視されているのです。

無形資産をうまく活用して成長している企業の代表格はAppleといわれています。世界のクリエイターから多くの支持を受けているAppleのブランド力と戦略をかけ合わせ、付加価値を提供しています。

②無形資産を基盤とする企業の増加

アメリカ大手IT企業のGAFAは、豊富なデータや洗練されたソフトウェアなどの無形資産を基盤とした活動を行っています。

昨今、有形資産ではなく無形資産を経営の中心にする企業が増加。新型コロナウイルス感染症による影響もあって、IT・デジタルの無形資産への価値は海外でさらに高まっていくでしょう。

しかし日本の無形資産投資は主要な先進国の中で低水準となっており、アメリカやイギリスと比較して大きく下回っています。

③人的資本への注目

事業拡大や企業価値の向上を実現するには、人的資本への投資が必要です。アメリカの上場企業の株価指標では、有形資産の占める割合が年々減っています。1990年代後半には、無形資産が占める割合が有形資産を超えました。

その後のリーマンショックで、財務諸表のみで企業価値を判断するのは危険視され、より無形資産への注目度が上がったとされています。人材教育へ投資を行い、人材の価値を最大限引き出す取り組みを開始した企業も多数あるのです。

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④ESG投資の重要性の認知

従来の財務諸表による財務情報だけでなく、下記要素も考慮したESG投資が、企業の持続性の判断材料として注目されています。

  • 環境(Environment)
  • 社会(Social)
  • ガバナンス(Governance)

経済産業省がとりまとめた持続的成長に向けた長期投資に関する報告書「伊藤レポート2.0」は、企業の発展には人材や技術、ブランドなどの「無形資産」やESG投資が主眼とする非財務情報が重要だとしています。

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伊藤レポート2.0とは?

「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」というプロジェクトの最終報告書のこと。経済産業省が主催し、一橋大学大学院商学研究科特任教授の伊藤邦雄一氏が座長として参画したものです。

今後企業が収益を挙げ続けていくには、企業と投資家が協創し、イノベーションを創出して持続的に価値を創造していく必要があると解説しています。

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3.無形資産のなかでも注目される人的資本とは?

人材を価値を生み出す資本とみなし、投資するという考え方のこと。具体的には、「人材が持つ技術や能力など」「人的資本への投資は生産力や経済活動への貢献につながる」と定義されます。

目的は、研修や労働環境の安全確保などで従業員の能力を高め、従業員の価値を最大限に引き出すことです。

政府が推進

経済産業省が実施した「人的資本経営の実現にむけた検討会」で議論された内容をまとめた「伊藤レポート2.0」を公開しています。ここには経営戦略と人事戦略を連動させるポイントが記載されているのです。

また岸田内閣は、経済政策の一環として「人への投資」の抜本強化を掲げており、長期的に企業価値を向上することを推進しています。

人的資本の情報開示への動き

欧米では、一部企業で投資家への人的資本の情報開示が行われています。

日本政府は、2022年に人的資本開示に関する開示指針を発表しました。ISO30414やコーポレートガバナンス・コードでも開示の必要性が認められ、政府の指針案においても開示が望ましい項目として、いくつか具体例をあげているのです。

企業に開示義務はないものの、金融庁は2023年度に有価証券報告書に一部の人的資本情報の記載を義務化すると発表しています。

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ISO30414とは?

2018年に国際標準化機構(ISO)により出版された、人的資本情報開示におけるガイドラインのこと。2008年のリーマンショック以降、投資家からの人材情報の開示要求が高まり、それを受けて出版されました。次のような11の領域を設けています。

  1. コンプライアンスと倫理
  2. コスト
  3. 多様性
  4. リーダーシップ
  5. 組織文化
  6. 組織の健康・安全・福祉
  7. 生産性
  8. 採用・配置・離職
  9. スキルと能力
  10. 後継者育成
  11. 従業員の可用性

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コーポレートガバナンス・コードとは?

上場企業が実施すべき企業統治の原則や指針について、金融庁と東京証券取引所がまとめたガイドラインのこと。2021年に改訂版が公表され、「人的資本に関する開示・提示」が補充原則 3-1①や補充原則4-2②として追加されました。

「人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつわかりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」としています。

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4.無形資産の具体例

無形資産は企業のみならず個人も所有しています。たとえば資格、人脈やSNSでのフォロワー数などです。今は目に見えない資産であっても、お金を生み出す有形資産に変わるかもしれません。以下で、企業と個人の無形資産について見ていきます。

企業

企業の無形資産には次のようなものがあります。

  • マーケティング関連…商標・商号やサービスマーク、団体商標や証明マーク、商業上の飾りやインターネットのドメイン名
  • 顧客関連…顧客リストや受注残、顧客との契約・関連する顧客との関係
  • 契約関連…ライセンス・ロイヤルティ・スタンドスティル条項やリース契約、建設許可
  • 技術関連…特許権を取得した技術や特許申請中・未申請の技術、データベースや仕掛中の研究開発

個人

個人の無形資産は、これまで築き上げてきたスキルや人脈、人的ネットワークなど多種多様です。組織学者リンダ・グラットンは次の3つに分類しています。

  • 生産性資産…所得を増やすのに役立つスキルと知識や経験学習、職業上の社会関係資本
  • 活力資産…肉体的・精神的な健康と幸福のこと、健康や友人関係、パートナーと家族関係
  • 変身資産…100年間で起こる変化に対応するために必要な性質や自分について知る、広い人脈やオープンマインド

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5.無形資産への投資事例

日本は無形資産への投資が世界と比べて出遅れています。ここでは人的資本に投資し、企業価値向上につなげた3社を見ていきましょう。

マークス&スペンサー

2025年までにさまざまな目標の達成を目指して、次のような取り組みを実施しました。

  • 幸福(ウェルビーイング)…世界全体の食品売上の半分以上を健康的な食品で占める。ガンや心臓病、精神疾患や孤独、痴呆分野で2,500万ポンドのチャリティ募金活動を支援
  • 生活やコミュニティの改善…衣類や雑貨、食品店舗半数で地域社会活動団体向けにスペースを開放
  • 地球環境への配慮…食品廃棄物を半減、衣類・雑貨商品の25%以上で素材の4分の1以上をリサイクル素材にする

キリンホールディングス

持続的な成長の実現に向けて「キリングループ・ビジョン2027」を策定。3つの重要課題を掲げて取り組んでいます。

  • 既存事業の利益成長…収益力の更なる強化、新たなグローバル品の開発や新薬候補の充実
  • 「医と食をつなぐ事業」の立ち上げ、育成…高機能素材を活用した事業の展開強化と独自のビジネスモデル構築により、充足されていない健康課題の解決に貢献
  • イノベーションを実現する組織能力の強化…無形資産への継続的投資の実行

ブリヂストン

タイヤ・ゴム事業の価値を高めるべく、これまで蓄積した知識や収集したモビリティデータを活用し、ソリューション事業を設立しました。

  • タイヤセントリックソリューション…タイヤ内圧を測定してデータ化し、クラウドへ蓄積。これらを分析してデータの摩耗度を予測し、交換時期をアナウンスするサービス
  • モビリティソリューション…タイヤやタイヤデータ、車両などのモビリティデータを用いて、あらたな社会価値と顧客価値の創出

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6.無形資産投資の現状

2020年において、アメリカでは時価総額に占める無形資産の割合が90%である一方、日本は32%でした。人材投資の対GDP比は欧米5か国に対し、日本ははるかに低い水準です。

投資家が着目する情報は、人材投資・デジタル化・研究開発投資といった無形資産に集中しており、企業の将来性への期待や人材確保を重視しているとわかります。

無形資産投資率が低い理由

無形資産投資は短期で成果が生み出しにくいため、企業ではコストとみなされてしまう傾向にあります。一方、有形資産への投資は費用対効果が算出しやすく、投資金額を回収できるか、投資を実施すべきかの判断がしやすいのです。

また欧米に比べてIT資本の活用が後れをとっているうえ、ビジネスモデルの変革や付加価値の創出といった投資の割合も小さくなっています。